表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
第3章 うさぎさんと棺桶に眠る少女
27/275

23話 うさぎさん、即死対策を練る

【とりま手助けをやってみるのも悪くないよね】


 数日後。

 私たちは、クエストを終えリーベルに戻り街を歩き回っていた。

 屋台の立ち並ぶ通りを歩いているが、街は横溢として活気に満ちている。

 昼下がりなせいか飲んだくれの人々もチラホラみる。泥酔もほどほどにしてほしいが……本心としては酒飲むなら夜にしやがれと堂々と前に出て言ってやりたい。アルコールのにおいが鼻にくるなこれ。


「愛理さん大丈夫です? 鼻なんてつまんで」

「私、アルコールのにおい無理……なんだよねすげーキツい」

「そうなんですか……私も苦手ではありますけどもう少しの辛抱です」


 彼女なりの、建前的な慈悲深い原動力なのかわからないが、そんな同情しなくてもいいのに。

 無理に笑顔を作り、眉をひそめている様子がとても気がかりだが詮索しないでおこう。


 冒険者同士で、戦闘訓練をしている様子も向こうの開けた場所から見える。訓練用の木製人形が何台かある。……遠くからなのでよく見えないが、深々と剣を打ち続ける人の姿が見える。……見るからに痛そうだが鍛錬は必須だよね。

 それはそうと、棺桶にいるミヤリーを今はなんとかしてあげたいのだがどうにかならないか。

 引きずるだけでも億劫なんだが、死者がしゃべんなお願いだからだまっとけ……と言いたくなるくらいに口が減らない棺桶娘。

 1人で考え込んでも時間の無駄なので、ここはシホさんにでも策を共に考えることにしよう。


「取りあえずさ、今ミヤリーをなんとかしないと後先苦労すると思うんだけど」

「「ま、まさか私を捨てて行くなんて考えていないでしょうね?」」

「そんなわけないでしょ。ほら、1度お店で買ったクワガタやカブトムシだって責任取って最後まで育てるとも言うし……ここで見捨てるだなんてそりゃクズの所業だろ」

「カブトムシ? クワガタ? ……聞き慣れない言葉だわ……し、シホだっけあなたはなにかそれ知ってる?」

「えぇと初耳です。ですが落ち着いてください……それはきっと愛理さんにしかわからない言葉なんですよ」


 例えが少しわかりづらかったか? この世界にも昆虫は……どうなんだろう。

 言い直すのもくどいような響きになりそうなので、ひとまずそれはおいておき。


 棺桶の中で暴れ狂うミヤリー。頼むから暴れ馬みたいに暴れないで。周りの人が怖がっているから!

 すると当然のように一言。


「なら早く蘇生させてよ」

「絶対駄目」


 蘇生をせがむミヤリーは放っておき、2人で策を講じる。当てとなる場所は検討もつかないがシホさんならなにか知っているのではないだろうか。

 こういう呪い系のものって、教会にいる神父さんやシスターさんが行ってくれるイメージ。代金がいくらかかるかは知らないけど……ここにあるのか?

 私は街に来てからそんな時間経っていないし、この中でベテランと言ったら彼女しかいない。というか私たち、まだ2人しかいないというのに他はいるわけないでしょ。


「シホさん、どこかこの子の救いになる場所知っていないかな?」

「……そうですね、取りあえず教会でも行ってみましょう。……もしかしたら今の教会の力なら彼女の呪いを解くことができるかも知れません」


 あるんかい!

 言いそびれたなどの理由で伝えづらかった……とか? 遠慮なんていいのに。

 ならよかった。これで蘇生薬を使うヘマも省けるな。

 よし。


「行ってみる価値はありそうだね。それじゃシホさんの言う教会にでも行ってみようか」


 シホさんの言う通り、今の教会の力なら解決策を何か持っているかもしれない。

 彼女――ミヤリーのいた時代は、まだ技術が追いついていない時代だったと仮定するなら今ならそれを浄化してもらうこともできるのではと、微かな希望を胸にシホさんに案内されながら教会へと向かうのだった。


【よく考えてから選択肢を選ぼう】


 教会、それはRPGによくある施設。

 セーブや経験値の数値を聞いたりする、プレイヤーにとってありがたい施設である。

 某ゲームだとやたらと復活料金が高かったり、場所によっては料金に差がでていたりもする。

 さて、そんなRPG脳を持っている私なんだが、現に目の前に映っている異世界の協会はいかなものか。


 街のとある通りにそびえ立つ屋敷のような建物。大きな屋根の頂上には教会らしい十字架が掲げられていた。

 大きな庭には草花が植えられており、整備がされた見栄えがある場所だった。

 花壇の方を見ると綺麗に植えられた花々が。園芸には詳しくないけど日本でも咲いている似通った花もいくつかあった。……あれはアネモネ? ……いや似ているけどなんか違う。

 扉の前まで歩みを進めいざ中へゴー。


 扉を開けると教会らしい神々しいステンドグラスの外観に、正面には壇上へと続く赤いカーペットが敷かれていた。長椅子が左右に数台置かれており、マジもんの教会だと確信した。


……今は神父以外誰もいないみたいだが、本題を神父にお願いしようと思う。

 RPGで見る内装だが、いざこの目で実際見ると物色したがる物がやたらと多く、どれも気になる物が多い。

 前に置かれた神父の机へと近づいて、ひたすら誰かを待ち続けるよう鎮座するその神父に私は話しかけた。


「あ、神父さん1つお願いしてもいいかな」

「……どうされました? ……棺桶がありますが蘇生でもご希望ですか。……少々手数料はかかりますが」


 神父がミヤリーの棺桶に目を付けると、私の要件を悟るように話を進めてくれた。というかやっぱお金かかるんだね。世の中甘くないということですねわかります。

 全てがセルフでないということを理解し本題へ。

 一応、蘇生も要件にはいるけれども理由は他にもある……結局ミヤリー絡みだが。


「蘇生もお願いしたいんですが、この子の呪いも解いてもらうことできます?」


 シホさんが私の話を次いで説明してくれる。こういうときに限って彼女は頼りになる。

 人絡みに関しては人並みの知識があるんでしょきっと。


「女戦士どの、取りあえず蘇生させてから話を聞くことにしましょう。……ではお代金を」


 私は銀貨99枚の蘇生の代金を払い……つうか高杉。あ、今のは別につうかと通貨をかけて狙い言ったわけじゃないから。

 レベルの数と同じ銀貨を払うことに対して、せめて銅貨にしてほしかった……と考える自分は一旦置いておく。


 ミヤリー再び蘇生。

 私はミヤリーをどこにも当たらないように、気をつけながら少女を教会の長椅子に座らせる。

 改めて思うんだけど、前に彼女を入れていたパーティのメンバーってどんな気持ちで冒険していたのだろう。

 ろくに飯とかも食えなかったのだろうか。顔に焦りを見せさせるパーティーの様子がふと目に浮かんだ。……絶対ひもじい思いしていただろうな~(棒読み)

 老人ホームの、過酷な介護する職員の気持ちがようやく分かったような気がする。


「気をつけてね」


 2人で片手ずつ、彼女の腕がぶら下がるように抱える。……障害物に当ててしまわないか心配なところがあるけれど上手くいくかな。

 神父さんが妙に冷や汗流しながらこちらを凝視しているが、なに? そんなにミヤリーの呪いって重症レベルの度合いなの? ますます気になる。


「ありがとう愛理」


 ミヤリーが一礼すると神父が彼女をじっと見つめる。

 呪いのオーラか何かを感じ取っているんだろうけど、目がガチすぎて怖いんだが。

 瞳孔をミヤリーの足に向けたりもしているが、この人本当に神父なのか?

 電車にいる新聞読む振りをする、JKをチロチロ見る中年のおっさんに通ずるものを感じるけどま、いっか。


 ……数分観察し終わった神父さんは私達にかかっている呪いの事を言う。


「冒険者……うさぎどのこの子は恐ろしい呪いにかかっていますね」


 そんなこわばった顔されても困るよ。唸りをあげ言いづらそうな声調だがどういった度合いで?

 恐ろしい呪いねぇ。だからその呪いってなんなんだよ! 質問サイトにアクセスできるのならもうとっくに投稿しているわ! 執拗(しつよう)な言い方するヤツから来たらガンスルーしますけど!

 転じて、いい加減そのうさぎという呼称にもだいぶ慣れはしたものの、いまだに馬鹿にされている感じが抜けない。


「それで治すことできるの?」


 しかし神父が言ってきたのは。


「いや申し訳ありませんが難しいですね、何にせよ、彼女はとても異質な状態異常でして。……ですが1つだけ手はあります」


 まじか。とあんぐりとした顔させ嘆息を吐こうとした時、一拍おいて思いがけない言葉が返ってくる。

 な、なんだと?


 現在の状態を完全には治すことはできないと言う神父。……だがそれ以外の手が1つだけ方法があると述べた。……他に何か手が残されているというのか。


「その方法って?」

「転職なら消せますよ。この呪い」


 ミヤリーの呪いを解く方法。それは転職だった。

 転職すると神父曰く、今までの情報(経験値・レベル)が全てリセットされるとのこと。

 これは状態異常も含むため、仮に治せない状態異常にかかっている冒険者でも転職すれば自然と消えるらしい。


 いろんなRPGで転職システムはあったけれど、こういうシステムは初めてみたな。

 全てリセットさせる代わりに、かかっている状態異常を全て消すってなんかめっちゃお得じゃあない?

 ……呪われた武器を装備しているキャラとかどうなるのかな。……今度狂政にでも聞いてみるか。


 神父に何かの職業に転職させてもらうよう頼めば、これでミヤリーの呪いは解かれる。

 だが、代償として能力が大幅下がってしまうのは一番の欠点ではあるが、これに関しては仕方のない事だと言う。

 犠牲を伴う方法ではあるが、これしかミヤリーの助かる手はない。


「どうするミヤリー?」


 だが、これを決めるのは私が決めることではない。

 どうするかはミヤリー自身が決めること。

 他者が強要してもそれは彼女のためにはならない。

 両親が息子に、自分の道を決めさせる時っていつもこんな気持ちなのかね。

 母にはいつも私のしたいことは私自身で決めなさいって昔言われていたな。そして、行き着いた先がネット廃人という自堕落などん底へ落ちてしまったわけだけど。


 あ、決してズルしたくてこんなことやってたわけじゃないよ。

 話を戻すけど、当のミヤリーは思い詰める顔は一切しておらず、それはおろか決心のついた素振りをみせ気だるそうな様子で応え。


「うーん。正直この職業飽きていたんだよね。……前線でパーティの主力として戦っていたけどそれももういいや。それに今は愛理と一緒にいたい気持ちの方が自分の中で強いというか」


 強さより、私達といる時間を延ばしたいミヤリー。

 あんなに置いてきてばかりしたのに、芯は強いんだな……長年培ってきた彼女の能力かな?。

 私もどちらかというと、私達と一緒に手を取り合いながら戦っていきたい。墓穴掘る部分もあるけどキャラはいいし、そこそこ頼りがいのありそうな人相に見えてくるんだよね。ここは否応なく彼女をパーティーメンバーとして受け入れろと、私の心がそう訴えているように感じる。


 だから彼女がそうしたいのなら、私はそれに賛同してあげるまでだ。


「じゃあ神父さん、私双剣で」


 2本剣を持つ職業に彼女は次の転職を決め彼女は神父に転職を希望する。


「双剣ですか……わかりました。では始めますよ」


 神父はなにやら呪文を唱え始める。

 よくわからない謎の呪文を唱え始めるが、これは転職時に行うなんかの儀式だろうか。私も転職することになるとしたら……いやなんだけど、あんな耳障りになりそうな歌を聴くことになるなんてべ、別の方法今のうちに探しておくか。


……ミヤリーの体が一瞬光ったように見えたがこれは転職していると考えた方がいいのだろうか。

 光りおわると神父さんが。


「おわりましたよ、これでもうあなたの呪いは消えました」



 いやあっさりだなおい!

 ステータスを確認するとミヤリーのレベルが1表記に。

 数値も全体的に低くなっており、私達の能力より格段に下回っていた。


「じゃあありがとう神父さん……よっと」


 ミヤリーは立ち上がり軽く服に付いたほこりをはたいた。


「試しに蹴ってみようかしら。……ぽんと」


 わざと足で椅子を蹴って死なないか確かめる。

 いや、確かめで教会の椅子蹴るなよ。……壊れたらどうするの。


「あ、平気だ」


 ミヤリーは死ななかった。

 以前のように、棺桶へすぐに入ることは……なく、何事もなくその場にちゃんと居立つ。

 ようやくかと私達もほっと一安心。


「ありがとう愛理。……改めましてだけど迷惑じゃなかったら」

「もちろんだよミヤリー」


 いろいろ迷惑かけそうな子ではあるけれど、見捨てるのはかわいそうだしいくら変なレッテルがあるとしてもだ。だからこうして仲間に迎え入れる。……苦難の立て続けが待っていることに関しては言い知れぬこと。しらんがな。

 シホさんの方を振り向くと、いつものように朗らかとした彼女が「うんうん」と首肯していた。建前ではなくこれは本音だろうね。


 なら迷うことはない。ここから先ミヤリーが再び見捨てられそうなことに直面したとしても、私は絶対に少女の手を離さない。

 だって笑い合え助け合うことのできる最高の仲間だから。


 こちらの方に振り向き、感謝の言葉を添えるミヤリー。とても仲間になりたそうな顔をしていたので手を握り目を合わせ当然のようにそれを迎え入れた。

 こうしてミヤリーの第2の人生が始まったのである。


【一応一件落着ってやつかな でも私達の戦いはこれからだ!】


「これからもよろしくね。……あとシホも」

「はいこちらこそ改めましてよろしくです」

「うんよろしくねミヤリー」


 教会を後にして今夜泊まる宿屋でお互いにこれからの事を話し合う。

 レベル上げのことだったり、行きたい場所だったりその他諸々。


「ところでミヤリーあなたのランクっていくつ?」

「はい」


 ミヤリーは冒険者のカードを手渡してきて。


「え⁉」

「げっ」


 その字を見た瞬間、目を疑った。

 ランクが明らかに私より上だったことに疑いを隠しきれず。


「Sランクってなに? 裏山すぎる」

「私でもAランクするのに1年はかかりましたよ」


 2人で小声で話す。どうやらランクまではリセットされないようだった。

 というかこれそういう仕様だったのか。こりゃたまげたなぁ。

 そんな羨ましがる私達を余裕そうな表情で見ているミヤリー。そして。


「私、前のパーティでは難しいクエストばかりやってたからね。……だから自然とSランクになっていたのよ。……まあ死ぬようになってからは全く上がらなくなったけど」


 申し訳なさそうないいぶりだが、『私前のパーティだと強すぎちゃったんだ』的なマウントを取るような口ぶりに私には聞こえた。愛理さんでもまだAランクいっていないのに1人だけずるいぞ、周りにレベルを合わせるとかそんなやつあるでしょ。

 話題を切り替えるごとく、ミヤリーが何か言ってきた。それはとても耳寄りな興味深い情報だった。


「そういえば、棺桶にいる間とある情報をここリーベルで聞いたんだけどさ」


 ごくり。


「なんか、最近見慣れない少女を目撃したって誰かが言っていたわよ。……しかもその子魔法使いなんだって」


 なにそれめっちゃ欲しい人材。


「それはいい情報ですね。……探しますか? 愛理さん」

「勿の論だよ」


 魔法を使える人が欲しいと思ったこの頃。

 明日、私たちはその謎の魔法使いの手がかりを探すため、また外へ探索しに出かけるのであった。

 ……どうでもいいことなんだけど、さっきから視線を感じるんだけど気のせいかな。……気のせいだよね?

読んでくださりありがとうございます。

暑さのせいでちょいと眠気気味ですがそれでも手は動かしています。

さて、新しく新たな仲間ミヤリーが加わった訳ですが、結構この子すぐ死ぬんですよね。

即死の呪いはなくなったものの実は今後もすぐ乙します。

まあでもさすがにこれ以上蘇生薬に頼っていると愛理の手持ちがすっからになってしまうのでここでさらに新しい仲間の登場です。

次の章、その魔法使いが出てきますがちょっと意外なキャラかも。

今日は少し疲れ気味ですので、1本投稿とさせてもらいますが明日もまたみてくださるとなお嬉しいです。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ