230話 うさぎさんたち、道を往く その2
『噛む』は『噛む』です
間違えないように
【名前と意味は時々似て非になる物になる】
「なんだよカムカメレモンって」
あんぐりとした顔で見つめる。
いやぁこれ小学校の頃よく食ったわぁ
と言わんばかりの物。
それがなんで私の目の前にある、なぜか。
いや、こっちが聞きてーわ。
軽い望み程度で、AIさんに同情を求めると。
【AI:調整中w】
なにわろてんねん。
真面目になってくれAIさん!
「……それがどうしたんです? 体固まってますよ」
「あいや、美味しそうだなって」
「ふーんこれがねぇ……」
ミヤリーは身を乗り出しそれを見つめる。
そしてミヤリーは微笑する、私を見ながら言った。
「愛理、また私を突き出そうとしているじゃあないでしょうね?」
1度、ごまかしように口笛を吹いたあとに。
「な、なんのこ〰︎と〰︎か〰︎な〰︎? ミヤリーちゃん」
とぼける口実が下手すぎて笑えない。
おっとミヤリーさん、まじまじとなんかこっち見てますよ。
なんか悪いこと言ったか?
「毎回私を危険な状況における試験体みたいなエサにしてくるけどさっあんた……あと読者さんは『またこいつエサにしてんぜw!』とか思うからいい加減雑用やめてくれない」
メタ発言おつ。
おまなに言う案件。
唐突になに言い出すんだこのポンコツは
と言われても愛理さんシラネ、からな。
妙にテンパり気味な彼女に対して、肩をくすめ言う。
「いいかミヤリー、何事にも犠牲はつきものなのだよ、つーことで“今日”も頼むよ」
「なにを偉そうに調子乗っちゃって、これじゃ私のイメージがとことん悪くなる一方だわ」
私の言葉、完全に喧嘩売っている系の侮言だこれ。
クソセリフしか言えんのか私は。
「あんた、私をなんだと思ってんの。召使いでもないんだからね」
「だってお前実質無敵じゃん、ここは騙されたと思ってやってくれ」
「あ〜ん〜た〜ね ムッカ……」
指差してくるミヤリーの横で、スーちゃんとシホさんが。
「……ドクシャサンとは? シホさんなんのことかわかります?」
「スーさん、あれは私たちには到底理解できない世界なんですよ」
「……そうなんですね」
涼しい顔で淡々と話す2人。
「まあとにかく、今日はアンタが身を貼りなさいよ ほいおばあちゃん、これ3つちょーだい♪」
と硬貨を出し笑顔で大声で……ってノリでなにやってるだっおメェはよぉ!
「はいよ〜髪長の金髪お姉ちゃん。仲がいいのねぇ。まるで姉妹みたい」
こんな愚鈍な妹いらねーよ。
まあ実の妹はいるけれど……こんなうるさくねえ!
やや背骨が曲がり気味な、頭巾服を着たおばあちゃんは我が子を見守るようにうんうんと頷く。
……いやガチで助けてお願いします。
そんな切実な私の願いなんぞ、届くわけもなく。
「さぁ愛理覚悟!」
口を強引にに開けられ。
「なにをするくでごぼぼぼぼ……」
この程度で、と言おうとしたが声が出なかった。
拷問かこれ。
うさぎの拷問とか聞いたことねえよ。
まあ自業自得ですよね、しょーがないよねぇ。
ってのんきにそんなこと言ってる場合じゃあねえ。
横の2人! 頼むから半目な顔でこっちを情けないような感じで見るな、見るなァーッ‼︎
というかマジで助けてくれません?
すると。
「……ってミヤリーさんそれ!」
「ゑ」
スーちゃんが何かを思い出して忠告しようとしていたが、後の祭りになり。
口の中に入れられる。
ゴクン。
「……遅かったですね」
「ひたいに手つけてどしたのよスーちゃん?」
「愛理さん大丈夫です? 詰まってないですよね」
「大丈夫な、は……ず?」
なんで不安気味に目逸らしてんだよ。
自分の言葉には、責任感持てって習わなかったんか。
と味は。
弾力の中から溢れる酸味。
程よい果汁の酸いが。
ってほぼレモンじゃんこれ! いやまんまだこれ。
【AI:レモミアナの実。ほぼレモンですねこの原料】
解析によると、レモンそのものらしい。
この世界だとエルミア大陸だと、レモミアナと呼ばれているみたいだ。
大陸や地域によって違うみたいだけれど。
共通語の略名がレモンとなっているらしい。
あらましで言うと、早い話いりこと煮干しの違いだな。
たしか東が煮干しだった気がする。
【妹の知恵袋※いりこは西の言い方、煮干しは東の言い方だよ】
うーん味ええやん。
案外いける。
ミヤリーも時には。
「よちぃ。みぶな」
「愛理さん?」
「あんた何言っての……」
あれ、喋ろうとしたらなぜか呂律がうまく回らない。
もう一度。
「あでべ? どぼぢだどぅんば?」
?
なにが起こってるんだい。
え、なにがって?
いやこっちが聞きてーわ。
喉はうまく機能しているはず……にもかかわらず発声がうまくいかない。
なんでだよ、私の体どーなっちまったんだ‼
すると心の中で苦悩にうなされていると横から。
すっす。
スーちゃんが裾を引っ張ってくる。
「愛理さん愛理さん」
「?」
「実は……そのカムカメレモンは……安心して心して聞いてください」
こそこそ
小さな耳打ちのためなかなか聞き取れなかったが、復唱を重ねるように何度か言うと次第に声を大きくしてくれた。
そして私はとんでもない、衝撃のあのブツの隠された能力を知る。
いや知ってしまったと、後悔を表すようにこれは言ったほうがいいか。
その内容とは。
(え、なんて)
スーちゃんは言った。
「カムカメレモンって」
「単に噛むと味が出るんじゃなくて」
「噛めば噛むほど、噛みやすくなるんですよ」
※言葉を噛みやすくなる的な意味で
((はぁ〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎ッ⁉︎⁇))
『噛む』ってそっちの『噛む』かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ⁉︎⁉︎⁉︎
「ふぉいびばびーぶばべんば!!」
(おい、ミヤリーふざけんな!)
恐れを感じたのか、ミヤリーが間合いを取ってシホさんの後ろに引き下がる。
おいチキるな。
「その、ミヤリーさん愛理さんに頭下げたほうがいいのでは」
「わ、私は悪くない! だから愛理悪く思わないでよね!」
思うわ! ふつーに理不尽だわ。
人に押しつけていくつだなんて……私は露知らず。
「そのミヤリーさん、愛理さんがしかめっ面であなたをにらんでるんですが」
「謝ったらそこでおしまい、私はまだ自分を低脳な女だとは認めてないわ!」
なんの漫才してんの2人とも。
「……まあまあ落ち着きましょうよ、このお菓子数十分もすれば効力はすぐ取れますから」
1個あたりの換算して30分だよ、アニメ1本分の時間だから!
でも永久じゃなくてよかったよ、いや逆にそれはさらに理不尽すぎる気がする。
というか愛理さん思ったんですけどね、これもう特急呪物じゃない?
頭の中で呪いのBGMが鳴りっぱなしなんだけども。
題して誰うまな、『噛む』と言っても『噛む』は違う噛むの噛むだったそのカムカメレモンは治癒するまで少し時間を要するのだった。
ミヤリーめ、今度仕返ししたろ。
☾ ☾ ☾
屋台の街を抜けようとすると大きな橋が見えてくる。
スーちゃんの調べによれば、ここから先の出入りはとても厳格に防犯を徹底しているらしく。
冒険者カードとは別に、入国証を購入しなければいけないらしい。
どうも高い身分・経済のある大きな国々があるらしく制度がそれなり厳しくなっているんだとか。
入国証は受付で販売されていた。
3列分、あるので並んで……と人も多く時間は長丁場になりそうな状況。
そして一緒に並んでいた私たちの番が回ってくると冒険者カードを提示し入国証を買う。
その最中。
「その3つください」
私を先頭に後ろと横に仲間が控え。
「はい愛理さん、皆さんの分です」
それぞれの布袋から取り出した硬貨を取り出してシホさんが集金して渡してくる。4人分の物を受付のお姉さんに渡して処理をすまし。
「はい、銅貨12枚ちょうど受け取りました。往復は二回までとなります」
無事橋を越えて歩き出す。
「……ここから先だと1つ目の国に着く頃にはもう真っ暗ですよ。泊まっていったほうが良さそうかと」
「狂政が言ってた例の国はエルミア王国だっけ? あそこってまだまだ先なの」
「……えぇ、その一帯の中心辺りに位置している王国ですからね、1日ではつけそうにないですよ」
「ならそこで一旦泊まりましょ」
「よし、そんじゃ最初の国に向けてまた出発だ」
狂政に頼まれていた国はまだまだ先のようだった。
果てしない、私たちのスパルタな旅はまだまだ続きそうだと思うと、仲間とともに再び歩く。
さて、次はどんな冒険が待っているかな。