27話 うさぎさん達、またまたダンジョン攻略です その1
【とりあえず潜ってみようぜ、支度は忘れずに】
ダンジョンに潜る一行。
広々とした空間には尖っている水晶がある。
翡翠に光る石から、水色に光る神々しい光の石までバリエーションは豊富で洞窟内はイルミネーションのオンパレードだった。
あの宙に浮いている鉱石はなんだろう。見た感じ火に焼べたような感じだけど、うかつに触りでもしたら火傷しそうだぜ。
「石の種類多いなぁ。ゲームで鉱石類はよく見たけど実物ってこんな大きいんだ」
「……げ、げーむ? なんですって? ……すみません愛理さん声が良く聞き取れなかったのですが……聞きたいことあるならなんでもどうぞ」
「あぁいや大したことじゃあない。少し故郷の文化に懐古していたというか」
「……用件ないなら行きますよ、後ろの2人がまだかと待っています」
早く前へ行けと催促させてくる2人。
あぁもう、この世界では狂政以外に転移・転生してきた人っていないのかな。
いちいち説明を挟み込むのがとてもしんどい。……さて気分を切り替えて。
詳しくは聞いていないのだが、スーちゃんによると年々ここにある水晶はそれなり値の張る品物らしく1欠片だけでも5金貨の価値はあるらしい。
そのせいか、ダンジョンに訪れる冒険者の一部に、この水晶を強奪し売りさばく連中がいるらしい。
世界は違えど、転売ヤーはどこにも潜んでいるらしい。
つうか金目的で売りさばくな! 他のヤツのことも考えてやれよ。
金策したいなら、どこか自分の性に合っているクエストでも受注して周回してきてどうぞ。
そんなここにある水晶・鉱石は、乱獲することを禁じられているらしい。
「綺麗な鉱石の数々だけど、なにここ本当にダンジョン?」
「いえ、地下大帝国なのかもしれないです」
「どこから仕入れたのその発想? まだ私地底人にも会ってないよ!」
小学生が作った『僕の作った最強〇〇』みたいなことを言い出すシホさん。
大帝国ってなんだよ。地底人いそうじゃないそれ。いやいないか。
……不思議そうに、各々水晶をツンツンと触っているが、そんなに物珍しい品物か? 私のいた世界では、ダイヤモンドが高級な宝石だったけど、価値感がよくわかんないやアレ。
奥へ進んでいると、また開けた空洞が。
目前。緑色の単眼を持つモンスターが現れる。しかも2体同時。
如何にも脳筋っぽい見た目。小型の短剣と盾を持ち、舌丸出しにしたモンスター。……いやこれ子供泣くんじゃない? 違う?
スーちゃんが、私の後ろに隠れ怯えているんだけど、どうしたんだろう。
「どったの?」
「あ、あ、あ、あ……」
バイブレーションモードと化するスーちゃん。
身長差は、彼女と変わらないくらいの背丈だが、白い魔法使いさんはものおじしている。
今すぐにでも、涙が一滴こぼれ落ちそうな様子だ。
おい、落ち着け。 まずは落ち着くんだスーちゃん。
「あの、単眼のモンスターとても怖いんですよ。……しかも攻撃力が妙に高くて、私なんて100回くらい門前払いされちゃったんです。うじうじしていたら不意を突かれて攻撃されてしまいましたし……見た目がもう性癖的にきついです」
100回も戦ったって怯えすぎでしょ。
でも、まだ最年少。怖いものの1つや2つあってもいいじゃないか。
ここは戒めるより、影ながら生長を見守る両親のように成り行きを見届けたほうがいいかもしれない。頑張れスーちゃん。
「……逃げたらだめです逃げてしまっては……元も子もない」
でも明らかに闇雲に突っ走ったやつでしょそれ。
たしかに見た目はしぶるような感じ。下丸出しでよだれを垂らしている……あとこっち見んな。
考えなしによく戦ったものだと褒めてあげたいのだが、まずは年上としていいところみせないと。
最初は第一印象がとても重要だと、オカンから聞いた記憶がある。
だからここは苦戦している彼女の手助けを。
「安心して、スーちゃん私がなんとか助けてあげる」
堂々と前に出る。
図鑑が反応し、また説明を開始。
【グリムナイト 説明: 単眼持ちの戦士。小型だと思って舐めプしていたら痛い目をみるぞ】
舐めプってそんな柔じゃあないよ私。
華奢な見た目だが、気を取り乱さず集中して一点を攻撃することを意識すれば仕留められるはずだ。
どれ、実力のほどを試してもらおうか。
前にいる2匹。なにやら話しだして二手に分かれると、俊敏に壁際を駆け回りながら私にもう突進。おっとこれは挟み撃ち作戦か。速さは並のモンスター、はたまたそれ以上か。
「ザコのくせして生意気すぎだろ」
「……ま、前に集中を目にとまらぬ速さでこちらの方を攻撃してきます」
敵を見ると、まるで何体も分身しているように見えるのだが、なんだあの残像は。
持ち前のスピードを駆使して私目がけ斬り裂く。……やるじゃない。
「うわっとっ!」
こんなに素早いとか……個人的にモンスターのインフレの起伏が激しく感じてくる。
実際私の肉眼でも、素早く感じるのだ。目で追う余裕もない。
これが、がっかりするほどの雑魚だったらいつも通りに蹴散らしていたのだが。
こういう系はだいたい詰ませてくるタイプのアレ。パーカーなかったらどうしていたか。
壁を這い上がり、今度は空中から斬りかかる。
……ほう頭脳もそれなりにあるのか。私が空を飛べないと悟った上での戦法。俗に言うヒットアンドウェイ。
格ゲーや幅広いゲームでよく見る戦術。私も何度かこの手の戦法を繰り出すヤツは山ほど見た。
斬りかかるときもまた、残像を作り出して私の目を誤魔化そうとする。
傷をまた負う。
「大丈夫ですか? 愛理さん無理なら協力しますよ?」
いや、ここでシホさんに加勢してしまったらシホさんのエッチな姿が露出してしまう。……あ、待てよ、考えてみれば私も今そうなろうとしているのか。それはなんかまずいだろ。
するとAIさんがまた答えてくれる。
【パーカーは、衝撃がそれほど致命傷でない限り無傷ですよ】
斬りつけられた部分を見る。
先ほど斬りつけられた箇所は……無傷。
なるほど、なら問題ない。
「愛理さん?」
「なるへそ。……あぁ大丈夫だよシホさん1人で十分」
「私なんて、目で追うことすら困難だわ!」
「お前はせめて、補助系の技でも習得しろって!」
外やがなんかこそこそ語り出す。
「……あのすみません愛理さんって強いんですか?」
「当然。あんなヤツなんてイチコロよ。今は敵の動きをよく観察して目算か何かで正確に勝つ方法を見出しているから」
「……なんですかそれ、天才じゃないですか。弟子入りしようかな」
おいミヤリー聞こえてんぞ。って変なこと吹き込むな。……私はそんな頭いいほうじゃあねえんだぞ。い、妹がいたらなんて言われるか。
中学の頃なんて、いつも赤点取り小テスト受ける羽目になって。……え、そんな私が何したかって? そりゃばれないように隣に座る人の問題用紙をチラ見し、カンニングしたのさ。……みんなはまねするなよ。愛理さんとの約束だよ?
それはさておき、ミヤリーが言うように動きのパターンを正確に計算している……訳ではないのだがある程度、コイツがどれほど危険か概ね理解した。
「すっけすけだな」
コイツはあれ、初見殺しモンスター、はたまた人々の心にトラウマを埋め込むモンスターだわ。
狂政の生み出した言わば失敗作のモンスターなんだろうけど、パワーバランスおかしすぎだろコイツ。
とても序盤の冒険者がまともに相手して敵じゃあねえよ。
でも、だいたい攻撃の回路は分かったぞ。俊敏で動くこの尋常じゃない速さ。
不規則に走り回っているが、私の目を欺いて隙ができた瞬間を狙って、攻撃しようとしているんだろうけど効かんぞそういうのは。
私を誰だと思っている。引きこもりゲーム廃人の愛理さんだぞ。こんな豆粒みたいなヤツら屁でもねえ。
刹那。
両端に私の方に斬りかかってきたグリムナイト。その一瞬の隙を狙い。
ここだ。この瞬間を待っていた。お前達雑魚2匹が交差して攻撃を仕掛けてくるこの瞬間をだ。
ガシッガシッ。
「捕らえたぜ、なーんだ見破れば泥仕合になることなんてねえじゃん。緊迫が一気に沈んできたぜ」
2匹の腕を同時に掴み取り、力一杯に握りしめる。
もだえ苦しみ出すグリムナイト。
ふん。調子に乗るからそんなことになるんだよ。……頭が切れるヤツならパターンを変えて、違う戦法で敵に挑む。それがゲーマーの要ってもんだ。
私からしたら、こいつらは馬鹿以下はたまたそれ以下かな。
ま、でも少しはできるほうだったと思うけど、最後に油断したのは正直失望したぜ。
更に握りしめた腕に力を加え。
「うさぎ舐めんなよ! もう1度、1からやり直してこい」
両腕を使い、2匹諸共紐のようにぐるぐると回して天井向けて吹っ飛ばす。
ドゴーーーーンッ!
2匹は消滅地のもくずとなり爆散する。多少の地響きにより岩壁の欠片がいくつか落ち堆積となる。
お手軽なお墓? なるほど?
あっけねえ。
……スーちゃんに駆け寄り。
「もう大丈夫だよ。やっつけたから」
「……ありがとうございます愛理さん。ま、まさかあんな素早い動きを見切って攻撃するとは……ただ者ではありませんね」
中の人――愛理さん自身はただごく普通の人間だよ。
怯えていたスーちゃんはこわばった感じが脱力し、この通り活気を取り戻していた。
よかったよかった。……だがミヤリーお前はだめだ。
変な私の情報を流していたミヤリーに、怖い笑顔を送りながら私は。
「……な……なによその顔は」
小声で。
「ミヤリー。……今度変な情報を垂れ流したらぶっ飛ばすぞ」
自ずと、私のセリフに恐怖を覚えたミヤリーは目を逸らし、とぼけたような素振りで言ってきた。
表情を隠すのが拙劣なせいか、やせ我慢したような顔をして答える。
「わわわわわわ……わかっているわよ、駄弁は控えるわよ」
「嘘つけ、絶対次も言う気だぞ」
確信。
「だから言わないって……あちょ待って!」
ひとしきりの会話を終えると、ミヤリーの話を遮り先へと進んだ。
ドップラー効果で変な声が聞こえてくるが、オルフェウスの話みたいに私は後ろを決して振り向かないぞ。
あいつのことだから、必死にもがいて追いついてくるだろうと確信した私は3人で世間話をしながら前に進む。
「でさ……それでシホさんはお腹よく空くけどちゃんと戦ってくれるから戦闘面に関しては問題ないと思うよ」
「……なるほど。私も人のこと悪く言えない立ち場なので、お互い無事を祈ろうとした言い返せませんが……把握しました」
「あの愛理さん? それはそうとミヤリーさんは」
「あ、あいつ? 大丈夫あいつなら必死に追いついてくるよ」
「「こらーーーーーー! 愛理置いていくなぁぁぁぁぁあ!」」
うるさいミヤリーの声を聞いて、依然として元気なことを確認した私はほっとするのであった。
☾ ☾ ☾
【トラップモンスターには気をつけようぜ】
「仄暗さある部屋ね。こんな『ほんの暗い』部屋なんてことないわよ」
「寒いよサムネ。……あのさミヤリー、今のは狙って使った……それともきまぐれ?」
「な、何言ってんのよ。本心を述べただけよ。その『サムネ』って言葉はよくわからないけどきっとどこかの顔が利く偉人サムネロさんみたいな人から由来している言葉ね! きっとそこから派生して生まれた言葉で……」
くどいミヤリーの思慮が始まったので割愛。
なげぇ! それとお前の尺時間は2行分以内にしろ。
「先ほどからミヤリーさん、周りを見回していますが本当は怖いんでしょう」
「べ、別にぃ! ぜーんぜん床の軋む音が怖いだなーんて!」
はいはいブーメラン乙。
怯えるミヤリーはさておき。
階段を上り、なにやら石レンガ構築の空間に出た。中には9個の宝箱が用意されている。
あれ、これアカンやつ。
「おぉ……9個も宝箱が」
「……では慎重に開けましょう…………とミヤリーさん、なにもうわかりきったように開けているんですか⁉」
ミヤリーは不覚にも真ん中の宝箱を空け。
「いよおおおし!これで大金ゲットよ!」
と意気込み、果敢にその宝箱を開けるミヤリーさん。
「ちょっとミヤリーさん。うかつに開けては……って愛理さん?」
「…………ミヤリー、即座にフラグ回収しやがって」
嘆息。
私は首を横に振る。……そう、もう手遅れだと合図をだして。
その宝箱はミヤリーが空けた瞬間。禍々しい見た目のモンスターに化け、ミヤリーの方へかぶりついた。
「「ぎゃああああああああああああ!! あが」」
【ミヤリーフラグで死す!】
あのAIさん、いつになくノリノリだねぇ。
はい、ミヤリー案の定、死亡です……ったく無茶しやがって。
なんでこうも彼女は、死亡フラグを立てないと気が済まないのか。
「油断した。まさかモンスターに化けているなんて」
「変に思わないわけ? 誰だってあれあやしいと思うでしょ」
他一同頷く仲間。
その寂しそうな視線は彼女の棺桶へと向けられた。
かぶりついたモンスターはというと、元の宝箱へと擬態し再び姿を装う。
「ま、まあミヤリーさん仕方ないですよ。ダンジョンはいろんなことに遭遇しますし……ねぇ」
昔あなた、冒険者と旅していたんじゃないのか? それならダンジョンの1つや2つ入るだけでミミックに出会ったことあるだろ!
と言おうとしたのも取りやめた。
「いやさ、初心者ばっかり潜るダンジョンばっかり潜っていたから、こういうパターンのモンスター初めてで。いい経験になったなった」
「反省会はあとでいいから……」
経験皆無かよ。
名高い冒険者とはいったい。
加入時期にも寄ったのかもしれないが、ひとまず助けてやろう。
シホさんが前に出ると擬態化したミミック? は再び姿を変え前に立ちはだかる。
大きさは私たちとだいたい一緒だが、禍々しい舌と牙が特徴的な箱に装ったモンスターを一振りで。
「や!」
横に切払い。
「……え? 一太刀でまっ2つに切断されちゃいましたよ……得たいの知れない血痕がこちらの方に!」
「ま、待てスーちゃん! それ以上グロな言及は避けるんだ。R18Gにはこの小説設定してないからそこらへんにしておいて……でないとモザイク加工必要になってくるから!」
「あれ? もうちょっと骨がある敵かと思っていましたのに……残念です」
まるで演技の芝居のように、そのミミックは一撃で倒れた。
だからなんだよ、そのイカれた火力はよぉ。
いや、ギャグかなこれ。
相変わらず、とんでもない力量をお持ちで。どこから沸いてくるのその余裕はさ。
普通怖がるでしょこういうの。シホさんには主人公補正ならぬヒロイン補正でもかかっているのかな。
初体験のスーちゃんも驚いたのか、あんぐりとした顔して(かわいい)こうちゃく状態に。
「……父とよくモンスターを倒しながら精神を鍛えていたので、こういうのには慣れているんですよ」
ここにベテラン冒険者がいたよ!
まさかの猛者だったの? それ先に言って!
……そのままミヤリーの棺桶を引っ張りながら、私に向かって心配するような口調で。
「あの無茶は禁物ですよ?」
「わ、わかっているわよ。ちょっと油断しただけ」
ちょっとどころのレベルじゃあねえだろ。……というか今でも違和感を抱く。
何? なんで棺桶としゃべれてんの……普通のRPGだと話せませんってだから表示されるよ?
「蘇生魔法使えるんでいけますよ」
「まじ?」
「……(こくり) 魔法、常に鍛えているんで」
復活草をとりだそうとしたら、スーちゃんが開口一番に蘇生魔法を使えると聞き、私はバッグの取り出しを一旦止めた。
こ、これでもう私の介護は必要ないってことか。
って……おい待て、あの時どれだけ金使ったと思っているんだよミヤリー、私の埋没費用返せ。
スーちゃんは蘇生魔法を棺桶に向かってかけると、不思議なオーラがそれを被る。
「あぁじゃあ治しますね。……リターン」
するとミヤリーが復活し。その場でばんざーいして深く深呼吸すると、スーちゃんの手を両手で握り礼を言う。
「完全復活だわ! ありがとうねぇスーちゃん」
「ど……どういたしまして。魔力は有限ですが補助は任せてください」
「今日は必ず生き残れる(一部は除く)きあいのミサンガを忘れてきちゃったからね……助かるわ」
なんで忘れてきた。
ほう。これがこの世界における魔法。リターンか。
なんか近いうちに取得したいかも? 今持っている素材でできるかな?
【できません】
あ、ですよね。あはは。
AIさんに小馬鹿にされつつも、残りの宝箱を空けようとしていた。
あと8個か。内、8個何個当たりがあるか知らないけど、何か策はないかな。
というか中身が分かる物があれば…………。
…………うん?
待てよ。……RPGで中身が分かる呪文があったような?
「ねえスーちゃん?」
「はい?」
「ちょいと頼みたいことが……」
「……? なんでしょう…………か」
宝箱空けに苦悩する私たち。
そんな中、唯一の希望を彼女に委ね聞く。
覚えているか知らんけど!
頑張れうさぎさん。頑張れ愛理。まだまだ私達の冒険は始まったばかりだ。
読んで下さりありがとうございます。
結構ミヤリーって馬鹿キャラポジション。途端に死亡フラグ立てて飛び込んで殺されてしまう愚か者です。あ、決して完全な木偶の坊ではないのですが。
スーちゃんは全員からみてちょっと控えめな恥ずかしがり屋さんですが、うさぎさん達の手助けになる言い存在です。どんな魔法も使える超万能最強攻撃、防御、回復補助魔法どれをとっても臨機応変に対応する魔法使いです。まあ臆病者な可愛い一面も持っているのが欠点ですが。
さて、今週もあと1日頑張って書いていくので、皆様応援よろしくです。ではでは。




