222話 うさぎさん達の道中にて その1
【のんびり歩くのはよいことだ(例外)もあるかもしれない】
自称ハゲの国を後にした私たちは。
次の国に向け地を踏みしめていた。
一面に広がるのは木々のあふれる草原地帯が目に映る。
広々とした地だからか、当然モンスターも生き生きしているわけであり。
「シャャャャャャャッ!」
全身針で身を覆ったハリボールと交戦中。
「こんな相手私の一振りで……てやッ!」
ミヤリーの振り下ろした一閃。
しかし相手の体が小さいせいか、その攻撃は即座にかわされ通り過ぎる。
「……ミヤリーさん、毎回モンスターに弄ばされてません?」
「気のせいでしょ、あいつのことだし」
襲ってきているというのに、のんきに彼女の愚痴を言っていると。
「ちょっと聞こえてるわよ~! ていうか早く動かないと危ないッ」
息を切らしながら必死に警告してくるミヤリー。
別にそこまで切羽詰まる状況ではないというのに。
体は小型でハリネズミより少し大きめで下半身ぐらいのサイズだ。
しかしまあ、その回転速度は超高速といった速さで後ろにいる私たち3人の距離を一気につめていく。
「シホさんッ! おなしゃす」
「お任せされました!」
シホさんに命令をうながすように声をかけると、私とスーちゃんの前に立つ。
高速で転がってくる敵に対して武器の1つも携えず、素手を前に出す。
彼女は強がっているわけではない、いやこれはタフな彼女だからこそできる役割。
聞けばあのハリボールとかいうモンスターは小柄ながらも、受けるダメージはそれなりに高く切り傷がたくさんできるほどエルミアでは危険視されているみたいだ。
ソーサーが飛んでくるような感じ?
【AI:はい、貫徹力はあのソーサーと同等にあたる殺傷力があります。でも大丈夫です、愛理さんならこの惨劇だって回避できるはず!!】
いや私はそんな鬱要素高めなキャラ演じるつもりないよ?
AIさんもアプデを繰り返してきたせいか、テンションがだいぶ高くなってきている……きのせいか?
そんなハリボールが向かってきているわけだがシホさんは。
「ふんぬ!」
その場から引きずりもせず。
「シ……ヤァ?」
「……あのシホさん、片手で止めちゃいましたよ」
「だから言ったでしょ、スーちゃんの出るまくじゃあないって」
シホさんはその敵を片手で動きを止めると、おびえるモンスターを持ち上げた。
「さて仕留めさせてもらいますね、てや」
涼しそうな顔で軽く大剣を抜刀させ、縦に斬り落とすとモンスターの体は2つに割れる。
その場で斬った断片は散乱。勝負は一瞬でケリがついた。
「またシホに1本取られた。どうしたらそんな涼しそうな顔で戦えるわけ?」
「え、私またなにか粗相になることしちゃったんですか、普通に振るっているだけなんですけどね」
「私、またなにかやっちゃたんですか? みたいなこと言わないで。とまあさっきからあのモンスター相手ばかりだけど疲れない?」
先ほどまでに小型、中型、多岐にわたるモンスターを相手にしてきたが国までの道のりが遠いせいか先すらまだ見えない。
マップで確認したら、あと数千メートルだってよ奥さん。
はあもう付き合ってられんなこれ。
道中、大きな木の下についてはそこで軽く食事を取り、また動いてはモンスターを狩る。その一辺倒だったが……作業だ、作業ゲーすぎる。
以前よりかはシホさんの空腹が減りづらくなったのもあるが、それを補っているのは私が無限ボックスで控えさせているマックス・ヘルンのおかげだ。
彼を使ってもいいが、ご存じ馬は4人乗りではないのだ。
1人は得をして残りは損するって……団体行動において置いてけぼりは一番の問題だ。なので彼にはいざというときの移動手段として休憩してもらっている。
それにまたやらかしてなにかさせられるっていうのも嫌だし。
夜中。
焚き火がはぜるながら各々食事を摂っていた。
マルガリアンのやつがふんだんに食量をくれたので、旅先で困るような数ではなかった。
特に高級そうな生肉がいくつも入っていた。どれもステーキにしたらおいしそうな色鮮やかな鮮血な赤。
「にしてもおいしいよねこれ。ていうかスーちゃん調理道具どこから持ってきたの?」
「……いえ、屋敷においていたところから持ってきた……物なのですが」
木の端に置いてある円状の土台。
魔法陣のような物がその円には描かれ、私にはわけわかめだがこれは。
もしかしてあれだったりする?
「……母から昔師匠にもらった特製錬金台です。とはいえ複製品みたいですが」
「錬金台ですか、そのなんでも作れてしまうアレ?」
「不思議よね、魔法使いってそんな物たくさん持っているだなんて。あと何個不思議な物があるかよかったら教えて!」
「いえ、そんな見せ物ではないですよ、それにこういうときにぞって感じで持ち運んできただけですよ」
その気遣いが愛理さん的には非常にたすかるんだよなぁ。
「明日はどうする? そのここから先に3方向分かれ道があるけれど」
3人は首をなかなか言わず、首を振ってはくぐもった声を出すばかりだった。
そんなに深刻な質問だったのかな。
とても表情が険しそうだし、いや切り出したのは私。
私が絞って場所を定めるべきか。
「とりま道にそって歩いてみる? もしかしたら何かに出会えるかもよ」
「……愛理さんがそういうなら……みなさんも同意見ですか?」
(こくり)
一同、頭を垂れる。
本当はノープランだということを仲間に言いたくない自分がここにいる。
でもこの先、少し小さな街があった気がする……後で確認しよう。
その日は仲間共々食事をとりながら夜を明かすとまた歩きだすのであった。
☾ ☾ ☾
道なりに進んでいくと1本の看板が立てられていた。
【↑国渡りの町 途上の町→】
「二択か。こういうのめっちゃ迷うんだよね」
取捨選択。
私はこの部類が一番苦手だが、どちらを渡れと。
2分の1の確率というものに関しては、とても運がない。
ガチャやりまくり引いていたら、いつの間にか天井近くまでいっていたとかザラにあったしそれぐらい私は運のツキというものに恵まれていない。
私の幸運はC。さあてここは仲間に多数決をとってもらおうか。
「……杖を落として占ってみます?」
「うん、スーちゃん、それ私も知っているけど絶対やっちゃダメなやつだよ」
「……そうですね、途上の町はこの大陸では数少ない古風な町だと聞いています。ここは一旦そこで休息をとるのがいいかもしれませんね」
「なるほどね」
スーちゃんは途上の町に1票。
「私はすぐ次の国に向かいたい気持ちがあるわ。ということで国渡りの町にするわね」
「またドジ踏んで死にそうだけど……ミヤリーは国渡りの町に1票ね」
今のところ、綺麗に数が分かれている。
あと、私とシホさんだけか。リーダーは実質私のようなものだしシホさんの意見を聞いた後、数を比較して多いほうを選ぼうと思う。
逃げるなって? いや逃げてねーしチキンとか勝手に思うのは別にかまわないけどこれが愛理さん式なの。
「それでシホさんは?」
「うーん……」
シホさんは仰視しながら、顎の下に人差し指をつけくぐもった声を出しながら考え込む。
答えが返ってくる。
そう思っていると。
「ところで、愛理さんはどっちがいいんですか?」
「え、私? 今のところまったく考えてもいないけど」
「なら、愛理さんにここは任せますかね、愛理さんが選んだほうを私もしましょうかね」
そうくるか。
なんてこった。
先に取られてしまったじゃあないですか奥さん。
しかもこの人、数問わず私が選んだほうならそれにするとか言ってるんですよ? 私とは逆の考えを明らかにとっているのだ。
「わ、私が先に選べって? こまつた小松菜。そうだな、でもシホさんがそういうならお言葉に甘えさせてもらって」
先手を取られたのは少々いたたまれないものだが、ここで永遠と譲り合いのよくある無限ループにはいるよりかは私が決めたほうがいいよな。
それにここで私が決めれば、私が選んだほうが確定する。
1:1になっているということは、私が選ぶといずれかが2となりそちらのほうにシホさんが加わり実質3になる。
おっと、逆にこれは手間が省けたじゃあないか。お好きなほうを選べだって?
神には地雷を踏まないことを祈るしかないが、諦めて自分が先に選ぶという道にしよう。
考えた私は。
「そだね、私は途上の町にしようかな。たまには落ち着いた場所に立ち寄るのもよさそうだし」
「では私も途上の町にしますね」
「3対1で途上の町に決まり! じゃあここを曲がって入ろうぜみんな」
多数決により道中の間にある、道を進むと見えてくる途上の町に立ち寄ることにした。
スーちゃんによれば少し回り道になるみたいだが、これは別の意味で冒険の味があっていいんじゃねと私は考えた。
陳腐な町とはいえ、この大陸だと数少ないレアな場所っていうくらいだし道は誤ってないよな?