75話 うさぎさん達道中にて その2
【知らない物には触らないでも気になったりはする】
目の前に立ち塞がる物体。明らかに扉。うん扉。
どこかのアオダヌキが出してきそうなあんな物。
明らかに場違いな扉があからさまに置いてあった。唐突な展開に言葉を失う。
「変速的なフラグ回収キタコレ?」
何故に疑問形。自分でも何言っているのか分からないが、それぐらい現状を飲み込めないってことだ。とりまこれに関してはみんなのご想像にお任せする。
はて。
一体これは何か謎は深まるばかり。急に開けたら異空間に繋がっていて実は裏技的な数秒でエンディングルートまでたどり着ける移動扉だったり。チートバグじゃあるまいし、んなことになるわけないでしょ。
「何でしょうかこれ」
「……扉ということは確認できますがなぜこのような場所に?」
それはこっちが聞きたいよ。
ミヤリーはなにか、壁を叩いたりして熟考タイム。おーい人様の物の可能性もあるから壊すなよ。弁償は誰がするんだっつーの。
「頑丈な鉄の扉ね」
たどり着いた答えがこれらしい。
んな誰でも分かるだろうが。明らかに重厚感のある見た目の扉。日光が反射してテカっている。
有力な情報でもなんでもない。どうでもいいミヤリーの役に立たない情報源であった。
横に何か立っている。
『反則武器無料で差し上げます』
ちょっと待てや。
うそくさ。
明らかにこの文(釣り的なメッセージに見える)は初心者を騙す物にしか見えないのだが、孔明だろこれ。あとで『責任は一切とりませ~ん』だとか『通信料が高く付きます』などちょっとした落とし穴もありそうで触りたくないんだけどこれ。
見るからに怪しい怪しい。
木でできた謎の案内図らしき看板に、胡散臭い悪臭が漂ってくる。
「ねえ愛理チートって何?」
ポカンとした顔でミヤリーが問いかけてくる。
正直なところ、ググれと言いたくなるところだが。チートってそういえばチートってまあ反則みたいな……やつだけど。私もそこまで詳しくはないのだが、一言でまとめるなら“ズル”って言えばいいのかな。……なるほどわからん。
ここは異世界。
なら私自らが。
ウィキ先生になってあげようか。(うまく説明できるかは保証しない)
「反則的な強さを持った物のことだよ」
「たとえばどんな物があるの?」
そう来たか。
うまく飲み込み切れない彼女は、さらに私に質問を重ねてきた。
私は全てを知り尽くしているわけではないから、連チャン質問は禁止してもらいたい。
でも折角だしサービスとして答えてやってもいい。
して具体的な例を当てはめると誰か。
……。
……。
私しかいなくね。当たり前だよなぁ。
「私」
「ふぇ?」
自分自身に指差した私に対して、ミヤリーは呆然とした反応。
察し悪いなこいつ。
「だから私、ほら私がいつも使っている武器や服。あれどれも強力でしょ? ああいう物だよ」
なんか自分で言って恥ずかしい。何を今更と思ったそこのあなた自重しなさい怒らないから。
自らマウントを取りに行っているような気分にも……いや私は自慢したがる人間じゃないんだよ? 簡潔的にまとめるのが難しいと気づいた私でした。
これが正しい方法なのかはさておき。大方の事は伝わったと思う。
「私も聞きなれない言葉ですが、愛理さんやはり博識ですね! つまり愛理さんみたいな強さを持った防具や武器の物をそのチートと言うわけですか」
シホさんあなたはチート以上のハイスペック持っているから、無理に私と比較しなくてもいいんだよ? むしろ私の主人公権限を彼女に譲り小説の名前を『腹ぺこですが完膚なきまでモンスターを刈り続ける体力お化け美少女は好きですか?』みたいな名前にしてやってもいい気が。
おいそれ永遠とシホさんのぶっ倒れる様を読者さんは見続けるハメに。
やめよやめよ今のなしノーカンで。
「……できれば欲しいのですが、強力な魔法の杖を」
毒されたような顔をしたスーちゃんが、まじまじとその看板を見つめる。
「スーちゃん楽しくないとか言わなかったっけ? あんなにズルはしたくない派の子だと思ってたのに。愛理さんそういう子に育てた覚えないよ?」
「愛理さん、それはそれこれはこれですよ」
「さ(さよう)ですか」
デザートは別腹的なアレかな。
まあわからなくもないが。
でもこれに関しては、規模が違いすぎだろどう考えても。
「それでどうするの?」
「もちろん! そういう物であれば迷う必要はないわ!」
「ちょっミヤリー!?」
1人だけみんなの意見を無視して先走る方が約1名。ゲームの説明書読まないやつだこれ。
こら、集団行動って言葉おま知っているか?
扉を開けて中へと入っていくミヤリーを追いかけるように。
「だぁもう。……仕方ない2人とも少し胡散臭いけどこの中入るよ」
私達も続くように中へと入っていった。
少しはお前話聞けよ。
もしかしたらとんでもない罠かもしれねえぞ。
とりまその中へと入り。
強力な武器をもらおうと足を運んだわけだが。なんだかんだ私も興味津々だったりする。口に出さないけど。
けど、そこは期待を裏切るような境地であった。(ネタ的な意味で)
☾ ☾ ☾
扉から続く果てしない空間を突き進んでいると。
「おっとまた看板」
扉に何か書いてある。
『反則アイテムの宝庫 場亞門ハウスへようこそ!』
と。
ん?
待てよこれどこか既視感が。
あ、あれだ。掲示板とかでよくあるやつ。今知っている子いるかなぁ。
そんな考えている間にもミヤリーと仲間達が中へと入っていく。
私の予想が正しければ。
名前からしてウェブページの釣りサイトで出てくるあれだとすぐ察しがついた。どこかその既視感を抱き、先ほどまでの不安は徐々に確信へと変わっていった。
ほら、騙されたときにでるあれ。……“やあすまないまたなんだ☆”だったっけ。
扉をくぐると。
「いらっしゃーい」
お洒落な酒場へと出た。
縦長のテーブルに並ぶように丸いすが設置されている。
もう予想が確信に変わってきたよ。
この店のオーナーと思われる、背の低い女の子がコップを拭きながら出迎えてくれる。
私達は椅子へと腰をかけ。
開口一番ミヤリーが、身を乗り出し小さいオーナーさんに話しかける。
「ねぇねぇ! 早速で悪いんだけどさ、チート武器くっださいな」
お前絶対軽視しすぎているだろ。
「そういえば、武器らしき武器1つも見えませんね。本当にこんなところに強力な武器があるんでしょうか?」
「……酒場らしいですけどここに本当にあるんですかね?」
言いづらい。子供に本当はサンタなんていないんだよと言ってしまいそうな感覚レベルに言いづらい。
「あ、ごめん。またなのよまた釣りなのよねこれ」
「え? 今何て」
少女の言う言葉に対して疑念を抱くミヤリー。
確信が持てない彼女は。
「『また』って何のこと?」
するとオーナーは。
声量を下げてイケボ口調で答える。
「それはねお嬢ちゃん、そういうことなんだって意味なのよ」
「??? わからないわ! わ、私の最強武器は一体どこに!?」
「はぁミヤリーお前なぁ」
理解が鈍いミヤリーに私が簡潔的に説明した。
☾ ☾ ☾
「「えええええええええええ!?? 嘘でしょおおおおおおおおお!!」」
うるせえ。
「「つまり! あれは釣りで! 私達はまんまと引っかかったちゃったってわけ!?」」
「そういうことだよ。私似たような物知っていたんだけどまさかここにあるなんて」
鼓膜が破れるかと思いました。
気づくの遅すぎこいつ。そんな驚くことか。……どうやら異世界のお方には刺激が少々強すぎた模様。
「うさぎお姉さん冷静だね。あぁ私釣子って言います」
まんまそれに因んだ名前で草。
何でもここは時たま現れる。
冒険者達を騙し落とし入れる、異空間酒場なんだとか。
看板の内容は、完全ランダム制で現れる度に変わるらしい。
中には『薄い本いっぱい差し上げます』『Oπを無限に触れる魔道具あげます』とか、バリエーションは豊富。
その度に冒険者達はこちらへと迂闊に足を踏み入れ、罠に引っかかっているらしい。
隣に座るシホさんがミヤリーの肩にポンと肩を乗せ言う。
「ドンマイですよ、まあこういうこともありますって。私とスーさんも驚きましたけど……世の中なんでも上手くいくとは限らないってことですよきっと」
「……こくりこくり」
気が沈んだミヤリーを励ますように顔を綻ばせる。
にこにこと人差し指を立てて平然と。……と魂の抜けそうになったミヤリーは放っておき。
「……でもこんなトラップがあるとは聞いていませんでしたよ。すっかり騙されました」
スーちゃんは冷静に感想を述べる。騙されたと言うのに彼女は強いな本当に。
サービスの水を一杯飲み終えると。釣子さんは私に一言聞いてくる。
恒例のいつものあのセリフを直で聞くことになるのかこれ。
「それじゃ愛理さん、次の注文を聞こうかな?」
「いや、いらねえしもう頼まねえよ」
やっぱりな。
だと思ったよ。
唐突の冒険者を引き込む釣りの異空間。そこは冒険者達を釣る……謎の罠スポットであった。いや誰得だよこれ。
断固拒否しお約束の注文を断った。
☾ ☾ ☾
「前の扉開ければ、元いた場所に戻れるよ」
「ありがとう」
一言告げて奥に立つ扉へと向かう。
その扉を開けると。
元いた場所へと移動しようやく元どおり。
ってよくねえだろこれ。
何分無駄な時間過ごしたと思っているんだ!
読者の中には、元ネタ知らない人も中にはいるかもしれないけど。
私から一言。
あまり気にしないでね。
「さて気を取り直してもう少し歩きますよ。目標地点近いですし」
再び近くの村に向けて歩き出す一向。
「も、もううんざりよこういう騙しのトラップは」
これまたやらかすパターンじゃね。
再度。
後ろを見ると。
その謎扉は姿を消していた。まさかの自然消滅で草。
一体それはどこから湧くのか、私にも釣子さんにも決してわからない未知の領域。
ただひとつ言えることは。
何でも楽しようと思わないことだ。だからこういう安い罠に引っかかってしまうから。
みんなは絶対騙されちゃだめだぞ。判断力って大事だからね。
ちょいとまたひとつあたおかな経験をした私なのだった。
いやつーかなんだよこの尺はよ!?




