29話 うさぎさん達、またまたダンジョン攻略です その3
【まずは詰み要素を突破したいのだが】
さてまずこの再生能力を、なんとかしようと模索しているわけだが。
破壊すると再生。
いや不死身か。
ゲームにおける再生能力はチートの類い。
対戦における話だったら友達が1人減るレベル。
つまり何が言いたいかっていうと。
詰み要素をこの世界に持ち込むな。
「それでなんか策あるの? できれば戻ってきて加勢してオネシャツ!」
「……正直ないかもです。……っておねしゃつ? お願いします……ですか?」
こくこく。
「は、はじめて聞きましたよその言葉……ふふ。ちょっとおもしろいことを聞けたので正気に戻ってきた……かもです」
「今ので通じたのか。……まあいいやとりあえず無理しない程度に尽力して」
腹ぺこ戦士さんは、もうすぐで空腹モードへ突入するらしい。
先ほど威勢がよかったのにもかかわらず……シホさん平常運転だな。
寄り添うミヤリーが、シホを上体起こしさせ必死に。
「「シホぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! たのむからさぁぁぁぁぁあ土でも石でも食べて元気になってよ!」」
「そのミヤリーさん気遣ってくれているところ申し訳ないのですが……いくら私でも人間です。石なんて歯が折れますし土なんて食べたくもないですよ」
「あ、それもそうか……ってじゃなくてどうすればいいのよぉぉぉぉぉ助けて愛理!」
「うっせーぞ! いますぐいくからもうちょっと持ちこたえてくれ!」
いや頼むからやめてここは大人しく引き下がってほしい。
「……危機的な状況になっているみたいですね。ここはひとつ、最強の魔法使いを目指す私が……」
再びゴーレムはうなり声をあげると、拳をこちらにぶつけてくる。今度は腕を回しながら回転させる。駒のように回転し始めたが、あれ当たったらやばいヤツ。
「魔法が間に合わ……」
「任せとけ! ……ラビット・パンチ!」
その場しのぎではあるが、攻撃されそうになったスーちゃんの前に出て私は殴りかかる。
これで止まってくれる。
しかしそんな現実は甘くなかった。
こすれるような音を出し、私の攻撃はビクともしなかった。
レベルがどれくらいかしらないけど、耐性ぱねえ。
力に押され気味となり、そのまま引力に逆らえず向こうの壁へとぶつかる。
すっとーーーーん!
「愛理さん!」
「愛理!」
「愛理さん!」
仲間たちが同時に声をあげる。
ちょいと図に乗りすぎたかこれ。もう少し敵の様子を窺うべきだったかもしれないが。
幸いダメージはたいしたことはない。
レベルが高いのもあるけど、敵の穴と言える穴はどこだろう。
荒れ狂うゴーレムの駒。物理しか使わない……脳筋パーティな私たちには打つ手が…………うん待てよ。
そうだ。
また忘れていた。
少女の存在を。
一言現実逃避する魔法使いの少女に、私は口に手を添え声をかけ連れ戻す。
「おーいスーちゃん」
「は、はい!」
声に反応し、こちらを振り向く。
「あのクソ技なんとかできない? ……たとえばさ、動きを止められる魔法でもいいんだけど」
いたじゃないか頼りになる魔法使いが。
幼いながらも、才能に恵まれた小さな魔法使い。
「……忘れられてなくてよかった。……できますよ。その"クソワザ"というのはわかりませんけど」
「無理して覚えなくていいよ! だから思う存分!」
いくら私でもあのような技では太刀打ちできない。
もっと他に使えそうな素材が、あれでもすればまだ勝算はあったかもだけど。
……ここは天才魔法使いの力を存分に発揮させてもらおう。
図鑑によるとアイツには魔法による耐性が一切ないらしいし。
スーちゃんが言っていた、魔法が効かない敵が多いという言葉は恐らく雑魚達のことだろうな。
よくあるよね、道中の敵だけくっそ強いのに、ボスの耐性がくっそ弱いパターンがさ。
……スーちゃんは何か唱え始め、魔法を言い放つ。
「では……ストリプ!」
静止。
回転していた、ゴーレムはその場で動きを止める。
「さあ今のうちです」
制御している少女は、やや苦しそうにみえる。持続時間が必要な魔法なのだろうか。
……でも攻撃してなんとかできるか……。
……。
……。
……。
うん、待てよできるか。
すっかり自分のチートの存在を忘れていた。
ノーマルにチェンジして、拳を構える。
そして著大な敵の方へ駆けていき停止するゴーレムと対峙した。
こいつめっちゃデカいな。
アサルトよりはスピードは劣るが、このクソ耐性を壊すには十分なスペックだ。
……単に自分の能力を忘れていた私が悪いが。
ひとまず一発。拳に渾身一杯の力を蓄え力を集中させる。体中から無数の電流が流れ、力がたくさん伝わってくる。
尋常でない飽和するくらいの度量。秒もかからないうちに体にみなぎると力強く拳を握りしめた。
……手こずらせやがって。ったくだからこういうクソゲーは嫌いなんだよって。
でもだからこそやりがいがあるってもんだろう。この異世界というゲームはさ。
刹那。
疾走し飛び上がる勢いで地面を蹴った。正面に飛び込むようにまっすぐ私は自分の小さな体躯を飛ばした。
「食らいやがれ!」
強大な力のこもった一撃のパンチをそのゴーレムに咬ます。
周囲から突風が吹き荒れ、瓦礫が衝動で浮き上がる。……地が揺れ、岩の崩れる音が鳴り響く。
拳がゴーレムへと触れると、ゴーレムは壁際の方へと吹っ飛んだ。
壁へと叩きつけられたゴーレムは、体がボロボロに。……頭部が半分半壊した状態になり中身が多少露出していた。
崩れかかった地層でできた体。
軋む音を立てながら目を光らせ何やら指示を出していた。
再生指示を出しているんだろうがもはや虫の息。
ゴーレムの周りからはもう先ほどのように、欠けた部分は集まらず……辺りをちょろちょろ見渡し始めるこのモンスター。
だから無駄だっつーの。
「愛理さん一体何を」
後ろで呆然としていたシホさんは問い訪ねる。
「なーに簡単なことだよ」
人差し指を立てて確信するポーズ。
【シンプルな答えだぜ。反則っていう力のな】
理由は簡単。
私が一時的にその、特殊能力を無効化するように念じた。
触れた瞬間に効果が適用され、そのゴーレムは適用された効果を持つ、私のパンチをもろに食らったわけ。
その結果、再生できない体となり、今ゴーレムは弱体化しているわけだ。
「凄くないですかそれ」
現に、他の人からしたら簡単なことではない気がする。
むしろ実現不可能な領域か。
「まった凄い技出したわね愛理。さてはテクニシャンね」
テクニシャンでもマジシャンでもない正真正銘のチートです。
"チートにはチートで対抗"する定義を、私は今日ここでようやく学習した。
そうそうハンブラビる的な。(※目には目を歯には歯をという意味です)
「そんなことないから。トリックも何もないから」
「……やりましたね愛理さん。時間が長くなったので少し……疲れ気味…………ですが」
駆け寄るスーちゃんは喜ぶ顔を浮かべていた。
苦し紛れにもグッドサインを出す。
「あなたのおかげだよスーちゃん。ありがと」
「わ、私はたいしたことはしてないです…………」
今さらだけど、この子やっぱ笑顔が一番似合う。
女の子は笑顔が一番っていうけど、癒やされる。
なかなか表情がやや硬めで笑わないけど、笑うととてもかわいく見える。
「それじゃとどめをさそうと思うけど誰にする?」
「……じゃあ私がいきますよ」
挙手するスーちゃん。
新人ながらも積極的でよろしいこと。
「それじゃお願いしよっかなスーちゃん」
「……お任せあれ」
前に出て、足に力を入れ始めるスーちゃん。巨大な魔方陣が少女の周りに動き描くように書き込まれる。
如何にもファンタジー感だしているな。これぞ異世界。
少女のすぐそこの空中には、巨大な水玉が現れ清い水の音色が流れる。
せせらぎの音。
「これでおわりです!」
水の大玉から聞こえてくる水の塊は次の瞬間、形を変え激流の音を立てる。……そして水が一点にゴーレムへ一直線。
広大な水はゴーレムへとぶつかり、水に飲まれながら消滅した。
☾ ☾ ☾
【ぬか喜びってなんか悲しい言葉にも聞こえね?】
「それでスーちゃんが欲しがっていた武器ってなに?」
奥の部屋にある、1個の宝箱。……まさかまたミミックとか言わないわな。
さすがにそれはないと思うが、一応近づいて確認。
「……大丈夫ですよ愛理さん。それはミミックじゃありませんから」
なら安心。
……さて肝心の中身はというと。
期待を膨らませ、ぽつんと置かれている宝箱を開ける。
「さーて何が入っているかな!」
「い、いつも以上ににやついてマスヨ愛理さん」
「そんなわけねーよ。ていうかなんで片言?」
「いいから2人とも、スーちゃんが開けるわよ」
「…………では開けますよ……せーの」
そこには……。
何もなかった。
「いやねえのかよ!」
「? でもなんか1枚紙がありますよ。……手紙らしいですね読みますか?」
「どれどれ……」
シホさんが見せてきた1枚の手紙らしき物。
薄っぺらななんの変哲もない紙切れだが、返してみると一言こう書かれてあった。
『やあすまない。またなんだ……また釣りなんだ。というわけで先にこの中の物は頂いちゃいました☆ ……代わりにこの書いてある手紙をあげるよ(笑) あぁディスっているわけじゃないからね。というわけでのし』
は?
「……」
「あの愛理さん?」
思わず、その手紙を持ち上げ自暴自棄にその紙をくしゃくしゃにし。
ビリビリビリビリ……。
「くそがあああああああああああああああっ!」
天高く破り捨てた。
☾ ☾ ☾
【何はともあれこれからだろ】
「というわけで色々ありましたがよろしくお願いします」
ダンジョンを抜けて、ギルドに戻った私たちは、テーブルに座り歓迎会を開いていた。
改めて自己紹介をする。
「……賑やかになってきたわねこのパーティ」
「あっという間でしたが、なんか楽しそうじゃありませんか? 愛理さん」
そんなこと言われてもな。
もじもじしながらするスーちゃん。……言いづらそうにしているけれど取りあえず励ましてみる。
「物怖じしなくていいよ。私たちは仲間なんだから」
すると朗らかな笑顔でその顔を私たちに向けると、……人差し指同士でツンツンと突きながら言う。
スーちゃんはほんとかわいげのあるペットみたいな感じがしていい。
あ、レズ覚醒フラグはないからね。
「……あの……あの……迷惑かけそうですがこれからもよろしくです」
もとい存在が薄いからスーちゃんと呼ぶ私がいるが。
「よろしく」と団欒とした間に飲まれたスーちゃんだった。
「うん、よろしく頑張っていこうねスーちゃん!」
私は、そっと彼女の小さな手を優しく包み込むように握った。
主力となるメンバーは揃った。
これでようやく本格的に冒険が始まる……と思うのだが。そこは持ちつ持たれつでみんなで頑張って行くか。
……つうかそろそろ家も欲しいこの頃。
さて一件落着。
次からまたいろんな試練が私を待ち構えているかもだけど。
ともあれ、今はこの時を素直に喜ぶべき。頼もしい仲間にね。
頑張れうさぎさんたち、次は果たしてどんな冒険が待っているのか。
「……ふうやれやれだね」
「なんか言いました愛理さん? 机に頬杖ついたりして……行儀悪いですよ」
「う、うっせー……。ちょっと考え事」
時間は流れ。
寝る前、シホさんに熟考していると声をかけられた。
私はそっぽを向き、話を逸らすようにごまかすのだった。
「そうですか、ならいいんですが……その根を詰めずなにかあったら言ってくださいね」
「お、おうふ」
さて、明日からまたクエストで稼がないとな。
読んで下さりありがとうございます。
ちょっとしたパロディーも今回挟みながら書かせてもらいました。
それにしても最近暑いですね。時々雨も降ったりとまちまちです。
雨天の日なんかは外に出るのが大変で、出歩くことさえ消え伏せます。
さてそんな私事はさておき、今回でこの章は最後になります。
今週中に新章は行けるかは分かりませんが、番外編となる話を明日にでも書いておこうかなと考えております。
また作者の疲れが溜まったら出せないかも知れませんが、その時は今日は疲れているんだなと思って下さって結構です。まあ色々とリアルありまして。
では皆様よんでくださりありがとうございました。気が向いたらまた読んで下さると嬉しいですではでは。




