209話 うさぎさん達、険しい山を乗り越えて その1
【温度なんて辛抱すればいいや、と軽く見ていたら痛い目を見る】
「ここか」
支度を整えいよいよ第1目標である、エルミアの山へとたどり着いた。
正面の入り口から空を仰ぐと、これほどかと思わんばかりの高低差がある。
いままでにも、多種にわたる山を登ってきたものの今回は規模が違う。
慎重に目前の入り口に立ちながら、その外観を見る。
そこまで一見すごくなさそうだが、なんだろう……入り口から熱風が吹いてくるのは気のせいか?
「……いいですかみなさん、この先の入り口……下層部は火口となっています。足を踏み外すと体を骨にされてしまいますからね」
「下は火口、そしてその次は氷山か。熱いのと寒いが交互にくるのはなんかやだな」
王国通りへと向かう難所と言われているエルミア山脈。
その標高の高さには、新米冒険者がまず挫折する場所らしい。
下層部には火口が、上層部は氷洞となっている。
別ルートも検討したいところだが、あいにく他ルートはなくこの険しい山を登る他ならないのだ。
飛ぶ能力あるじゃんって? いや、3人分の重量だよ、無理がありすぎるからやめておくことにした。
加えて激しい熱さと極寒を携えていることから、王国へ行くと言い出す者が出ると、それは死にに行きますという意味合いに捉えられるんだとか。
乗り越えないと得られない自由みたいなそんな感じ。やっべ生きて帰られるかな。
「愛理、今度は対策できているんでしょうね?」
「もちろん、買いそろえた物もあるけれど、ジャジャーン」
虹色に光る鉱石を人数分取り出す。
手のひらサイズのコンパクトな物は神々しい輝きが特徴的である。
それを見た、仲間たちは瞠目し目を見張り指差しで。
「そ、それって……」
「ごめ、さっき歩いている時思い出して」
驚嘆。
夢でも見ているのではないだろうか、とそんなことを言いたそうな顔で私の方を見る。
真顔になったその顔が、はなはだ驚いている素振りを思わせた。
顔がガチなんだよなぁ。
みなさん、覚えているだろうか。
そうこれはムゲンダイセキである。念入りとっておくといつも後回し気分で貯蔵していたが、いよいよこれを使う時がきたらしい。
あと数個分残っているのだが……まあ問題はないだろう。
みんなのステを先ほど確認したら、100まで達していた。
シホさんはともかく、私たちの今の力だけでは心もとないので使うことにする。
あと、ミヤリーのHPは相変わらず1000にも満たないザコちゃんでした。
「……それ早く言ってくださいよ。えぇとそれを手に振りかざして」
スーちゃんを筆頭に彼女の言う通り、ムゲンダイセキを掲げると。
「うわぁ」
瞬く間の光によって、消化するように溶けていく。
【愛理のLV上限が110まで伸びた!】
現在ステータスを確認。なんか久しいなこれ。
HP52京
魔力150京
攻撃300極
防御125京
素早さ500極
ふーん。
って。なんじゃこりゃあああああああああああああああぁッ⁉
い、いつの間にか、常識の範疇超えてんじゃん!
【えーと、突破すると桁もこの世界だと段違いに伸びますよ、伸びるくらいは全てランダム……乱数によって決まりますがまちまちな感じです】
いや、そういうの……んまぁいいや。
他の仲間も見てみたが、桁が大幅に増えている。なんぞこれ。
インフレってやばくね、そのムゲンダイセキって貴重分、とんでもない力を持っていただなんて……どおりで高い値が張るわけだ。
ちなみにミヤリーのHPはというと、桁が1つ増えたぐらいで1000。うん、相変わらず少ないね。
「変わった気はしませんけど、これでレベルの上限が上がったということですか?」
「そのはずです、これで多少は……戦えるはずです」
「じゃあ行くか、えぇと中腹辺りに休憩所の街があるんだっけ。まずはそこを目指すか」
☾ ☾ ☾
エルミア山脈下層部。
うだるような熱さ。
1歩踏み外しただけで死にそうなマグマの池が傍にある。
宙を見渡すと滝のごとく落ちるものも中にあり、あぶり焼きにされないよう慎重に進む。
フレアに久しく変身している。
そのおかげでマグマ床を歩いてもロストすることはない。それ以前にスーちゃんがいるので問題はなさそうだが。
それでも、外部から多少の熱さが隙間風のように入ってくるので完全に遮断できているわけではない。
「ねーねー熱くない?」
「……いやミヤリーさん、それは誰だって一緒だと思いますが」
「運命共存隊ってやつでしょ? そんなのわかるって」
「それ言うなら運命共同体だろうが」
「あ、そだっけ?」
無知なミヤリーの寒い渾身のギャグによって場が冷える……ことはなく間断なくその熱さが永遠と続く。
「……一応魔法で床踏んでもダメージは負わないようにしてはいますけど、油断しないでくださいね」
「わかってる、ずいぶん前にそれやって棺桶入ったことよね」
「そんなことありましたっけ」
たしかあれはシホさんが気を失っている間だったから、彼女が知っているわけもない。
あの時は苦難の立て続けだったなぁ、良くも悪くも。
「そっかシホさんは覚えて……知らないんだっけ? シホさんミヤリーね」
「「わわわわわわわわッ! 愛理言うな! 私の羞恥を公にさらさないでぇぇぇぇ!」」
「ぐぶっ……わかったよ」
急にミヤリーが口止めしに寄ってきたので、会話はそこで途切れる。
たいしたことではないが、よほど思い出したくない……いや自分の愚鈍なところを晒したくないからだろうか。
チキンな奴め。
「……みなさん、じゃれていないでいきますよ。この先にある坂道を上って行き」
徐々に足場は危険になっていく。
上層へと続く、坂道を上っていくと下層一帯に広がるマグマの海が永遠と広がっていた。
幸い、車道ぐらいの歩けるスペースはあるので、万一、戦闘にあってもヘマをしない限りは大丈夫そうかな。
すると。
「おい見ろよみんな。……火の液体が3つ飛び出してきたぞ。……形を作って……」
「どうやらモンスターのようですね」
飛び出してきたマグマの液体3つは形を成り、溶解している見た目のモンスターとなる。
先手として、焼べられた火の玉を私たちに撃ってくる。
「……!」
プシュ……プシュプシュッ!
「させるか、ラビット・フレアバリア!」
手を振りかざし、飛んできた火の玉を仲間全員を覆うことができるくらいの膜を生成させ防ぐ。
耐熱性があるので私には問題ないが、仲間に当たったら大惨事だしな。これくらいはしないと。
「助かりました。まさか即座に攻撃してくるだなんて……」
「DQNもほどほどにしてほしいよな」
「おとなしく……通してくれそうには……うん、ないわね。ここは力を合わせて倒すわよ」
次の攻撃に敵は備え、こちらの出方を窺っていた。
私も拳を軽く構えたのち、仲間も一斉私に続いて準備をする。
「さて、どれだけ強いかわからないけど、道を塞ぐって言うなら力ずくでねじ伏せてやろうじゃあないかッ!」
「……あのモンスターはマグマドールって言うらしいです。軽率な判断はせず慎重に動きましょう」
【マグマドール 解説:マグマに潜む小型のモンスター。液体状の体で地を引きずらないと移動できないが、移動、攻撃あらゆる面にて動きが優れている。打ち出すマグマ・ショットには要注意。普段は溶岩の中に住んでいるが、侵入者を感知すると、這い上がり襲ってくる】