232話 うさぎさんたち、深い森の中で戦う
【似ていれば、どうにかなる。でも事前に情報収集は徹底しよう】
抜け道に向かう道中。
空は晴れ渡っているというのに、森の中に蠢く闇は深かい。
木漏れ日もほほ見えない状態で。
仲間のスーちゃんが使う照明の魔法が頼りだった。
進路だけが苦というわけではなく。
それ以外にもてこずる一方。
がーもう。
次から次へと出てくる敵もうっとうしい。
コウモリ似のモンスターや。
擬態能力つーの? キノコに化けたモンスターやらもろもろ出て。
対処。
「グブブブッ」
大きな蛇腹を持つミミズも中には出現した。
毒々しい茶色い見た目は。
ヘビなのかミミズなのか区別できない。
巨大な蛇腹を。
地で這うように進む猛攻は。
私たちの行く手を阻む。
力強く手で。
大剣を握るようものなら。
「ふんむ! うわ。邪魔されました」
地を思い切り叩きつけて妨害。
衝撃とともに飛んだ。
瓦礫の断片が飛び、土煙を同時に発生させるところがまた。
やっかいなところ。
「あいつ、わりと賢いわね」
「関心している場合か、次また来るぞ」
攻撃できるタイミングを見計らい。
軽く拳でしかけても、身を引きずることはできてもかすり傷程度。
「ラビットパン……ち?」
きかにゃい。
「グブォオオオ!」
上部からたたき落とされる尻尾。
場所が私のほぼ真上という射程だ。
「……させませんよ。ガチル!」
体が鉄のように硬くなる。
すると、迫ってくる攻撃をそのまま受け流し払いのけた。
反発でも食らったかのように。
攻撃が反り、強大な図体の体勢を崩す。
どうやら彼女が今使った魔法は。
一時的に、防御力を上げてくれる補助魔法だったらしい。
「サンキュー、スーちゃん」
「……当然のことをしたまでですよ」
「うん? ミヤリーさんまた突っ込んでいって……」
倒れた拍子を見計らって。
長剣二本を持った彼女は距離を詰め寄った。
上に向かってジャンプし。
「斬り落とすつもりなんですかね」
「さぁ。いつものことじゃんね?」
「フフっ。今日こそは活躍の場を見せてあげるんだから」
振り落とされる二本の刃。
早々に切りつけると、危険を察したかのようにミヤリーは下がる。
「グブブ……」
「や、やったかしら」
拳を手前に引いてガッツポーズしているが。
それ、絶対倒せてないやつだろ。
大抵生き残っているパターンですね。
わかります。
「うん、ミヤリー、そのセリフはだいたい仕留めそこなって、これからやられてしまうヤツが言う典型的なセリフだから」
「軽い気持ちで浮かれて言っていると、痛い目に合うと思うよ」
「それも愛理の言う死亡フラグってやつなの?」
「ご想像にお任せします」
適当な返事をして。
前方を向く。
「……手応えないみたいですね」
目深になりながら。
少し考え出す。
持っている杖を動かしながら、少々戸惑っている様子をみせる。
今、相当なにをするべきか迷っているみたいだな。
眉寄せが目立つし焦り気味なのか?
まあいいか。
巨大な伸びた体は。
木々を薙ぎ倒し私たちの位置を分断させてくる。
敵はペースを落とさず、大きな地面の物音を響かせて猛突進。
「ちっでけー図体しやがって」
実際体が隠れるぐらいの大きな体だ。
正面から攻撃。
というものなら、地面を強く蹴らなければならない。
毎回のことだろって?
言われれば返す言葉が見つからないなぁ。
「呑気に言ってる場合じゃないですよ、この森思ったより深いですから最悪迷子になる可能性も」
「それは嫌だな」
「グブルッ!」
こちらのほうに尻尾を薙ぎ払ってくる。
巨大な尻尾。
あれをまともに食いでもしたら、ひとたまりもなさそうだ。
てか飛ばされでもしたら最悪じゃね。
暗いし逸れるって。
ち。
かくなる上は。
「シホさん頼んだ!」
士気をうながすように声をかけると。
反応してこちらをみてくる。
そして、任されたように拳で軽くこちらに合図を送り。
動く。
「まか……されましたよ! ふんッハイパーガード!」
前に出た彼女は。
間を置かず、持っている剣を傾け倒した。
そして盾を前に出し、一声とともに現れたのは。
巨大な防御壁。
向こうから。
魔法の補助を受けてもらっている、ミヤリーの声が聞こえてくる。
小柄な彼女も一緒だ。
「……ミヤリーさん、これなら持続ダメージをある程度なら大丈夫です」
「ありがとう、じゃ行ってくるわ」
2本の剣を再び袖から出す。
走り始めると、敵の尾による強大な攻撃も。
掻い潜って避ける。
「無駄無駄無駄無駄よぉッ‼」
「徹底的に叩きのめしてあげるんだから」
素早い動きで敵の背後に回り込む。
少々ピンチな状況に陥ったこともあったが。
倒された木を壁代わりにしたり。
はたまた投げつけたりと。
剣士らしくない多芸を披露する。
カウンター技でもそのうち覚えそうだな。
「大きすぎるからついてこれるわけないわよね」
目で追おうとしても、彼女の移動速度にはついていけず。
斬撃が次々と走る。
小刻みではあるが、刻んでいくうちに敵は大声を上げていく。
1発や2発程度では大したことはないだろう。
がしかし。
それが大木の切り傷のように、何層も切り刻まれていくとなると。
「まあそりゃ、口が広がっていくよなぁ」
「グブッ!」
「遅い!」
先ほどの威勢はどこへ。
傷が広がっているせいか、余裕がだいぶなくなってきている。
むしろミヤリーが圧倒。
といった感じで。
「ほらほらほらほらほらほらぁ!」
黒炎がまとまりついた剣が敵の身を切り裂く。
素早い動きを駆使しながら、ひききりなしに攻撃をしかけた。
まさか私の出番奪っちゃう系のやつこれ?
「ふん、たまにはみんなに私だって死んでばかりじゃないってことを教えてあげるわ」
「グブッ……ッ!」
たしかに今回はいつもより。
長めに持っているように感じられる。
自分を馬鹿にされているように思えたのか。
矛先はミヤリーとスーちゃんに向けられる。
遠くで見ている私たちは、もはや観客気分。
「フレイア! 続けてアブソートです」
ミヤリーを援護する形で。
彼女は立ち並ぶ木々を壁にしながら、氷と炎の魔法を交互に繰り出していく。
接近戦重視のミヤリーは退くことなく攻撃を続けるが。
「スーちゃん今よ」
「……任せてくださいストリプ!」
キリのいいところで。
スーちゃんに声をかけると、魔物は身動きの取れない状態になる。
さてそろそろ仕上げだな。
ようやくこちらの出番。
「シホさん、私を上に投げて。一気に仕留める」
「わかりました、そーれっ!」
私のほうを見てない隙に。
足を前に突き出して、放つ。
「10倍ラビット・キック!」
落下するように放ち蹴る。
衝突の間もない秒単位で、魔物の体――頭に直撃すると。
押し倒されるように横たわる。
「ぐぐぐ……」
最期のあがきか。
踏ん張りながら立とうとする。
しかし。
相手の体は既に限界を迎えていたようで。
\ドスン!/
敵は「グブ……」という声をあげて。
地面に横たわった。
運が良いのか。
はたまた悪いのか。
「一応近づいてみようかな」
仕留め損なわないようにと。
念入り近づいて、倒したかどうかを確認する。
「完全に止まっている。よしなんとか倒したな」
「やりましたね」
「とんでもない暴れん坊だったので、一苦労でした」
暴れん坊と言われればたしかに。
結局、ヘビなのかミミズなのかよくわからなかったけれど。
まあ、いいや。あとで確認しよう。
息絶えたことを確認すると、ふと一安心。
仲間の無事も確認し。
深い森の中を再び進んだ。
「あぁなんかだいぶインフレが加速してきてんんなぁ。パワーバランス大丈夫かよ」
【図鑑更新】
【ワームスネーク:毒性は持たないが巨大な体を持つ魔物。冒険者数十人がかりでようやく倒せるタフな魔物である。大大陸でも広く分布しており、農家の作物を食し荒らす害悪モンスターとして指定されている。ワームスネークとあるが、ヘビとミミズの混在種ではない。研究者の間ではヘビ派とミミズ派で分かれている】
って結局わからんのかよ‼