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7.ヤンチャ系ショタは虎柄がお好き

 ザク君の申し出に、ケビンさんの眉間のシワが一層深くなったのが解った。

「採集地に行けるのは冒険者になってからだ」

「でも、ケビン兄、そろそろ登録していいって、十二月のやつらと一緒に冒険者登録してくれるって言ってたじゃん。十二歳になったらっていっても、俺の本当の年なんてわかんねぇんだし、少しぐらい早くてもいいじゃんか」

 ザク君は食い下がった。

「あいつらの中では俺が一番力も強い。数も数えられる。……俺、一人で水を汲んでこれるようになったんだ。なあ、いいだろ、ケビン兄」

 畳み掛けるザク君に、腕を組み目を瞑ったケビンさんの眉間のシワは、アリアナ海峡のように深い。

 ザク君は早く冒険者になりたいようだ。

 普段、子ども達に水を汲んで持っていくのは採集地組がしているようだし、ケビンさんはそれを出されると苦しいらしい。

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはポポさんだった。

「登録だけは先にしてあげてもええんかもしらんね。チームに入れるのは十二月の子らと一緒やとしても、ボクらがヨウさんを案内するときに、一緒に採集地の様子を見せてあげられるんは、ザクのためになると思う」

 ポポさんは、「ザクは子ども達をまとめて、よう頑張っとるから、これくらいのご褒美はええんちゃう?」といたずらっぽく続けた。

 しばらく考えたケビンさんだったが、「まあ、いいだろう」と折れたのだった。

 ザク君は「よっし!」と噛みしめるガッツポーズをして、「ケビン兄ポポ兄ありがと!」と言った。

 ロキさんは「俺には?」と言ったが彼は何も言っていないと思う。


 聞いてみると、子ども達は十二歳になる年の六月と十二月にまとめて冒険者デビューをするらしい。

 といっても力量に応じて、最初は集落での雑用や後方支援から始めるそうだが。

 ザク君は同世代の中では抜き出て優秀だそうで、勉強も稽古も率先してやるし、子ども達にも慕われているとのこと。

 そうなんだ! すごいですね! と感じたまま手放しで褒めちぎっていたら、大人みんなに褒められたザク君は、顔を赤くしてオロオロと目線を彷徨わせ、最後には俯いていた。

 このこの、()いやつめ。


 早速冒険者組合へ行くか? と聞かれたが、布も買いに行きたいし、食べ慣れない食事で子ども達に万が一変調があっても困る。

 今日だけはもう少しそばで様子を見たかった。

 私が今日泊まる宿も決めてしまわなければならないし、ひとまず解散して、明日の昼の鐘のころに、改めてこの場所で待ち合わせることにした。


 ケビンさん達と別れて早速布屋さんへ行くというと、ザク君が着いてきてくれるという。

「家で休んでていいですよ?」

「いいだろ、別に。店には入れねぇけど、そこまで連れて行ってやるよ」

 お店の場所は先程ザク君が教えてくれたので、問題ないのだが、方向音痴だと思われているのかもしれない。

 もしかしたら採集地のことも、私を頼りなく思って心配で、着いていけるようにと言ってくれたのかも。

 「ありがとうございます」と笑顔で返すと、「もっと俺を頼っていいんだからな」と言われた。

 おお、さすが子ども達をまとめるお兄ちゃん役。

「ザク、格好いいですね。では、頼りにしております」

「おう」

 少し芝居がかった言い方で言った私に、ザク君は満更でも無さそうだった。


+ + +


 適当に通り沿いにあった旅行者向けの宿で部屋を一つとると、その足で布屋さんへ行った。

 適当なサイズの布をありったけ買う。

 と言っても裁断と端の処理が終わっている大判のものはそれほど大量にもなかったので、こんなものだろう。

 瓶底眼鏡にひっつめ髪の、やや神経質そうに見える布屋のお姉さんは、次々商品を選び取る私に面食らったようだったが、帰るときには、「またどうぞ〜」と慣れていなさそうな営業スマイルで見送ってくれた。

 孤児がこの町でどの程度の扱いなのかはまだ判らないが、ザク君は遠慮して店には入らなかった。

 炊き出しの買い出しをしていたときもそうだった。

 ザク君に買った布を見せてどの柄がいいか聞くと、どれでもいいと言いながら、虎柄っぽい布を熱い瞳で見つめていたので彼の家にはその布を置こうと決める。

 ちょっとヤンチャな好みだ。

 もしかしたら、修学旅行で龍が巻き付いているボールペンとか買っちゃうタイプかもしれない。


 道中、ザク君にお金の計算もできるんですか? と聞いて、例を出しながら硬貨を見せて、説明してもらった。

 ザク君は得意げに色々と教えてくれた。

 どうやら最初に予想したように、大きな銅貨(大銅貨というらしい)は銅貨の十倍の価値があるそうだ。

 大銅貨十枚で銀貨とのことだったので、ここからきっと十倍で大銀貨、金貨、大金貨と上がっていくのだろう。

 ザク君は銀貨までしかみたことがないようだった。

 私の財布には入っていなかったが、大鉄貨と鉄貨というのもあって、銅貨の十分の一、さらにその十分の一とのことだ。

 さて、この話を元にして、ザク君の話から、一本銅貨一枚だった肉串がだいたい百円くらいの値段だと仮定して考える。

 財布には銅貨以上の硬貨がそれぞれ一枚ずつ見えていて、大金貨と思われるものも一枚入っている。

 社会人だった私は、お金の計算は速い。

 話を聞きながら十倍、その十倍、と考えていって怖くなって財布を閉じた。

 背中に冷や汗が垂れるのが解る。

 まさか、一枚で10,000,000円の硬貨が入ってると思わないじゃないか。

 いっせんまんえんだよ?

 いやいやいや、しかも、この財布の中身には無限増殖バグが付いている。

 こわいこわいこわい。

 あと、大金貨よりも立派な白く光る硬貨も入っていたが、これは気づかなかったことにしよう。

 封印だ。

 心の中で「セツさん!!」と、どうにもできないこの思いをセツさんにぶつけるのだった。

 想像のセツさんは、てへぺろっと舌を出した。

 そんなことするのか知らないけれど。


 + + +


 子ども達の元へ戻る。

 一番の家の子達の面倒を見てくれていた年長の子達に様子を聞く。

 体調の良くなかった子達の中にも、お腹を壊したり吐き戻したりした子はいないらしい。良かった。

 ちょうど晩ごはん時になっていたので、ポトフもどきの残りを配る。

 足りなければ作り足そうと思っていたけれど、いつもは夜に一日一食だけだと言うので、昼も食べた子ども達にとってはこの量で充分すぎるようだった。

 私は空いた鍋にもう一度ポトフもどきとじゃがいも汁を作って、明日もこれを食べるようにと、食器の入った袋と一緒に年長の子達に渡した。

 足りるように量は今日の昼より多めに用意し、ついでに、固形物が食べられる子用に蒸して作った粉吹き芋と、肉串の残りを切って混ぜたものを作って食べ方を伝えておく。

 肉串を見た年長の子達の目の色が変わったので、一度に食べるとお腹が痛くなるかもしれないから、よく噛んで少しずつだよと念押しする。

 昼は食べさせてもらってばかりだった体調の悪い子達も、背中を支えてもらって起き上がり、自分で食べられる子が増えていた。

 心底ほっとする。


 明日は時間が取れるかわからないので粉吹きじゃが肉を小鉢に盛って、少ないですが、とモルモちゃんへ送った。

 今回は特にリアクションは無かった。


 寝る前にと、ザク君に手伝ってもらって家々に布を敷いて回った。

 ザク君は、一軒回るごとにチラチラと、虎柄の布が誰の家に敷かれるのかと気にしていたが、いざザク君が住んでいる家で布を敷くときになっても、虎柄がいいとは言い出さなかった。

 この子は我慢をしてしまう子なのかもしれない。

 私がザク君の家の床に虎柄の布をさっと敷くと、パァッと顔を輝かせて、左から、右からその布を眺めてちょっとめくってみて、興奮したようにパタパタと体を動かした。

 私を振り返ると、ちょいちょいと私に屈むようジェスチャーしてきた。

 私が屈むと、耳元に口をよせて、抑えたものながらも弾んだ声で「いい布だなっ、気に入った。ヨウ、ありがとうっ」と満面の笑みを向けてきてくれた。

 この可愛い子、どうしてくれようか。

 私は「うん」と微笑んだ。

 私はこのままでは、ザク君を甘やかし倒してしまうかもしれない。

 自重しなければ。


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