214話 うさぎさん達と雪中に佇む国 その1
【寒くても気持ちが十分なら寒くないと思います(必ずとは言っていない)】
雪道を進んでいると、1か所の王国が見えてくる。
塀の大きさはここぞとばかりの大きさに達し、国全体は大きなドームに覆われていて家屋はひとつも見えない。
「ここがスノーミア王国、街は天井に覆われていて見えませんね」
「どうでもいいから、早く入りましょ。寒くて死ぬわ」
今にもまた凍え死にそうなミヤリーは、冷凍保存寸前の食品みたいな有様だった。SAN値低くなりそうな陰キャみたいな顔しやがって……って私も寒いし、正直口で言えたものではないな。
正門に出向くと門番さんが出迎えてくれる。
全体フードと温度差は十分に保たれたその身なりは、私からしたらはなはだ羨ましく思えた。チクショー、それよこしやがれ!
「おやお客人かな? とりあえず冒険者カードを提示してくれるかな?」
あれ、今回うさぎのパーカー以下略は言わないのか?
ひょっとして、ここに住む人たちは全員外套着ているからそんなに珍しいものでもなかったり?
「ほらこれでいい?」
各々、カードを提示して入国審査を受ける。
整合性があるかどうか、つぶさに確認しはじめ納得がいくと私たちに返してくれる。
え、もうおわったの?
「さ、寒かっただろう?」
「いや全然、むしろ余裕っすよ」
みんなには言いづらいけど、本当は寒いのです。(※HRPを着ています)
え、ならアイスに変えればいいだろうって? それはそうだけど今やるって感じ。
聞いてきた門番さんは、私をじろじろと見て……。なんだよもう。
「…………」
「なんすか……そんな熟視して」
執拗に近くで見つめてきたので、体をやや傾けてしまう。
すると。
「…………そのわりには鼻水凍っているけど?」
「え…………まじやん」
鼻の部分を軽く指でなでるように触ると、氷った感覚がした。
鼻水凍っているじゃんと。
「ぷぷ……」
むせるように笑いこらえるミヤリーが若干腹立つ。
「お、おいな、なんでみんな言ってくれなかったのさ!」
後ろに控える仲間を見て恐る恐る聞く。
「……だって、言えたものじゃないですから」
「スーちゃんまで、き、聞こえてんっぞ! ……し、シホさん、シホさんは私の味方でしょ?」
「と、とうぜ……ぷぷ。す、すみませんつい笑いがこみ上げ……我慢はしていたのですが、もう限界です。アーハハハハハハ……」
なぜか私の鼻水に関してつぼる仲間を見て、不快感を覚えてしまう。
これはあれだ、男どもでよくある、『社会の窓口空いているよ』ってことをなかなか切り出せないサラマンの典型的な部分に酷似している……のだろう(不確信)
はにかむ思いを国に入りながら私は痛感するのだった。
うさぎさんの恥ですはい。
☾ ☾ ☾
塀の中に入ると、大きく広がる街並みが広がっていた。
ざわざわ
何通りもある十字路に着目すると行き交う人の姿。
「……寒さ対策は万全ですよって服装してんなおい」
服装はというと防寒服。
だが具体的には、ほらロシアの人が着てんじゃん。
名前なんだっけ?
えぇとたしか。
……そうそうルバシカだ。
※妹の知恵:ルバシカというのは、ロシアの民族衣装で女性はサラファンというものを着るわよ
女性はサラファンを着ていて、頭部にはシマ模様がついたシャプカを身につけている。
普通の物とフライトキャップを付きのものまでと、種類は充実しているみたいだ。
「……防寒対策は……ばっちり……うぅみたいですね」
「す、スーちゃん大丈夫かよ?」
「そうよ、めっちゃブルブル言ってるじゃない」
「……こ、これしき。これを最強魔法使いへの道へ続……」
「いいですから、スーさん暖を取りに行きますよ」
スーちゃんの最強魔法使い云々の話を柳のごとく遮り、手の剛によって一足先、近くにあった休憩所へと向かう。
「……あわわシ、シホさん最後まで話を」
だがシホさんは足を止めない。
シホさんを追って休憩所へとたどり着くと、暖かなストーブが並ぶ店──休憩所へと着いた。
お客も防寒着をしているにもかかわらず、幅広いお店を陣取っていた。
「たくさんおるなぁ」
「そうですね。……あ、スーさん大丈夫ですか?」
手を放されたスーちゃんはその場でうつ伏せに倒れ。
「「スーちゃん‼︎」」
一斉に声を合わせると、どうしたんだと言わんばかりに座る人達がこちらを見てきた。
やっべ。
懸念する様子をこちらに送っていると、店主らしき女性がやって来た。
「どうしたんですか? ……そのうつ伏せになっているいかにも雪のような寒さ感じさせるような白い魔法使いさんがおられますけど……」
修飾が長すぎる!
「寒そうだわ…… こっちにどうぞちょうどミニストーブが1個ある席があるから」
店主に誘導されながら、人々の群衆を抜けて1か所空いている席へと座った。
テーブル中央部には、小型化した、カンテラサイズのストーブが。
手を近づけるととても暖かい。
「旅の冒険者さん、初めまして私はシェリー、ここ憩い屋の店主をしているわ」
自己紹介してきたのでこちらもしなくては。
「私は愛理。仲宮愛理。うわべでかわいいとか言わないでね、それでこっちは」
簡潔に私が他のみんなを軽く紹介させる。
え、いつもと少しなにか違う? ……あらかじめ見た目で判断しないでほしいという、これは私独自の保険である。
もうあのテンプレ聞き飽きたしね。
「それでこのへのへの顔になっているこの子はステシア……みんなはスーちゃんって読んでるよ」
「ふむふむ、愛理さんにステシアさん、シホさんにミアリーさ……ん?」
最後のミヤリーの名前だけ少々自身なさそうな声で、ウィンクしながら確かめようと彼女に目配せを送る。
「み、ミヤリーよ!“ア”じゃなくて“ヤ”だから!」
「あはは……ごめんねミヤリーちゃん、私こーいうのちょっと疎くて」
☾ ☾ ☾
顔立ちの整った背丈のある女性──シェリーさんは頰を掻きながら応対。
それにしても綺麗だ、ADVに出てくるコンビニでアルバイトしている人並みにかわいいんだけど。
ていうか話逸れるけど、コンビニでよく見かけるバイトちゃんってかわいいよな。この世界だと全てロボだけだがなッ!
「ここではねまあ言わば休憩所と思ってちょうだい。 料理もちゃんと出しているからなにか欲しい物ある?」
「えぇと……」
手渡されたメニュー表示を眺めていると。
「度数100度のお酒とか!」
「「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!」」
あまりの衝撃的な言葉に唾を口から噴射させてしまった。
……人差し指立てながらこの人なに言ってんだ! しかも100度って正気か! 日本でもそんなバケモン売ってねーぞ!
「あ、あの愛理さん? どうしたの」
「いやシェリーさん! 私……私たちまだ未成年だから!(1人違うけどノーカン)」
「あらそうなの?」
天然というかなんだろう。
DQNもはなはだしいけどその眩しい笑顔で推してくんのやめろ、これがサクラだったら……ラビパンするところだった。おぉ危ない危ない。
「そのシェリーさん、注文は私たちで考えるから少し待ってて」
「わかったわ、決まったら言ってね♪」
違う席から客の声。
「シェリーィィィィィィィィちゃんンンンンンン! 注文いいかい! 酒、酒、酒をくれえええええええ!」
「おいざけんなよ、先に注文しやがって……シェリーさんこっちも! あの席のヤツに負けない10杯で頼むよ!」
シェリーさんは客から大人気のようだ。
「はいは〜い今行きますよ〜♪」