227話 うさぎさん達は無名の遺跡に潜る その4
詰み技によって苦戦を強いられることになったが。
スーちゃんはお得意様の魔法を使用できず、彼女の攻撃手段はほぼ封じられたも同然だった。
迫りくる攻撃を前に策を講じているとスーちゃんが口を開き。
「……手がないとわけではありませんが」
と少々媚びるような素振りを見せて、眉をひそめ不安な様子をさせていた。
「マジで? それなら早く言ってよ」
「……い、いえ大した打開策になるとは言いきれないので!」
少々躊躇っている様子。
まあ本当だったら自分で一任できたりするが、ほらチームプレイってやっぱ大事じゃん。
大切なのは助け合うこそであって、単独ですべて解決できるとはかぎらない。
「……愛理さんなら、私がいなくても本当は1人で解決できちゃいますよね? ならなぜあえてそうしないんですか?」
ものおじしながら体中を震わせるスーちゃんの肩に手を優しく置いて言う。
「へへ。たしかにそうだけど、私は1人で乗り越えたいんじゃあなくて、みんなと乗り越えたいって考えてる……わかる? やりがいのない攻略法なんて1人が得してもそれを共感してくれる人がいないとつまんないからね、それがチームワークってやつじゃあないの、スーちゃん違う?」
「……勝利を分かち合うのは仲間あってこそですか。……そうは言いますけど愛理さんも1人で突っ込むところもありますよね?」
痛いところをついてくるなこの子。
でも一方的にこちらを責めているわけではなくて、むしろ綻びを覚える。
先ほどの不安が少々ほぐれたそんな様子。
「う、面目ない」
「……でもそういうところが愛理さんらしくって私は嫌いじゃないですよ。なら私はあなたのその言葉を信じて先に待つ『勝利』というものに希望を委ねましょうかね」
スーちゃんに笑顔が戻ると、彼女は立ち上がった。
横から顔を少々覗くと、頬をやや紅潮させる素顔が窺えた。
一応説得できたかな。
「シホさん大丈夫?」
「ええなんとか、これぐらいまだ余裕です!」
盾を前にして持ちこたえるシホさんは魔力による攻撃を受け流し、さらには直接迫りくる攻撃に対しても迅速で剣を振り払い敵を退いてうた。
ミヤリーも周りにある柱を壁にしながら、前へと進み攻撃し現在対処。
「ふう、払っても払ってもきりがないわね。おっと。まあ魔法が使えないスーちゃんのためだからね、ここはビシッといかないと!」
お前はそもそも当たっても、ほぼ無敵のようなものだから壁にすがる必要は皆無だが……まあいいそこはバカは切れるってことで!
「…………愛理さん」
「うん」
相槌を打つ。
ミヤリーの戦闘スタイルを見ると、それはまるでインドアゲームをする玄人のようにも見え勇ましかった。
「いつまでその盾にすがっていられる? 弟の剛力は大岩をも砕くぐらいの力だぜ?」
「そうだ、柱の1つや2つ屁でもねえぜ!」
「へぇそうなんですか、でもずっと前だけを集中していいものなんですか?」
「なにを言う、お前の盾を弟との連携でやれ…………ば?」
「あ、兄貴? どうしたんだ」
「おや、ようやく気づいたんですね」
正直今酔いそう。
息を殺しているだけでも精一杯なのに。
2人だとなおさらだ。
でもその結果。
「おいアルッサ! 盾に隠れていたやつがいねえぞ!」
敵の視線をうまく逸らせたんだから。
「な、なに⁉︎ あいつらどこへ行った」
四方を見渡すがそこに私の姿はない。
だってそこに私を見つけることなんて到底不可能な話だから。
「……バーカ。上だよ上!」
「なっ!」
「なっ!」
私はミラクルにチェンジしてスーちゃんと共に、壁に真下を見るよう張り付いていた。
そうこの隙を狙ってね。
「もう遅い。……スーちゃん今だよ!」
スーちゃんはとある小型の瓶に詰まれた粉を放って振り撒けた。
「えいっ」
瞬く間に薄紫の煙がたちこめると、視野が塞がる。
「な、なんだこの煙は? ええいこんなものッ。……なに、光が出ないなぜだ!」
「スーちゃん今なら魔法が使えるよ!」
天井から勢いよく飛び降りると、スーちゃんは念じるようにして魔法を唱える。
「えぇわかってます! たッ……テンプス!」
場面が切り替わり意識が戻ると、スーちゃんのフレイ・イグニストが炸裂していた。
「いっいつの間にこんな炎がぁっ!」
スーちゃんの振り撒いたその粉は。
一時的に範囲内にいるものの効力を一時的に無力化させるという特殊な粉。
これによってあの厄介な石の力も消え、スーちゃんは再び魔法を使えるようになったわけだ。
自分に降りかかる効力は、私のパーカーが持つ力の一部を使い補助的役割をさせた。
これにより一瞬ではあるが、魔法を使える瞬間生まれたというわけ。
テンプスを使えば、この効率は2倍になり軍配はスーちゃんへと傾く。
先ほどの炎魔法は時止め中にと唱えた魔法なのだろう。
敵のすぐ前にあったので、まず軽症ですむことはまずないだろう。
さて敵はどう出るか。
だが敵は体を左右に揺らしながらも、辛うじて立とうとする。
あれでまだ戦う気力があるとは。
まったくタフな野郎だぜ。
べガッサは再び立ち上がると、魔力の石を使おうとするが。
しかしよく見ると、その手には石がなかった。
目を見開き動揺し焦りをみせる。
「な、なに! い石はどこに」
「……悪いですけど先ほど取らせてもらいました」
スーちゃんの手にはあの石が。
そう時を止めている間に石もついでに奪ったのだ。
「……手こずりましたが終わりです」
「やっちゃえー、スーちゃん! そんな牛野郎なんてやっつけちゃえ」
目の前に交差する炎と水による、混合魔法が炸裂すると、攻撃に飲まれ壮大な魔法が止む頃に敵は。
そのまま地面に伏し意識を失った。
「やったねスーちゃん」
「……えぇこの上ない勝利の喜びです。大丈夫ですか愛理さん?」
スーちゃんは倒したあと私のほうに近づいてくると。
笑顔で倒れている私に、やさしく手を差し伸ばしていた。
「ありがとうスーちゃん、言ったでしょチームワークは大切だって」
「……えぇ愛理さんの言う通りです。えへ」