6話 うさぎさん戦って狩る、そしてぶっ倒す(後編)
【作風と雰囲気はある程度守るべきだろ】
予想外な展開。
異世界において、とても不相応な存在。
なぜこんなロボットアニメに出てくるような巨大ロボットが出てくるんだよ。はよSFの世界に帰りやがれ。
明らかに出てくる作品間違っている異質な存在。まだファンタジーでよくでる大型種のモンスターの方がまだよかった。
(時代錯誤って怖くね)
……それは思いがけないできごと。
私の思っている異世界とこの異世界とでイメージが偏りすぎてしまっている。
異世界にロボット? いやそんなのまじでないない。
にも関わらず巨大で機構な物体がこちらに矛先が向けられた。
「なになになになに!? なにあのくそでかい化け物⁉」
全身銃武装をした竜頭型ロボットモンスター。体の四方に長めの銃口が取り付けられている。
私達との体格差は、だいたい10メートルから15メートルぐらいの大きさはある。ロボットの影に覆い尽くされるぐらいこちら側は小さく相手は巨体だ。デカすぎじゃねこれ。
どう考えてみても、異世界じゃなくてSFに出てくるモンスターのようにしか思えない。
他作から迷い込んだ、最強ロボットみたいな見た目をしているがなんだコイツは。見た目は少しかっこいいけど、関心するまいと一心に快走。
体から、謎の機械音を出しながら鎮座しているが強いのかな。ちょっと触っただけで爆発しちゃったり……そりゃないか。
「爆破オチなんてさいてー」と高々にそのときは叫ぼう。街に被害が及んだら土下座しに行こう。
隣で豪快に走りってみせるシホさんは、私の方に首を傾けロボットの説明をしてくれる。あのあなたの肺活量以上すぎない?
「あれはバスガルです。初級モンスターの中でも、一番危険だとされているモンスターです」
いや明らかに初心者が戦うような敵じゃねーだろあのモンスター。……うんロボット? モンスター……いやどっちだろ。
プレミでもすれば即座にあの世行きだこれ、初見殺しや害悪モンスターと命名しても違和感ないくらいに貫禄がある。
「全身に装備された、謎の筒からは強大な砲弾を撃ってきます」
「筒? あぁあの銃口みたいなやつ? 被害甚大とか洒落にならなそうなくらいに危険そうなんですがそれは!」
恐らく、謎の筒とは銃のことなんだろう。
拳銃のような形状になっているのでそれを仮託したのか。
謎の筒って。 他にマシな名前はなかったのかよ。ブラスターなんとか……とか。
と、私のつまらないネーミング候補理論はひとまず置いといて。
【敵を倒すなら慎重に戦うべきだ】
「それでこいつの弱点なんか分かる?」
「すみませんわからないです。なににせよ私バスガルと戦ったことないんで」
バスガル。
このロボットモンスターの名前なんだろうけど、……名前短かっ! なにその動物にいそうな名前は。パスカルみたいな……あ、あれは圧力の単位だっけ。
てっきり拘りのある名前なのかと勝手に思っていたが。
険しそうな笑顔で顔から汗を流すシホさん。
解説している本人にとっても恐怖を覚えるほどのモンスターなの? なのにも関わらず大縄飛びするみたいに木にぶつかりそうになった瞬間タイミングよくジャンプ。即座に着地! ……もうサーカスにでも入ったらどうなんですかね。
大丈夫だよね? 初クエストでガメオベラになったりしませんよね⁉ そんなオチ私絶対嫌だから! すると待たんとばかりに、バスガルは走りながら銃口から火の弾を撃ってきた。
巨大なエネルギーを銃口に集め発射。速度は大したことないがその桁違いの大きさに私は絶句。避けようと、無理矢理シホさんの手を掴んで。
「やばいよやばいよ。……シホさん後ろの木を盾にして隠れよう!」
「え、まずくないですかあれ。隠れようが隠れなかろうが無駄な行為だと思いますけど」
そんなの分かっている。
大きさからして、辺り一面を焼け野原にできそうな広範囲の火球だ。
木の1本に留まらず、数百本は余裕で焼き尽くすことができる大きさにみえる。どこかの作品では1兆度の火球飛ばすやついたよねやけどじゃあ済まなそう。
逃げ回りながら時間稼ぎするのはいいが、相手は機械動力源どうなっているか知らないが……しらんがなそうなるくらいなら。
「しつこいな相手。異世界のモンスターは化け物か」
「どこか隠れそうな場所はありませんかね」
ならばと私は。
少しでも敵の攻撃を避けようと木に隠れようと考えたが、うまく避けられるか。急に軌道を変えて襲ってきたりは……ありえないか。
走っていたら丁度身を潜めるくらいの茂みを発見あそこに潜り込んで敵の目を欺くか。
「あそこに飛び込むよ‼ あいきゃんふらい!」
「ちょっとま、ま、まってくださいよぉ。わわわわわわッ!」
シホさんの意見も聞かず心を無にして飛び込んだ。
火球は軌道を外れ向こうに飛んでいき破裂。
ボォォォォォォォォォオ!
向こうにある木々に直撃すると狂焔が発生。木から木へと燃え移っていく。
こわ。自然災害など非にならないくらい強力だぞあの攻撃は。
1度でも当たったら、焼き鳥ならぬ焼きうさぎにされてしまいそうだ。私って美味になりそうな食材なのだろうか。
ってそんなカニバリズム要素よくない。この小説は幅広い年齢層の人が見ているからそんなこと表現しちゃだめだろ!
無意識に変な発言をしたが、一体私は何を言っているんだろう。小説ってなに……まあいいや。
「あの、ちょっともうちょっとスピードを……わっわ!」
「ごめん荒い使い方しちゃって。……だって怖いしあの弾」
「い、いや愛理さんが戦えばいいのでは!」
「た、確かにそうだけど、そうだけれど!」
シホさんは鯉のぼりのようにひらひらと舞っているが、大丈夫だろう見た目は強そうだしね。
幸いにも能力の補正があって、疲労感は感じないものの迫り来る火球が非常に怖い。
あれあっちっちじゃ済まないだろうな。
襲ってくる火球と追いかけっこしていると、数分足らずで私の走った周囲の木は焼き尽くされていた。
だがいつまでもこうして駆けっこをしている私ではない。
能力を使い、違う周りにある木に触る。
硬くなるイメージをして深く深く念じ始める。
「立ち止まって何しているんですか?」
「まあ見とけってただ無策に走り回っていたと思う? 実は秘策があったのさ」
本当は考えていないんですけどね。
ただ単に強がっているだけですはい。今思いついたことで少し頭を回せば簡単なことだった。
硬度極度に高くすればいいんじゃねと。
いいから今は喋らないでもらうと、非常に助かるんだけどな。集中急に木を溶かしたりでもしたらどうするの。
念じる私を気に掛けるシホさん。……あ、そういえば私の能力のこと言っていなかったな。
言うべきか…………って今はそんなこと考えている場合では。
中距離。
騒音と共に向かってくるその火球。
念じに念じを重ね強く念じ……早くしろ早くしろとその木に訴える。
寸前。
タイミングがいいことにようやく願いが通じたのか。
木が瞬く間に発光。火球に直撃した木は燃焼……はせず。ベクトルの反動のごとく勢いよく宙に跳ね返り、遠くへと飛んでいき攻撃をかき消した。あれ硬くしすぎたか?
「くそやばくないあの攻撃。もし私の能力なかったらマジで死んでいたかも」
「愛理さんの能力がどんなものかは存じ上げませんが、助かってなによりです。にしてもあの弾勢いよく空彼方まで飛んでいきましたね」
「いやまだ安心するのは早いと思うよ。だからバードウォッチングする山ガールみたいな格好しないで頼む」
浮かれている場合ではない。
バスカルと私達では、そこまで距離は開いておらず少し走れば立ち合えそうな距離感だった。5メートルちょいかな。
昨日同様に転がっていた石ころを投球し、試しに攻撃をしかける。
「沈め最強の水切りなき、炎切り!」
剛速球の弾丸。
山で水切りしたことないけど、直感で投げてみる。
速度が上がる度、石は身を包むように燃えていく。それは言い換えるなら小型の隕石。軌道をかえず直線上に飛んでいきバスガルへと直撃し。
直撃。
触れた瞬間。石は散乱し高音な爆発と共に突風を引き起こした。その威力は辺り一面の草木が激しく揺れるほどの風力。
その爆発を目の当たりにし私は心の中で「よっしゃ!」と確信を持った。
明らかに歯応えのあるいい爆発っぷりで、確実に仕留めたと勝手に舞い上がる私。
で。
手応えはあったかというと。
「嘘だろ」
ぬか喜びもいいところ。
敵は硬いせいか、攻撃はびくともしなかった。煙の中から再び姿を現したバスカルは機巧な音を鳴らしながら動くのをやめない。依然として的は私達目へと向けられ数メートルくらいまで距離が縮まる。
目の前に立った瞬間、巨大な尻尾でなぎ払う。攻撃の拍子にジャンプし回避。
「あぶねっ!」
別に焦りは断じてない。
ってシホさんがいつの間にかいなくなっている……一体どこに。
シホさんはというと。
反対方向の木々に身を潜め1人だけ安全地帯に退避していた。
え、いつの間に逃げたの。全然気づかなかった。
手を振りながら、大声で何か私に言ってくる。
お、弱点が分かったとか? ……ワクテカ。
だが、そんな期待は直ぐさま打ち破られる羽目になる。
「愛理さんそろそろお腹空きそうなので、おにぎりいただけませんか?」
ガタン!
呑気過ぎる期待して損した。
半目開きで私は失望し、やる気が半分低下する。
あの、帰っていいですかね。
ていうか私は補給要員か! 自分の食料ぐらい自分で確保しろよおおおおおおおお。
心の中で高々と叫喚の声を上げる。
あの空腹なんとかならないのだろうか。
仕方なしにポケットからおにぎりを取り出し、シホさん目がけて投げる。
「ほい」
「ありがとうございます!」
落ちてくるおにぎりをシホさんは手でキャッチするのではなく、口に咥えてキャッチした。
……いや犬かよ。
活力全開となった彼女は抜剣。バスガルの方へと向かって行く。
「切り替えはっや! ……すげ徐々に距離を詰めていってる」
歩調を合わせ、迫り来る火球をかわしながら徐々に距離を詰める。火球が彼女の眼前に襲ってきてもシホさんは一歩も引かなかった。……退くどころか愛用する剣で容易に払いのけ空彼方まで火球を飛ばす。
す、すげえ。
あげくに迎え撃ってきた火球を今度は敵の体に的確に打ち返す。その反射神経は尋常ではなく玄人並の手さばきであった。優勢に立っていたはずのバスガルの体は跳ね返された火球によって小破。張りぼてもだいぶ露出していき気づく頃には両腕が半壊していた。
(いや最初っからそうしろよ)
反撃に華奢な体を叩きつけようと尻尾を一振りするバスガル。著大で1度でも命中すれば致命傷に陥りそうな一撃を彼女は。
避けはせず。
攻撃を片手で持つ剣で受け止める。
それでおわらんぞとばかりに、秘められた底力で一気にバスガルを前へ前へと押し出し。
「はっ! 鬱陶しい尻尾を斬らせてもらいます」
後ろに回り込んで、尻尾をまっ2つに切断。切れた尻尾は地面にドスンと物音を立て落ちる。
敵の背後に立つシホさんは、バスガルの方を見て言う。
「腹ぺこ女でも強いんですよ、その大きな体が仇となりましたね」
正面へと回りそこから繰り出されたのは剣の猛攻。猛然と嵐のように押し寄せる斬撃の数々はバスガルの体に傷をつけていく。バスガル側もやられまいと面前に立つ彼女を迎え撃とうと応戦するが、目に止まらぬ速さの剣さばきで火球を払いのけられる。
その速さはまるで音速のごとく。
人間の域を超えているのではないかと素晴らしい戦いっぷりである。
シホさんにはもはや、あの動きは手に取るように分かるのだろうか。
この短時間で攻撃を見切りきるだなんて素人がなせるわざではない。
もはやあれは荒技の領域だ。すると急に動きを止めるシホさん。
一体どうしたのだろうか。
不安そうに駆け寄ろうとする私だったが、彼女はそれを拒否した。……真剣と目の前に向けられた勇ましい目つきは、どこか逞しい威圧を感じさせた。
「シホさん?」
「あまりこの技は使いたくなかったのですが、仕方ないですね」
持っている剣を天に振りかざして、なにやら攻撃の体制? をとる。
―体何を仕掛けるつもりなんだ。
「な……なんだ周りから光りが集まっていく?」
地面から空から、光輝とした燐光が浮力とともに宙に上がる。
振りかざした剣に光が集まると刃が次第に発光していき増長。
光を吸収したシホさんの剣からは巨大な光の刃が立った。その高さはバスガルの大きさを遙かに上回る高さをした光の柱。
巨大な光の剣を両手で掴み彼女は高々と言う。
「エクスターミネーション!」
剣が振り落とされた瞬間。
地を裂くほどの巨大斬撃が大地を巻き上げる。
土俵に亀裂ができるくらいの断切。
「な、なんてこった……」
あまりの高火力に度肝抜かれる。
光がバスガルを飲み込むと、反動を受けたかのように森の遠くまで身を引きずった。
遠くに上がる巨大な黒煙を見ながら、シホさんは放った場所から一歩も引かずにその場で立つ。
「やったのか?」
気配を察知して再び動き出すシホさん。
血相を変えず、黒煙の上がる方へ向かおうとするシホさんだったが。
ここでタイムアップ。シホさんはその場に倒れ、うつ伏せ状態になった。
え。マジかよ。
いいところまで戦っていたのに。
シホさんの放った巨大な斬撃の跡が、バスガルの方へ続くように道を作っている。
例えるなら、巨大な石の大玉が転がりこんだような大きな跡だった。
「ふう。使うべきじゃありませんでしたね。……愛理さんすみませんがまた食料をお願いします」
身動きのとれないシホさんにおにぎりをなげようとした。
だがその時――。
ガタンガタンと、ボロボロになりながらも足音を立ててこちらに向かう大きな物陰。
再起不能とみられたバスガルはこちらに向かうと、残された銃口から砲弾を仕掛ける。
このままではシホさんはバスガルに焼き尽くされてしまう。いくら能力値の高そうな彼女でもあの攻撃をくらいでもしたらひとたまりもないだろう。
思わず大声で。
「やめろおおおお!!」
私は倒れているシホさんの前に立ち、両手を前に出して火球を受け止める。
「庇うのってあんまり好きじゃないけど!」
「あ……愛理さん?」
あぁこれはもう死んだなと確信する。
足が引きずられるくらいの高火力。切歯してしまう引力は、いくら私でも太刀打ちできないくらいの弾だと、納得がいく攻撃だった。
しかしその時、不思議で予知せぬ事が起こる。
「…………え? 火が……火が私のパーカーに吸収されていく? これは一体」
手にはめているグローブはその火球をどんどん吸収していく。
ついには火球を全て吸収しきった。
体から火の燃えたぎる力を染み染みと感じる。
何事かと手元を見つめながら、考えを巡らせて頭の中で情報を整理しようとした。
「どうなってんの……」
ありのまま今起こったことを……。
いや話せる自信ないわ。根拠になる理由が見つからないし。
理解が追いついていない私。唐突のできごとに混乱しているが、そんな考える暇も与えず突如として開く画面。
今度はなんだろう。
新たに『ラビットパーカーチェンジ』という項目が現れた。
項目の上に『?』マークがあったので、そこを押す。
『ラビットパーカーグローブには、成分などを吸収する能力が備わっている。吸収した質量はグローブの中に宿る。また吸収したエネルギーを消費して新しいラビットパーカーを作り出す素材として利用することも可能』
先ほど発生したことに合点がいった。
……無意識のうちにまた能力が発現していたらしい。急展開すぎる現象に言葉を失う。
いやこれ強すぎじゃね。
じゃあ、このラビットパーカーチェンジの説明も見てみようかな。
『ラビットパーカーチェンジ:吸収した成分または手に入れた素材を消費して新しいラビットパーカーを作り出すことができる。使用した素材によってパーカーの能力や基礎能力、補正能力などが決まる』
なんか他作によく見かけたことのある要素な気が。
ほら、ヒーロー系の番組で出るヒーローが状況によって姿を変えるあれ。
……私も見ていたけど、まさかこのパーカーそんな隠し機能が搭載されているのか?
これは例のフォームチェンジ的なもの。というかこういうのあるんだったら最初っから教えろよったく。
『使用方法:ノーマルパーカーを選択して複製。複製したパーカーを選んで合成を押す。すると素材の項目が出るので、そちらを選択し合成すると新しいパーカーができあがる。できあがったパーカーを使用する場合、選択してラビットパーカーチェンジと唱えると指定のフォームに変身可能』
なぜ複製ノーマルパーカーを複製する必要があるかというと。
どうもこのノーマルパーカーが別のパーカーの素材となる素、いわゆる“素体”である。
複製元がなくなると、チェンジできなくなるらしいので予め複製することが説明されていた。
なるほど。素がなくなれば、新しくパーカーを作ろうとしてもノーマルパーカーがなければそれもできないということか。誤って使わないようになにかやっておかなければ……。
とロックボタンがあったのでそこを押した。『ロックしました』のボタンが表示される。
「ふむ、ロックは捨てられず合成には使えないのか」
案の定、誤作動防止ようの保険ボタンだった。
ソシャゲで昔やらかしたことあるんだよな、売りたくもないモンスターを誤って売ってしまったこと。
そんなアホなことをしでかした私にとっての神機能がこのパーカーに内蔵されていた。……これならもう辛い思いしなくて済むな。
【本当の勝負はここからだっつーの覚悟しやがれ】
さて仕切り直して。
取り敢えず試してみるか。異世界初となる、フォームチェンジってやつをさ。
「ラビットパーカーチェンジ!」
はっずいわこれ。
なんでいちいちこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのか。
まあ周りからすれば、私はうさ耳パーカーを着た変人みたいなもの。今更感あるが騙されたつもりで高々一喝。
でもなあ高々にこうやって言うのはちょっと勇気がいるぞ? シンプルに「変身!」と言った方がいいんじゃあないですかね?
…………現れたのは。
やはりうさぎパーカー。しかし色が違う。
「色違いとな」
全身赤っぽい色が特徴的なパーカーで、後ろにはストラップの付きの銃が付属していた。
「……これ私の得意とする銃ARじゃあねえか!」
え、武器とか付いてんのこの合成機能って。……一石二鳥じゃん。
元の世界で私は大の狙撃手だったが、なぜ銃なのだろう。
しかも得意なアサルトライフルだから好都合だ。
「敵が銃を装備していたから、それで具現化したとか?」
元の持ち主が銃を装備していたから、武器としてこの銃ができた。……そういうことなのかな。
結果的に強力な武器が手に入ったし、文句はないむしろ大満足。
銃には自信がある。だって元いた世界では史上最強のスナイパーだったんだから。
「名前は『アサルト・ラビットパーカー』か。なんか強そう。能力は? ……見てみよう」
能力:【固】武器であるラビットライフルは、高速、高火力の弾丸を出すことができ
確実に相手を仕留めることが可能。
【固】素早さ+攻撃力を超絶アップ。2つの能力は自由に調整できる
(念じることで好きな数値に変えることが可能)
「それじゃ使ってみよう」
着ているパーカーが赤く変化。肩には多少重りがあるARが携えてあった。しかもライフルスコープ付きなため、遠い距離まで見渡すことができる。……ライフルスコープというより一眼レフ機能が内蔵されたアサルトライフルと表現した方が正しいかもしれない。ズームイン・アウトが可能……多機能すぎんか。
でもどうやって使うんだろこれ。私リアルのサバゲとかやったことないよ? 全部FPSの知識しかないし。
だが説明書を見るより、感覚で覚える派な私は戦いの中で覚えようと意気込む。
「さてとひっさびさに仕留めてやろうかな!」
バスガルが飛ばされた進路を辿りながら、移動する。
お、ノーマルパーカーよりめっちゃ速い。
木から木へと飛び越えながら移動しているのだが、1回飛ぶだけで数十メートル先の木に一気に飛び移ることができる跳躍力。
素早さも、少し走ろうとするだけで遠くに見えた場所が一瞬で数秒足らずで大きく見えてしまうくらいにめっちゃくちゃ速い。
これなら世界陸上1位も夢では……ってそれは言いすぎかな。
斬撃の跡を辿り最奥へ。
そこには呆然と立ち尽くすバスガルが。まだ相手には視認されておらず、辺りを見渡しながらひたすら私が……これは来るのを待っているのだろうか。
木から透き見しているが……ふうさてどうしかけるか。
まずは試すかこの銃を。
肩に掛けられた銃を構える。
「ライフルスコープ付いているからここを覗いて……へへ」
小声をだしながらニヤリと微笑。久方ぶりの銃に触るものだから、自然と触れた瞬間安心感を覚えた。
……これだよこれ。銃の手触り良さはこれでなくっちゃ。
キーボードでひたすら日々毎日、学校に行かずFPSに没頭していた日を思い出す。
……明け暮れる日も銃でひたすら敵を倒す日々。もはや私にとって銃は手足同様の存在だ。
異世界でどれぐらい、私のテクニックが通用するか試してみようじゃないか。
スコープに目を当て、バスガルの方に視点を合わせる。スコープは拡大と縮小ができるすぐれものだ。
敵の頭部の方にスコープを合わせる。狙いが定まり照準が赤く点灯する。
「挨拶代わりの1発だ。失望させんなよ!」
引き金をそっと引いて発射。
放たれた高速の弾丸は、バスガルに直撃し。
広大な破裂音が。
ドゴーン!
こちらを認知したバスガルは私の方に火球を仕掛けてくるが。
「へっ」
空高く飛び上がり緊急回避。
バスガルの鼻先へと赴き目を合わせる。
「さて、プレゼントはどうだった? その様子じゃ無事にはとても思えないけど」
頭が半分むき出しとなっており、状態は原型を留めていなかった。
明らかにそれは大破。狂わしい音を鳴らして手についたツメで攻撃。だが先ほどの余裕を持った動きには到底見えず、むしろ私の目にはその動きが止まっているかのようにも見える。
……どうやら短時間の走りで私は、目が速さに慣れてしまったみたいだ。……シホさんの活躍もあってこんな鈍足な動きになっているんだろうけど、今の私には些か負ける気はしない。
引き金を押し続ければ連射可能。適当に引いてみて分かったのだが、弾の代わりに魔力が消費され消費された魔力が弾となり、発射されるそんな仕組みだった。……単純設計ではあるものの無知な私でもゲーム感覚で扱える品物であった。
円周を回るように動いて敵の目をかく乱し同時に引き金を引いたまま連射、連射、連射。
勘を取り戻してきた気がする。廃人ゲーマーとしての勘がね。
相手の目は追いついておらず私は優勢に立っていた。空中に飛び上がり銃をバスガルの方へと向ける。
1、2、3。
リズミカルよく、両腕と下半身向けて単射。
強い火力を念じて放つ。
当たった箇所はぐらぐらと揺れ、体を保っていた場所は崩れ始めた。
バランスを崩す重心。左右に体を揺らすその様子はまるでバネでできた玩具のよう。
腕の方はというと、その火力に耐えきれなかったせいか崩れ落ち両腕共々失っていた。
これならもう、最期のあがきやらなんやらできるわけがあるまい。
ニヤリ。
自ずと湧き上がる自信は、揺らぐことのない精神と勝算おおありな何か企む私の憫笑。
自分で言ってなんだけどさ、もうどっちが悪者か分からなくなってきた。
もし私のようなうさ耳パーカーをきた少女が、テレビ番組かなにかでニヤリ顔しながらこうして敵を仕留めようとすれば、敵味方わからず放送打ち切りとかなりそう。
あ、でもそれはそれで斬新。案外受けるかもよ。
空中で中距離まで間合いを詰め、再び銃を構える。
照準を合わせターゲットロックオン。
「シホさんを狙おうとした罪、それをキッチリ払ってもらおうか!」
射撃。
飛び跳ねるように舞い上がったバスガルの面前に立ち、連続パンチを打ち込む。
「おらおらおらおらぁ! もっと高く飛びやがれ!」
日の射す大空に浮かぶ、ボロボロとなったバスガル。
遠距離ながらも狙い澄ませ、渾身の一撃をその弾丸全てに詰め解き放つ。
「くたばりやがれ! うさぎ舐めんなよクソがあああああああああああっ!」
空一帯に広がる罵声。
地上に舞い散る敵の破片を一望しながら、私は自分の勝利を喜ぶのであった。
☾ ☾ ☾
【仲間なら助け合うのが暗黙の了解というわけで】
「ここは?」
シホさんがようやく目覚める。
「あのバスガルは?」
状況を飲み込めず問いかける彼女。
私に抱き起こされているシホさんは周りを一瞥。
……本当はこんなシチュエーションしたくない私の身にもなってよ。
恥ずかしい。
嫌々ながら目を逸らしながら私は答えて。
「あ、あいつなら私が倒したよ」
「そうですか。ありがとうございます。って顔赤いですけどどうしたんですか? 目を逸らしたりなんかして」
鋭すぎる。……じゃなくて恥ずかしいから口に出さないで。
話を途中で蹴り話題を変え。
「というかシホさん凄いね。あんな攻撃できるなんて」
アレに関してはほんとたまげた。
まさかあれほどの、伝家の宝刀を持っていたなんて……正直火力がぶっ飛び過ぎて驚きだ。
本当に私と同ランクなのか疑わしい。「実はSランクの強者冒険者だったんですよ」とかそんなオチがあったりして。なわけねえか。
「あははけど、倒れちゃいましたからかっこ悪かったですね」
にこにこしながら申し訳なさそうに言う。
いや、でも相当なものだよあれは。 強大な波のような斬撃。大きさに度肝抜かれたけど、見た目だけではなくその火力にも驚嘆した。
正直教えてもらいたいくらい。
習得できるか分からないけど教えてもらおうかな。
……いや彼女の専用技を奪ってはいけない。だからあえて教えてもらうのはやめにしよう。
だって勇者の技が誰でも使えたらそれこそバランス崩壊待ったなし。特権を奪うのは止すのがいいだろう。
「そんなことないよシホさん凄かった。もしあの技なかったら苦戦してたかも。…………お腹空いたでしょ?これ食べていいよ」
おにぎりを手渡す。それを受け取ると美味しそうに食べ出した。
やっぱ食欲半端ないわこの人。
それを1個食べ終わると言ってくる。
「ありがとうございます。それじゃ帰りますか……すっかりお互いボロボロですからね」
「うん、それもそうだね。でもへとへとだ動きたくね」
「そんな弱音吐いていると、また強力な魔物に襲われちゃいますよ」
「確かにそれはそれで嫌だな……よしシホさんに肖って帰るとするかな」
シホさんに手を差し伸ばすと、彼女はその手を掴んで立ち上がり、引き上げてすぐ私は先に歩こうとした。
とその瞬間シホさんが笑顔で。
すっと私は視線を感じ彼女の方を振り返り。
ん? なんだなんだ。また腹減ったとか言うんじゃないよね。
「愛理さん。そのパーカー似合ってますよ」
「恥ずかしいからやめて。こ、これはだから飾りだけじゃあないって」
☾ ☾ ☾
ようやく修羅場を潜り抜け、無事街へ戻ることができた。
ギルドでクエスト達成の報告し、報酬を受け取った。
ギルドのお姉さんにボロボロな私を見て私を哀れむような目つきをしてきた。
(絶対これかわいそうだとか思っているでしょ、バレバレだって目が私のパーカーに視点いってるし)
本心を包み隠しながらも、私達に応対し念願であった異世界初の報酬金をもらう。
初めて手に入れた報酬金を片手に、シホさんと共に空いている席へと座り時間も良い具合になっていたので。
「お腹空いていません? 久々の報酬金なので美味しいご飯を食べたいんですけど」
「おふのこ、遠慮せず好きな物食べようぜ」
その晩。
報酬金を使い、共に美味しい料理を食べながら打ち上げ会を行うのだった。
共に食べる料理がこんなにも美味しいだなんて、ここでそのように申し添えておく。
ようやく投稿できました。
今回出てきたものは、所謂フォームチェンジ的な感じです。
これからちょこちょこ登場しては愛理達の危機的な状況を救ってくれるお助け衣装です。
ですが、うさぎのパーカーということには変わりないのでそこに関してはどのパーカーにも言える共通点です。
それでは次回も見て下さるとまた宜しければ見て下さると嬉しいです。それではまた次回に。