208話 うさぎさん達、道中にて その3
【念入り情報収集は大事だよな】
森を抜けて大きな街へと入る。
目的地である山岳から少し外れた位置にあり、情景も西洋風の街並みが広がっており非常に穏やかな場所だ。
なんだろう、元いた世界でいうパーキングエリアのような場所へ訪れた気分。
中心部分へと歩けば大きな噴水が、街全体を彩らせる。
とかくして人々――冒険者達の姿もちらほら見える。
遠巻きで見ているが数人、見慣れぬ物を着装していた。マケット銃? カウボーイのような見た目をしているが誰だろう。
気になったので隣にいるシホさんに聞いてみる。
「ねぇシホさん、あの冒険者、どんな職業だっけ? 見たことないんだけど」
「あの遠くにおられる冒険者さんでしょうか。……ふむ、見慣れぬ物を着装していますね。少々愛理さんがいつも携行している物に酷似していますが」
「……街のパンフレットで記述がありましたけど、あれは銃士というこの大陸独自の職業のようですよ。精巧な射撃する機器銃を用いて狩りなどを行うスペシャルリストのようです」
まんまじゃねーか。
よく西部劇に出てきそうなハット帽、首にはバンダナを身に付けている。
シホさんたちが認知していないことから察するに、スーちゃんが言うようにエルミア大陸特有の職業柄みたいだ。
少し油断するだけでも、発砲されそう……だが?
と張り紙1枚に目が行く。
『銃士のみなさんへ 無益な発砲はやめましょう』
ちゃんと対策をとっていやがる有能すぎ。
銃士のみなさんに喧嘩を売らないよう、言動には重々注意したいところだな。
「……街中の発砲は辺りへの被害を及ぼすので、念入り銃士のルールというものが存在するみたいですね」
「でも、あの武器かっこいいわね! いかにも強い感出しているわよ」
「それを言うなら強者感だろ。……さて私たちは山の行く準備でもして」
とその通りを進もうとしたら。
「おい、待ちな」
「え」
見知らぬ銃士に、目を付けられた。
ガン付けながらこっちを見る。やべーよやべーよ。
「えぇとなんすか。私たち立ち寄っただけなんすけど」
「お前見慣れぬ格好だな。うさぎの服……よくここまで生きて来れたな」
もう聞き飽きたよそのテンプレは。
「慣れだから。その銃士さんこそなんなのさ、急に呼び止めたりして。まさか無理矢理ガンマン勝負しようぜみたいなこと言い出すんじゃあないだろうね?」
「……そこまで警戒はしてないんだが……というか慣れているのかこのあだ名。ブレもなにもしないじゃないか」
うん、だから数千回も聞いたからね。
正直あくびがでそうなくらいには。
「その銃士さんどうしたのよ、私は……私たちは決して怪しい者では」
「気になって、声をかけただけだ。……だがお前の名前は」
軽く自己紹介をする。
「仲宮愛理。話すと長くなるけど理由あってうさぎをやってる」
「……その愛理、お前からは因縁らしきものを感じてくるぞ! ……よし、これもなにかの縁だ、見た感じ他の大陸から渡ってきた者とみた……どれ俺の銃を3本お前たちにやろう」
革袋から取り出してきたのは、ハンドガン二丁、マグナム銃。
名前はなんというのか知らないが、重厚感ありそうな見た目。
すると、口笛を鳴らしどこからともなく、馬が彼の元へとやってきた。
「きたか、相棒。今日の俺は最高にハイな気分だぜ! さぁて次の街へ行くぞ」
馬にまたがると、手綱を引き。
「おいちょ、まだ話は!」
「じゃあな我が宿敵であり盟友永遠のライバルよ、また会おう!」
引き留める前に駆けだして去っていってしまった。
「敵なのか味方なのかはっきりさせろよ」
「……あれが銃士、ところで愛理さんこの銃どう使うかわかりません?」
「いや、ガチのサバゲーなんかやったことないんだよね」
マンガあたりで少しかじった記憶はあるけれど!
「……気が向いた時でもいいので貸してくれませんか。1度愛理さんのものまねしてみたかったんですよね」
「スーさん興味持った感じですか」
「目を見開いているけれど、そんなに使いたかったの? まあ私も少し興味はあるんだけどさ」
違う大陸からきた私の仲間たちは、銃という武器に興味津々であった。
☾ ☾ ☾
街を歩く度に目新しい物が飛び込んでくる。
今まで訪れた大陸とはだいぶかけ離れた感じで、あちらこちらと高い建物が建ち並ぶ。
第1目標の山までまだ距離はあるのだが、今はその下準備みたいな。
「……どうやら、ここ大陸一帯に住むモンスター達は他と比べて多大な進化を続けてきたようです。ゆえに、他の大陸に住むモンスター達とはかけ離れていてとても強いようですね」
「愛理さん、このモンスターブックに記載されている情報だと、あのミドロンの亜種『デストーイ・ミドロン』という魔物もいるようですよ。体内から放たれる腐敗した液体に触れるだけで、どんな物も溶解してしまうんだとか」
この大陸にあの、亜種がいるのか(トラウマ)。溶けてしまうとかやばくねそれ。
ブックスタンドで本をいくつか漁っているが、シホさんの見るモンスターブックはこのエルミアで主に出現するモンスターを載せた本である。
言わば図鑑である。
分厚くぎっしりと重圧な本になり、1ページごと各モンスターを詳しく説明している。しかも写真つき。
危険度を記すため、写真の下に5段階の星が書いてある。
このデストーイ・ミドロンは、5段階中……ってマックスの5じゃねえか!
写真には血みどろとした赤黒い醜悪なミドロンが写っている。
『デストーイ・ミドロン 危険度★★★★★ :生息地『地下深くの腐敗層に多く生息』 エルミアのみ生息するミドロンの亜種で噴射された粘液に触れただけでどんな物も骨ごと溶かしてしまう危険モンスター。幸い局所的な場所にしか出現しないが、まず闇雲に攻撃はせず遭遇したらすぐ逃げるといい』
あの緑色のバケモンがさらにバケモンしていて草。
腐臭どころの騒ぎじゃあなくね?
「その、ここに住むミドロンって強すぎね。戦っていないから、こう言うのはおかしいかもしれないけれど台パンレベルじゃね?」
「ダイパンってなに? ダイヤにパンでも挟まってんの?」
「いいやお前ダイってダイヤのことじゃねえから……」
「……取りあえず買っておきましょうか。……す、すみません」
してスーちゃんが店の店主に声をかける。
「……今日も暇だな。昨日出した売れない本を出したせいか全くこない」
案の定、見向きにもしてもらえない。
つーかそれりゃそうなるわ。
そういや忘れてた。スーちゃんこういう特異体質(呪い)があるってことを。
久々の展開ではあるが……え? じゃあなんでいつも私たちは認知しているかって? ……そこはあれだ、ご都合主義や大人の事情みたいなアレ。はい、突っ込むのは禁句な。
「……すみませーん。すみま……すみま……」
「ふう」
無反応。
「す、す、す、すみませーん!(黄色い声)」
「う、うわぁ! びっくりした! ……あ、ウチの本見に来てくれたんだ」
「……え、えまあ」
よそ見しながら気づいた店主と対話を試みるスーちゃん。
頬を火照らせて、言い淀みながらも用件を言う。いやかわいすぎか。
「そのこのモンスターブックを下さい」
「これか、見た感じ君たちは違う大陸から来た冒険者さん? それならマケてやる! 銅貨1枚でいいぞ!」
「え、まじ? おっちゃんそんな融通を利かせなくてもいいのに」
「うさぎの姉ちゃん、俺はやると決めたからには、途中で降りたりしない。遠慮はいらんぜ」
なんという男気の持ち主か、それを実質銅貨1枚でくれると言い出したではないか。
「……では店主さんこれで」
店主にスーちゃんは銅貨を1枚渡すと、ありがたく受け取り。
「あれ店主さん? その小さな紙切れはなに?」
ふとミヤリーがなにかに気づく。
スーちゃんの平には切手くらいの大きさをした紙切れがあった。
おや、これってもしかして……もしかするか?
「他の大陸にはこれ……ないのか? お店で一定金額の物を購入するともらえる券……その名もエルミア券! 会計時にこれを任意の枚数提示するだけで本来の金額より安くしてもらえる品物だ! 今回は多めの40枚やろう」
いやクーポンじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!
あまりの意外っぷりに驚嘆する。
どうして異世界にく、クーポンが?
というか、1人10枚とか太っ腹すぎるぞこの店主。
「で、どうします?」
「どうするも、なにも1人10枚で分配できるんじゃね」
「……確かに」
不思議な体験をした私たちは万全な準備を整えつつも、目的の山へと向かうのだった。