4.ショタ、怪しい女と出会う/後(ザク視点)
女はヨウと名乗った。
俺も「ザクだ」と名乗ったら、「じゃあ、ザク君」とか言い出して、慌てて呼び捨てにしてくれと頼んだ。
君付けで呼ばれたことなんてないから、なんだかめちゃくちゃ恥ずかしかった。
屋台まで行くとヨウは本当に肉串を買ってくれたが、買うときに「これで足りるかな?」と言ってなぜか俺に大銅貨を一枚見せてきた。
「十本も買うつもりかよ」と言ったらなにか思案顔で財布を見ていた。
たくさんは食べられないと思いそう言うと、「食べられなかった分はみんなへのお土産にしましょう」と言って十本注文してくれたので、これは争奪戦になるな、と思ってちょっとだけ心が浮ついた。
肉串からはいい匂いがして、それが皿代わりの大きな葉に山盛りに乗せられて出てきて、もう見た目と匂いだけで腹がいっぱいになるんじゃないかと思った。
実際、二口ほど食べたところで苦しくなってしまい、食べられなくなってしまった。
普段、パンしか食べないので、すぐ腹いっぱいになってしまう。
こんな肉らしい肉なんか前にいつ食べたか思い出せない。
俺は忘れないように口の中に残っている肉の味を噛みしめた。
ヨウは、「いが小さいんですね。ちゃんとしょうかできますように」みたいなことを言って、俺の腹に手をかざしていた。
話しながら食べると言われていたのに、串を一本渡された途端に食べるのに夢中になってしまった俺を、山盛りの串を片手に持ったままヨウは見ていた。
俺が食べ終わってからヨウは、一本串を取り頬張ると「味付けは塩だけみたいですね。鶏肉かな」と独り言ちて、屋台近くの柵に座ろうと促してきた。
座って一息ついて、俺はヨウを見る。
「肉ありがと。みんなの分も。」
ヨウが持っている皿代わりの大きな葉に盛られた串を見やる。
あいつらも数口で満足するだろうから、これだけあればみんな食べられるかもしれない。
小さいやつはこんなにごろっとした肉を食べたことがないかもしれない。
「いえいえ、ザク達は普段こういったものはあまり食べないんですか?」
俺たちが十分に食べれていないことは察しているのだろうが、気を使ってか遠回しに聞いてくる。
なので手っ取り早く正直に答える。
「パンや粥を食べてる。食べるものがない日もあるけど。俺たちはみんな親がいないから、兄たちが”採集地”に行って、そこで手に入れた食材や売って得た金で暮らしているんだ」
「採集地……?」
ヨウはピンと来ていないようだった。
採集地を知らないなんてことがあるのか?
採集地が無ければどうやって食べ物を手に入れるんだろうか。
ヨウは想像もつかないほど遠くから来たのだろうか。それとも実はすごく身分が高いとかで、俺とは住む世界の違う人なんだろうか。
俺が続けて「昨日は食べるものがない日だった」と言った途端、ヨウは慌てた様子でみんなの分を早く持って行ってあげようと言って、話はみんなの分を買いながらしようと俺を急かして歩き出した。
てっきり肉串を持って行ってやるんだと思っていたら他にも買ってくれるらしい。
仲間のことを聞かれたので、俺くらいの年のやつが十人、俺より少し年下のやつが十五人、もっと小さいやつが二十人くらいいると言い、体調が悪くて余り食べられないやつが数人いることも伝えると、ヨウはしばし考えたように黙ったあと、「炊き出しにしましょうか」と言った。
炊き出しというのが分からなくて首を傾げると、「調理をしたいのですが、ザク達の家の前で火を使ったりしても大丈夫ですか?」と聞かれた。
兄たちが粥を作るときに一番の家の前でやっているから大丈夫だけど、鍋なんかは兄達が持ってくるので家にはないことを伝えた。
+ + +
ヨウは買い出しをすると言って、なんと、まず俺を道具屋に案内させた。
食材を持ち運ぶための入れ物も、調理するための道具も、鍋も買うのだという。
めちゃくちゃだ。
俺たちに今日飯を食わせるために全部揃えるつもりらしい。
そして店に入って大きめの麻袋を一つだけ買って出てくると、少し離れたところでごそごそやってから満足気な顔をしてまた店前に戻ってきた。
店に入らず外で待っていた俺は、何してるんだとその様子を見ていただけだ。
その後再び店に入ったヨウは色々な道具を買って出てきて、人目につかない路地へ行き俺を呼んだ。
怪訝に思いながらも着いていくと、ヨウは最初に買った袋を持って俺に手元を見るよう言ってきた。
「これ、見ててください。この鍋を入れるとこうなるんだけど、こういうのってよくありますか?」
ヨウが小さい袋に鍋を入れると、袋より少し大きいサイズだった鍋がスポッと入ってしまった。
「この袋、収納魔法付いてるのか!高いらしいって聞くけど……」
「あ、あるんですね。良かった。じゃあ、残りもこれにしまって行きましょう」
そう言って、収納力が魔法で上がっているらしい小さい袋に、ヨウは信じられない量の道具をしまいこんだ。




