205話 うさぎさん達、巨大な地を歩き出す
【見た目で騙されたら負けだと思うこの頃】
念願の大大陸へと到着。
大大陸って聞くからに噛みそうな名前だけど、なにが大きいんだって疑いたくなる。
歩いてすぐ見えた街――ラグラッシュ・タウンへと入る。
強固な塀の前に立つのは、見張りの門番……え、今回1人ですか。
「ようこそ、ラグラッシュ・タウンへ。入場する場合4人以上かつSランクである必要があるが……」
無言で各々、自分の身分を提示すると。
「これでいい? 私たち一応全員Sランクだけど」
「ふむ、問題ない。見た感じ君たちはこの街……この大陸は初めてみたいだが?」
「なんで大大陸来たのが初めてだってわかるんだよ」
一瞬目を凝視してきたような……気のせいか。
「すまん、ここに住む人と来航する人だと違う目をするからこういうのはすぐわかるぞ。でも驚いた、こんなかわいらしい服を着た人がくるとはな」
皮肉言っているのか、褒めているのか。いたたまれない気持ちもいささかあるが。
「あと、嬢ちゃんたち、あまり知られていないかもしれないが、ここではこの大陸の名大大陸という名前は通用しないってことを覚えてもらいたい」
「え、まじ? もしかして、大大陸って名前は他の場所特有の名前だったり?」
そのなんだろう、聞いた感じだと大判焼きか、回転焼き、今川焼きのような地方によって言い方が違うみたいなニュアンスだと思う。
酷似しては……いるよな多分。うん多分。
「鋭いな、そうだよ。大大陸っていうのは他の大陸の者が勝手につけた言いづらい名前だ。……正式名称はエテルミニア大陸……略してエルミア大陸と呼んでいる」
「エルミア……大陸。私も初耳です。あまりそのような書物は見たことも」
「スーちゃんも知らなかったんだ」
スーちゃんも知らない未知の領域って。
ご当地効果恐ろしくないか?
ひとまずこの話は置いといて。
「愛理さん、考えてるところ申し訳ないですけど、早く中に入って狂政さんに頼まれた物に関することを探さないと」
「あ、そうだった。……それじゃ、門番さん。私たち急いでるからまったね」
軽く手を上げながら別れ際の挨拶をすると、ラグラッシュ・タウン内へと入っていく。
「す、すげえ。人たくさんいるじゃん」
「ここ小さな街でしょ? ……なのにこの数ってやばくない?」
まず目に飛び込んできたのは、屯する人だかりだった。
小規模な街だというのに人はたくさんおり、その数は都会並みで活気に溢れていた。
噴水を中心として、西洋風の街並みが栄え、多種多様の露天も確認できた。……さすがにオタクシティのような世界観ぶち壊しなもの(あれは規格外だが)はないが、はたからみたら小規模な街とはいいがたい光景。……めっちゃファンタジーやん。
「ギルドは……張り紙によると路地にあるみたいですね。とりあえずそこへ行ってみますか?」
「うんそだね、ていうか迷子にならないよね、人本当多いから……あ、すんません」
長蛇の列に押されながら前へと進み、シホさんの意向でこの街にあるギルドを目指した。
歩ける範囲が極度に狭まっているので、マジで迷子になるのか心配。
迷子センターに問い合わせを……ってここ異世界じゃん。そういうのあるわけねーって。
シホさんが後ろから進路を言って誘導してくれる。
本通りから、路地の方へと向かい。
途上、怪しげな占い系の店が見えたけど……オルフェウス式にスルーで行こう。
こっちも活気は収まることのない雰囲気で、すこぶるほど歩きづらいですはい。
「ろ、路地なのよねここ? 人メチャクチャ多いんだけど!」
「……私は、背丈が低いので大丈夫ですけど」
「え、そうですか? 愛理さんそこを真っ直ぐ行って……」
いや、あなたはスペックが規格外だから、比較対象のベクトル違いすぎでしょうが!
「……あれかな? それっぽいのあるよラグラッシュ・タウン……ギルドだって!」
「や……やっとついたわね。もう死ぬ」
憔悴状態なりかけのミヤリーは疲弊しきっている状態に。
おい、頼むからまた勝手に死ぬんじゃあねえぞ。今回は棺桶を置き去りにしてしまうかもしれねえから。
画架型の看板にはラグラッシュ・タウンギルドへようこそと書かれている。
その奥に西部劇で出てきそうな外装をした、ギルドが私たちを待っていた。
「少し休憩してから次の行動に移ろう。さすがに私も疲れた」
「……そうですねでは中に」
扉の中へと入り、しばしラグラッシュ・タウンのギルドで休んだのち、次の行動に移る計画を練るのだった。
☾ ☾ ☾
小規模な街にしては度がすぎる気がする。
疎らな服装を着た数多の冒険者達。リーベル並に餌を求め駆け寄るハイエナのような、すさぶりは感じられない。
時間にゆとりを持つ冒険者達が、上品な石英テーブルの上で作戦会議する背中が見える。
おっとここの人は融通が利くタイプだぁ。感服。
単純に他大陸のギルドを調査しに来たわけではない。
建前は情報収集。
入ってすぐ端にある、絵本棚の方へと歩いて。
トコトコ……
忍び声が聞こえてくる。
「おい、見ろよ。あのいかにも『雪国から来ました』的な服装を」
「やめとけやめとけ、あぁいうふざけた格好しているヤツに限ってめっちゃ強いんだぜ? この前小さいスライム虐めてたら急に他のスライム呼び出してでかいスライムになって返り討ちにされた経験が」
「まじかよ、じゃあ口や行動は厳粛に……適宜にしないとな」
防寒着……いや、端からみたらそうわな。
クラスで1人だけ浮く陰キャ君みたいになっているけれど、真正面から向き合ってくれよ頼むから。
「……愛理さん注目の的ですねここでも」
「それって褒め言葉? それとも皮肉かなにかかな?」
「……あ、いや気に障りました?」
「いや大丈夫だけれども、視線がちょいキツい……」
バスの中では大きな声出すなと、昔誰かに言われなかったかい?
これは万国共通のはず。うるさい声を遮りながら進む。
すると横から今度はシホさんが。
「その愚痴が聞こえてきますけど、少し痛めつけてもよろしいでしょうか?」
「ちょちょちょ‼ 鞘を差し出さなくていいから抜刀準備満タンモードにならなくていいからね!」
「おっとすみません、私としたことが自棄になるところでした」
時々シホさんやっぱ脳筋天然になったりするけど、真に受けなくていいから。
顔を近づけて時、周りの冒険者達を警戒させる顔つきになっていたが……彼女言う通り気が早いって。
本棚の方へ寄ると、地図らしき物が目に入った。
少し見開きすると、大大陸もといエテルミニア大陸全体が書かれていた。仔細な情報が点々としていて緻密に作られている。
そういや学校でせんこーが言ってたっけ。……国によって大陸の書き方が違うと。
この地図はリーベルと変わらない基準の地図。従来通りの形式だ。
とりあえず、これをできれば手に持ちたいのだが。
カメラ……やめとこ文化が違うとはいえ盗撮はよくないし。
……えぇとスーちゃんに頼んで。
「……なんですか、またなにか欲しがるような顔して」
「……これコピれる?」
「コピレル? あぁ模写して地図にしたいわけですか。大丈夫ですよ、それならそうと早く言ってくださいよ。はいトレイス」
前置きなく、スーちゃんは軽く杖を片手に魔法を使った。
すると1枚の紙が手元に出現。……地図のコピーだこれ。
「これが愛理の言うコピーィ(濁し声)? って言うの。……うわぁまんまそっくりね、細かい情報が……うぅ字が小さくて見づらいわ」
「おめーはおばあちゃんかよ。……そうだな、ここから先だと」
この先には巨大な山がある。低音注意と懸念を促す書き方がされている。……防寒必須。私は大丈夫だけどみんなは平気かな。
どうもこの山中にある、氷道を辿り登っていくと、大きな都市が見えてくるらしい。
そこにある、1つの国が近くにあるみたいだが。
「また山なの?」
「ミヤリーくん、ネラッテヤッテイルワケジャネーカラネアタマハタラカセロヨ(棒)」
「真面目にやっているから! なぁ〰〰〰にふざけたような言い方してんのよ! 私だってそれくらい朝飯前だから。フン」
拗ねるミヤリーは放っておいて。
「そこを抜ければ大きな国が見えてきますか」
「……準備は怠らず念入りに……さ、ミヤリーさん腕組んでいつまでいじけてるんですか。いきますよ」
「あ、ちょ……わわわわわわわかったって! ちょっと愛理! 行くのはいいけど準備はちゃんとしなさいよね」
「はいはいわかってるって。そうと決まればみんないくか」
二つ返事の承諾。これは適切な適当であって粗末な選択な適当ではない。
そこ行けば持ってきた流星石の加工まで行き着けるかは不明だが、試す価値はある。
大きな国行かないとそれはできないって狂政が言っていたし。
寒いのは嫌だけど、これが前提任務……みたいに考えればと思いつつも、十二分な支度を整え次の目的地へと向かった。