番外編(2) 白き少女と未知の遭遇 その6
スーちゃんの話最終です。
【最強魔法の伝授!! そして?】
翌日。
マリィさんから聞いた話によれば、グリモアに伝わる三大魔法の1つをグリモワール様が本日教えてくれるとのことでしたが。
早朝、朝食を済ませたすぐ私は彼に聞くと。
「……その昨日マリィさんから聞いたんですが、三大魔法の1つをお教えしてくれるときいているんですが」
私はとてもわくわくしていました。
最強の魔法使いを目指す身としては機運でした。
またとない機会ですので私事的にも是非ともここは覚えておきたい。
「おや、聞いておったのかスーちゃんや。……しかしなぁ気の毒に今日ワシは」
え、なにかあるんですか?
今日を楽しみにして暁起したというのに。
蓋し忘れたなどとまた抜かすのではないかと思いながら。
「腰がわるいんでよ。本当はスーちゃんに今日最強魔法を伝授しようとしたんだがのぉ。……腰がおいおいと」
ガ!
と椅子から倒れる私。
よりにもよって腰痛ですか。あ、今のはダジャレではないですよ。
寿命がきたや病気が発症したと言い出せば少し重い空気になっていたのかも。
そういえば今日グリモワール様、朝見かけたとき腰が非常に悪かったような。
腰を叩きながら小幅で歩いていましたね。
「……残念ですね。それで痛みのほどはいつ頃完治するんですか?」
「ふむ、ざっとこれじゃな」
人差し指1本。
即ち……え、1日!? 早いですね。
「……早くないですか? そのお歳でその回復は異常なのでは?」
「何を言う! 年寄りをなめるんじゃないぞいスーちゃん! まだバリバリげ……」
ゴキッ!
「グリモワール卿ぉぉぉぉぉ! 先ほど言ったではありませんか。無理に立たないでくださいと」
歯応えのあるような骨のいい音……いえこれは嫌な音と表現した方がいいでしょうか。
遽然として杖を振り上げるとグリモワール様は腰を痛めました。
そのまま近くで中腰となり、体を擦ります。い、痛そう。
マリィさんが、早々に駆け寄り治療魔法で治しますが。
「あぁマリィ君助かったわい。危うくあの世に行くところだった」
「行かないでくださいよ! まだまだやることたくさんあるでしょう」
「……お取り込み中すみませんが、ご教授はいつになるんでしょうか?」
割り込むように話を持ちかけます。
ふとこちらの方を振り向いたのはマリィさん。
グリモワール様は腰を痛そうにして振り向いてくれそうにありません。代わりにどうも答えてくれるみたいです。
「その……私はグリモワール卿のように強力な魔法を使うことはできないんです。簡単な魔法……上級魔法までは扱うことはできるんですが」
「……そ、そうなんですか? てっきりグリモアの偉い人ですからどんな魔法も使えるのかと」
意外ですね。
グリモアにいる偉い人達は強者揃いと、アンコさんが言ってきたはずですけど。
え、その魔法って3段階……上級魔法までですか。
「スーちゃんや。グリモアの集団は上級魔法までしか覚えぬ。……スーちゃんの学校と同じじゃよ。昨日までに覚えた究極魔法はワシのようなごく一部の魔法使いしか覚えられぬのじゃ」
グリモアには国を統治するグリモア統治協会という国を管理してくれている組織があるのですが、彼らは私と同様に学校で上級魔法までしか覚えていないみたいでした。
どうやら各魔法の4段階目の魔法は、俗用としては使われておらず裏向きの魔法らしいですね。
コントロールが非常に難しく下手すれば魔法が暴走してしまう恐れもあるみたいです。まあ使って分かったんですけど比較にならないぐらいに強力ですよあの魔法は。
初級魔法→中級魔法→上級魔法→超級魔法→究極魔法
と分類されていますが、学校の教科書にも3段階目しか書かれていなかったです。
どうやって習得したかは分かりませんけど、やはりこのお方は凄い。
究極魔法が言わば昨日見たグリモアの三大魔法のような強力な魔法を指すようです。
全てを読み切れたわけではないのですが、一説によると他にも究極魔法はあるみたいですね。
「……明日必ず教えてくださいね」
「も、もちろんじゃ。……ということでマリィ君。今日はスーちゃんと買い物行ってきてくれ」
「はぁ……わかりましたよ。ちゃんとベッドで寝ておいてくださいね。……隙をついてエーブイを見るのも禁止です」
「んな馬鹿な……!」
なんですかその嘘だろみたいな顔は。
やはりそのエーブイというものが気になり……ごほんごほんアバウトな気がするので控えておこうと思います。
「それではステシア殿。行きますぞ」
「……あ、はいでは行ってきますねグリモワール様」
その日は2人で美味しい食材を調達しに行き、グリモワール様は腰を痛そうにしながらも安静にし1日を終えました。
☾ ☾ ☾
~翌日~
次の日。
完全復活したグリモワール様は、私をいつものように家の外へと連れ出しました。
入り口傍付近にはマリィさんが私を見守り、興味深そうにこちらを見ています。
わ、私やっぱり人に見られるのってあまり好きじゃない。学校の魔法参観のときにだって人前で魔法を使うの非常に恥ずかしかったんですから。
両親がまじまじと見つめてきたあの視線忘れられません……うぅ。
恐怖に怯えながらも私はグリモワール様に魔法を教わります。
「いいかスーちゃんや。これからお主に教えるのは……グリモアの三大魔法に伝わる最強の魔法"マドンダ"じゃ」
「……本に書かれてありましたけど、使えるんですか?_あの魔法」
「あぁ使えるよ。と言ってもこの魔法だけじゃがな。このマドンダは各属性の超級魔法を覚えてようやく使える最強の魔法じゃ……と言っても、1度使うと魔力を全部使い果たしてしまうからそれだけ注意が必要じゃよ」
それ非常に使いどころに困る魔法なのでは。
ヒール系の魔法なんて使えなくなるじゃないですか。……とすれば街中にある道具屋で薬草を爆買いしないとダメじゃないですか。……わたしあれ嫌なんですよねHP回復するとはいえ、とても苦くて。
「……大丈夫でしょうか? 薬草生活なんてご免ですよ。ちゃんと自分の魔法で回復はしたいんですが」
「安心せい。……仲間増やせば問題なしじゃ!」
あの適当過ぎませんグリモワール様!?
「……とはいえ私できますかねこの魔法」
「できるに決まっとるわい。お主は……お主の母親の子なんじゃからな。彼女はスーちゃん同様様々な魔法を覚えたがきっといつか母親を超える最強の魔法使いになれるじゃろう」
私の母親……つまりお母さんの実の師匠がこのグリモワール様なのですが、彼は私を狂信してくれました。
必ずできるそう確言して。
「…………母を超えられるかは分かりません。期待に応じられるかもわかりません……それでもやりますよ。あなた方お二人が私を応援してくれるのなら」
私は息むと手に持つ杖を突き出して魔力を集中させます。
「そうじゃ各属性のイメージを頭でさせ、一塊作るイメージで魔力を蓄えるのじゃ」
言われた通りに魔力を集中させていると、四方から広大な魔力のエネルギーが集まってきます。
魔力の塊は神々しい紫の玉を作り激しい旋風を発生させました。
かつてないそれは大玉。周囲一帯を覆い尽くすぐらいの膨大な塊は私の体に圧力をかけてきます。強烈、高圧力、高引力の3拍子が揃って。
「よし今じゃ!」
私はその大玉を振り下ろすと同時に高々叫びました。
「はああああああああああああああ! マドンダァァァァァァァァッ!!」
瞬間。巨大な玉が地面に直撃すると、辺り一面光で覆われていき爆風と共に大きな穴が空くのでした。
☾ ☾ ☾
「これでワシの教えられることはなにもないのう」
マドンダは成功しました。
その魔法を撃った方面には大きな穴が空いています。
……元々私にマドンダを習得させるまでを目標としていたみたいで、グリモワール様は教えられる魔法はもうないと唐突に言ってきました。
正直少し寂しい気もするのですが、私もそろそろ出なくちゃと思っていた頃です。
そうこの家を立つ時が来たみたいです。
「グリモワール様、名残惜しいですがありがとうございました。……それとマリィさん短い時間でしたがご飯とても美味しかったです」
久々にこんなにも人と喋ることができたのはいつぶりでしょうか。
もう随分昔の話のように思えてきます。
滞在期間はそこまで長くありませんでしたが、それなりに楽しめました。……このお爺さんグリモワール様とマリィさんが私に生きる気力をくれたから。
「行ってしまわれるのですか? 私はステシア殿ともっと話したかったのですが」
「何を言っておるのだお主は。彼女は最強の魔法使いを目指しておる。そしてリーシエの子じゃ。きっと逸材なるぞ将来的に」
「引き留めるのはよくないと……そう仰りたいのですね」
私は帽子を深く覆い被さり。
「これ泣くなスーちゃんや。お主は最強の魔法使いを目指しておる魔法使い。……その呪いもきっと誰かが解く方法を探してくれるはずじゃ。希望を持て」
「グリモワール様……。でも私は」
涙を流す私の方に彼は近づいて、私を抱き寄せてきます。
「よしよし。……お主はワシの孫みたいな子じゃ。……いつでもいいんじゃいつでもここに帰ってきなさい。ワシらは待っておるから」
「……いいんですか? また甘えても……?」
「えぇ勿論ですとも。私達は大歓迎ですぞ。美味しいお肉料理を作ってあげますから」
とても嬉しかった。
なんというかお母さんの面影を感じます。……最近誰とも話せてなかった私は正直勇気が持てませんでしたが…………ここに来て、暮らす内に勇気と二人の温かみを得られました。本当に……本当に感謝でいっぱいです。
私はグリモワール様の方を離れると、杖に乗り宙へと上昇していきます
別れは辛いですが、別れあっての旅それが最強の魔法使いの道のりだと私は思います。なのでまたいつか。
「……それではお二人共お元気でまた来ます」
「あぁ待っとるよ首を長くしてのぉ」
「ステシア殿お元気で! お母様に会われたらよろしくお願いしますぞ!」
その場を去って行く私は、うれし涙を2人に見せながらその場を後にしました。
……次の冒険に胸を膨らませながら、私は日差しの向く方向へと飛んでいくのでした。
『教えてお母さんの旅の心得! その250 出会いも別れもあるそれが冒険よ。きっとそれが最強の魔法使いへの近道でもあるんだから。泣いたらこの文面をよく読んで何回も読み返しなさい。頭に焼き付くぐらい何度もね。頑張って私のかわいい子きっといつか立派な魔法使いになれるから』
並大陸に渡る前のステシアの話最終です。
読んでくださりありがとうございました。
実はこの世界、隠された魔法の秘密たくさんあるんですよね。
とはいえ練り込んでいない設定もまだ所々あるので修正は色々想うに惟みる必要がありますが。
これからも合間で各キャラの話も書けたらいいなと思っています。
本編でも彼女の活躍は増えていく?(予定)ですので彼女の応援どうかお願いしますです!
それではまた次お話でラビット・パンチ!




