80話 うさぎさん達と変わったやつら その1
【没データはデバッグから引き出せ】
草原の道を進む。
特に変わったヤツらもいなければ、これといったフラグも立たない。
ゲームなら裏技だとか。
一定の行動を起こせば、世界をバグらせることができるが。
まあ無理でしょうねこの世界は。
現実世界なんだからそんなこと、起こるわけねえだろうと自分に言い聞かせる。
「はあどうしたもんかなあ。どうせならチャリとか欲しいんだけど」
「チャリ? それはどんなものなの?」
「えぇと便利な乗り物だよ」
無気力歩いていると仲間達が横から。
過保護そうな顔で問いかけてくる。
「愛理さんどうしたんですか、退屈そうな顔して」
「してない」
「……モンスター現れてないですね。聞けばここメタル系がよく出るという話が」
そのソースどこから?
絶対誰かに吹き込まれたガセネタか、都市伝説くさいなそれ。それ騙されている情報じゃね。
いざ実行してみたらデータが丸々吹っ飛んだとか某ゲーム情報交換サイトならありえるけど。
でももしその情報ガチだったら、ここをレベリングの拠点にしてやろうか。
あ、それだめ?
まあ周回ゲーになりそうだし読者も見飽きてくるかサーセン。
なんとか仲間が旅先を退屈させまいと、私を励ましているのだがそれにしてもなにも起こらない。
私に気遣いなんていらないよ? 気持ちは痛いほどわかるけど。
「あぁもうバグでもなんでも起きればいいのにな!」
「バグってなに愛理?」
いちいち反応するミヤリー。
一言で説明するならなんだろう。
ちょっとした不具合とか?
それだとこの世界の住民はイミフな反応しそうだな。
となると。
「そだね、変な異物みたいなものだよ」
「異物? どんなものなの」
「そんな都合良く転がっているわけねえだろバグなんて!」
大声で怒鳴る。
情報収集は大事だっていうけどさ、鼻先にあるわけないじゃないかバグって。
最強厨ならネットに転がり込んでいる裏技を実行し、まんまと罠にひっかかるアホも何人かいる。……咄嗟に“あなたを〇〇罪で訴えます!”とか騙されたキッズニキ君達はいいそうだが。
もしも簡単に出せるようであれば、もうとっくに見つけているよ。
「だからバグってなによ! 教えて愛理先生!」
私の体を上下揺らしてくるがやめろお前、そこまで私も詳しく説明できるような人間じゃない。
こういう案件は妹が知っていそうだが、やつはまだいない。
なので真面な説得力のある説明ができる者はここにはおらず。
変な事をペラペラ言っていれば、私がエアプ野郎と認定される遠くない未来が見えなくも。
いやあってたまるか。
つうかなりたくない。
さてこの状況をどう切り抜けるか。
そんな都合良く。
都合。
つ…………合?
何かないかと辺りを見渡す。
キョロキョロと。
どうせ。
なにもないんだろうなと思っていた。
そう"思っていた"だ。
だがそれらしき物体が偶然にも。
変な物が1つ見えた。
「ああいうのですか?」
シホさんが指さす。
端側にある木々の中に見知らぬ物体が。
見間違えなのではないかと錯覚してしまうような形をしていた。
「私は何か変な夢でも見ているかな?」
「……いますけど明らかに。色んな物が張り付いたようなモンスターが。いましたっけあんなモンスター……ふむむ」
目の前の物に納得がいかず目を擦る。……つ、疲れているんだきっと長い戦い連戦ばかりだったし、うんきっとそう。
しかし明らかにそいつは存在している。……実体化しているよ。
有機なのか無機なのかも区別がつかない。……自分でも目を疑うレベルだよあれは。
「なんなのあれ?」
「それな、つうかこっちのセリフだよそれ」
それに一斉視線を合わせると、その謎の物体はひたすら小歩きしているような様子。
見た目は。バグった塊のような海苔状の体を身に纏っており、色んなテクスチャ? らしきものがあちこち張り付いておりもう形はグチャグチャだ。チートバグの動画でよく出てきそうなアレである。これは各々のご想像にお任せする。
何に似ているかと言われれば具体的な例が思い浮かばない。
形を留めていない得たいの知れない何か。
うーんわからなんなこれ。
「なにあれ。バグったデータみたいやな」
一応データを確認。
【該当データなし015 説明:没モンスター。元々エリア一帯に配置する予定だったモンスターだったがパワーバランスの塩梅を考えた結果、未実装になったモンスター。しかし削除し忘れたせいかごく希に出現する。出てきても興味本位で触らないように】
あ、没データでも説明文はあるのね。
じゃなくって。
「みんな、あのモンスター触るなよ。触るな危険!」
「……見れば分かりますよ、見るからにして危険そうですし」
「私でもあんな変なバグモンスターとは戦わないわよ?」
「愛理さんが言うのなら」
各々躊躇う様子を見せていた。
まあ見た目がもうぐちゃぐちゃな感じだし、そりゃ触る気も失せるか。
でもなんで異世界に来てバグモンスターに出会うハメになるんだよ。ゲームじゃあるまいし、内部データ漁って早く消せ。……あとなるとこれ狂政絡みかな。……忘れてそうだあいつ。
……でもなんか気になる。
試しに近くに落ちていた石ころを拾って投げ。
ぽこ。
そのバグモンスターに当たった石ころは、当たった直後に静止し消滅した。
破損したデータに飲まれたとかそんな感じだろうか。
いや、怖くね。
消されてまう。仕様的なあれかもしれないけど。
あんなん見せられたら戦う気もなくなるぞ。
「バグって怖くね」
「……バグってよく分かりませんけどあまり触れない方がいいかもですね」
暫く放っておくと突然消滅。
危機は去り跡形もなくいなくなった。
というかこの世界に何種バグモンスターがいるかわかんないけど、強制デリートとか洒落にもならないだろ。
まあすぐには無理な話だと思うが。
「ギルドのお知らせにはああいうモンスターの注意書きは書いてなかったですけど、今後注意書きがなされるかもしれないですね」
冒険者やめる人が続出しそうだなあれ。
初見殺し、あるいは初心者お断り的な響きだ。
じーと。
興味深そうなミヤリーに向かって私は言う。
「おいミヤリー無謀に自爆特攻すんなよ?」
「し、しないわよ!」
本当かと疑いたくなる私だったが、ミヤリーの言葉を多少信じつつも先へと進む私達なのだった。
バグって恐ろしや。




