54話 うさぎさんの災難な日? その1
【ネタばらしは切りのいいところでやるべきだ】
翌日。
昨日はシホさんを部屋に運んだせいで、夜寝るのが遅くなった。
少し体を休めようと、ベッドに転がる時にはもう深夜回っていたし。
「愛理さん? どちらへ?」
「あぁシホさん」
ちょいと野暮用(当てはない)で外に出ようとすると、丁度すれ違ったシホさんに声をかけられた。早朝なせいかほんわかした眠そうなご様子。
「昨日の疲れちょっと取れてなくてさ、これから出歩くところ」
「なるほど、気分転換も良いことですしね。どうぞ行ってきてください」
意外な答えが返ってきてちょいとびっくり。
てっきり『そんなこと言わず、今日もクエストやりますよ』と言ってくるのかと思った。
やはりシホさんって優しい一面があるよね。
「昼飯には帰ってくるから、みんなにはよろしく言っといて」
因みに、他のメンツはまだ寝ています。
昨日相当疲れたかしらないけど、部屋から一向に出てこない。
起こしてあげようと、部屋に行くと鍵がかかっていたし……たぶん寝ている解釈で正しいだろう。
「了解です。先ほどお二人の部屋に行きましたが、鍵がかかっていてまだ寝ていそうな様子でした。……起きたら話しておきますね」
どうやら彼女もそれは把握済みのようだ。ていうかシホさんいつも何時に起きてんのさ。私達の中で一番彼女が早起きしていたりする。……まさかひっそりと剣の素振りをしていたりなんて。
いやいくらなんでもそれは考えすぎか。
「シホさん、お腹空いたら上のテーブルにおにぎり3つほど置いているから食べてね。……それじゃ行ってきます」
時間は丁度9時くらい。
私は家を飛び出して、街をうろつくのだった。
☾ ☾ ☾
これといって行く当てはなく、無意識に足を進めているといつの間にかギルドに到着していた。
扉を開けると、受付のお姉さん(最初に会った人)が目に付いたので駆け寄る。
いや、クエストじゃない。
ちょっと話相手になってくれないかなと近づいただけ。
「あぁ、愛理さんおはようございます。今日はお1人なんですね」
「う、うん。昨日めっちゃ疲れてさ、みんなまだ家で寝込んでいるよ」
忠告しておくが、1人は除く。
「そ、そうなんですね。……それで何か私にご用事で? クエストなら承りますよ」
快くにこにこしながら答えるお姉さん。
「いや、流石に疲れが溜まっていてさ今日はやる気にならないんだよね、だからちょっと今日はちょいと話相手になってもらいたくてここにきたんだけど」
正確にはさっきまでノープランでした。
ただのその場しのぎの愛理さんなりの言い訳ですはい。
「といいますと?」
「教えてもらいたいことがいくつかあって……いいかな?」
最初会った時は、教えてもらいたいことなんて1つもなかったけど。
この世界で、冒険をしている内にふと疑問に思ったことがいくつかあった。
いつか聞きに行こうと考えてはいたんだけど、あまり時間が作れず今に至り。
ついでなので、この時間を使って聞くことにした。
「あぁいいですよ。どんな要件ですか」
「えぇとね」
やっべ。
1人で喋るのってこんなに緊張するものだっけ。
周りの視線がとても気になって、言葉が中々でない。
ざわざわ。
ざわざわ。
う、うるせえ。
……まあいいや。
はっきりと答えてしまおう。
「あのさ、最大レベルって一体いくつなの?」
「あぁレベルですか」
ゲームでは定番中の定番であるレベル。
どのゲームにもレベルの概念は存在すると思うけど、一体いくつが限度なのだろうか。
私が知っているゲームだと、99が最大のイメージが強いけど果たして。
「99が限度? 100それとも……1000とか?」
当てずっぽうに言ってみる。
困った様子で眉根を寄せるお姉さん。
「え……えーと」
え。
なんか私変な事言った? なにそのふざけているんですか……みたいな顔は。
うさぎさんバカにされているような感じ。
と次のお姉さんが出した言葉で私は耳を疑った。
「えぇと最大レベルはですね……」
それは想像もつかない、とんでもない数値だった。
「レベル9999不可説不可説転までですね」
「は?」
思わず台をトンっと手の平で叩いてしまった。
風穴が空いてお姉さんがびっくりする。
「ひぃいい!?」
「あ、ごめん直すわ」
能力を使って台を元通りにする。
気を取り直してお姉さんに再び聞く。
「私の聞き間違えかな? もう1度お願い」
「はい! レベル9999不可説不可説転です!」
あのさ。
そんなエグい数値誰がどう定めたんだよ。
なぜに無限大数!?? あたおかだろこの世界。
一流のプログラマーでもそんな数字のあるゲームとか絶対作れないでしょ。
というか聞いたことないよ。無限大数以上レベル上げできるゲームとか。
え。
つまり私のレベルってまだ石ころみたいな感じ?
もう草じゃなくて山。
なんでもありだろこの世界。
冒険者カードを見る。
……レベル53 ランクC
あ、まだCだったんだ。
ならさっさと上げないとね。
……。
ってそうじゃなーーーーいッ!!
「……お姉さん私のレベルってまだ低い方なの?」
お姉さんと、冒険者カードを交互に見る。
「あ、あの愛理さん…………あははそうですね。まあ53は低い方ですよ。……ですが99までは問題なしにあげられますよ」
「え? 99……まで?」
ちょいと引っかかる。
もう嫌な感じがプンプンする。
まさかと思うけどさ、なんか追加アイテムが必要とか言ってくるんじゃないでしょうね!?
私ゲームは無課金派だよ!? 前いた世界でもずっと課金せず頑張ってきたし。
「はい99以降、正確には100以降ですが桁が変わる度に『ムゲンダイセキ』というアイテムが1つ必要です」
「なにそれ?」
「はい、高価な鉱石で王都や、高級店にしか売られていない貴重品です。……たまに大会の景品として出ることもありますけど」
「「ガチの課金アイテムじゃねえええええかああああああああ!!」」
思わず発狂。
……まさか異世界に来てまで、課金の概念が存在する要素に出くわすとは。
もう設定が狂いすぎて、私の気がおかしくなりそうだぜ。
「まあまあ愛理さん落ち着いて下さい」
手を前に押し出して、落ち着くよう言ってくるお姉さん。
後ろの方を見ると周りから視線が。
「あのうさぎしらんかったのか? 腑抜けすぎじゃね?」
「力は恐ろしいほどだが、知能は大したことなかったらしいな」
はいはい、にわかで悪うござんした。
だってバグを通り越して大バグだろこれ。……はぁここに頭の良い妹がいたらな。
そのムゲンダイセキが様は限界突破アイテムなんでしょ?
……一体いくつするんだろ。
「因みにそのムゲンダイセキ、買おうとしたらいくつするの?」
にこやかな笑顔でお姉さんは答えた。
「はい! 大金貨が1500不可説不可説転500不可説不可説枚要りますよ。場所によって値段はことなりますけど」
もうお腹いっぱいです。
かくしてその早口言葉でも言っているかのような、高級品のことはそこで切り上げ。
この世界の最大レベル及び数値が、果てしないくらいに多いということを理解した私は。
他の質問を続けた。頭が痛くなりそう。
☾ ☾ ☾
【フラグが立つ→イベントが立つ→フラグが立つ→以降無限ループ ちゃんと漏らしはないようにゲームのNPCには話しかけてから次の街へ行こう】
一通り話を終え。
「ありがとう。色々冒険に役に立つ知識になったよ」
まあ頭が痛くなりそうな内容もあったけど。
大体気になる点を理解した。10割中何割を分かったのかと言われれば3~5割ほどかな。
長い説明は省くけど、一言感想を述べれば数値のインフレが非常にやばい。ここはみなさんのご想像にお任せする。
「またいらして下さいね、愛理さん」
にこやかに送り出すお姉さん。
「う、うんそれじゃあね」
後ろを向いて出口に行く私。
すると途中。
冒険者に声を掛けられる。
「よううさぎの嬢ちゃん!」
布でできたジャケットを着た、中年ぐらいのおっさんが私に声をかけてくる。
なんというか終末世界にでも出てきそうな格好。
大丈夫? 100回指で突かれたら死んだりしないよねこの人。
「はるばる遠い田舎から来たのかい? ……ならこれ持っていきなこれは俺が旅に出る際に親父からもらった物」
親父さん何者だよ。
というかそれいつの話なの?
「……だが全然レベル上がらなくてよ今までに使い道がなかったんだが」
ポンっと私の手の平に何かが。
「え。ちょま!」
「なあに遠慮しなくていい。なにせ世界は広いからな……じゃあまた会おうなうさぎの嬢ちゃん」
手渡して去っていく。
「……まじかよ」
私に手渡してきたのは。
神々しく翡翠色に輝く神秘的な球体。
目映い光を放っているその石は、日中とは思えない輝きを出していた。
もう調べなくても分かることかもしれないけど。
周りがざわめきだす。
「まじで?」
「ほしい。もらおっかなあのうさちゃんに」
「ふふこれを交渉に出せば我が真実の暗黒世界への道が開かれよう!」
外野がうるさい。
するとAIさんが解析してくれる。
【解析中…………】
【解析中…………】
そして完了する。
この石(宝石か鉱石かもしれない)の正体は一体。
【ムゲンダイセキ 解説:神々しい光を放つ石。レベルの限界突破に使うアイテム。貴重なアイテムな為中々手に入らず正規ルートで手に入れようとすると非常に骨が折れる。値が尋常じゃないため購入はあまりおすすめしない】
……はい。
ということで通称課金アイテムである、ムゲンダイセキを入手しました。
あっさり入手しちゃったよ嘘やろ。
私には勿体ないような品物だと思うけど。とりあえずは、あのおっさんに感謝しないとね。……今度会ったら礼を1つ言っておこう。
人目につくとやばそうな品物だと理解した私は、そっとバッグの中へと収納しその場を立ち去った。
早めの投稿ですがこんばんは。
ちょいとこの世界の上限となる数値が飛び抜けていますが、飽くまでお飾りのように考えてもらった方がいいかもです。
愛理レベル高くなってきたじゃん! えこれで低いのかよみたいなくだりですね。
実のところこの世界日々インフレが加速していると思ってくれた方がいいかもしれないです。
またとんでもない物が出てくる可能性があるのでみなさんご用心を。
次と次まで街の探索をします。いろんな街の人に出会う愛理ですが、一体どんな人に彼女は出会うのか。
それではまた明日お願いしますではでは。




