216話 うさぎさん達の道中
【毛虫の毒には気をつけてね】
雪国を抜け草原へ。
山岳地帯だというのに、地上と見間違えるほどに広々としていて、草木が繁茂していた。
当然、自然の環境が充実しているということは。
「チクリン!」
「なんなのよ、この全身トゲが生えたようなモンスターは」
「まんま、トゲじゃねこいつ」
体が真っ黒な小型のモンスター。
全体的にその形はまるで少し大きくしたくらいのウニみたいで、全身トゲが体を覆っている。
危ない部分は見つからないが、念のため確認しておこう。
知らずに毛虫触って体から強烈な毒が回った、とか嫌だしね。
【チクリン 解説:全身が黒い甲羅で覆われており、体から撃ち出すトゲは即死までには至らないが痛い非常に痛い。また飛ばしたトゲはすぐ再生してしまうので早めに倒してしまおう】
「……あのモンスタートゲ飛ばしてくるので甘く見ないほうがいいです」
「でもかわいくないですかアレ」
小型でたしかに愛嬌があるようにも見える。
しかしシホさん、無害とは言いがたいかもよ。
「チクー!」
1匹のチクリンがシホさんの方へと突進。
無数の針でシホさんを攻撃しようとしているのか。
シホさんは剣をじっと構え、その場から動かず敵が詰め寄ってくるのをひたすら待つ。
「ちょっとシホ? なに突っ立ってんの自分から攻撃しないわけ」
「いいかミヤリー、お前と違ってシホさんは立派な戦士だ。どこかの誰かさんみたいに自爆しにいかねーよ」
「は、それって私のこと? ……ま、まあ人には人の戦闘スタイルってもんがあるしね」
チクリンはちょうど、シホさんの前まで近づくと、反発を利用して飛び跳ねた。
トゲが光り、シホさんの体に……。
ブス。
「……?」
シホさんはなにがあったのかと、下をよく見た。
必死に攻撃するチクリンの姿。
だがシホさんは、とても痛いであろうチクリンの攻撃を一切の悲鳴もあげず受け流していた。
「……シホさんあのチクリンの攻撃をいともたやすく……年々重傷者がたくさん出ているというのに」
「さて持ち上げてっと」
不可抗力にも攻撃するチクリンをシホさんは片手で持ち上げた。え、片手で?
明らかに手の倍以上の大きさはあるのに。
捕まれた体をひっしに解こうとする敵だったが、敵が悪いのかまったくビクともしない。
してシホさんはというと。
「そい」
ブサ。
持ち上げたチクリンを一振りで両断。
地面に転がり落ちると得体のしれないX液(※気色の悪い血です)が飛び散る。
「? シホさんまだいるみたいだよ」
気がつけば私たちを囲むように無数のチクリンが躍り出てくる。
円を作るようにして、こちらを逃がさないようにしているみたいだが。
チェンジアシッド。
私はアシッドへと服を替え、アシッド・シューターを手に持つ。
ウイルスをばら撒くと、環境に問題が発生しそうなのでウイルスは封印。おとなしくこの武器で対処しよう。
「はぁ!」
シホさんの大きな辻斬り。なぎはらうがごとくのその太刀によって、一列の敵を一掃させる。
スーちゃんはじっと動かず。
「……!」
手を振りかざし。
一場面飛ぶように彼女は移動していた。
そしてそこから動こうものなら。
「……足下よく見たほうがいいですよ」
地面一帯は氷で覆われ、チクリン数匹の動きを止めていた。
スーちゃんは杖を振りかざして。中ぐらいの火の玉を作り。
「……時止めの応用です。フレイア!」
凍った箇所目がけて炎魔法を使って仕留める。
やば、日数を重ねるたびにこの子、使いこなしてきてる!
「チクー!」
「チククー!」
「チックー!」
私のほうにも数匹、チクリンが飛びかかってくる。
銃口を敵の方へと向けて連射。
「チクチクうっせーんだよ、食らいやがれ!」
シューターを撃つと当たった瞬間に跡形もなく溶ける。
どうも、この銃の強さもこの大陸でも有効みたい。
このまま、全部倒して。
仲間の扶助もあり、片付いてくると最後の1グループだけ残った。
チクリン共々その矛先は悠々と立つシホさんへと向けられる。
物音1つすらさせないその余裕さは、シホさんらしい戦闘スタイルであった。
最後のあがきに5匹がシホさんに向かってくるが。
「終わりです」
一瞬で放った交錯する斬撃によって一瞬でケリがついた。
「シホさん」
「そちらはもうおわりましたか?」
肩越しからこちらを見ると、無事を確認し近づく。
スーちゃんが軽い治癒魔法で回復してくれて。
「……これでよしっと」
「ありがとうスーちゃん助かった。とはいえ雑魚ばっかだったけど」
「ですね、こんな敵にやられる人がいるなら1度、見てみたいものですが」
誰だろうね、そんな愚鈍なことしかできないヤツって。
さっきから後ろでなにかガタンと音をいわせているけど……なんだ。
あれ、そういや誰か忘れているような。
「……ところで」
「誰か忘れていません?」
「……?」
「……?」
私とシホさんはなんのことかと互いに目を合わせて確認をとる。
互いに肩をくすめて『さぁ?』と答えるが……なじかどうも引っかかるなぁ。
「「ちょっと! なんでみんな私だけのけ者にしちゃってるわけ!」」
いた。
後ろに。
いつもの棺桶が。
チ――――ン。
「……あ、すみません知らないうちにまた死んぢゃったんですね。あわやあわや。大丈夫ですよ、すぐに蘇生させてあげますからね……クス」
「ちょっとスーちゃん! 笑わないでよ、ただ突っ込んだら道具の効果が対象外だったみたいで」
「んで自分で墓穴掘って棺桶の中に入ったわけだ」
「何口そろえて喋ってんのよ」
今日もいつも通り自爆特攻したミヤリーであった。
☾ ☾ ☾
向かう国への道のりはまだ険しい。
スーちゃんの魔法でだいたいの時間を割り出してみたのだが、あと3日はかかる模様。
それほどエルミアのスケールってでかいんですかという話になってくるのだが、すまない私にもこればかりはわからん。
そして今、数いるモンスターに襲われて猛ダッシュで地を駆けている。
「ちょちょちょ愛理、なにかないの!」
「私の国ではこういうしきたりがあるぞ。後ろではなくちゃんと前を歩きましょうと」
「知らないわよそんなの! まあたしかに一理あるけど……も!」
あるのかよ。
それはそれ、これはこれとな。
「というわけだからシホさんでかいのよろしく頼むよ」
「任されました!」
私たちを追ってきているのは巨大なモンスターの群れだった。人型の魔人モンスターが体格ではまずあり得ないであろう速度で向かってきている。
片手にはただではすまないであろう鈍器。おぉこわ、まともにあんなの食らったら出血多量で……おっとこれ以上はよい子に言うのはよくないね。自重。
そんな大勢向かってくるモンスターの前に、凜としたシホさんが前に立ち。
剣を抜刀、刃に光をまとわせるとなぎ払うように技を放つ。
「ウルティムソード!」
広範囲に渡る光の横払い攻撃により、敵の群れはその光に飲まれ消えゆく。
「はぁ助かった」
また時には。
林を歩いていたら木に擬態化するモンスターに遭遇し。
「ミヤリー! 待ってろよラビットパンチ発射!」
不意に捕らわれたミヤリーを救うため、ラビパン(発射)を使って敵を仕留めてみせる。
それと同時に、スーちゃんが瞬く間に敵の集まる背面側へと移動し、炎魔法を打ち出す。
「……フレイグニスト!」
巨大な火柱によってモンスター達は焼かれ息絶える。
やはり時止めはチートなんだよなぁ。
スーちゃんによると使い始めてからまだ間もなく、あまり長時間は止めてはいられないみたいだけど。
それでも強いことに変わりはないでしょって話。
このようにしてモンスターを蹴散らしながらも、前へと進み足を踏んでいたわけだが。
「愛理さんそれとみなさん」
「? どったの」
急にシホさんが立ち止まり。
「やばいです、腹の虫が……そろそろ」
シホさんが、お腹を抱えるようにして必死に空腹を訴えている。
またか。
このままではまたシホさんがひもじい感じでブッ倒れしかねないので。
「よ、よし、シホさんもうすぐ日も暮れそうだし…………それよりもその格好」
「え……えどうしました? なにか変です」
変もなにも。
「そんな妊娠したかのようなポーズなんか取られても、どう対応したらいいのか」
「ね、狙っているわけではありません……からね」
「……はいはいみなさん、魔物の餌食になりたくなかったらあの木の下にでも行きましょうね」
スーちゃんは既に食事スペースを確保していた。
なんだこの積極的な振る舞いは。