212話 うさぎさん達、険しい山を乗り越えて その4
【寒いときは暖を取ったほうがいいじゃんね】
「う、さむ。寒いよサムネ」
肩がすぼむくらいの寒さ。
中間地点を抜けた私たちは、上層部に頂上付近へと続く氷窟に足を踏み入れる。
それにしても極寒と言えるほど寒い低気圧で、低い温度が行く手を阻む。
「さ、サムなんですって?」
「いや、後者はただの比喩だよ、おまけ的な」
上へと続く氷の道。
幸い、吹雪が吹いていないことが不幸中の幸いというべきか。雪道もあれば氷板も所々あり、自由度は少々狭められた密室な空間。
入り口付近では、氷系のモンスターが多くその大半が氷のブレス攻撃だったり体毛が白い……ほらネットやテレビでよく見るアイツなんかも。
「ちょ、またあいつ出てきたよ」
「うごおおおおおおぉ!」
怒涛の声を張り上げ、こちらへと襲いかかってきたのは毛が白く私たちより数十センチ大きい。
ゴリラでした。
名前を雪男という。
聞けば名前に男と付いているが性別はメスもあるので、名前は単なる装飾にすぎない。
「……かれこれ、もう5体目ですよ? 通りであまり人が行かないわけですね」
「スーちゃん? 震えているところ申し訳ないけどさ、また……うわっ」
話し込んでいる最中にそのゴリラは巨大な拳で叩き込んでくる。
地が割れると厄介だと思った私は、その拳を果敢にも両手で引きずりながらも受け止め。
「ぐ……ぐぐ! 力強ぇな。でもこっちも負けてられないてーの! おりゃ」
軽く力の入っていないであろう足下を狙い、力の入った軽い蹴りをする。
重心を崩した雪男は、一旦距離を置き体勢を立て直そうとするが。
「よーし一気に畳みかけるぞ!」
一同駆け抜けて総攻撃を仕掛ける。
スーちゃんが火の魔法で攻撃し、ミヤリー、シホさん、そして私は前に出て近距離戦へ持ち込んだ。
「ラビット・パーンチ!」
30倍。
技のかけ声と共に、3人の同時攻撃が炸裂すると雪男は下へと落ちていった。
ふうと一息つき。
「やたらとあのゴリラ出てくるよな、図体デカいし腕力もそこそこと」
「そうですね、でも私たちがいれば余裕ですよ」
心強くシホさんが隣でぐっと拳を力強く握り余裕の笑みを作る。
その心強いのは結構なんだけどさ。
私は1つ、どうでもいいことを彼女に。
「その……シホさん、入った時から疑問に思ったんだけど、寒くないの?」
「た、たしかに。防寒もなしであんな軽やかな動きができるだなんて、あんんんたの体どうなっているのよ?」
くごもった声で言うミヤリーも私に同情してくれる。
すげー寒そうに見えるが、シホさんはうんと首を傾げ。
「え、寒いんですか? すみません、こういうの慣れていて実感湧きませんでした」
でた、シホさんの慣れている系の発言。
「剣練の人って雪にも耐久性あるだなんて、私聞いてないよ!」
「どんな苦難でも耐えしのぐ、それが戦士ですから。……でも他の人は寒いと言って焚き火によく集まっていましたね。なんででしょう」
シホさんの肩に手を乗せ。
「あの愛理さん?」
「そのなんだ、ここでお前背が低い設定だったとちゃうんかというツッコミはさておいて……ひとついい?」
「なにを言っているか理解し兼ねますがなんでしょう?」
息を吸って堂々と言い張る。
「それはシホさんが強くなりすぎたからだよ」
「え、それはどういう……って待ってくださいよ」
呆れながらも歩みを進めた。
☾ ☾ ☾
低温とした寒い道を進む。
足下は危険とは言いがたいが、敵の矛先がこちらへと傾く一方で。
「グギャアアアアアアアアッ!」
滑空し俊敏な動きで襲ってきたのは、いかにも涼s……寒そうな鳥だった。
鋭利な鉤爪をこちらの方に見せると速度を次第に上げていく。
反射的に私は。
「うっせー! ラビット・パンチ!」
ドゴーン!
拳から生成した遠距離用に使うラビット・パンチを使い、飛んでくる敵へと狙い撃つ。
撃ち出した拳は辺りに立つ氷の柱をもかすめて。
「ぐぎゃああああん!」
敵の腹部に命中させると身を貫いて一発でしとめた。
「空飛ぶとか反則だろ。……特に鳥みたいな卑怯野郎なんかよぉ」
「……いや、あなただって飛べるじゃないですか」
「スーちゃん? 私鳥じゃないんだから長時間も飛び続けるだなんてできないよ?」
パーカーによってまちまちだが、そんなに長く飛び続けられるわけではない。
スーちゃんが露骨なことを言ってきたが……いやスカイでもあれ十分に体力使うからね?
だから、最近使わない……場面が立て続けとなり使う頻度が減ったが。
でも、ハイパーでよかったよ。前の服だったらああいう飛ぶ奴なんかには殴り込みしにいかないといけなかったからさ。
「愛理、後ろまだいるよ……ブレス!」
「なぬ」
ミヤリーの声で、後ろを振り向くと、その氷の鳥野郎もといブリバードが現れ、凍てつくような淡い冷息を吐いてくる。
おっと後ろががら空きだったな。
「返してやるぜラビット・バリア!」
向かってくる攻撃に対して、高速で回転する半透明の膜を張る。接触時、少々引きずるくらいの押し合いになったが力押しでその攻撃を跳ね返す。
「ごぎゃあああああああああッ!」
攻撃を相殺するどころか、その攻撃を跳ね返して倒した。
バリアなんてそんなに使うことはないが、いざというときの対抗手段として扱うことにしている。
【補足:ラビット・バリア:ラビット・フィールドの派生物で初量の魔力を消費することで手を振りかざし出現させる強力なバリア。1秒間に数万、数十万と回転しているのでただ防ぐだけでなく敵へと何倍にもして跳ね返す強硬度を持つラビットパーカー専用のバリアである】
「あれってなんて言うんですか?」
「……魔法壁みたいな、でも少し方向性がズレているような……」
「そんな思い詰めたような顔すんなって。あれはバリア……っていうスーちゃんが言ったような言わば守りの壁だね」
するとミヤリーは。
「ならこれを使えば私が死ぬことなんてないわね、頼んだわよ愛理!」
「勝手に使いっ走り要員なんかにするな……これでもな、魔力使うんだぞ?」
「あらそ? てっきり消費0で使えるお手頃なものかと」
「いや、世の中そんな甘っちょろい仕様なんてねーよ!」
魔力消費0の魔法ってもうそれ矛盾してるだろ。
魔力を使って打ち出すのが魔法であり……まあゲームによっては消費魔力を減らしたりする物もあるけれど、0なんていう世界線はチートでも使わないとほぼ不可だぞ? …………たぶん。
そうして立ちはだかる氷に住む魔の手を相手に立ち向かいながら、先へと進んでいくとようやく日が差す穴が見えてきた。
「見えてきましたね、ここを抜ければ王国の栄える一帯があるはずですよ」
まだ少々雪の積もった雪地の林が見えるが、遠くを見ると緑豊かな大地が広がっている。
そういや、聞いたことあるなぁ、人によって雪の踏む音はそれぞれ異なるとかって……いや今はそんなことどうでもいいです……はい。
「出てもまだ少し雪道は続くんだよ? 出口だからって浮かれていると……あぁなる……よ(後ろの棺桶を見ながら)」
ジー
「なんかうなーる声聞こえてくるんだけど?」
ミヤリーは道中、寒さのことをすっかり忘れてしまい、なぜか凍死という扱いで死亡してしまいました。……うかつなやつめ。
「さすがにそうは……そのミヤリーさん? もう少しの辛抱ですよ頑張ってください」
「死んでいるのに何を頑張れと? 鼻くそでもほじっていろって?」
「女がそんなことすんじゃねーよ、私だってそんなことしないぞ」
下品な戯れ言をぬかすミヤリーは放置し、長かった山の修羅場を乗り越え次の地へと足を踏み入れるのだった。