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追憶の理想郷
---東京某所---
いつもと変わらない朝。お湯を沸かし朝食の支度をする母とその横で新聞を広げる父。そして朝からアイドルを観る為にテレビに張り付く妹。僕はというとソシャゲのAPが溢れないように少しだけ周回をする。僕にとってのありふれた日常。僕はこれがいつまでも続くものだと思っていた。
それは突如として現れ、そして全てを奪った。まばたきをする時間すらなかった。さっきまで確かにそこにあったもの、当たり前のように手にし続けていたものが何処にもない。別に家族が消えたとかそういうことではないし、物を失くしたということでもない。ただ本能的に感じ取ったこの違和感、確かにさっきまであった日常がもう何処にもないことだけは確かである。
あの違和感から数日が経った。あの日感じた違和感の正体。東京を覆う嵐の壁、覆面を被ったコスプレイヤーの闊歩する街、どことなく漂う鮮血の臭い。確実なのはこれが普通ではないということ。少なくともあの日以前の東京はこうではなかった。だがこの違和感に僕以外の誰も気付いていない。否、僕以外にとってはこれが日常なのだろう。