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6.兄ズ登場 〜堅物イケメンと純粋チャラ男とモテる太っちょ〜

 子ども達の食事はすぐに終わった。

 もちろん、ザク君にももう一度彼用に取り分けて食べてもらった。

 渡すときに顔を近づけてきた彼は、小声で「これすげーうまいよ、ヨウ、ありがとうな」と笑顔で言ってくれ、とても嬉しかった。

 もっと食べられる子はおかわりしてくれればいいと思い、少量ずつ配ったポトフもどきだったが、みんなこれ以上は食べられないといった様子だった。

 味わってくれている子、がっつく子と様々だったが、みんな美味しそうに食べてくれたから良かったと思う。

 具は細かく刻んであるので、消化もそこまで悪くはないだろう。

 空になった食器を回収していたら、最初にザク君に食べさせてもらっていた女の子が近づいて来て、見様見真似で手伝い始めてくれた。

 幼稚園の年長さんくらいの小さな子なのに、お利口さんだ。

 にこりと笑いかけると恥ずかしそうにはにかむ。

 可愛い。

 私はヤニ下がってだらしない顔になっているかもしれない。


 一人が手伝い始めれば、他の子たちも協力してくれた。

 みんな私にぺこりと感謝の意を示す。

 私はその度、笑顔を返した。

 集めた食器に「綺麗になあれ」と魔法をかけていたら不思議そうに見られた。

 ふと思いつき、これが袋でできないかな、と余分に買った麻袋に「これに入れたものは綺麗になる」と念じてみたら出来た。

 ついでとばかりに収納魔法も足してみるとこれも出来た。

 入れるだけで綺麗になる万能収納袋の出来上がりである。

 魔法が便利すぎる。


 食器の入った袋と小鍋を持って一番の家に向かう。

 ザク君と、先ほど積極的に手伝ってくれた子達も数人着いてきた。

 部屋の中が暖かいのに驚いた様子だった。

 そうだ、他の子達の家も後で補修しなければ。

 起きている子からなるべく優しく声をかけ、じゃがいもの汁をスプーンに少しずつ掬っては舐めるように口に含ませていく。

 ザク君や周りで見ていた子達も手伝ってくれるようだったので、手分けしてお願いする。

 見知った仲間に食べさせてもらうほうが気も休まるだろう。

 少しずつ、少しずつ時間をかけて食べさせた。

 一通り食べさせ終わると、中に入れた物の温度と鮮度を維持する機能を付けた保温袋を作って、残った鍋を入れておく。

 あまり食べられなかった子にはまた少ししてから食べさせてあげてとお願いする。

 

 ザク君達を一番の家に残して外に出る。

 もうおやつ時の頃合いだろうなと考え、周囲を見る。日が落ちれば冷えるだろう。

 その前に家々の補修をしたかった。

 ぬかるんだ地面に魔法をかけて乾燥、整地する。

 それからその場に残っていた子に案内してもらって家々をまわり、崩れた屋根や壁の穴を塞ぐと、室内を清潔にして温度と湿度を快適に保つようにと魔法をかけた。

 これで少しは過ごしやすくなるだろう。

 お手洗いや入浴について聞くと、お手洗いは共同トイレのようなものがあるらしく、町の業者が各地域を回ってくれて点検しているので心配はないそうだ。

 昔の日本のようだ。

 バキュームカーみたいなのが家々を回っているところを想像したが、これではないだろうなと思い直す。

 お風呂は無くて、たまに川へ水浴びに行くとのこと。

 とりあえず、衛生観念が思ったよりもしっかりしていて安心した。

 そういえばザク君は数を数えたりお金のやり取りもできるようだった。

 各家に布があったことを考えても、ザク君が言っていた「採集地に行く兄」達がある程度子ども達の面倒を見ているのだろう。


 案内をしてくれた子にお礼を言って、布を買いに行こうと考える。

 ザク君なら布屋の場所を知っているだろうかと、一番の家へもう一度入ろうとしたところで、大通りのほうから人が近付いてくるのが解った。



 + + +



「あんた誰だ!その家に入るな!」


 静かだった路地にその男の声は響いた。

 やってきたのは三人の男だった。

 ザク君達より多少ましといった程度のボロい服を着ている。

 三人とも二十歳くらいに見える。

 髪の黒い男と明るい髪の男は背が高くずいぶん痩せていた。もう一人は私より低いくらいの背で、丸い体型をしている。

 私を見つけた様子の三人のうち、明るい色の髪の、優男といった顔立ちの男が、ずんずんとこちらへ入ってくるなり怒気をはらんだ声をあげた。

 しかし、周りの子ども達が、もう! 静かに! とでも言うように一斉に口に指を当て、ぷんすこと頬を膨らませ怒ったのを見て、「え?」と面食らったように口を閉じ、不思議そうにした。

 確かに、フードをかぶってローブを着た怪しいやつが子ども達の家に入っていこうとしているのだ、この反応にもなるだろう。

 彼らがザク君の言ってた兄かな、と考えていると、声が聞こえたのであろうザク君が一番の家から出てきた。

 状況を確認した彼は、私に大通りに行く? と大通りのほうを指差し目線で聞いてくる。

 頷き、今度は私が彼らを追い越し、先導するように大通りまで歩いた。


 + + +


「あそこで一体何を」

 大通りに出たところで明るい髪の男が再び、強い語気で話し始めようとしたが、黒髪の男が手でそれを制した。

 黒髪の男は整った端正な顔を(いかめ)しくし、眉間にシワを寄せている。

 しかし、私とザク君の様子からまずは話を聞こうとしているらしく、話し始めるのを待ってくれている。

「こいつはヨウ。俺たちに飯を作ってくれてたんだ」

 ザク君が説明してくれる。

 私は三人にぺこりとお辞儀した。

 ザク君は出会ったときのことから順序立てて説明しようとしてくれていたが、途中から、今日あったことを親に報告する小学生のように、こんなことがあって驚いた、とか、肉串が美味しかった、とか、炊き出しはもっと美味しかった、とか、俺も手伝ったんだ、聞いて聞いてと興奮したように話し始めた。

 黒髪の男は、眉間にシワのある顔のままそれを最後まで聞くと、やはり眉間にシワを寄せたまま「そうか、良かったな。水はザクが汲んできてくれたんだな。偉いぞ」とザク君の頭をわしゃっと大きな手で撫でた。

 彼は怒っているわけではなく、あの顔が標準装備なのかもしれない。


「こいつらが世話になった。感謝する」

 こちらを向き直り礼を言った黒髪の男は「ケビンだ」と名乗った。

 ケビンさん。なんだか苦労をしていそうな名前だ。

 苦労が眉間のシワに現れているのだろうか、と失礼なことを考える。

 完全に偏見である。

 結構な男前で、どうやらその振る舞いから、リーダー格のようだ。

「ボクはポポいいます。子どもたちのこと、ありがとうね」

 私と同じくらいの背で、丸い体型のポポさんは、関西弁のような言葉遣いだ。

「……勘違いして悪かったな。たまにあいつらに暴力ふるったりするやつがいるんだ。飯ありがとう」

 明るい髪の優男はロキさんというらしい。

 女性にも見えそうな顔立ちで、ジャ○ーズにいそうな感じだ。

 気まずそうにしている。

 私が「お気になさらないでください」と言うと、声を聞くなり「えっ!女の子!?わ、本当にごめん、怖がらせちゃったよね」と途端に眉を下げて慌てだした。

 少しチャラそうだ。


 「お近づきに、良ければどうぞ」

 そう言って保温袋に入れていた肉串を一本ずつ三人に差し出す。

 三人とも驚いたが、ポポさんが「ええのん!?ありがとう!」と花が開くように笑顔になって受け取ると、後の二人も受け取ってお礼を言われた。

 ポポさんの肉串がまたたく間になくなっったのを見て、「もう一本ずつどうですか?」と聞くと「あんたええ人やな……」とポポさんが両手を胸の前で組んで(うる)んだ瞳を向けてきた。

 見た目を裏切らず食いしん坊らしい。

 彼からの好感度がぐっと上がったのを感じた。

 子ども達の胃に肉串は重すぎるようだが、みんなへのお土産だと言ったこともあったので、ザク君には「みんながたくさんご飯食べられるようになったら、もっと肉串用意して食べようね」と言うと、「おう」とにこにこ笑顔で答えてくれた。

 その時には、ちょっといいお肉で、下味もきちんと付けたものを焼いてあげようと思う。

 肉串で心の距離が縮まったのか、ケビンさんがやや肩の力が抜けたように話し始める。

 もちろんその顔は(いか)めしいままだが。

「昨日採集地で怪我をしたやつが出て、出てくるのに時間がかかってしまったんだ。そのせいで子ども達の所に誰も来れていなかった。だから飯を用意してくれたのは本当に助かった」

 ポポさんがそれに言葉を続ける。

「別に疑うわけやないんやけどな、弱ってる子らもおるからちょっと心配で。先に様子を見てきてもええやろうか」

 ここでザク君と待ってるのでどうぞどうぞ、と促すと三人が路地を入っていく。

 「ちょっと行ってくるね〜」とロキさんが手を振ってきたので小さく振り返す。

 やはりチャラい。


 ザク君に布屋の場所を聞いているうちに、彼らが戻ってきた。

 彼らは混乱しているようで、「家を直してくれたというのは本当か」とか、「掃除までしてくれたの!?」」とか、「あの子ら看病してくれたんやって?ほんまにありがとうな。芋のスープまで……」とか口々に話し始める。

 どうどう、と彼らに落ち着いてもらって、「勝手にやったことですので」と答える。

 ケビンさんは眉間のシワが更に増えている気がする。


「見てきた限り、家が直されて綺麗になっていた。子ども達も随分体調が良くなっているようだし、あんたがしてくれたのか」

 ケビンさんは私を見、確認するようにザク君にも目線を送る。

 それにザク君は、「だからそう言ってるじゃん」と口を尖らせた。

 ザク君がさきほど話してくれた中にあったが、見るまでは話半分に思っていたのだろう。

 ケビンさんは「しかし」とか「まさか」とかぶつぶつ言っている。

 ポポさんがスッと胸の前で挙手して、へちょんと眉が下がった顔で「聞きたいんやけど」と言った。

「子ども達にも話聞いたんよ。色々ほんまにありがとうね。あんた、ヨウさんは、何か目的があってこういうことをしてくれたん?ここまでしてもらってもボクたちには返せる物がないんやけど……」

 ケビンさんとロキさんも、私が答えるのを待つようにこちらを見る。

「いえ、見返りがほしかったわけではないんです。あの、私、遠いところから来て、私のいた場所では子ども達だけで生活しているのは見たことがなくて。力になれるかは解りませんが、少しでも手助けできればと思っただけなんです。本当に、勝手にやったことですので」

 それから、「来たばかりでこの辺りのことが解らないので、もしよければ教えてもらえると助かります」と続けた。


 + + +


「ここまでやってもらったんだ、俺達に解ることなら」

 そうケビンさんが言ってくれたので、色々と聞いてみることにした。

 まずは彼らのこと。

 彼らはやはり貧困層に位置するようだ。

 子ども達は捨て子で、身寄りのない子ども達を養育するような機関がない代わりに、子どもたちが暮らすあの一角の家々は暗黙の了解で子ども達のために提供されているらしい。

 あそこで育った子ども達のうち、女の子は町の娼館にもらわれていったり、野菜の収穫の手伝いに、ともらわれていくことが多いらしい。

 男の子のほとんどは十二歳になるとあの場所を出て冒険者組合に入って冒険者となるそうだ。

 冒険者は町の外の「採集地」と呼ばれる場所に行って食材を得て、それを食べたり、冒険者組合で換金したりして生活していくという。

 なんとザク君はもうすぐ十二歳で、十二歳になったら冒険者登録ができるのだと教えてくれた。

 ザク君、しっかりしているとは思っていたけれど十一歳だったのか。

 栄養不足のせいか彼の体は細く小さく、てっきり七、八歳だと思っていたのだ。

 驚いた様子の私をザク君が怪訝に思い始めたようだったので、慌てて話を変えようと「採集地というのはなんですか」と聞いたら、全員にとても驚かれた。

 聞けば、彼らの知る限りでは、食べ物というのは採集地へ行って採ってくるものらしい。

 私が居た場所には採集地が無かったと言うと、想像がつかないと言われた。

 彼らは、他は知らないと前置きしながらも、このあたりではお店で売っているものも全て採集地産だと言う。

 この世界では畜農業はなく、その採集地とやらで全て事足りているのかもしれない。


 町の外には東西南北に四種類の採集地があるらしい。

 これはある程度の大きさの町になるとどこもそうらしい。

 むしろ、四種類の採集地がある場所に町が作られ発展してきたのだろう。

 四種類の採集地ではそれぞれ「野菜」と「海藻」と「肉」と「塩」が採れるそうだ。

 採れるものの名前で、それぞれ「ヤサイ」「カイソウ」「ニク」「シオ」と呼ばれているとか。

 女の子たちが仕事とする野菜の収穫というのは、ヤサイで働くことを指しているらしい。

 なんでも、四種類のうちヤサイだけは危険な動物などはおらず、野菜がいつでも豊富に実っていて、他にも小麦や布の素材になる綿花などが採れるらしい。


 モルモちゃんだ…


 私は可愛らしい毛玉の神様を思い浮かべた。

 なるほど、自分の世界にするのだもの、好物はたくさん実っていつでも食べられるようにしたのだろう。

 きっと日本であげたときに興味が薄かったのは食べ慣れていたからだな、と思い至る。

 想像のモルモちゃんが誇らしげにぷひっと鼻を鳴らしていた。

 

 ヤサイ以外の採集地は獰猛な動物などが行き交っていて、食材を採ろうとすると襲いかかってくるらしい。

 町の外、それぞれの採集地の手前には冒険者が一時滞在をしたり、物資の補給をするための集落があるが、貧困層出身の冒険者は、一番人気のない「カイソウ」の前の集落に集まってそこに家を作って住んでいるのだそうだ。

 昨日は彼ら三人ではないチームがニクに行っていたが、若い一人が先行した挙げ句、興奮した敵の牛に追いかけられて深い場所まで入ってしまい、彼を助けようとみんなで入っていったものの、怪我と敵の強さに這々の体でなんとか生還したらしい。

 他の冒険者に保護されたものの、集落へ戻ったのは今日の昼になってからで、その知らせを受けてやっと三人が子ども達のところへ来たとのことだった。

 そんなに強いのか、牛。


 なにはともあれ、モルモちゃんのご飯のためにはおいしい食材の入手は必須だろう。

 それぞれの採集地へ行ってみたいところだ。

「採集地へ行ってみたいのですが、冒険者にならなければいけないのですよね」

「ヨウちゃんが潜るの?危なくない?」

 ロキさんからはいつの間にかヨウちゃん呼びだ。

 チャラい。

 なぜだかザク君がむっとした顔をした。

 私が弱そうだと言われたと思って怒ってくれたのかもしれない。

「採集地へ入るには冒険者としての登録が必要だな。冒険者組合に紹介することはできる」

 ケビンさんが眉間にシワを寄せたまま言った。

「ではぜひ、お願いしたいのですが」

「わかった」

 黙って話を聞いていたポポさんが、また胸の前で小さく挙手をして今度はケビンさんへ話しかける。

「ボクも、採集地を知らないヨウさんがいきなり潜るのは危険やと思う。冒険者組合で誰かつけてもらうよう言うたほうがええと思う。それができひんのやったらボクらが……」

 ケビンさんは頷いてこちらを見た。

「あんたは子ども達の恩人だ。あんたが良ければ、採集地へ同行するが」

 私はその提案をありがたく受け取ることにする。

 セツさん曰く”頑丈な体”で、魔法もあるものの、どんな敵が出てきてどんな場所かもわからない。

 慣れた人に一緒に行ってもらえるのならこんなにありがたいことはない。


 「俺も行く」


 聞こえたのはザク君の声だった。


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