1.社畜、可愛いモルモットと出会う☆挿絵あり
<扉絵> 作 珠音ギスキ/Tamane 様から頂戴いたしました!
(Twitter ID : @tamane_g )
私は元々、日本で普通に暮らす一般的な社会人だった。
そんな私が異世界へ来てしまったのは、とある神様との出会いのせいに他ならない。
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その日、私は疲れていた。
仕事からの帰り道。時間は遅い。
人気のない道端の一角に、まるでスポットライトのように街頭に照らされ浮いている”モルモット”を見かけた。
「キュ」
目が合った。
合ってしまった。
瞬間、脳裏に様々な思いが過ぎる。
「あ、かわいい」だとか、「浮いてる? 」 だとか、「ついに幻覚が見えるようになったか」だとか。
私をこんな時間まで毎日こき使う上司へ「お前のせいだぞ」と口の中で呪いを吐いて、私は今見た幻覚を無かったことにした。
さあ、帰ってご飯食べてお風呂入って寝よう。明日も早いのだから。
たしか、シャウ〇ッセンが一袋残っていたから、コンビニで卵買って目玉焼きとそれでいいだろう。
私は見えないことにしたモルモットを通り過ぎ家路についたのだった。
+ + +
私はため息を吐いた。
この玄関に存在する空気すべてを肺に入れてから全て二酸化炭素にして鼻から出した。眉間のしわは深い。
買い物袋を下げた手で鍵を開け、ドアを開いたところに、それはいた。
ついてきたのか、どうやって中に入ったのか、やはり幻覚なのか……。
今度は浮いていない。
甲斐甲斐しい新妻よろしく、玄関の小上がり真ん中にちょこんとこちらを向いて、帰りを待っていたような姿は大層可愛らしい。
また目が合う。こちらを見つめる瞳は心なしか嬉しそうだ。
「……ただいま。」
「プププイ」
悪くなかった。
靴を脱ぎ家に上がる。
モルモットは私が持つコンビニ袋に興味があるのか、ぴすぴすと鼻をひくつかせて匂いをかごうとしている。
お鼻が鳴っているような、プイプイとまるでサイレンのようにご機嫌な鳴き声が聞こえている。
可愛い。
私はモルモットを飼っていた気がしてきた。
そうだ。そうかもしれない。
私は疲れていた。
+ + +
「かわいすぎる…」
最近の私は忙しすぎた。
春頃に他部署のエースが抜けたとかでそのフォローを上司から指示されてから早、半年。
来る日も来る日も慣れない業務をしながら通常の仕事もこなす日々。帰りは遅く、会社と家の往復しかしていない。
私の心は荒んでいた。
そこに現れた”モルモット”。
ソフトホワイトの小さい体躯。
小さいお手て。
つぶらな瞳と愛らしい仕草。
もしも両手でお皿を作って乗せたならきっとジャストフィットなサイズ感。
お鼻をぴすぴす鳴らしPUI PUいや、キュップイと可愛らしく鳴いている。
彼(彼女)は1Kの部屋を玄関から私を先導するようによちよち進むと、リビングに敷いてあるラグの上でふと止まり、毛づくろいをし始めた。
もちろん、モルモットが突然家に現れたこの状況を不思議に思う。
先程浮いていたことも気になる。
しかし、
「かわいい……」
私はシロちゃん(たった今、命名した)の愛らしい仕草に釘付けになっていた。
もはや両手両膝をラグにつけ外着のまま床に這うようにして眺めていた。
+ + +
「そうだ、ご飯…」
小一時間そうしていた私はふと我に返った。
時刻は既に深夜1時。
今日は昼休憩もろくに取れなかったためお腹は空いている。
「シロちゃんも何か食べますか?」
シロちゃんはラグの端を手と口でいじっている。
かわいい。
モルモットのことなんてペットショップで眺めてみたことがあるだけで知識なんてない。
スマートフォンを取り出して『モルモット エサ』と検索する。
「草食……野菜か。何があったかな」
では一緒に食卓につくか、と自分の食事とシロちゃんの野菜を用意すべく、コンロ一つと小さな流しがあるだけのキッチンへと向かった。
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一人暮らしの狭い部屋、小さな丸い座卓で私とシロちゃんはご飯を囲んでいた。
といっても、机の上のシロちゃんは、自分の前に置かれた野菜よりも私のどんぶりのほうが気になるようで、近づいてきて鼻を動かしてキュイキュイ鳴いている。
う〜ん可愛い。
可愛いのだが、食べたらお腹壊しちゃうのでは……。
草食とのことだったので、我が家のあるだけの種類の野菜を洗って細かくちぎってみたのだがお気に召さなかったのだろうか。
私の前に置かれているのは、”ウインナーを炒めて目玉焼きと一緒にどんぶりご飯に乗っけてねぎと醤油と七味をかけたもの”である。
以前インターネットで見つけたこの”ずぼら飯”を気に入ってよく作っている。
使うのはフライパンだけ、食器もどんぶりだけ、と、忙しくてもこのくらいなら作って片付けてやろうと思えるのである。
「お腹、すいてないんですか? 私だけ食べちゃいますよ?」
少し罪悪感もあったがそうも言っていられない。
さっさと食べようと右手で箸を持ちどんぶりを食べ始めた。
簡単だけど結構美味しい。ジャンキーなところも食欲をそそる。
食べる私。
見つめるシロちゃん。
食べる私。
それを見つめるシロちゃん。
パク。キュ。モグ。キュ。
パク。キュ。モグ。キュ。
一口食べる度にシロちゃんが何か物申したいとばかりに鼻から音を漏らしている。
あとほんの数口になった時キュキュキュっと寂しそうな物欲しそうな鳴き声がした。
シロちゃんやっぱりこれ食べたいのかな?
そう思ったのも束の間。
部屋が、真っ白に染まった。
+ + +
現れたのは白い人。
そうとしか言いようがない。たぶん神様とかそういう類の何か、だ。
たぶんこの狭いワンルームの部屋に、とてもありがたい何かがご降臨されている。
何これ、どういうこと?
もしも第六感があるのだとすれば、今働いているこの感覚がそうだろうと思う。
目は眩んで見えないのにそこにいるのが見える。
輪郭すら分からないのにそこに立っていて、座っているこちらを見下ろしているのが解かる。
音はないのに声が聞こえる。
『モルモにそれ、食べさせてあげてもいい?』
思ってもいなかった軽い口調に少し拍子抜けする。
モルモにそれを食べさせる? どういう意味だろう? モルモってシロちゃんのこと?
『シロちゃんじゃないよ。モルモは僕の可愛いペットだよ。ねぇ、それあげられないかな?』
「あ、はい。どうぞ」
『ありがと!はい、モルモ~ あーんして~』
どんぶりごと差し出すと受け取ったその人(?)はウインナーを手でつまんだようで、シロちゃん改めモルモちゃんに食べさせた。
「キュプ!プイプイプイプイ」
モルモちゃんははしゃぐように左右に体を揺らしながら大きな声で鳴いている。
美味しかったってことかな? というか食べて大丈夫なのかな?
『大丈夫だよ。モルモは可愛い可愛い神様だからね』