206話 うさぎさん達、道中にて その1
【インフレのスピードって1年間で凄まじい速さで生長していく】
山を目指す私たち。
広々とした平地を目の当たりにしながら、その地を踏みしめた。
目的地まで距離は長々とあるが、ピクニック気分で進ん……。
「な、なにか空から襲ってきますよ」
「え、まじ? う、うわあああああああああぁ」
空を仰ぐと巨大なドラゴンが開口しながら火の玉を撃ってきた。
止めどなく、宙より降り注ぐ火の雨が私たちを襲い即座にスーちゃんが魔法で。
「ガチコール! ……これで大丈夫のはずです」
堅牢で不思議な光の守りによる領域が出現し、降り注ぐ攻撃をも全て防いでくれる。
大きさ問わず肉眼ではすぐに貫かれるであろう、小さな結界だがことごとくと数ある攻撃を受け流していく。
攻撃が止み、守りが解ける。
「止んだか?」
「……しのぐことはできましたが、敵はまだまだ余裕そうですね」
図々しいように、巨大な竜は目の前に立ち吐息を吐きながらこちらを暇そうに見つめていた。
舐めプさながら鼻垢をほじり……って迫力ありそうなドラゴンさんがなにやってんのさ! かっこよさ台無しじゃん。
とそれはさておき。
こちらの視線に気づいたのか、矛先を私たちのほうへと向け体制を整えさせる。
(舐めプしたら痛い目にあうってことを、この私が直々出向いて教えてやろう)
と細い声であんぐりな表情を浮かべながら拳に力を入れる。
よし巨大なモンスターには巨大なモンスター用にと。
「あ、愛理? 何する気」
「え、もちろんこのハンマーでぶっ飛ばしに行ってくるけど」
ストロングにチェンジすると、ひとつミヤリーが聞いてくる。
危険を促す少々懸念するような声調だが、心配いらないって。
こちらを指差すような仕草で、不安をよぎらせているがお前みたいにフラグ建築士なんてならねーから。
「後ろで私も応戦しますよ、スーさんは魔法で援護を」
「了解です、あんなモンスター私からすれば、ただの図体のでかい…………いえ少し待って……」
「ん? よくわかんないけどとりあえず殴ってくるわ。とりゃああああああああぁ」
スーちゃんがなにか言いたそうだったけれど、私は地を蹴り敵へ攻撃を仕掛ける。
間断なく飛んでくる火球をラビット・ハンマーで。
「ふう。たまには違う形式もありか。とーりゃーっと!」
走る道中にある数々の岩。
それを最初は盾代わりにしながら突き進んでいたが、防ぐものなら高熱によってことごとくと焦土へと変えられていく。
私はどうせそうなるならと。
ド――――ン! ドドドドドドドーン!
岩を盾代わりにするのをやめて、ボウリングのようにその岩をハンマーで飛ばし、飛ばし、飛ばした。
「グギャ! グギャ! グギャ!」
適当に飛ばしただけなのに岩はボールのように高速で回転して、竜の方へとぶつかる。
もう数か所あったのでそれも飛ばし何回か繰り返していくと。
岩は違う岩同士でぶつかり合い。
しまいには。
「と、飛んでしまいましたよ。これでは」
「……いえ、愛理さんの飛ばしたあの巨大な岩を見てください」
「こっちにはじけ飛んでこない、大丈夫?」
「ドゴガァァァァァ!」
回る岩同士は強い反動によりぶつかったのち、偶然にも宙に飛び立った敵を弾けた反動で突き落とした。
その速度は、目で捕らえることのできないくらいの速さであり、例えるなら巨大な駒でも見ているかのような感覚だった。
距離を詰めていく。
起き上がった敵にお構いなしに、ハンマーを片手に突き進むと。
咆哮をあげる。
「ギャオオオオオオオオオオオォォ!」
威圧をこちらに放ってくる竜。
全身金色でいかにも強そうな見た目をしているが、私の相手には到底及ばないだろう。
翼を使い、追い風により動きづらくしようと攻撃をしかけるが。
「なんのこれしき」
ハイパーの恩恵のおかげか以前より体が軽くも感じるので、以前より動きは軽快。難なく突き進める。
強度はそこそこあるが、動けなくもなかった。
あの重いハンマーでさえ、少々軽く感じる。
いやどこのアポロ計画かってーの。なんか似てるかも。
だがさすがにこの強風だと威力が減少してしまいそうなので。
「こうなったら、これでどうだぁ! せーの」
ラビット・ハンマーを端へ回すように投げた。
金槌とは思えない剛速球で、狙いを定めた敵の頭部を目がけて直撃。
「グゴォ」
「あらよっと!」
力強い拳を距離を詰めて、返ってきたハンマーを拍子よく飛び上がる。
足の踏み台として勢いよく蹴ると、速度をそのまま落とさず直線状に敵の方へ加速し詰め寄った。
「これでも、食らいやがれ!」
空中で左右交互の拳が止めどなく。
敵の体へと打ち込まれていき。
「おりゃりゃりゃりゃ……ストロング・ラビットパンチ!」
ズドーン。
「よし……これで………………あれ、なんか手応えなくね?」
いつもさながらの敵が飛んでいく感覚がなかった。
それもそのはず。
敵は吹き飛ばされたのにもかかわらず、ひたすらと私の攻撃を受け流していた。
「う、うそやろ。……ならラビット・ハンマーでどうだ!」
先ほどの雄叫びはいったいなんだったのか。
それ自体が自演だったということ⁉ んなあほな。
ハンマーを引き寄せると、力を込めて敵方向へと振り回して攻撃。
だがこれもそこまで歯ごたえがなく。
足で踏み潰されそうになると。
ハンマーを使ってその攻撃を制し寸前、押され気味になりながらも受け止める。
先ほどと大して差はなかった。……なぜに。
「……あ、愛理さん!」
「ど、どうしてきかねぇんだよ!」
竜の腕に油断していると掴まれ拘束状態に。
するとAIさんが起動し。
【敵のHPを測定中…………測定約HP1900京です】
「え、今なんと……ど、どぉぉぉぉぉぉぉ飛ばされ」
宙へと放り投げられると、巨大な尻尾による強力な攻撃を食らってしまう。
地面へとそのまま叩きつけられると再びその尻尾が私の方へとたたき落とされた。
ドスーン!
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! 潰されちまう」
辛うじてその尻尾を受け止め状態を維持したが、押せるほどの力はあまり……というか引力がデカすぎる。
「「愛理さん」」
「愛理!」
3人の声を受けながらも持ちこたえる。
数秒もかからず駆け寄ってきたシホさんが、力強い蹴りと一振りで巨大な敵相手にも問わず払いのけて私を救出。
仲間の元へ戻ると。
「……すみません愛理さん、そういえばここのモンスター他大陸とは比べものにならないほど強いって聞きました。噂程度で信じていませんでしたが、どうやらこれは本当のことだったようです」
なんでHP1900京もあるんだよ!
世紀末のソシャゲじゃああるまいし、そういやこの世界の桁数ってなにかとバグった数値が出てたような。
つまり、ここのモンスターってインフレが超超超……超超超超超超! 進んでいるってぇ⁉
そういうことでいいんですよねAIさん?
【ハインド・ドラゴン:大大陸全域に出没するドラゴン。人数人分の高さになり攻撃も強力。火の玉は敵を焦がして灰にする威力もある】
こわ。
【大大陸のモンスター:インフレが他の大陸と比べて非常に進んでおり、それは約数百倍だと言われている。事前の準備は怠るな、橋を渡ったら初見殺しの目に遭うってRPGで習わなかったかい?】
インフレって怖くね。
いや、確かにさ! それはRPGあるあるな展開だけども……規模が全然チゲーよぉこれは。
道理で攻撃がなかなか通らないわけだ。……え、じゃあこの盤面どうくぐり抜ければいいわけ?
「またアイツ起き上がったわよ。ものすごいスピードでは、速い」
上空の日の上まで昇り口を開けて……やべ、二波来るんじゃね。
新しい大陸に来て早々、私はとんでもないガチャを引いてしまったらしい。
というか急展開すぎるだろ!
躊躇していると再び空から火の雨が。
その時、シホさんが前に立ち。
「え、どうする気? まさか1人で倒すとかいう無茶振り言うんじゃあないだろうね?」
「いえこれのほうが早いかと思いまして。ウルティム・ソード!」
宙に浮く敵相手に向かってシホさんは、高々にそう呼びかけると巨大な斬擊が彼女の前に出現。
まばゆい光を放つ、その斬擊を塊を力強く放った。
「たああああああああああああああぁ!」
周りの木々を激しく揺らしながら、彼女の放った攻撃は俊敏に空へと駆けていき『ブシューンッ!』と瞬く間な攻撃のごとく竜1体に直撃した。
その衝撃波は凄まじく、従来の斬擊をも遙かに凌駕する威力であり滑空する相手に対しても有効で。
「グギャアアアアアアアアッ!」
一撃とはいかないものの、強打した敵は大きな負傷をしていた。
片方の翼は千切れ、左右非対称に。
あの斬擊、やっぱ昔使っていた技より断然強力だ。
大きな範囲を取らないのにもかかわらず敵に強大なダメージを与えるだなんて。
「ぐ、ぐぅ! 凄まじい風だなッ」
「……今ならあの攻撃もできないと思います。反撃するチャンスです」
みんなで敵の近くまで駆け寄ると、スーちゃんが先陣を切る。
「……燃えよフレイム・イグニスト!」
逆巻く炎を発生させると灼熱が敵を包み込んだ。
だが耐性があったのか、その炎を尻尾で振り払うとこちらへと鋭い牙をむきだしながら襲ってくる。
「スーちゃん!」
「グギャアアアアアアアアッ!」
「えぇい……ガチコール!」
体を硬くさせる魔法を使用しその攻撃を全て受け流す。
隙をついて、私は蹴りからのラビット・パンチをお見舞いする。
「ラビット・パーンチ!」
通常フォームへと戻しての攻撃。
ドスンと、音が響くがやはり歯が立たない。
こちらを振り返るとこちらをひっかいてくる。
あれこれ詰んだんじゃ。
ザコ相手になんだよ、このクソモンスターは。
インフレしすぎだろって。
こうなったら。
「愛理? それ使う気」
「これ使わないと、まともに張り合えないの……ラビット・ガジェット起動」
反則には反則をってね。
虹色の光が私を包むと、パーカーの色が変化。
さぁて改良を重ねてようやくできた……マスター・ラビットパーカーの完成形態。インフィニティ・ラビットパーカーの力を試す時がきた。
攻撃を私は片手で受け止めると、触ることなく敵を浮かせて向こうに向かって。
「食らえ、インフィニティ・ラビットパンチ!」
「グッ⁉_ ごごごごごごごぉッ」
手応えはあった。
あとは、時間もあまりかけたくないので。
専用の剣・盾を取り出して矛先を倒れる敵に向けた。
刃から虹色の光が神々しく光ると、蓄積された力を解き放つように前方に向けて解き放つ。
「みんな下がっとけ! インフィニティ・ラビットブレイク!」
「……く、この、この巻き上がるほどの衝撃は技の規模を遙かに……超越しています!」
極大の斬擊は巨大な閃光の剣を作り出すと、長さは地平線の向こうまで半永久的に伸びていった。
その火力はというと、私の想像遙かに超え……超越するものであり。
敵を飲み込むと光の中へと飲まれ消滅。
最後に聞こえてきたのは、おぞましい息絶えるまでの生々しい叫び声だった。
……よ、ようやく倒せた。
ガジェットを解除させると後ろの方を振り返り。
あれ、なぜか疲労をこの上なく感じるのはなぜだろう。取りあえずみんなに声をかけないとだな。
「はぁ……はぁ。疲れた。みんな……だい……じょうb」
ドスン!
と振り返った途端、急に疲労が溜まったのか知らないが私はそこで転倒し気を失った。
意識が消えゆく中、心配しているみんなの声が。
……そうだ、意識が消える前に、無限ボックスにいるマックス・ヘルンを出して。
(あとは……頼んだぞ、マックス・ヘルン……)
別に死ぬわけではないのだが。
疲労感を浴びすぎたせいで、声が衰弱したかのような状態に陥っていた。
私が気を失ったあとも、シホさん達が困らないようにと、この馬を。
少々、馬を頼るのは滑稽だが、事が事頼んだぜ。
「ヒヒーン!」
「? マックス・ヘルン? ……そうですかわかりましたよ愛理さん、今はゆっくり休んでください」
目の前にいたシホさんの声だけが聞こえた私は、弱々しくサムズアップをするとそこで意識が途絶えた。む、無念。
あとは頼んだぞ、マックス・ヘルン!
【愛理はインフィニティ・ラビットパーカーの作用で気を失ってしまった クールタイム:n分?】