42話 うさぎさん達は、遂に立派な家を手に入れるしかし? その1
【物件はちゃんと選んで決めようか】
やってきたのは、人が行き交う通りではなく。
人気の少ない、少し街の端に佇む大きな屋敷だった。
そこからは街を一望できる高台で非常に見晴らしが良い。
その高台にあるのがこの大きな家……いや家と言うよりは屋敷。
「クソデカ」
開口一番の感想がこれである。
依頼人さんによると、昔豪族が所持していた豪邸で、近頃だいぶ古くなってきたらしくそれを売るか処分するかで迷ったそう。
最終的にギルドの報酬として、このような形で出したらしいがそれにしては太っ腹な気がする。
広々とした塀内に大きな窓辺がいくつもある外装。下の入り口だけでなく上に続く階段を上ると2階から入れる入り口も備わっている。
何よりも、外観を飾る噴水までついている。……いや豪華すぎだろ。
ところどころ、長期間放置していたせいか苔がついている箇所も見受けられる。
……別に私は気にはならないけど、一応掃除はやった方がいいかな。
「噴水までついていますよ。……手入れはされておらずいたる場所に苔がついていますけど掃除すればなんとかって感じですが」
「……噴水付きということは、余程の大金持ちなのでしょう。……とても心が広そうな方だったのでなおさらです」
因みに顔合わせした当の依頼人さんはというと、大層如何にも貴族らしい高級そうな柄の施された服を着ていた。
……黒いローブのラインには、金箔の模様が非常に目立つ身だしで。
少々かしこまってしまったが、そんなにかしこまらなくていいと言われた。
その依頼人さんは、私達をここまで案内しお礼を何度も述べた後手を振りながら去って行った訳だが。
「掃除するの? 用具とかまだ全然買い揃えていないんだけど」
「愛理……。 せめて家の周りぐらい掃除する心構えとかないわけ?」
なんかミヤリーから煽り文句が聞こえてくる。
じゃあ買いに行ってくるって言おうとしたのに、口を急に挟んで来るミヤリーはとても空気が読めなさすぎる。
お母さん口調にも聞こえる彼女の言葉を聞くと、なんか見下されていそうな気分になった。
いや分かっているから。いつもこの子はフラグしか立てないアホな子だが、少しは言葉を慎んで欲しいものだ。まったく。
「分かっているから。……今買いに行こうかなって言おうとしていたのに……割り込んで来んな」
「……そう? てっきりまあいいや的なノリで済ませるのかと思っていたわ。ははは」
ははは。じゃねーよ。私ってあなたにどんな印象持たれているの? アホ? バカ? それともマヌケ?
またはそれ以下の何かに。
……。
【愛理の脳内選択肢】
▶ミヤリーを殴る
跪かせて説教
げんこつの刑
1回コイツをぶん殴ろうかな? ちょいと火山が噴火しそう。
愛理さん怒よ? 私だって切れるときは切れるからね。虐待認定だとか暴力反対とかそういうその場しのぎの言葉は私には通用しない。無論これは私の素の能力。(性格的な意味合いで)
「な、な、なに愛理その鋭い目つきはさ……。ああのさっきのは冗談! 冗談よ」
拳を彼女に突き出すと、彼女は目を丸くしながら焦り気味な様子をみせた。
今更命乞いかよ。謝っても遅いんだからな、生意気な口をこの私のラビット・パンチ…………で?
「まあまあ少しは落ち着いて下さいよ。喧嘩はよろしくありませんから」
私達の間に。
シホさんが止めに入る。
少々眉をひそめた顔付きは、何やら心配しそうな顔付きだ。
彼女は空腹の都合上、戦闘持続時間はさほど長くないが、私の中で絶対敵に回したくないランキング第1位になっている。なんというか怒らせたら絶対殺される的な。
もし空腹の呪いがなかったら、強い私でも彼女に返り討ちにされそう。基本スペックはともかく彼女は他に私の知らない未知の能力が眠っていそうな感じがするんだ。
結果:シホさんを絶対に敵に回すな。
ここテストに出るからみなさんメモしておくように。
話を戻し。
……私って。自分でいうのもあれだけど結構短気かも。
昔小学校で汚い口調で喋っていたら、友達の何人かは私から離れていった。その日せんこーに呼ばれて軽い説教食らうわでちょいととばっちりを受けた過去の自分。……分かっているよ言いすぎるのってよくないってことは。分かっているけど、私は生まれながらこんな口調だ不治の病なので治りませーん。対戦あざしたサーセン先生!
……なんて思っていた時期が自分にもあったり。
そんな黒歴史があるわけだが、昔から私って人付き合い下手だなと我ながら思う。まあこんな性格だし。
しかしそんなシホさんが止めに入ると、ミヤリーが頭を下げ。その態度は戯れた様子ではなくちゃんとした口調で淡々と私に自ら謝罪してくる。
……あれ、こいつ昔の私より常識なっているのか!? お前てっきりDQNな属性かと思ったが、割と空気は読めちゃう派? ……少しは見習うべきかミヤリーを。
「ご、ごめん。からかっただけなんだけどね」
「まあいいよ。これから一緒に住むわけだし、私もカっとなってたらお互いさまだね」
謝るのは早いほうがいいと言われたことがある。それに昔"時に諦めるのも大事"とか言われた記憶もある。いつどこから聞いた私の記憶の断片かは分からないけど、最近聞いたようなセリフじゃない気がする。……現実? いやゲームか? この際どっちでもいいや雨降って地固まるとも言うし。
うん、仲がいいのが一番だね。早いが一番QED。
「よかったですよ本当に」
和解し終えると、ミヤリーが。
んだよ。いいところで締め括ったていうのに。その疑惑をかけるような視線をこちらに送るのやめてくれます? シリアスシーン長続きは心臓に悪いぞ、ADVなら気晴らしにハッピーエンドを攻略するのが私の勧め。とりまプラスな話にして。
「でも、それなら早く言ってよ。……一瞬疑いかけたじゃん!」
ぽんぽん。
隣から笑いながら肩を叩く彼女。……反省の色見えねえ。
いやそれはこっちのセリフ! まさかのブラフだったのか? まんまと私は彼女のポーカーフェイスに釣られたうそやん。
はあ心理学? なにそれおいしいの。はぁこんな時に頼りになる妹さえいれば。
「とりあえずまずは掃除ですね。ある程度用具などを都合しましょうか」
スーちゃんの魔法でやれば。
いや、それだとズルしているのと一緒か。
たまには自分の力でやってみろってなんか言われそう。
ここは大人しくシホさんの言う通り用具揃えに、街の通りへ赴くとしようか。
で。
誰が行くのだろう。
「では…………愛理さん参りましょうか?」
案の定私を名指し。
分かりきっていたことだけど、他のみんなじゃダメだったのか。
「何で私?」
「……え? だってさきほど買いに行こうと言おうとしていたじゃないですか。なのでここは愛理さんが行くのが妥当です。……でも念の為私もついていきますよ」
言い出したからには、ちゃんと責任とれって?
要はそういうことなのだろうか。
はぁ。RPGの主人公がなぜ無口なのかその理由が今よく分かったかも。……余計なことは謹んでリアルでも主人公っぽく優しく振る舞ってねという公式からの裏エピソードがひょっとしたら隠されているのかも。知らんけど。
……言うんじゃなかったよ。こうなるくらいだったら、もっと新品な家を報酬としているクエストを受けるべきだった。
でも今更後悔しても……もう遅い。
さてそれじゃちょっくら買いに行ってきますか。
☾ ☾ ☾
【過度を立てるのはほどほどにしろ】
数時間後。
用具を買い揃え、家へと帰ってきた。
バケツ、箒、ちりとり。加えてその他の清掃用具。
街にある、用具の専門店に立ち寄り手に入れた購入品。非常に品揃えもよく、すぐ手に入ったのでこちらとしては安心だった。
「あっさりだったね」
「えぇ。 でも愛理さんそれ便利ですね。バッグなしで物の出し入れができるなんて」
無限収納バッグを羨ましそうに語るシホさん。いや、これも一応バッグなんだけど。
単に、この機能がぶっ壊れているだけ。無限に格納できるというアオ狸君もビックリな品物ですよ序盤に入手していいアイテムではない。
「大したことないよこんなもの。まあ持ち運びが便利だし体に負担にならないのは大きな利点だけどね」
「……私もそれ欲しいですね。今度狂政さんに頼んでみようかな? ……ってお2人は何処に行ったんでしょうか」
先ほどまでいたミヤリーとスーちゃんの姿が見えない。
2人で一足先に掃除しておくとか、意気込んでいたけどどこにいるんだろう。
外回りは行く前と同じで、変わりはなし。
……となると屋敷内のどこかにいるのかな?
ガチャ! ガチャガチャガチャ! がっちゃーん!
う、うるせえ。
なんだこの音。
急に聞こえてきたのは、激しい揺れでも起きているかのような物音。
あのさ、ハウルッド映画の撮影でもしているんですかね!? ウチにはそんな高額な撮影に使えるような予算ないよ? というか譲り受け物の家とは言い、もうちょっと慎重に使おうぜ。因みにあれ1本の映画を作る費用がとても高いらしいよ。
「なにこの音? 映画の撮影か何か!?」
「その……エイガというものは存知上げませんが、まずい状況だってことは分かりますよ」
屋敷内から聞こえてきたその音は、こちらまで反響してくるぐらいの大音。パーカーの効力があるせいか隣にいるシホさん以上に人一倍音が大きく聞こえてしまう。……やかましいから今はこの能力オフにしたろ。
【パーカーの音が大きく聞こえる能力をオフにしました】
「とりま、行こうか」
「で、ですね」
……一体中で何が起きているのかと。
シホさんと顔を見合わせる私は、直ぐさま屋敷内へと駆け出すのであった。
☾ ☾ ☾
屋敷の中はとても良品質な豪邸であった。
奥行きの深い縦長の天井には無数のシャンデラが。
おぉ。
現物は初めてだ。童話やファンタジー作品で見たことはあるけどとても私達が手に入れていい品物とは到底思えなかった。それほど価値感のある景観となっており目に映る物全てが神々しく見える。
まさかこの目で本物を見ることになるなんて。……と感動に浸っている場合じゃないだろ。
音のする方向。
そちらの方に私達は走り近づく。え? 廊下は走るなって? 確かに学校でそのように習ったけど、異世界にそんな現代マナー的なものは通用しないでしょ多分。
軽視しているだけかもしれないけど、はい気にしない気にしない。
でその大きな音がする部屋前に来たわけだけど、なんだここ。
……寝室かな? 引き戸がとても豪華だし。
「なんだろうそれ」
まずは目で現状を確認するのが一番。
2人が、一生懸命やってくれているんだろうと思っていた。
うん。
"思っていた"の過去形。
扉から聞こえてきたのは2人の声。
「……あのこれ火で燃やして下さい」
「ちょっとスーちゃんそれなんかやり過ぎなんじゃ」
「……いえ、なんか良く分からないでとりあえず燃やせば片付きますよ。さっきは高そうな石像を何体か外に投げて破壊してしまいましたが問題ないでしょう」
物は丁寧に扱おうかスーちゃん。いくら貰い物とはいえ加減ってもんが大事だよスーちゃん。ほらご近所さんにもしかしたら迷惑…………ってここお隣さん誰もいないだった。隔離された林道の先に佇んだ屋敷でした! ……それでももうちょっと……こう。
「うぅ私はスーちゃんが将来的に大魔王か何かにならないか心配だわ」
「……ミヤリーさん、大魔王とは失礼な。……訂正して下さい"最強の大魔女"になると」
いやそういう問題かよ!! てっきりミヤリーの言った大魔王発言に腹を立てているのかと思ったよ。表情から雰囲気を感じ取るのがこんなにも難しかったなんて。……陰キャだった私には狭き門なのかもな。それはともかく壊すな。
「同じ物だと思うけどな……って後ろスーちゃん」
こちらに気がついたのか2人は、室内の様子を見る私達の方を振り向く。
「……遅いですよ。用具は……買ってきたんですね。ある程度はやっておいたんで安心してください」
これの。
何処が。
安心じゃああああああああああああああああああああああああああい!!
目前と広がっていた光景は。
ギャグ漫画のワンシーンを見ているかのようだった。転覆した大きなベッド。無残に欠けた石像の数々。
壁際にある巨大な名画が、斜めに曲がっている。
一言コメントするのなら、嫌な悲劇だったね。部屋が無残に荒らされているんだろう? と言えばいいのか。時報さん強く生きてください。
部屋中にはスーちゃんが召喚したとみられる、力量の高そうなモンスターがわんさかおり、彼女の指示で動いている。
目に付く物を魔法や、攻撃で破壊しながら。
それはとても支離滅裂で。
どちらかというと、掃除より泥棒が入った後の部屋のように見える。
いやなんのアトラクションぞこれ?
「…………スーちゃんこれは一体どういう」
「……掃除ですがなにかおかしいところでも?」
「「このどこが掃除じゃあああああああああああああああああああい!」」
私の音を張り上げる叫喚の声は、豪邸中に木霊した。
「とりあえずお2人共、少しお話しましょうか」
そんな発狂する私に関わらず、冷静に話合おうとするシホさん。
いや逆に凄いよ。こんな状況でよく言えるのがさ。関心関心。
それはそれとして。
かくして、賑やかな異世界ライフがこれからようやく始まる……そう思った矢先。
引っ越してから早々にとんでもない、トラブルに巻き込まれる私なのだった。
頼むから少しは休ませてくれよ。
2日明けですこんにちは。
この時間に上げるのは久しぶりですね。
いつもは夜中ばかりなので、少々違和感を持たれる方が中にはいらっしゃる可能性も。
この2日間ちょいと疲れを取って休んでいました。違う小説を書いていたのですがそれがもう疲れまして。その執筆でどうも自分のリアルMPを使い果たしてしまったみたいなので疲弊感に押しつぶされて再起不能状態にorz
つきましては今晩また+1話出す予定ですので見て下さると嬉しいです((汗
さて怒鳴られたスーちゃんとミヤリー。書いていて思ったのですが、説教される双子を見ている気分になりました。
さあどうなるこれから!? ではではまた。




