52話 うさぎ達のとある山登り調査 その2
【事前準備は計画的にやっておこう】
クエストを受注してから数時間後。
ここグランドマウンテンは高い岩山で覆われており、山の上の方を見ると木々1つもない岩場となっていた。
幸い道中には空洞はないので、ひたすら視野の開けた道を進めるのは楽かもしれないが。
ごてごてとして、めっちゃ道進みづらそうに見えるが大丈夫なのかこれ。
「いやあ助かったよスーちゃん。まさか場所知っているなんてさ」
「……地図で知っているくらいでしたが何事もなく行けて良かったです」
移動手段として。
スーちゃんの移動魔法を使った。
どうやらその場所の位置さえ分かっていれば、1度行ったことなくても移動できるらしいが。
「でもビックリしたわよ、気がついたら宙を泳いでいるもの。……危うく落っこちて死ぬところだったわ」
お前はHP1残るから気にならないだろうが。
……自分で行ったことのない場所に移動する場合、スーちゃんいわく場所は完全にランダムになるらしい。
……この世界乱数調整ってできるかな?
できれば一気に頂上へ。いや待て、楽しさなくなるからそれはやめよう。マイペースに攻略するそれが一番でしょ。私は改造厨とは違うから、そんなことは絶対したくない。
……しかし運が悪いと空高い座標値に移動してしまい、そのまま落ちて即死してしまう少し穴がある危険な魔法だそうな。まさかのランダム性を持った移動魔法とか、そんな世の中あまくないってことですかね。
まあそれを早く言えよと、移動中に言ったのだが。
時既に遅し。
気がついた頃には、移動が完了し私達は宙に浮いていた。
案の定落下してしまったが、スーちゃんの魔法(衝撃抑制)で危機を脱した。
「まさか衝撃を吸収する魔法があるなんて……。私高い所結構苦手なんで移動した直後ビックリしましたが」
まさかの高所恐怖症!?
意外とビビりなシホさんをよそに、私はみんなの前に立ってクエスト内容を確認。
「じゃあ確認するよ。問題事を起こしているモンスターがいるらしいからソイツを倒しに行くよ」
聞けばそいつが今回の一件。
つまり火山を起こしている原因を作っているみたいだが、どんな敵なのかは情報があまり行き届いていない。
どんなモンスターなのかは分からないが、火山付近で紅蓮の身を包む竜を見たという僅かな情報源が。
本当かどうかはこの目で実際に確かめるとして。
「竜との事らしいですが、それが今回のクエストで討伐するモンスターですか?」
「……火山からそのような被害が起こっているということは、そこにいるのでは? ……まずは火山付近を目指しましょう」
「熱くて焦げないかしら」
「お前なら大丈夫だろ、早く行こうか」
怖じけるミヤリーをせっせと向かわせるがごとく、彼女の手を引っ張り前へと進み後に続くようにもう2人も私に付いてくるのだった。
☾ ☾ ☾
空洞を抜け、岩の散りばめられた岩道へ。
地面は固く、道は隔たっていて私達の行く手を妨げる。
進みづらい。
率直な意見を述べるとそうなる。
一応登山していることになっているのかな? 所々邪魔な大岩が立ち塞がり視野を狭めてくる。
「大きな岩ですね。叩き切っちゃいましょうか?」
と急に剣を抜いて即座に振り落とそうとするシホさん。
おいやめろお願いだから、こんな所で無駄な体力使わないで。
「し、シホさんストップ!」
「はひ?」
振り下ろすのをやめ、こちらを振り向いて瞠目。
「こんなところで体力使われたら困るから、シホさんは下がっていて」
「体力を温存しておけと……そういうわけですか?」
物分かりがとてもいいのは、心が通じ合っている証拠なのかな。こんなところで大量に体力を消耗されたくないのが本音。ほらみんなだっていざという時の切り札はちゃんと最後まで取っておきたいでしょ? この状況はあれと同義語。シホさんはいざという時の切り札だからここで無駄な体力消耗はみんなが許しても私が断固許さないから。
「ではどうしろと」
「私がやるよここは」
シホさんに後ろへ下がるよう指示。
そして拳を前に突き出して、強力な力を念じる。
合間を入れず、岩に向かって強打撃を解き放つ。
「おらぁ!」
巨大な岩はみるみる内に、表面から亀裂が四方に広がるように浮かび上がった。
衝撃に耐えられなかった岩はそのまま割れ弾け飛ぶ。
続く様に後ろに控える岩は、次々とドミノの様にことごとくと破壊されていき。
数分足らずで全て砕け散った。
私の目の前に残ったのは、次の道へと続く散乱する岩の破片が転がる道だった。
「すごいわね相変わらず。岩が一瞬で消し飛びましたよ」
「……あのたくさんの岩を一瞬でさすが愛理さんです」
私褒められて伸びるタイプじゃないんだけど。
いやツンデレとかそういう属性じゃないから。
単純に恥ずかしいだけ。
私の知人にツンデレ質な人がいるけど、今それは置いておくことにして。
更に先へと進んだ。
☾ ☾ ☾
【どんな敵も弱点はあるからちゃんとよく観察するべき】
【岩壁兵 説明:二足歩行の岩体が特徴なモンスター。倒したからといって浮かれていると破片を集め自己再生を始めるので早めに倒しておこう】
3匹の私達とそんなに背の変わらない、人間サイズのモンスターが現れた。
積み石が重なったような見た目をしているが、どれほどの強さを持っているのか。
飛びかかって1匹を一撃ぶん殴る。
「邪魔クソなんだよこの野郎」
手応えのある感触。体の破片が一辺に散らばる。するとガタガタその破片をかき集めて体を再生してみせる。
ほう。
自己再生ってやつかこれが。
ゲームでは、チート技に分類される能力。
前に戦ったゴーレムもそうだったけど、この再生能力私の能力がない人達どうやってコイツを倒しているのだろうか。
……魔法で焼き尽くすとか? うーんわからん。
慮っている間にそいつは再生を完了させ、私の方に反撃。
「……愛理さん!」
危険を察知したスーちゃんが前に立って、杖を前に突き出しまた魔法を唱える。
杖先に出現したのはなにやら水の塊。中ぐらいまで大きくさせ、その魔法を解き放つ。
巨大な水鉄砲でも見ているかのような大きさをする、その水魔法は岩壁兵を遠くに飛ばす。
敵の破片は。
遠くに散らばった岩壁兵の破片とみられる物は……これ1つ見当たらず。
消滅していた。もしや。
消滅させるほどの威力ならば、ああやって倒すことができるのか。
「……水魔法が弱点ですからね。このモンスター再生が厄介ですから強力な水魔法を使って倒すのが基本なんですよ」
「? 再生するからかな。すると再生が追いつかず倒すことができるとか?」
「……愛理さん感がいいですね。その通りですよ、彼らは再生ができるとはいえそれには弱いということです」
「こういう敵初めて戦いますけどっ! はぁ!!」
一斬りして力の押し合いから脱するシホさん。
押され気味になっていたが、彼女は余裕そうな表情だった。
だが岩壁兵は、再生し再び彼女の前に立ち塞がり相見える。
放射線状に目で追えないほどの速さの斬撃が炸裂。
微塵切りするように、敵の破片を細かく斬って再生できないように試みる。
え、石ってそんなに脆かったっけ。
包丁みたいにあっさり斬れているけどあれなになんか気になる。
「……おぉやりますねシホさん。粗削りなやり方ですがあれでも問題ないですね」
あれでも倒せるのか。
オチとして。完全に消滅させないと無理だと考えていたが、そこまで敵の能力はぶっ壊れてはいないらしい。
残すミヤリーはというと。
「ぜぇ……ぜぇ。……倒せない」
闇雲に斬り続けて、無駄に体力を消費。
息の乱れが目立ち、非常に辛そうに伺える。
「大丈夫ミヤリー? 痩せ我慢もほどほどにしろよ」
半目で遠くで戦う彼女に声をかける。
もし、彼女が無理なら私が殴りに行けば一発KO。
あと何分後に、そのセリフが来るか分からないがそれまで見物といこう。
だが、既にバテていたのか彼女は。
「もう無理……愛理後はお願い」
その場に倒れ、うつ伏せになった。
はっや。
こうなるなら早く言うべきだったか。
「倒れちゃいましたねミヤリーさん」
「……でも珍しく棺桶出てませんよ」
確かに。
倒れているのにも関わらず、棺桶という彼女専用のオブジェクトが出ておらず。
……あれかな。
疲れは死亡の対象外?
ということは過労死という概念が、この世界には存在しないか。
……朗報ですよ全国のサラリーマンさん。
この世界に移り住めば、疲れに苦しまされることもないらしいから。
サラリーマンを救済する神システム、神がかってんじゃね。(言い過ぎかもだけど)
って関心している場合じゃないだろ私。
まずはバテているミヤリーを救わないと。
突風の如く走り、ミヤリー目がけ向かう岩壁兵の前に立ち。
「ガメオベラの刑に処する! どらぁ!」
「……ガメオベラってなんですかね? 新種のカメモンスターですか?」
「きっと強い魔法か何か唱えているんですよきっと」
向こうに立つ2人がなにやら会話を。
いや特に何も意味ないから、おまじないでもなんでもないから!
と思いつつ、念じながら敵を殴り粉砕。
ドカーン!
破片が辺りに散らばる。
念じて殴っているので、再生能力は無効化されているから心配いらない。
「……あ、愛理さん大丈夫なんですか? 消滅しきっていませんが」
心配してきょとんとした顔をするスーちゃん。
まあ知らないからこれは当然の反応だろう。
「あぁ大丈夫大丈夫。もうそいつ再生しないからさ」
「? ………………本当だ。……全く動きませんね」
鏡のような物を魔法で作り出し、散りばめられた破片を確認するスーちゃん。
無反応を確認できた彼女は、納得のいった様子をみせ驚愕していた。
☾ ☾ ☾
山道を進む。
みんなでワヤワヤと話しながら、ちょっとしたピクニック気分。
先はまだ険しく、頂上まで距離がある。
標高何メートルあるかは知らないが、まあ大事にでもならない限りは大丈夫でしょっと軽視する私。
死亡フラグ断じてないからね。
急にまたUFOが現れたりそんなことないって。
……でもだんだん傾斜した道に変わってきているような。
「なんか、道が急な道になってきていません?」
「そういえばそうね。……まあ山だしね」
「……頂上がまだ遠くに見えますね。油断せず慎重に進みましょう」
私と同じ気持ちを言い出す仲間達。
やっぱ急に…………って。
先を見ようとすると。
そこは急で長い道のりが広がっていた。
1枚のトリックアートでも見ているかのような傾斜面。
「はあめんどくくせ」
小声で弱音を吐きながらも、先へと進む私達一行なのだった。
山登り非常にだるい。
今月最後の更新となりますこんばんは。
明日で7月ですか早いですね。
暑さのせいで疲労感に襲われ気味ですが、遅れながらも頑張って書いていきます。
外へ出るともうセミの鳴き声が聞こえてきました。
えぇもうそんな時期かと早いような気がしますけど、また彼らの喧噪を聞くハメになりそうです。
みなさんも暑さに負けず、小まめな水分補給を怠らず、充実した一日をお過ごしください。
ではみなさんまた明日お願いしますではでは。




