220話 うさぎさん達とヘンテコな国 その4
【穏便な解決方法? あ、それ必ず守るとは言わないっていう約束の落ちですよ奥さん】
「なんだキミ達は。ここはマルガリアン城。現当主マルガリアン女王の住まれている城だぞ」
「へ。偉そうに」
門の所へ近づくと。
案の定、全身甲冑の門番の人に道を拒まれた。
まぁですよね~。
断りなしに入るとかぶしつけにもほどがあるというか。
とりあえず口実を作らないと。
「その私たち、こちらの国に昨日来たばかりでまだ女王さまにも謁見したことなかったので、これは失礼だと思い今さらながら挨拶しようかと思いまして」
率先してシホさんが喋ってくれる。
後出し先方も悪くはない、気もするがでもこれっておざなりとした言葉にしかならなさそうだが。
口を開かないよりかはマシ。よしこの調子で攻めるんだ戦いはすでに始まっている!
「なに謁見だと? 1名変な服装を着ているヤツがいるが……こんな似付かないヤツが女王様に謁見? 滑稽だな、だがまあいい。聞いてきてやるからここで待っていろ。……ふん」
ほくそ笑む形で去っていく門番。
アイツバカにしやがって。
あっさりと話を通してくるみたいなこと言い去ったが、喧嘩売られたような気分。
ぶん殴りてぇあの顔。
数分待っているとその門番が帰ってくる。
早いようで短くもあったな。
「どうやら直接お会いになりたいようだ。変わった者が来たと持ちかけたらとても興味を持たれたぞ」
いや子どもかって。
……子どもなんだけども。
「からかわれてんの? それとも興味持ってる……わからん。これは私の管轄外だ」
「何言ってんのよ、とりあえず話は一応通じるみたいだし……さあ行くわよ。ここの女王様がどんな人なのか会って確かめないと」
急き立てられるように背中を押されていく。
ちょい押すな。
すぐ行かないといけないような案件じゃあないのだけれど、そう催促させんなって。
日が待たなくても私は待つ。あ、これ単に比喩ね。
「ちょっとミヤリーさん? ……すみませんなるべくそちらに粗相がないようしますので」
「……あまり無邪気にはしゃぐのはよくないですよ」
そうこう言いながら城内に入ったわけだが。
長々と続いた絨毯を筆頭に廊下は永遠と伸びている。
上には湾曲上の巨大な階段が双方にそびえ、私たちをもてなしていた。
私たちの住む屋敷並の広さではないが、所々純金製の芸術品もあちこちと並べてある。
レプリカぽい……物ではなく見る感じ、私でも本物と言い張れることができるぐらいの品物ばかりだ。
相当な金持ちであることは否めないだろう。
「飾り物すべてがまぶしいですね。あちらこちらと金、金、金ですよ?」
「……グリモアに建つ建物はこれぐらいの広さは普通ですけど、これほどまでに金を多用してはいないです。どれも高そうな物ばかりです」
上の階段を上り城の内部をさらに突き進むと。
何十字もある通路へと出る。
相変わらず長い通路。
ここは雇っている人が使用している個室なんだろうか。ホテルみたいに扉がいくつも並んでいるけれど。
どうもそれっぽい?
「何人雇ってるんだここの城は。1フロアに数百部屋とかホテル行っても早々見られないよ」
「看板があるわ。この先直進すると玉座に行けるって」
何回も迷うように部屋の置かれた道を循環していると、壁に貼り付けされた純金の看板が付けられていた。
当然ながら中世式なせいか、あと何メートルなどと一切明記はされていないが……道は有限だよな?
だからいくつだよ。
あと何分、ゲームとかでよくある正当ルート辿らないと行けない無限の道とかじゃあないよね。
「ここを進んで…………まだ続くのか」
巨大な空間が見えてきたと思ったらまた同じ道。
無限ループしてはいなさそうだが、攻めて近道の保険があったりと……そんな甘えはないんですかね。
ぐぬぬ辛すぎね?
だいぶ歩みを進めていると、ようやく光景の変わった部屋が見えてきた。
純金の突起した意匠が目立つその大きな扉は、高級感丸出しの一品だった。
明らかに金持ちの風格だこれ。ここの主がどれくらいの身分で他人を自由に従わせる権威を持っているかは露知らずだが、今さら引き下がるのもあれだしもはや突き進むしかない。
「また豪快な扉出たよ。豪族特有の見せ場みたいなやつ? 知らんけど」
「声が大きいですよ愛理さん、あまりそんな駄弁をしていたら私たちの首がはねられるかもしれませんよ」
小声で答えてくるシホさん。
一理あるけど、そんな中世の習わし……現代からきた人にとってはしらんがな、みたいな案件だが義理をわきまえてお前もやれ、などと戒めも受けそうだが。
まあ周りに合わせるのが大事だってことは私でも十二分に理解しているよ(個人的なエアプ発言です)、でないと自分だけ浮いて標的の対象にされるかもしれないからな。
「……こほん、愛理さん安心して聞いてください、たとえ粗相が起きたとしてもその時は私が魔法でなんとかしますから」
「スーちゃん? それは私が頼りない前提で言ってるのかい? そんな負け確しているフラグ建築士1級みたいなこと私言ってないでしょ⁉」
「……わ、わかりかねますが、とりあえずはいつもどぉ〰〰〰〰りの愛理で接すればいいと思います……よ? あはは」
苦笑いしながらその場で、人差し指同士を突け合うスーちゃん。
少々ディスられているような気分になったが、彼女の愛らしい顔を見て気が和んでしまう。
こんなかわいい顔で言われたら拳のひとつすら出しにくいじゃあないか。
やはりスーちゃんは天使。
安心して。
私はあなたを厳粛保護対象に指定されている動物並みに手を決してださないからね。
でないと私がクソうさぎだとか、ドSうさぎ、人の心とかないんかこのうさぎ野郎。
などと汚名がたくさん量産されてしまう。
威張っているわけではないよ、うんこれは私の本心だからね。
「だったらノックして早く開けなさいよ、今まさに頬杖つきながら食べ物を豪快に頂きながら仕方なく待っている最中かもしれないわよ?」
「どうしてそんな変な妄想に行き着くんだよ。読者さんたちもきっと『いいからあくしろよ』とか今心の中でそう思っているだろうし……いいかげん私も扉開けるよ」
「よろしい」
変な妄想モードのミヤリーはともかく。
この大扉を開けることにする。
テレビやマンガでよくあるような、ご都合展開や尺の都合もしくは大人の事情そんな部類では決してないことを始めにここで断っておこう。
……相手はクソガキでしょ? こういうのは妹が得意そうだが、私は口悪い女なので態度に困るのだが。
ええいままよ。
ノックを3回鳴らす。
トントントン。
「入りたまーレ……滑稽な客人よ」
「た、たまーレ? 入っていいってことか?」
なんだよ、そのフランス語やイタリア語みたいな響き。
人のこと言えないけど、なんとなくだが大方の趣は伝わってくるし、問題ない。
扉を開け、私たちは重々しいその扉をゆっくりと開けて中へと入る。
「へぇ、さっき少し聞いた程度だけど本当にうさぎだなんてね」
扉を抜けた先には広々とした玉座に入った。
両端には連なるように並ぶ大きな窓ガラスが貼ってある。
周りが静寂する中、一点の正面に立つ玉座から声がすると、その声がした方向に顔を向けた。
そこには小さな金髪の長髪少女が、退屈そうに頬杖をつきながら座っていた。
……初対面から生意気な口ぶりしやがって。
見た目は可愛らしさが微かではあるが感じられる。だが興味なさそうな視線をこちらに向けているので私たちを軽率しているようにも窺えた。
「あー私はここの女王マルガリアンよー。というか本当に変なうさぎが入ってきた。ないわ、ちょーないわだから外からくだらん負け犬の声が聞こえてくるわけだ~」
なぜに棒読み。
「というか、喋るならちゃんと喋れよ」
「……私も右に同じです」
「あぁこのしゃべり? ごめんごめん、普段めんどくさいしゃべり方ばかりでさ、ついついこんな口調になっているわけ。堅苦しい言い方疲れるしめんどくさいからこんなふざけたような口調になっているかもね」
謝っているのか適当に言っているのやら私には検討もつかないことだが。
とりま、普段は下の者に対しては、王族らしい口調でいつもはなしているのだろう。
その束縛が解かれた今、気の緩みによっていかにもやる気なさそうな態度で話しているのかな。
虚脱感って怖くね。
たしかに社会云々、億劫な話を聞いたり話していると私も『まだかよ』ってなるけど。
なんだろう、この子私と少しどこか似ているような。
「でさ、あいさつって聞いてるけど~実のところ興味ないよね? あぁ大丈夫本心言っちゃっていいからね。私無礼とかそんなのどうでも言い主義だからどーんと言っちゃっていいよ~」
「あぁそうか、んじゃ言ってやるよクソガリアン女王。挨拶なんて全く興味ないね」
正直、社会からぶん殴られそうなレベルだが。
相手がお好きにどうぞと言ってきてるので、好きに今やらせてもらっている。
「えぇと……」
「仲宮愛理、変に思うかもしれないけどうさぎだよ」
「愛理……ふーん。少しは面白そうな人きたじゃーん。そんで愛理、単刀直入に聞くけどなにか頼まれてここにきたんでしょ?」
「へぇ話早いじゃん」
そのマルガリアン女王は面倒臭がりな様子を見せながらも、少々こちらに興味を向ける様子をさせる。
口では適当に言っているが、内心なにか言いたいことがあったり。
「んじゃ言わせてもらおうか。ハゲの呪い魔法を解除してくれない? 国のみんなめっちゃ困ってるし……地毛が恋しいって人もたくさんいたけど……ど、どうかな?」
「…………」
「その、今すぐじゃなくていいんですよ? 気が向かないのなら出直してきますけど」
シホさんが間に仲介する感じで、会話の中に入ってくる。
「あぁ。あーね。最初は反省を正すために作ったしきたりなんだけどもー、正直、そろそろ飽きてきた頃合いなんだよねー。……解いてやってもいいよー」
よ、よし。これで。
とそれに付け足すような形を言い出す。
「ただでとは言わないよ、ちょーと退屈ゲージが溜まりに溜まった私と……」
「うげ……」
小さな声を漏らしてしまう。
なんとなくだが、公算が目に見えてきたという落ち着きで知らずのうちに嫌な前兆を感じてきた。
どうせ暇潰しに付き合ってくれねとか、私が満足するまでうんぬんして……みたいな話なんだろ。
そんなこと思っていると。
「その知り合いからもらったボードゲームだっけ? ちょうどこの間もらったものなんだけどー一緒にやってくれない? ちなみに勝ち負けは心配いらないよ。私が満足するまで付き合ってくれればいいから」
「げ、ゲームですって?」
衝撃な展開に場は沈黙。
なんでボードゲームなんだよと言わんばかりの展開だが、あげたヤツ。
誰だよ、怒らないから前に出てきなさい!
……ってなんとなくだがあげたヤツの顔が真っ先に浮かんでしまった。
まさかお前じゃないだろうな?
おそるおそる、私はマルガリアン女王に続きを聞いた。
「ところで……で、で、くれた相手ってのはどちら様で?」
「……せい」
「なんだって?」
「狂政。あのオタクシティの村長さんだよー」
頭が膠着し脳内でイメージが暴走する。
やあ愛理くん、またなんだまた私のやらかしちゃったシリーズなんだ! ぐっはははは!
ってことでみんなで心置きなく遊ぶといいぞ!
あとここで逃げるとうさぎが廃るので決して相手に背中を見せないようにな!
じゃねーーーーーーーーーよッ!
あいつどれだけここに転生してから知人増やしまくってんだよ!
こんなの私のデータにはない。ヌルだヌルヌルだよ。
というわけで、違う大陸に言ったのにもかかわらず。
狂政のお遊びに付き合わせられるハメになった。
流星石の頼み事に加えてあいつなにやってんだよ。
どれだけ好き放題したら、気が済むんだ、苦労するこっちの身にもなりやがれ!
それで差し出されたそのボードゲームとは。
「……なんですか、この地図並みに大きな紙は。……あのなにかいろいろ書いてありますが……これはすごろく?」
「あぁね、それはすごろくに似ているけど似て非になるものだよーえぇと名前は」
名前は。
「ファンタジーライフアドベンチャー。略してFLA。あぁこれエフエルエーじゃなくてフラって読むんだって」
「あの女王様すみません、なんの話ですかそれ?」
「おい、シホさん空気嫁! すげーどうでもいいわ!」
そんなわけでそのFLAといういわば異世界版、人生ゲームをさせられることになった私たちは。
ゲームに強制参加させられ、疲れの溜まっていた女王様をなだめるためにそのFLAをやることになるのだった。
ていうか旅行先で余計なもん作ってんじゃねぇ〰〰〰〰ッ!!
あぁもう帰りたい無茶苦茶だよ。
『犯人は私狂政、案の定まあせいぜい楽しむがいい!』