3話 過度なうさぎさんと腹ぺこお姉さん
【人助けってめっちゃ大切だと思う。あぁこれガチ】
一体これはどうしたものだろうか。
唐突な事態に言葉を失う。
(なんだこの深刻な状況は)
このお姉さんの身に。
一体何が起きたのか。
それは知らないが、なんとかならないのかと模索し始める。
いまだに生きていたことに。
驚きを隠せないが、それはそれとして。
助けたところで恩を作る。
それもなにかと、自分の尺に触るような話ではある。
あまり事を荒らげてほしくない。
そんな思いが迷わせてくるのだ。
(いやどうしろと)
細い声を出して不安は募るばかり。
こういうの慣れてないだわ。
反応に困る。
明らかにこれフラグ。
だよね。
腹減りすぎてせがんできているけれど。
助けるor助けない。
この2択をどう選べというんだい。
「えっとその……」
「たべ……食べ物を!」
食べ物の1つも持っていないのか?
途中で。
底を尽きた可能性もあるが、近くに村は。
あるわけないか。
だって森の中だし。
でも、放っておくのも、どうかと思うし。
ここはやはり。
若干引いて後退りする私は、
そこで踏みとどまると、1歩踏み出し。
恐る恐ると、そのお姉さんに尋ねてみた。
あと腹の虫がうるさい。
「あの、大丈夫ですか? 」
「なんならここに食べ物がありますが」
仕方ないので力を使う。
思いついた食料を思い描いて生成する。
能力の試運転も兼ねているから。
一石二鳥。
手のひらに大きなおにぎりを生成。
そしてそのまま、彼女のほうへと差し出す。
おいしいのかこれ?
能力で作ったおにぎりなんだぜ。
変なモザイク加工必要な、ダークマター味だったらどうすれば。
すると。
お姉さんはハイエナのように。
鼻をクンカクンカさせながら起床した。
勢いよく飛び跳ねて私の持っているおにぎりに。
\ガブ!/
かぶりついた。
――私の手のひらごと。
「「いってええええええええええッッ!」」
「「な、なにすんの、あんたの故郷人肉食べる文化でもあんの、死ぬかと思った!」」
まるで釣竿についてきた魚。
咬合力は並外れていた。
噛まれた瞬間。
全身から強烈な痛みが走る。
思わず一声。
叫喚の音が上がり木々が揺れた。
私の痛みを訴えるかのように。
「あぁすみません!」
「食べ物に非常に飢えていたもので」
くぐもった声で話す。
おっと意外とこれは丁寧に……イテテ。
だから丸ごと噛むんじゃねぇぇぇぇええッ‼
「あのいいからさ……イテテ!」
活気を取り戻し。
興味津々とこちらを見つめ。
何やら言いたそうに顔を向けて。
なに、私の頬になにかついているの?
「その、私の顔になにか付いてる?」
「えぇー。見知らぬ頭巾服ならついてますね!」
「ば、馬鹿にしてんの? みりゃわかるでしょ、原始人じゃあるまいし」
「すすすみません。そんなつもりでは!」
真面目なのか。
小馬鹿にしてるのか。
「それはそうと。早くその手……じゃなくて口離してくれないかな!」
おにぎりを飲み込み、咥えていた口を離す。
ようやく片手の自由がきくようになると。
その片手からは唾液が垂れてていた。
(人に初めて噛まれたかも)
うぅなんかヌメヌメして気持ち悪いのだが。
どこかの薄い本によくありそうなシチュエーション。
あっち系なものが好きなわけではない。性癖的に受け付けないので、
着替えの1つくらい欲しいところ。
水道で手洗いたい。
通称腹ぺこ少女は、その場で足を広げながら座る。
顔上げ、初めて面を合わせると。
お互いにまじまじと見つめ始める。
というか顔立ち、そして髪も長くてめっちゃ美人。
正直羨ましい。
そうそう、RPGでよく出てきそうな女戦士。直で見つめ合っているが。
なぜだろう、陰キャやコミュ障の弊害か。心臓の高鳴りが止まらず、とても緊張気味になっている。
落ち着くんだ私!
「あの大丈夫ですか、顔赤いですよ?」
「「き、きき気にしなくていいから!」」
お姉さんはその場で立つ。
立ち並び視線を合わせ睨みあう。
「えぇと……」
「うーんと」
私より若干上であろう背丈。
首辺りまでの高さまでしか届いていない。
年齢は私より上か?
「あの、ありがとうございました。先ほど本当に死にそうな状態でして」
「何も食べていなかったんですよ」
「え、まじ? 冗談で言っている……ようには見えないか」
隠しているような様子には見えなかった。
真面目な顔でこちらに視線を向けながら。
正直に答えているようだった。
全く食べていない。
と言うのだから、相当弱っていると思っていたが。
今はこうして大丈夫そうに。どうなんだろう。
「もう大丈夫な感じ? 普通に立ってられるの」
「えぇおかげさまで。いやぁもうダメかと思いましたよ。あはは……」
(いや、死にそうになってたのになにわろてんねん!)
笑いながら髪を掻いているが。
見た目は一端の冒険者。
強く見える戦士が、路傍で先ほど倒れていたのだ。
え、正気? なにかの縛りプレイとか、そんなことして
魔王でもフルボッコしにいきます!
みたいなことでもしているの。自殺行為はやめなって、人って食べないと死んでしまうし。
人は食事を摂っていない場合、大体3日が限度と聞く。
水を飲んで、1週間持ちこたえた。
という話もあるがはてさて。
「お姉さん、冒険者でしょ、近くの村で買えなかったの?」
「あぁ……それ……それはですね」
なぜ気まずそうに目を逸らすのさ。
最低限ここになかったとしても。
道中必ずあるはず。
……そこで、ある程度食料を購入していれば、
問題なさそうだが。
もしかしてなかったの?
長髪の整った女戦士。
青白を基調とした皮服の上に。
少し重そうな金属製の甲冑と、戦士がよく持つ剣と盾を携えている。
腰回りに付けているのは収納用の革袋。
手のひらに乗せられるくらいの大きさだ。
ガチのファンタジー系じゃあないかこれ。
コスプレとか、そういう域のものではなく間違いなく本物だ。
相貌は正直見惚れるぐらい端正でバランスがいい。
なんという、抜け目のない美人。
羨ましすぎる。
「……」
「え……な、なななに?」
「……」
すると眉をしかめ若干、怪訝しむ目つきをする。
え、どうしたのさ、そんな険しい顔しながらじっと見つめて。
少しの沈黙。
気まずい雰囲気を感じ取った私は。
どう切り出そうかと模索していた。
が。
それを。
打ち消すような言動で聞いてくる。
「その格好はなにかの仮装ですか」
\ズコーッ‼/
「いや違うから!」
すごくどうでもいいことだった。
なにを聞いてくるのかと思えば、服が気になっていたん
かい!
☾ ☾ ☾
【第一印象は最初が肝心】
「へえお姉さん大変だね」
聞いた話ではこのお姉さん。
これまでに1度も。
1人で成し遂げた経験がないみたい。
こんな美人なお姉さんが、どうしてなにもできなかったのだろうか。
ブラックな仕事の概念がこの世界に存在する?
身軽そうな体軀。
見た目的には、あまり問題はなさそうなのだが。
「これといって上手くいったクエストありませんね。巨大なモンスターにはねられ気絶したり、ときには体力切れになることが過多でした」
音痴系か?
「他の冒険者のパーティに加入させてもらっては、同じ報酬を受け取るばかりの生活を繰り返していました。まあ結局は外されたりして1人。それで今にいたる感じです」
協力プレイで強力な武器を手に入れる手法。
あれと似たようなものだろうね。
手に入らないものでも、協力プレイならなんとかなる。
私もそういう経験あるからわかりみ深い。
マルチで大量の石回収したい。
だとか、いろんなプレイヤーいるけれども。
あの属性か。
欲しい物なら、どんな手を使ってでも手に入れる、
鋼の精神。
形は違えども、ゲーマーの経験談があるから共感が持てる。
(名前聞いてなかったな、なんて言うんだろう?)
挨拶でもしよう。
遅かれ早かれやるのは今だ。
「自己紹介がまだだったね、私は仲宮愛理」
「遠い街からやってきた田舎娘だよ」
露骨に『異世界からやってきました! てへ』、
とか『私は違う世界からやってきた』や、そんなにわかに信じ難いことを言うのはやめた。
恥ずかしいし。
ここは遠い街からきた設定で。
う、疑われないはずだ。
「どんな街からやってきたのかは存じ上げませんが私はシホ。見ての通り女戦士の冒険者です」
シホ、シホ、シホ。
思ったよりシンプルな名前だな。
「……復唱しますがそのうさ耳の服かわいいですね」
「うん、ありがとうシホさん。わかったわかった、だからあまりこの服をジロジロ見ないでもらうと助かりますけどねッ⁉」
服を凝視。
だからコスプレ大会か何かと、間違えているんじゃないですかね⁉
あなたは見てないから、そんなこと言えるかもだけど。
見た目に反してこのパーカーすごいんだよ?
見たらびっくり間違いなし。
目を泳がせながら、自己紹介してくれた女戦士であるシホさん。
この服装やはり目立つからだろうか。
……別に好きで着ているわけではない。
転移の特典である、無料ガチャで引き当てたのがこの服なんだよ。
自分で今さら言ってあれなのだが。
これ着るの凄く恥ずかしい。
「取りあえずさ、街に行きたいんだけど道に迷っちゃって」
「どこでもいいから案内してくれない?」
申し訳ない格好で私は、その場で合掌しシホさんに頼む。
「いいですよ。助けてもらった恩もありますし」
おぉキタァァァァァァァァァァァァァ‼
神対応キタコレ!
「私の住んでいる街にでも案内しますよ。えぇと『リーベル・タウン』という駆け出しの冒険者達が集まる場所なんですけど。大きくて賑やかないい街ですよ」
「すまないがシホさん、よろしくおねがしまース!」
してシホさんに。
その街へ案内される運びとなった。
彼女が今指さし、
「こっちですよ」と案内し始め、誘導されるようにあとを着いていく。
どのような街でどんな景観なのか。
期待を胸に抱かせながら先へ進む。
☾ ☾ ☾
長い森を抜けた先は平原。
風を受け草木がそよぐ野原の地。
「やっべ広れぇぇぇ……」
視野が広がった瞬間。
それが私の目に映った。
ぽつりと1か所大きな石壁が現れた。
上の方を見ると、尖塔がいくつか見える。
円周に張り巡らされている強固そうな塀は、大きさ・広さからみて、
非常に壮観だった。
(大きな街だなぁ。つーか駆け出しの人が集まるにしては大きい……いや私が慣れてないだけか?)
その中には。
豊かでほのぼのとした街並みが広がり。
行き交いをする、冒険者から一般人の姿が多く見てとれた。
「いろいろあったけれど、ありがとうねシホさん」
「すみません愛理さん、お手数かけちゃって」
「いや大丈夫だって気にしないで」
街中は素晴らしい景観だった。
石タイルの敷き詰められたその地は、
私のゲーマー心をとくにくすぐらせる。
ファンタジー感溢れる街の中の喧噪。
私が住んでいた都会とは、ひと味違った雰囲気であった。
これで面倒な学校生活に縛られることもなければ。
辛口なクソ教師もいない! これこそ私が求めていた楽園。
マイプレイス。
――――が現実はそんなに甘くはない。
これは私が着いた時、実感した感想。
来るまでがどれほど過酷だったか。
胸にしみじみにそのキツさを私に体験させてくれた。
――――――本当どうしてこうなった。
それは森を抜けてすぐのできごとであった。
☾ ☾ ☾
【断食は厳禁。ちゃんと毎日3食食べよう】
「やっと抜けたね。シホさん」
「…………はい。このまま真っ直ぐ進めば…………」
「じゃあ先急ごっか。…………ってシホさん?」
足を運ぼうとした瞬間。
シホさんがその場で倒れ、再びうつ伏せ状態に。
……なんか衣服が同化して、巨大なイモムシにも
疲れ? はたまた私のように睡魔に襲われでもしたのか。
気にかけながら近寄り、彼女の上半身を起こす。
「あのシホさん? ……シホさん?」
「あぁ……すみません愛理さん。またお腹空きました」
は?
今なんと?
「言い忘れましたが」
「私とてもお腹空きやすい体質なんですよ」
「…………へ?」
今なんて言った?
ワンモア。
私の聞き間違えかもしれない。
念入りもう一度聞いてみよう。
「あのシホさん」
「スマンけど、もう一度言ってくれない?」
「…………私お腹とても空きやすいんですよ」
その瞬間、彼女が言った言葉がやまびこの如く、
再生される。
――――私お腹とても空きやすいんですよ。私お腹とても空きやすいんですよ。私とてもお腹空きやすいんですよ。私私私……。
食料を。
ひたすらせがむ、数人にも及ぶシホさん達が。
脳内で私を取り囲むように、カゴメカゴメを踊り始める。
せ、洗脳でもする気か⁉
「ガチで?」
「その『がち』?という言葉はわかりませんが」
「今私が言ったことは正真正銘本当のことですよ。街ではよく腹ぺこ娘と揶揄されてますけどね……あはは」
「「うっそやろおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」
気の狂った大声を張り上げる。
なんだよ、その狂った設定。
よくある、お荷物キャラの典型的なアレじゃあないか。
腹を減らす女戦士って。
聞いたことも、見たこともない設定だよ。
最低保険は……。
あるわけないですか。
「そういうの早く言って」
「す、すみません」
身動きはできないらしいが、
明らかに口は動いているよね?
空腹になると。
自動的に体だけは動かなくなる。
そういう謎体質なのか。
うん彼女の体の構造が理解できない。
能力を使って再びおにぎりを作り出し。
手渡して再び食べさせる。
というかここで、腹ぺこキャラとか聞いてないよ。
外見はいいのになにこの謎体質。
……とても言いづらいのだが。
見た目に反して残念である。
しかしこれに限らず。
シホさんの腹ぺこモードは頻発することになった。
「愛理さん。すみませんご飯お願いします」
「あいよ」
草原を歩いている時も。
「愛理さん。早く仕留めてください。う、動けません」
「任された」
道中。
手強そうなモンスターとの戦闘中も。
水体をした。
粘度の強そうな液体型モンスター。
このモンスターはもしや。
図鑑が起動し説明してくれる。
【スライム 説明: 粘着力の強い液体を持ったモンスター。初心者の狩りやすいモンスターで、強さはそこまで苦戦するほどの強さではない】
やはりスライムだった。
ゲームでよく見るような見た目。
若干外見は違うが、そんなにたいして差はない。
違うことなら目がデフォルメチックな感じ。
「お、ちょ!」
「あ、愛理さぶくぶくぶく……」
私と戦わず素通りするスライム。
無防備にその場で伏しているシホさんの方へと近づき。
体を広げ彼女を覆いつくそうとする。
捕獲されたシホさんは、溺れるようなこもった声を漏らしながら。
息苦しく何か私に言おうとしているが。
わからん。聞き取りづらい。
「待ってろシホさん。今助けてあげるからな!」
背後に回る。
敵の体に連続パンチ。
「食らえおら!」
「ぷくぷく」
体が脆いスライムは、はじけ飛び。
その場で水となり散乱した。
「よっわ。……とシホさん!」
「うぅ……溺れそ……」
解放されずぶ濡れになりその場に伏す。
というか寒くないのか?
「早くご飯をくださ……」
「わ、わかったから! 今あげるよ」
弱りきっていたので早々に駆け寄る。
体温より、食事を優先するらしい。
いやだから消化スピードどれだけ早いんだよ。
ちゃ、ちゃんと噛んでいるよね?
「は、はい」
困惑気味にもおにぎりを手渡す。
「愛理さん。またご飯お願いします」
もう作業ゲーじゃん。
と体を動かしている時間が、
長くなれば長くなるほど、その度に彼女はぶっ倒れる。
その工程が何度も渡り続いた。
じ、地獄だ。かつてない重荷だぞこれ。
(私あと何回耐えればいいんだよ……)
度々シホさんに、おにぎりを作っては食べさせた。
また作っては食べさせ。
の連続でシホさんの供給係を務める。
「愛理さん、すみません」
「い、いいんだよ、こ、ここれぐらい。へ、へっちゃ……らさ」
(よくねーよ。森まだ抜けていないっていうのに、なんでこんな過労働なんだよ)
面倒くさくて心折れそう。
かれこれあれから計5回。
そしてなんとか苦難を乗り越え、辛うじて街の入り口までたどり着く。
「ぜぇぜぇ……散々だった」
「大丈夫ですか? 徹夜漬けの冒険者みたいな顔になってますよ」
「て……徹夜漬けの冒険者って……な、なに?」
申し訳なさそうな顔で、話しかけてくる。
私ってそんなオールしたヤツに見えた?
息を切らしながら私は。
「だ、大丈夫だよ。こ、こんなの全然慣れているから」
強がっているせいで、本当は気がだるい。
パーカーのお陰で疲れはあまり出ないが、心まで癒える、
ということではないらしい。
私はウインドウ画面を開き、ステータス画面を確認した。
「ステータス、ステータス……ステ」
レベルは上がっていない。
何よりも魔力がなくなる寸前まで消費している。
(なんで…………ってあの能力使いすぎたせいか。なるへそ)
どうやらあのおにぎりを作ったことで。
大量の魔力を消費してしまったみたいだ。
能力を確認しようとその説明文に視点を移すと。
さっきは緑色に光っていた部分が。
今は赤くなっている。
……なんか嫌な感じがする。
押すとメッセージが表示された。
『今日はもう1日分の能力を限界まで使ってしまったので、使用できません。レベルを10まで上げると上限がなくなります』
アンロック式かよ。
「どうかされました?」
外部の人は見えていないらしい。
「いや大丈夫。で一応門の前に来たけど、あの門番に話せばいい感じかな?」
コショウとか要らないんだ。
「そうですね。ですが通貨必要ですよ。銅貨、銀貨それぞれ1枚必要ですよ」
通行料がどうもかかるみたい。
やっべ金のことなんてすっかり忘れていた。
すると悩んでいると、シホさんが横から。
「冒険者になれば、ギルドカード作ってもらえるので、それを提示すれば無料で入れますがありますか?」
「すまんシホさん、まだないんだ」
出ました。
ファンタジーにあるお約束、定番の定番。
じゃあ私は払わないといけないのか。
さて。
いきなりつまずきそうになった愛理さんです。
「どうしたんですか?」
「いやあのね。手ぶらなんだけど」
「一大事じゃないですか」
「そう愛理さんマジ一大事、求職中のバイト探しで忙しい高校生や大学生並に困っています。ガク」
するとシホさんは。
「えぇと、たしかまだあったはずです……と」
茶色い布袋を取り出すシホさん。
重りのあるその袋からは。
もしや。
なんとなく何が入っているのか、薄々感づく。
その中から。
ジャリジャリとなにかを漁り始める。
「愛理さん」
銀貨、金貨それぞれ1枚を取り出し私に手渡す。
え、くれるの?
「よく言っていること分かりませんけど、困っているんですよね?」
「なら貸してあげますよこれで大丈夫」
「いいの? あなたのお金でしょ」
「お礼も兼ねてなので大丈夫です。さすがにお礼ひとつもなしだなんて、申し訳ないのでどうぞ使ってください」
なんていい子なのだろうこの人は。
「ありがとうシホさん、これで一息吹き返せるぜ」
「し、死なないでくださいね」
苦笑いするシホさん。
柄に合っていないような気がするが。
これで貸しはなしになったからいいとするか。
「じゃあいこうかシホさん」
とシホさんが。
急に立ち止まる。
(嫌な予感しかしない)
「あっすみません」
「はい?」
何を言い出すのかと思えば。
「またお腹空きました」
「「チクショーッッッッ!」」
爽やかな笑顔を浮かべるシホさん。
そしてそのまま。
またもやその場でぶっ倒れ、空腹の音を鳴らした。
仕方ないと思いながら、そこら辺の雑草を集め。
彼女に食べさせた。
☾ ☾ ☾
【何事にもルールというものがある】
門番さんと対面する。全身金属の中世風な甲冑を着たその男は。
開口一番私に話しかけてくる。
「お嬢ちゃん見知らぬ顔だな。冒険者カードはあるのかい」
「持ってないよ」
「なら、ほれ」
門番さんは手の平をさしだしてきた。
支払えってことだな。
……ワガママに一度、頼んでみるか。
「今回だけいいでしょ?」
「あ、愛理さん……」
「駄目だ」
不意を突いて私が足を踏み込む。
無法侵入してやる。
が門番さんは、瞬時に私の前に立つ。
そしてお互いに目を合わせ。
私は門番さんに笑顔で問いかける。
「だめですか?」
「うん、だめだよ」
満遍の笑みで。
私の企ては阻止されてしまった。
あぁクソ、チートバグならすり抜けして不法侵入とかできるのに!
できるものならもう既にやっているはずだが。
ここは正当な手段を選ぶしかないか。トホホ。
「銅貨1枚と銀貨、銅貨それぞれ1枚ずつだ」
私は嫌々と。
先ほどシホさんに貰った通貨を、門番さんにしぶしぶ手渡す。
「それじゃ通っていいぞ」
「えっ罪歴とか確認しないの?」
「大丈夫だ嬢ちゃん、門の中にな」
「罪歴を感知するセンサーがあるんだ。もし仮に罪人がそこに1歩でも足を踏み入れればセンサーが作動し、ソイツは門から弾き飛ばされちまうぞ」
いやなんかそれもう、SF映画にありそうなものじゃあないか。
「それではいきましょうか愛理さん。あぁ門番さんこれを」
後ろで待機していたシホさんは。
門番さんに、半紙サイズの手と同様な大きさをしたカードらしき物を見せ。
あれが冒険者カードなのだろか。
「はい門番さん、今日もお疲れ様です」
「シホさんね。今日もお疲れさん、通っていいぞ」
確認が終わると、シホさんをすんなりと通してくれた。
……門をくぐると反応無し。
どうやら問題ないみたいだ。
街に入ると、活気のある情景が目に映る。
陽光が私とシホさんを射して……眩しい。
「眩しいな」
中世の景観を思わせる町並み。
その下にある、石畳を歩く行き交う人々。
賑やかな声がたくさん聞こえ。
周りから活気を感じてくる。
そして私は歩きながら、異世界の夕日は綺麗だなと思いながら。
隣に立つ腹ぺこ戦士に聞く。
「ねえシホさん」
「? なんですか」
「この街、賑やかでいいね」
「はい、そうですね。とってもいい街ですよ」
彼女は笑顔で答えてくれた。
読んで下さりありがとうございます。
所々パロディも含むので、皆さんが楽しめたらいい作品になったらなと思っている次第です。
シホは基本的に腹ぺこな設定ですが、戦うと強い頼りがいのある女戦士です。(だけど腹ぺこだ)
本文でも書きましたが、腹が減っては戦はできぬという言葉は正に彼女に相応しい言葉な気がしますね。
この先愛理とシホさんがどのような物語を綴っていくか、作者ながらも頑張って行く心構えです。
それでは皆様次またお会いしましょう。