226話 うさぎさん達は無名の遺跡に潜る その3
「どう出るべきか……なんかなぁ」
不意にまたしてもミヤリーが踊り出て行ったわけだが。
お前、タンク枠にでもなりたいのか。いや立場上向いてねえだろ状況弁えろって。
「とりあえず私がこの盾で」
「……後ろで魔法を使って援護しますよ。大丈夫です、ああいうゴッツイタイプのモンスターはだいたいは力重視が多いですから」
「スーちゃんそれは、率先してうかつに突っ込んであっけなくやられていく、死亡フラグを立てる典型的な禁断の言葉だからやめたほうがいい」
かわいそうだと思い、スーちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「……こんな時になにやって。シボウフラグ? 愛理さんの国でははやってるんですか」
「ま、まあね」
「ほら早く行きますよ」
と盾を前にして走っていくシホさんを後ろに、私とスーちゃんは彼女に続いていく。
「まだ潜んで……ぷ、おいみろよ1匹へんなうさぎ服着たヤツがいるぜ!」
「マジじゃねえか! なんだその、いかにも遊びに来ましたって言ってるような出で立ちは」
両者共々、湾曲とした大型の角を生やした牛を模した獣人である。
獣人……そういやあいつまた復讐しにくるぞと言ったきり姿みてないような気がする。
モウモウまたなんてそうだが……それはともかく。
太々しい見た目の体にはそれに合わせた甲冑の服を身にまとっている。
いかにも重そうに見えるが。
「変で悪かったな、私の仲間がおバカだから作戦練る前にズレが生じたけど」
首をかしげてなんのことだと互いに顔を見つめ合ってから、再びこちらに視線を戻す。
「いやこっちの話だよ。おめぇーらか村の人たちを困らせている2人組は」
「あのクソみたいな村か。つい最近強力な魔力の石がここに眠っていると聞いたもんでな、それで手に入れようと潜ったわけよ。おかげで強力なものを得た、ふふ見ろこの満ちあふれる魔力を!」
吹き荒れるがごとく、ベガッサは手に持つその石、水晶を振りかざす。
禍々しい紫色の光が私たちの視界を暗ます。
「く、まっぶ!」
「あれどんな力が蓄えられてんのよッ」
するとシホさんのすぐ後ろに隠れたスーちゃんが飛び出して、杖を前に出し呪文を唱え始め。
「フレイヤ!」
だが。
「ふふ、白髪の嬢ちゃん手元をよく見てな」
「…………な! 呪文が唱えられない、どうして」
なぜか呪文が不発におわった。
スーちゃんが失敗したとは言い切れない。
それならなぜだ。
「おらおらおらよ!」
子分であるアルッサに鋭い角で追い込まれ、小さい体にもかかわらず徐々に距離を追い詰められていく。
時期に退く場所もなくなりそうで防戦一方だ。
「フレイヤ……フレイヤ! やっぱりだめです、なにやっても不発で……ぐふ」
呪文が使えなくなった彼女は一方的に責められて、なんとか杖の先で突きを狙うも懐に隠していた強く握った拳で近くの壁へと叩きつけられた。
「スーちゃん!」
「平気です……はぁはぁ、魔力の不調? いや違う、ちゃんと魔力は正常に感じられます……なら………………もしかして」
スーちゃんは起き上がって、自分の手のひらを見つめ出す。
魔力は問題なく、巡回していることを確認すると数拍の間。
“何か”に気づいた彼女はそれを悟ったかのように、ベガッサの持つ石に瞠目した。
彼女が気づいたその異変。
それは。
「ほう気づいたのか、俺たちが知らん合間に細工を仕込んだことを」
「……えぇわかりますとも。似たような力を持つ品物を祖国で見たことありますから」
アルッサはベガッサの前に再び立ち塞がると再び身構える。
そしてスーちゃんは、石を指差すようにして言う。
「その石には、単に魔力による力の増幅を可能とさせるわけではないでしょう。……それには魔力そのものを遮断させる力もある!」
「えーとスーちゃんどいうことかな」
「いいですかミヤリーさん、つまりですよ」
そう、あの魔力の石には。
スーちゃんが言う言葉を私なりに解釈すると。
魔法を封じ込める、対魔法メタの道具なのだ。
「つ、つまりあれがある限りスーちゃんの得意とする魔法はなんの意味も持たないってこと? それ卑怯じゃない?」
私は言う。
「おい、このクソハメコミ野郎め、戦うなら正々堂々と戦うってのが筋じゃねえの?」
2匹は交互に答える。
「正々堂々だと? 笑わせるな、はめられたほうが悪いのだ。厄介な魔法使い相手ならこれ1つで対処できてしまうからな。これなら魔法使いも怖くない」
「あぁこれさえあれば、強力な魔法使いだって怖くない、あのグリモアって言われている国も無に帰するってな」
するとアルッサはベガッサは、魔力によるまばらな攻撃とアルッサは近接で敵を追い込もうとする。
「ラビットライフルは……ち、こっちもだめか」
試しにラビットライフルを使おうとするも、案の定魔力を源としているのでいくらトリガーを引いても発砲されなかった。
得意の加速で距離を詰められていくスーちゃんの元へ、迅速でかけより彼女の前に立った。
「スーちゃん、チェンジ、アース!」
片面をアースへと変えて地面を力強く叩く。
すると地面の破片が硬い人を覆えるぐらいの壁を貼る。
「作りはしたけど、大丈夫か」
前から放たれる魔力攻撃を防ぎ、同時に突撃してきたアルッサの突進攻撃を。
「こいつの攻撃も……」
「……」
「スーちゃん?」
スーちゃんの顔色がおかしかった。
そうなにかをにおわせるような素振りで、少々くぐもった声をだしながら無言でいた。
なんだ、なにかが起こるっていうの?
「! ……愛理さん、愛理さんダメです亀裂が広がって……ッ」
「なっマジかよ!」
壁に亀裂ができたことに気づいた私。
でも気づいた時には敵が顔を出していて。
「くたばれこのうさぎ野郎め!」
「こんちくしょう!」
襲いかかってきたアルッサを四つ手となって組み合いになる。
歯を食いしばりながら足を引きずり、なんとかスーちゃんのほうへいかないようにするが。
「……愛理さん!」
「へ、うさぎ野郎少しはやるみたいだなだが前の攻撃をどうやって耐えるつもりだ?」
「魔法はこちらで封じてるんだぜ、こっちなら強力な魔法をいつでも」
そして大声で彼女の名を叫ぶ。
「シホさん! 壊さない程度で攻撃して」
私の声に俊敏で反応した彼女は盾を投げ出して、組合いとなっているアルッサのほうへと距離を詰められた。
力強くその間を引き裂こうと、アルッサは真下を覗いてくるシホさんと目を合わせる。
「なんだ、こいつの威圧は。くッ」
退いて一旦下がる。
「た、助かりましたよシホさん。あと愛理さん。無茶なマネしますね」
「あの攻撃、食らったらたまったもんじゃ……って私はそんなに関係ないか」
「さあそこの4人、これを返してほしいんだろう?」
「やべ、この逆境どうやってくぐり抜ける。……壊しちゃいけないだし、平和的解決方法は」
「和解とか」
「ミヤリーさん、それいいな! でもお前どう見てもそうしてはくれない連中だよあれは!」
遠近問わず、隙のない連携に苦戦を強いられる私は、親指をかじりながら頭を悩ませた。
なにかないのか。
と、策そのものを講じながら。
「スーちゃんなにか、ないかな?」
ダメ元で聞いてみる。
魔法が今使えない彼女だが、それでも微かな望みにかけて私はスーちゃんに問いかける。
絶命的なこんな状況だからこそだ、ここで仲間を頼るべきなんじゃあないか。
チートを使っちまえばすべてそれで解決だ、でもそうではなくてここは仲間に扶助をもとめるのがここでの最有力候補だ。
すると言い淀むような口調でスーちゃんのその口が開いた。
「その……あるにはあるのですがお役に立てるのでしょうか?」
「マジで?」