表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
新・第2章 うさぎさん達、再始動イン大きな一帯へ
254/274

219話 うさぎさん達とヘンテコな国 その3

【マウントの取り合いはほどほどに】


 翌日。

 朝食とチェックアウトを済ませ外へと出る。

 店主からもう行ってしまうのかと、少し残念がる様子をしていたが。

 いじるのはやめてくれ。こんな国にずっといたら私たちの気はどうにかしそうになるから。


「……あそこみたいですね、傍聴してみますか?」


 宿屋をすぐ出て数分後。

 スーちゃんの情報を頼りにある場所へと向かう。


 昨日聞き込みして知ったことだが、国に訴え続けているその団体・組織というのは。

 城の前でよく朝・昼・晩とひたすら城の者達を急き立てるように、今の条例を変えろと声を上げる者たちが1日も休まず重圧をかけている。


 早朝に情報にあった場所へと向かうと、罵声をかけるひとつの団体の姿が城の前にあった。


「マルガリアンの治安を元にもどせー!」

「もどせ!」

「我々の地毛をすべて返せ!」

「返せ!」


 幾人にもおよぶ人だかりが城の前に集まっている。

 当然、その人たちは全員髪の毛を持っておらず、遺恨のこもった声を城へと叫んでいた。

 それが何回も、何回も止めどなく繰り返すのだから聞いてるこっちもその怒りがしみじみと伝わってくる。

 アンチが集まるとこれほどまでに鳥肌がたつものだなんて。うぅこわ正直なところ近寄りがたいのだがやらないと始まらないしね。


「すごい人の数ね」

「それほど今の国が決めている条例に反する派閥が多いのでしょう。拳を力強く振り上げてあんな大声で叫ぶとは……戦でも見ているような気分です」

「戦……ってそこまで激しく見える? ……まぁいいやスーちゃんどうする」


 スーちゃんは遠巻きに、その団体の様子を見る。

 城門が塞がれているためうかつに近づけば、訴えの妨げとなり一見門前払いをくらいそうだが。

 というのもなぜだろう。


 城門には門番の1人もいないが……どうした?

 聞くのにうんざりして中で引きこもっているとか。


 くぐもった声でスーちゃんは端に立つ、城の塀へと目をつけて数秒そこをじっと見つめる。

 魔法で無理矢理突破して、不法侵入しようとか考えたりはしないよね?


「……見る感じ正規手段で侵入できそうな場所はなさそうですね」

「じゃあどうするの? あの人たちを無理矢理飛ばして侵入しちゃう?」

「……ミヤリーさん、そんなことすれば私たちが悪人だとか汚名を着せられるハメになりますよ。……絶対にダメです」


 まあデスヨネー。

 逆にミヤリーは、無理矢理突破しようという脳筋が考えそうなことを言い出したが、そんなことすればスーちゃんの言うように悪者扱いされるのは避けられないだろう。


 所見の印象は大切だって聞くしここは穏便にすませるためにも。

 困っているスーちゃんが、どうも手詰まりな様子を見せていたので私は彼女の肩に手を乗せ前に乗り出した。


「……愛理さん?」

「ここは任せなって」


 本当は自信ないとか、物怖じするような気持ちになっているなどとは誰にも言いたくない。

 例えればそう、学校でせんこーに「誰か質問ありますか?」と挙手タイムに入った時誰も手を上げず気が重い状況に立たされているような気分。

 そこでは大抵誰かが率先して聞くのだが……この状況はそれに通するものと酷似している。

 学校だと聞く側だったが、この状況は自分でやることになるとは。

 これは私の異世界における、ひとつの暗黙のルール的なものかもしれない。

 あぁ率先するって、どうしてここまでめんどくせんだよ。


「えぇとですねみなさん、愛理さんの意見としては」

「もったいぶらないで言って愛理」

「今から言うから最後まで聞け! とりあえずここは穏便にすませようと話かけるがいいと思う」


 結局平和的な解決法はこれなんだよな。

 暴力で解決するより、まずは交渉と……偉い人がよく言うことだと私は思う。

 順当な答えだが、はたして相手はちゃんと話を聞いてくれるかが心配だが……えぇいままよマヨネーズ、当たって砕けろ仲宮愛理!


「話……わかってくれますかね。……でも愛理さんがそういうなら私たちはあなたに付いていきますよ」

「つーわけでレッツゴー」


 シホさんたちも私の意見に賛同してくれたので、前にいる団体の群れに近づき。

 会話を持ちかける。


「あのすんません」

「? なんだお前たちは」


 1人の男に話しかける。

 団体の中で、とても退屈そうに後ろで控えていたため話しかけた。

 腕組みをしながら、こちらをこれ見よがしと……こっちみんな。


「うさぎの服。これは変わったヤツが来たものだな」

「お兄さん、なめていたら痛い目にあうかもよ。と話逸らすところだった、悪いけどさそこどいてくんない? 城の中に入りたいんだけど」


「ふ」


 ほくそ笑むような態度をとられる。


「通りたいだと? そんなふざけた格好でか。……そんなふざけた格好ではいそうですかと通すバカがどこにいる。顔が利く身分なら、少し考えてやってもいいがそのふざけた格好だと誠意も説得力も感じられないなぁ……」


 むっか。

 肩をすくめながら仰々しく話す男。

 その語調は、まるでこちらに喧嘩を売っているような素振りに感じ、ふと苛立ちを覚えてしまう。

 シバいたろかコイツ。


「でもそこの女戦士さんは……とっても美人だね彼女はキミのメンバーかい? それならその子だけなら……」

「ざけんじゃねぇ!」


 ボゴッ!


 腹が立ってきた私は、お調子者の男をアッパーで顎に向かって軽く手を突き上げた。

 飛ばない程度に力を調整させて使ったその技によって、男はその場に伏して顔を地面につける。


「ぐ、ぐ、ぐ。いってぇぇぇぇぇ! な、なんなんだよお前は。そんなふざけた格好でそんな力持ってるとか反則だろ!」


「……あぁ愛理さんを怒らせちゃった」


「まだやる気? 死にたくなかったら道空けてくれないかな。今度は少し本気で殴るかもよ」

「あ、あれで1割も出してないっていうのか。……こ、困った」


 すると奥の方から違う男がやってくる。


「なんだどうしたんだ? ……このお嬢ちゃんは……まさかお前こんなヤツに負けたのか」

「そうだよ、あいつふざけた格好してるんだがよ、とんでもねぇ化け物パワー持ってるんだよ。聞けば城の中に入りたいとか言ってるけど俺はどうすりゃいいんだよ」


 と私を指さしながら、おびえながらその男にすがり言う情けない男。

 手出してしまったのは後の祭りだが、喧嘩ふっかけてきたのはあちらだ。こちらに非はない。


「ま、まじかよ」


「愛理あんたねぇ」

「だ、だって仕方ねぇじゃん! むかついたもんコイツ、図々しい物言いするし腹が立ってきたんだよ!」

「まあまあ。すみません、うちのリーダーに代わって謝罪させてください」


 私たちの間にシホさんが立ち話に入ってくる。

 気を乱さず丁寧に軽く謝罪を述べてくれた。

 変わらない冷静なその対応に、感謝することしか私はできないがひとまずここはシホさんに任せよう。


「いやそれはお互いさまだ。こいついつも調子乗ったことばかり言い出すから……いつかバチでも当たるんじゃないかと心配していたところだ」

「それ、俺を慰めてる? それともバカにしてんのか」

「どっちでもいいだろ。……そのうさぎの嬢ちゃん、愛理と言ったか。ここを通りたいのか? それなら少し俺たちの話を聞いてからってのはどうだ?」

「話?」


☾ ☾ ☾


 話を持ちかけてきた人。

 通称メンバーの世話焼きを担当しているとのことだが、団員の中では割と顔が利く者らしい。


「それで話っていうのは」


 場所を移そうなどと一言も告げられず、今の場所に留まり話を聞くハメになったが。え、なに? 喧嘩腰に一戦やろうっての。……平和的解決方法を見つけ出そうよ。

 と勝手な被害妄想を膨らませている自分がいるのだが。


「単刀直入に言おう。国を救ってくれねえか?」

「またえらく唐突な」

「無理は承知なうえだ。実のところ城の門番には呆れられた振る舞いもされ、今では顔も出してくれない。続け様で俺たちはひたすらと訴える活動をしているわけだが……正直なところそれが徒労であることに気づいたんだが」


 愁眉をひそめ重い空気を漂わせるデモの人たち。

 深いため息を吐きながらも、深々とかぶりを振り出す者が出てくる。

 うわ、なんだこれ。みんな顔が死んでいる魚みたいになっているよ!

……切羽詰まったそんな心境。


「えぇと、いいけど私たちで大丈夫なの?」

「人は見かけによらないって言うだろ。一際そんな目立つような格好を着て歩く人なんてそうそういないからキミなら任せられるかと思ってな」


 たしかに、うさぎのパーカー着ながらぶらつくアホなんて他に誰がいるだろうか。

 でも、この人見る目あるよ。

 案の定、髪は生えていないけど。

 まなざしと語調から正直に話している威厳を感じさせてくる。


 周りの仲間も同様で、シホさん含めるみんなの視線がこちらに向いてくる。

……え、やれって? ここは空気読んで私がやれってことでいいの。

 まんどくせ。


「ごほん、改めてだけどその依頼受けるよ。どこまであんたたちの力になれるか知らないけどさ、できるだけ説得してみせるよ」


「愛理!」

「愛理さん!」

「……愛理さん!」


 やっぱこうなるのね。


「よし、決まりだ。愛理、キミがどれぐらいの実力を持っているか知らないが俺が見る限り相当な実力者だと踏んだ。頼んだぞ」


 側から子分となる、仲間の1人が出てきて皮肉じみた言い方をし。


「いいのかよ、外から来たやつらこうもあっさり信用してよ……。もしかしたら当てにならないかもしれないぜ?」

「……だが、俺たちの顔は城のヤツらに呆れられてしまっているだろう。そうとなればここは仕方なく部外者であるこの4人に任せれば城の者に変な目で見られることはない。だと考えることもできるんじゃないか」

「たしかに。ならそこのうさぎの愛理だっけ? 俺たちに変わって改めて頼ませてくれ。頼むくそったれなこのハゲの国を救ってくれ!」


「……全員敬意を込めて頭下げてきましたよ。これは先ほど以上に断りにくくなりましたね」

「乗りかかった船よ愛理、今さら尻尾を巻いても私はあんたをつまみだすからね覚悟しなさい」


 はなからそんなつもりねーよ。

 こんなかしこまられて、今さら断られるかっつーの。

 自分の言葉と行動には責任をと。


「ごほん、うさぎに二言はないよ」

「では、私たちは城に行きましょうかね。門番さんが収まりを察して1人出てきましたけど」

「今しかなさそうだな、よしみんないくぞ」


 かくして。

 デモの人たちに遠目で見送られながら、私たちは現当主であるマルガリアン女王の元へとおもむくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ