番外編(2) 白き少女と未知の遭遇 その2
【不審者には気をつけてと、自分で判断がつけられる凄い魔法使いになりたい】
森を歩いていると見知らぬ洋風の一軒家が。その外観はというとどこか故郷グリモアを彷彿とさせる見た目でした。
そこから背丈の低いローブを被ったおじいさんが出てきて私に、ちょっと手伝うように語りかけてきました。
お母さんやお父さんには知らない人にはついていかないという言いつけを受けているのですが、果たしてこれは安全か。
「……あの、急にそんなこと言われても」
「ほっほ。そんなこと言わずに。美味しい紅茶でもだしてあげるからそれからじっくり考えてはくれぬか?」
変な持ちかけを。その紅茶には毒が盛られてたりしませんかね? 昔読んだ昔話には、知らぬに毒の盛られた飲み物を飲んだ旅人が、悪い魔法使いの手に落ちてしまいそのまま殺されてしまうといった展開ありましたよ。
「なんじゃいその目は?」
私がまじまじとおじいさんを訝しむ目で見ていると語りかけてきました。
「一言断っておくがの……毒などの危険物は入ってないから安心せえ。ワシの家は断然ホワイトな家だから大丈夫じゃ」
「……は、はあ。というか人の心勝手に読むのやめてくれませんか?」
親指を立ててグッドポーズを取るおじいさん。
見た感じ魔法使いなんでしょうけど唐突な依頼に少し困惑してますよ私は。
「……ひとまずここがどういった場所であるか、包み隠さず述べてくれたらかんがえてあげますよ」
「お主、ちっこいくせに案外心外じゃな」
「「ちっこい言わないでください! これでもまだ育ち盛りなんですから!」」
少々おじいさんと侮辱され、小馬鹿にはされましたがまずは様子見ということでついていくことに。
「……意外と古風漂う魔法使いの家なんですね」
先へ進むおじいさんについていくと家の中には魔導具やら色んな物があちこちおいてある通路に出ました。部屋もいくつかあり、下に大体4つくらい、上が3つ程です。……魔導具の置いてある部屋や、魔導書のたくさん置かれた部屋など私の興味そそられる物がたくさんありました。
そんなことを思いながら2階の端にある扉に足を止めました。
「ここじゃよ。おーいマリィ君! 新しいバイトちゃんを連れてきたぞい!」
と合間をおかずにドアノブをぐいっとねじり扉を開けました。
どうやらこの家にはおじいさん以外にも違う魔法使いがおられるみたいですね。
「一体どこに行っておられたのですか! グリモワール卿!」
ぐ、グリモワール卿!? この人が!?
「先ほどあなたは、少し余をたすと言ってトイレに行ったのではないのですか!? 今日は新作の魔法の研究を一緒にしようと言ってたはずなのに」
「マリィ君、ちゃんとトイレは行ったんじゃよ。うむそのあとにな……特殊な魔力が感じて外に出たらこの子がおったんじゃ……」
とおじいさんが私に道を譲るようにその助手? さんと顔が合うように道を空けてくれます。
あ……あの自己紹介とても緊張するんですけど。
こんなときどうするんですっけ。ええと。
緊張が解れず私はお母さん手帳を取り出して再び捲り始めます。
『教えてお母さんの旅の心得! その59 人に話しかけられたり、家に招かれたり、はたまた挨拶されたらちゃんと挨拶すること。そうすると相手はきっと好感持ってくれるはずよ 私の娘ならこれ分かるわよね?』
いえ、そういうこと知っているんですけど……恥ずかしいですよとても。
なんでしょう。無視されることに慣れた私にはとても恥ずかしく感じるようになってきたんですがそれは。……これは悪い癖が体にしみこんでしまったという害ですよこれは。……あぁどうしよう話したくても胸の緊迫が収まらない。
「……はぁはぁ」
「お、お主大丈夫か? とても顔が赤くなっておるが」
「はあはあ……いいえ……だ、だだだだ、大丈夫ですよ。お気になさらずに! はあはあ。……わ、わ、わ私はぐぐぐぐぐぐぐりりりりりりりりももっもあからきたすすすすすーーーーーーーーーッ!!」
顔を真っ赤にした私は緊張のあまり声調が少し慌てた感じになってしまいました。体の温度が尋常に熱く感じ、熱と勘違いしそうな温度になるとついには。
バタン!
「………………ぐっ!」
「お主た、倒れて! ……マリィ君この子の手当てを!」
「言われなくとも! …………」
意識が薄れる中、私の為に必死でドタバタと足音が聞こえてきました。どうやら緊張のあまり倒れてしまったようです。自分ながら情けない。
☾ ☾ ☾
「? ………………ここは?」
気絶してからどのくらい経ったでしょうか。起きてすぐに飛び込んできたのは、風通しの良い寝室に横になっていました。
私の他にも、空きのベッドが2つ。先ほどのお2人のベッドでしょうか。
……グリモワール。先ほどあのおじいさんはそう呼ばれていました。
グリモワールとは、私の故郷グリモアの最高位の座につく……つまり偉い人です。そうですねギルドの最高ランクであるSランクよりも全然偉いお方です。ですがその座位につけるのはほんのごく小数、一生かけてもなれない方も中にはいるらしく、私の国には現役のグリモワールの座についている方はいません。……まさかこんなところに私の憧れる人に出会えるなんて。冒険ってなんかとても楽しい。
「どうじゃ目が覚めたかの?」
「……わっ! 驚かさないでくださいよもう」
「すまんすまん。まさか緊張で倒れてしまうとは知らずに……なんかすまんのう」
「いえいえ、長らく他の人と話してなくて……それで。……それよりもあなたはグリモアの最高位の座につくお方……あのグリモワール卿なのですか?」
「あぁそうじゃよほれ」
冒険者カードを私に見えるように提示してくれました。ちゃんとグリモワールの座についている証拠の金色の特殊な魔法陣がカードに模様が描かれています。……どうやら本物のようですね。
「ではどうしてこんな森の中で? あなたのようなお方がこんな場所に?」
「それはのう……マリィ君!」
「自分で説明しましょうよ。説明を……仕方ありませんね」
と先ほどの助手さんが扉の前に立っていました。丸い帽子を被った、長髪で金髪をした背丈が私よりも遙かに高い若いお姉さんでした。魔法使いらしい偉いそうな服装を身に纏い片手には分厚そうな魔導書を持っていました。
「先ほどはすみませんでした。……その名前は」
頑張れ私。今度こそ答えられるはず。
「……ええとステシアです。すみません先ほどはお見苦しいところを見せて」
「マリィと言います。この家でグリモワール様の助手を務めている者です。……そのお年頃ならまだ目上との交流がまだ浅はかなのでしょう無理もありませぬ」
気遣ってくれているんでしょうか。同情なんてしなくていいのに。
「ほうほうステシア……あぁあの子の。確かに見た目が似ているのぉ」
「……? グリモワール様なんの話ですか?」
「いやいや、気にせんでいいぞい」
「それでどうしてこんな場所に研究所? みたいな場所が」
「それはですね、グリモワール卿が数年前程前に違うところで魔法の研究をしたいと言って急にグリモアを飛び出したのですよ。……単純に1人になりたかったとか」
なんて身勝手な。
「捜索など色々やられましてね、数か月に渡りましたよその捜索が。……それでようやくこの地で見つけたのがこの私だったのですが、聞いても研究が終わるまで帰らないと言い出して説得しても聞かずで」
「あ、あの……」
「それで困りに困ったグリモアのギルドのみなさんはグリモワールの1つ下の座についている私を助手とし、グリモワール卿が気が済むまで面倒を見て欲しいと言われ、以後ここで彼の助手をしているわけです」
つまりは。
このグリモワール様は、魔法の研究がしたくて国を勝手に飛び出しこの見知らぬ土地で魔法の研究をすることにしたというわけですか。
考えに至らない、偉大な人が考えるとは思えない発想です。
「……あ、あのなんで帰らないんですか?」
「いやのお。歳取っても子供心は忘れちゃいかんと思ってつい……」
頭をかきながら、なにやら誤魔化そうとするグリモワール様。
「あぁもう呆れました。……付き合ってられないんで私はそろそろいきますよ」
私は立ち上がり魔法で荷物を片手に運び、立ち上がろうとしたそのときでした。……袖をグリモワール様が引っ張ってきます。
な、なにか?
「ステシアと言ったか。スーちゃんでいいかの? ワシなら特大の魔法を教えてやらんでもないぞ……最強の魔法使い目指しておるんじゃろ?」
弱みを握られてしまいました。……どうしてそれを。
「……ぐ、ぐうなぜそれを。確かにそうですけど……教えてくれるんですか?」
「もちろんじゃよ。なあマリィ君」
「ふ、振らないでくださいよ。……ステシア殿とにかくお疲れなのでしょう? ならしばらく……少しの間でもいいですから気休め程度でここ留まってはもらえませんか?」
「……マリィさんがそういうのなら」
肝心のバイトの中身が良く分かりませんが、強力な魔法が覚えられるなら。
相手の思う壺かもしれませんが、悪い人ではないのでこの話に乗って損はないでしょう。
「なら決まりじゃ! お腹がすいとるじゃろ! いい頃合いじゃしマリィ君何かこのスーちゃんに美味しい物を食べさせてやっておくれ!」
「はいはい分かっておりますよ。では私はこれで失礼します」
とマリィさんは調理の為に、扉を開け部屋をあとにします。
ちょうどお腹も空いていましたし。どの道食料はないのでここは遠慮せずにいただくとします。
さてこの家で私はこの……凄いお方グリモワール様にどのようにこき使われるのか……先が思いやられる私なのでした。




