55話 うさぎさんの災難な日? その2
【喧嘩するなら余所でやれってオカンに習わなかったかい?】
さて当てもなく現在、街を散策中の私なんだが。
店の並ぶいつも通る、街の大通りにでた。
屋根の付いた店や、行き交う冒険者達が喧噪をまき散らし賑やかな空間を作り出す。
うわ、早速私の内なる能力である陰キャ属性が発動。
だめだ。
ああいう和やかな輪の中絶対入られないって。
すると、酒を飲む酔っ払いの盗賊らしき冒険者が私に寄ってくる。
「おいうさぎの」
「愛理だよ」
逆立てた髪が特徴的な男性。
なんだコイツ。
不良漫画がどこかによく出てきそうな身出しじゃないか。
拳をコリコリならしながら『おうやろうじゃねえか! ゴラァ!』とか喧嘩売られそう。
みんな、因みに言っておくけど私は不登校生であって、不良の部類には属さない人間だと理解してもらいたい。
チャラいヤツなんかとつるんだことないし、引きこもり中はずっとゲームしていた人間だから勘違いするなよまじで。
「……愛理よかったら酒飲まねえか? うめえぞ!」
コイツは私を何歳くらいだと思っているのだろうか。
「あのさ、私まだ子供なんだけど」
そういえばこの世界に成人の有無ってあるのかな。
まぁ飲む気はさらさらないけどさ。
「そんなの気にしなくっていいだろ! 年齢制限なんてないんだからさ。まぁバカになると言われてはいるが」
言及からして、年齢制限はどうやら存在しない模様。
だからって無理矢理さそうとか、どうかなとは思うけど。
「うるせえよ! だからって私は飲まねえから! ……でないとこの拳でおめえの顔面ぶんなぐっぞ!」
力の入れた、拳を突き出す。
半ギレ状態の私は少々気が立ちそうにあった。
まじでウザい。
はよあっち行けよ。
「口のわりいうさぎ野郎だな! ちっとは大人の言う事聞きやがれ!」
泥酔したその盗賊のおっさんは、手に持つ酒瓶を武器代わりにして私の方に振り回す。
あぶな。反射的に1歩下がり回避。
「なにするんだよてめえ。危うく酒が飛び散るところだったじゃねえか」
「へ、だからどうしたんだってんだ! 大人の口を聞かねえお前が悪いだろ」
腹立ってきた。
もう既に周りの人は、私達2人を取り囲むように、円状の輪を作っているけどなんで見せ場なんかになっているのさ。
いいや。
どうせコイツ酔い潰れしているわけだし。ここは1つ私が1発お見舞いしてやろう。
軽く力を込めて拳をそのおっさんの顔面目がけてぶっ放す。
「うさぎ舐めんなよ!」
「ぐがぁ!?」
ストレートが見事に命中し、おっさんはその地面に顔を埋められるように逆立ちする。
……漫画で見たことあるようなワンシーン。
まさか自分の目でみることになるとは。人生ってなにがあるか分からないよね。
「…………あ、気を失ってる」
地面に落ちていた木の枝で、突っついてみるが反応なし。
死んではいない。
ただ気絶しているだけ。
いやただの雑魚かよ。
達者だったのは口先だけだったみたい。
「あぁごめん、誰かコイツ頼める? そこかどこかで休ませといてほしいんだけど」
周りの人に声をかける。
すると、彼の仲間らしき盗賊の連中が現れる。
「あ、アニキ! また酒ばっかり飲んで。 ……うさぎさんあなたのことは存じているっス!」
「そうなんだ。……愛理でいいよ」
なんかしらない内に私人気になっていない?
スイッターのフォロワーとか増えてそうだな。
どうやらこの世界でも、私の知名度は知らず知らずの内に上がってきていたらしい。
この青年。
先ほどの生意気なおっさんと違って、ちょいと雰囲気はとても良い。
現代風に置き換えれば。
良いキャラしている学校の後輩柄といった感じで。
「その愛理さん。ウチのアニキがすんません!! この通りお金はやるんで命だけはお助けを」
頭を深く下げて謝礼し、小さな布袋たくさん詰められたお金を差し出してくる。
いや。
これじゃ私が悪だと思われるじゃねえか。
これは罠だ。
泥を塗る行為を私はしない方が正しいだろう。
「いや、いいって。なんか私が悪いように思われそうだし」
「あ、そっすか? でもなんか詫びさせてくださいよ。 でないと愛理さんに申し訳ないっす」
本当、学校の後輩と話している気分だなあ。
でどうしたものか。
コイツ、私をこのまま帰してくれなさそうだぞ。別にそんな詫びるまででもないのだが。
ここはその言葉に甘えよう。
「うーん何にしよう」
これと言って思いつくものは……。
あ、そうだ。
ふと思いついたことが1つ。
「なんか使える特技か魔法教えてくれないかな?」
丁度良い機会なので、人から何か教わることにした。
☾ ☾ ☾
【先輩後輩の間柄なんじゃね?】
人気のない、広々とした通り。
街にこんな誰1人もいなさそうな場所があったとは驚き。
盗賊のその青年は場所を移して、ここへとやってきた。
どうも他の人の迷惑になるらしいから、ここにした模様。
私はその青年の横に立ち、前にある何の変哲もない石壁を凝視。
「それでなにを教えればいいっすか? なんでもいいっすよ」
頭を掻きながらポリポリと。照れくさがるなんだこの子分臭は。
ん? 今何でもって。
でも逆にそう言う事言われると、中々言おうにも思い浮かばないものである。
さあ何にするっかな。
「窃盗スキルでも教えましょうか? がっぽがっぽ稼げるっすよ」
「いやアホか! 私は楽して卑怯な手使ってまで冒険なんてしたくないわ」
まあ盗賊だから窃盗のスキルは持っていると思っていたけど、だからって私はそんなズルなんてする気は一切ないから。
「そっすか」
悪用厳禁なものはなしで。
できれば汎用性の高い、罪悪感なしのスキルか何かが欲しいところだ。
「ならこれどっすか……」
すると青年は、私をあちらこちら見回し始めた。
「なに? ジロジロ見て」
「愛理さん。今ポケットに何か食べ物入れているっすよね?」
「? なんで分かったの」
おっさんと戦う前に、小腹を満たすため小さいチーズを買いポッケに入れたのだが。
なんで知っているんだろう。
「俺の能力っす。『透視』っていう透かしてどんなものも見えない部分を透けて見通すことができる技っすよ」
なにそれ。
めっちゃ汎用性高いじゃん。
これ使えば女の子の全裸を……ごほんごほん失敬。
つまり透かして見通すことができるものなわけだが、今後のためにもこれは教えてもらって損はないだろう……よし。
「気に入ったそれ教えてよ」
「いいっすよまずは……」
習得にはそんなに時間はかからなかった。
やり方は魔力を使って対象物を凝視するだけ。
使うのに慣れが必要なわけだが、私の場合5分程度で使うことができた。
5分ってカップラーメンできるじゃん。
なんかそんな事考えていたら腹減ってきたな。
久々にコンビニのビッグサイズのラーメン食いてえな。
異世界来るなら、1個ぐらい持って来るべきだったと今更ながら後悔。
「じゃあ試しに俺の両手……コイン投げるんでどちらにコインがあるか当てるっす!」
するとポケットからコインを取り出し……投げる。
おぉ。
どっちにあるか当てろってやつでしょこれ。
昔よくやったけど、よし早速試用運転といこうか。
青年はとまらぬ手の早さで、コインをどちらかの手に隠し。
私に握った拳を2つ差し出す。
「さぁどっちにコインがあるか当てるっす!」
「じゃあ早速……"透視"っと」
眼力を込め、魔力を入れる。
すると彼の突き出す腕が、次第に透けていき中身が見えてきた。
「左手にあるでしょ」
「…………正解っすさすがっすね」
彼が、左手を開くと、そこには投げたコインが握られていた。
右手には……何もない。
「これが透視か」
でもこれ現実世界でやったら完全に犯罪じゃね。
テストの用紙見られるし、宝くじの一等何処に入っているかモロバレじゃん。
故に。
異世界で覚えて良かったよ。
☾ ☾ ☾
【隠れながら応援してくれる人がいるっていいよね】
元いた場所へと戻り、一言彼は挨拶をし。
「今日は本当にすみせんでしたっす! またなにかあれば気軽に声かけて欲しいっす」
彼の隣には気絶したあの酔ったおっさんの姿が朦朧としながら私に何か訴えようとしている。だが霞んだような声でうまく聞き取れない。出直してこい無理すんな。
そいつを見つめると、気がついたのか私に。
「あぁ心配いらないっすよ。アニキいつもこんな感じなんで……」
別れ際、1つ尋ねる。
「ところでさ、さっきの特技……下手したら裸とか見られるんじゃ……」
「あぁ大丈夫っすよ。……使用者の変態度が高くなければ見られない仕様になっているんで」
変態度ってなんだよ。
それあれか。隠しステータスみたいな感じのやつかね。
「では愛理さんこれからも影ながら応援してるっすでは失礼するっすよ」
と駆け出して、なにか言いそびれたのか再び私の方を振り返り。
「あぁ俺の名前はテツって言うっす。こっちのアニキはバンジョって名前っすよほんじゃ!」
と言いながら去って行く。
テツとか、なんか犬みたいな名前だな。
喧嘩をふっかけられた私は、新たに1つ透視という技を覚え街を再び散策するのであった。
さてさて、時間までになにして遊ぼっかな。
こんばんは。
ちょっと先輩後輩柄ポジションのキャラクターの登場です。
愛理はノープランで、街をぶらぶらしていますが彼女なりに休日を楽しんでいますよ。
ですが、喧嘩を売られると半ギレしてすぐ暴力解決に至るので注意が必要です。
後書きは翌日書くようにしていますが、暑さにやられているせいで本文書くだけでも精一杯なんですよねこれが。
そんなのしらんがな、さっさと書けと言わんばかりな案件ですが、我ながらこれで手一杯です。
もう少し涼しくなれば、体力が持つような感じですが、それにしても暑さが激しい。
皆様も熱中症には気をつけてくださいねではでは。




