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魔帝の勇者  作者: 影峰 零
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第一話 魔王降臨

目が疲れた、頭が痛い、尻も痛い。まったくなんでこんな日に俺は机の上の書類と格闘しているのだろう。


俺は多少の疲れを紛らわすために椅子から立ち上がる。


腰を少し回してみると、ゴキッ、という骨が折れたのではないかと疑うほどの音が部屋に響いた。


「あ~クッソ、痛てぇ。」


夜通し、長年待ち望んでいた計画の実行、運営で手一杯だったのだ。ほんと俺よく頑張ったと思うよ。

まぁ、これからもうひと仕事あるんだがな。その後はもう丸一日寝てやろう、異論なんて認めない。

というかしばらく働きたくないな……


さて、そんなことより先に指示出ししないとな、下手すりゃ人類が皆死んでアンデット祭りだ、次は俺の部下が過労死寸前になってしまう、死ねないけど。


そんなどうでもいい思考は即排除し、目を閉じ、意識を集中させる。

段々と自分の頭の中に声が響いてくる、大体悲鳴だが……。


声が明確に聞き取れるようになったころ、俺は頭の中で話しかけるように自分の心の声をあいつらに送る。


(おい、もういいぞ。お疲れ様。)


その瞬間、頭の中で響いていた攻撃の音がピタリと止み、人類が発する甲高い声は徐々に小さくなっていった……一部を除けばな。


(おい、攻撃を止めろ。)


それでもなお、攻撃の音は鳴りやまない。


(おーい、聞こえてんのか、攻撃を止めろって言ってんだよ。)


しかし、人類の悲鳴は鳴りやまない、それどころかどんどん大きくなってきている気がする。

あの馬鹿、今日の業務終わるまで飯食わせねぇようにしてやろうかな。


発言を無視してるとしか思えない馬鹿の猛攻撃はさらに加速していく。そこの地形そろそろ変わるぞ。


「あーめんどくせぇ。本当はもう少し後に向かう予定だったんだが……仕方ない。」


多少の愚痴を散らしながら俺は部屋の扉へ向かって歩き、扉の前で立ち止まる。

そしてその扉に右手をかざしながら


「開門」


そう口にした。








「うわ、本当に地形変わってるじゃん。何やってんのあの馬鹿。」


俺が初めてこの地に降り立って見た光景は、赤黒い空の下、隆起した地面の上に人類の死体がゴロゴロ転がっている地獄のような光景であった。


俺は呆れた顔をしながら、とても歩きづらい凹凸の激しい道を渡り、今もなお人類に向かって攻撃することを止めない馬鹿のところへ向かってゆく。


しかし途中、絶命した同胞の姿を見て、俺は足を止めた。大方、こいつの死があいつを苛立たせ、今に至るのだろう。


少しやりすぎな気がするが、何もしていない同胞が無意味に殺されたのだ、ほかの魔物より何倍も仲間を思いやるあいつならこうするのもまぁ納得はできる。


「……とりあえず、魔界できっちり供養してやるからな。」


そう言葉をかけながら、俺はこの魔物「ムジュスライム」の中にあった銃弾を取り除き、破壊した。

ムジュスライムの亡骸を抱きかかえ、俺は再び、破壊行動を続けているあいつのもとへ向かった。


三分ほど歩いたところで聞きなれたやかましい声が聞こえてきた。



「仲間の死を目の前にしてただ逃げることしかできない奴らめ! 軟弱に生まれた貴様らの天命、今ここで終わらせてやる! 」


「ば、化け物め!! 」


「ハァ…ハァ…もう無理なんだよ!ここでみんな死ぬんだ!! 」


「くらえ雑魚共!!暴裂……」

「おいやめろ、この辺りの土地全部更地にする気か。」


俺はそう言って、振り上げていたこいつの右手を掴んで、手のひらから出ていた竜巻を()()した。

途中から走ってきて正解だった。なんで無力な人類に現状最大火力の技出そうとしてんだよ。


「あっ!なにすんのよ!折角強烈な一撃打ち込もうと思ってたのに! 」


「お前今回の目的忘れてない?人類に恐怖植え付けて絶望させればいいんだよ、今は。」


「わかってるわよ!だからこうして殺戮しまくってるんじゃない!」


「お前のことだから激情に駆られた結果起きたことだってことはわかってんだよ。その内、否が応でも殺さないといけない時が来るから我慢しろ、ディザストロ。」


「う……分かったわよ……」


俺が腕に抱えているムジュスライムの亡骸を見た後、俺に拗ねたような深紅の目を向け、襟首辺りの所で切りそろえた深紅の髪を揺らすこの見てくれがいい災害の化身様に、俺の言葉は刺さったようだ。

今日のディザストロは物分かりがよくて助かった、でも業務量は増やそう、罰だ罰。


「…ていうかあんた、そんな恰好で人類に宣戦布告するつもり? 」


「え?あぁ……」


改めて自分の姿を見るとひどい様だった、埃の様にくすみ、雑草のように無造作な形をした銀色の髪、ダルダルな衣服、おまけに目が死んでいた。寝たいの一心で気づかなかった、魔界の奴らが見たら失望するなこれは。


「忠告、感謝するぞディザストロ。」


「全く…さっさと終わらせて帰るわよ。」


「はいはい。」


そう言った後、俺はムジュスライムの亡骸をディザストロに渡し、赤黒い見慣れた空へと飛び立ち、この辺りの人類が俺の姿を視認可能な所で止まった。

そこで一瞬にして身だしなみを整え、人類に対し強烈なプレッシャーを浴びせた。


「「…ッ!? 」」


あれだけ大移動していた人類の集団は俺の威圧をくらったとたんに足の動きを止め、上空に視点を向けてきた。

……想像を絶する弱さだなこいつら、土地を奪うだけでなく人類全員魔物に変えて手駒にするのも悪くないかもな。


そんなことを考えながら俺はこの星、「地球」にいる全人類に対して、できる限り強く言葉を放つ――


「聞こえるか、貧弱な人類よ!! 」


その瞬間、下の方でざわめきが広まる。


「なんだ!?なんて言ってるんだ!? 」


「なんだこれは!?どこから声が響いてくるんだ!? 」


「聞くな!!呪われるぞ!! 」


……あれ?想像してたのと違う、思考伝達、言語理解なんて基礎魔法だぞ?ゴブリンでも使えるような――


いや待て、もしかしてこいつら魔法が使えないのか……?

嘘だろ、どうやって生きてきたんだよ人類、これは少々人類を残す必要がありそうだ。


さてそんなことより、思わぬ問題に直面してしまった。どうしよう。面倒くさいけど人類全員に強制習得させるか……


そうして俺は息を深く吸った後、手と手を思い切り合わせ破裂音を発生させた。

あぁ…魔力がごっそりと持ってかれた……地球の人類総数正直舐めてた……

でもこれできっと声が聞こえるようになったはずだ。


俺は今一度気を引き締め、人類に対し言葉を浴びせる。


「聞こえるか!貧弱で無能な人類よ!! 」


「!?声が…どうして…!? 」


突然の声、魔法によって人類のざわめきは加速していった、だがそんなことを気にも留めずに俺は人類を生気に満ちた藍色の目で見下しながら、言葉を発し続ける。


「我が名は魔王ヴェルシオン!!先程、貴様らの世界を襲撃したのはただの余興にしか過ぎない!!これからは貴様らの星もろとも我が物にし、この星を第二の魔界とするため、今日とは比べ物にならないぐらいの悲劇が貴様らを絶望の底へと叩きのめすだろう!! 」


ふと下を向いてみると、人類の顔面が蒼白になっている光景が見えた。

新鮮な反応してくれるではないか、歓迎されているようで私は嬉しいよ。


「クハハハハハ!!その終末を悟ったような顔、大変似合っているぞ!ひ弱な人類よ!我がこの星を支配するその時まで震えて待っているがよい!! 」


「ふ、ふざけんじゃねぇ!! 」

「そ、そそうだ!!ふざけんな! 」

「わけわかんねぇことほざいてんじゃねぇ!! 」


……これは驚いた、まさか抵抗してくるとは。根性だけはある、と見ていいのだろうか。

まぁそんなこともただの戯言だと今、ここで証明してやろう。


「ほうこの我に逆らうか、ならば刮目せよ人類よ!!魔王であるこの我に逆らうとどうなるのか!! 」


そう言って我は思考伝達の応用として、自分の視点を人類に映し出した。

そして未だに戯言を吐き続ける愚かな人類の前へ一瞬で移動した後


思い切り腹を殴った。


するとどうだろう、我が殴打をくらわせた相手のみならず周りの人類数十人ほどが粉々に散った。

我と目が合った人類は嗚咽を漏らし、おびえながら後ずさったり、そのまま気絶する者もいた。


「人類よ、もう一度言おう!我がこの星を征服する時まで震えて待っているがよい!これでも自身の愚かさが分からぬ者は、一切の希望を捨て地獄の門をくぐるがよい!!いつでも死期を早めてやろう!! 」


虫を見るかのような目で人類の絶望した顔を見て、鼻で笑った後


「行くぞ、ディザストロ。」


「り、了解……」


我とディザストロは固まって震えた人類を背に、共に地獄の門へと死体にまみれたこの道を歩み進めた。




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