20話 うさぎさんと置き去りにされた少女 その2
【一見強そうに見えるけど実は弱いヤツ】
棺桶から出てきたのは、悍ましい異様なゾンビではなくかわいらしい少女だった。
100年経過しているから、さぞ年配の人が眠っているのかと考えたが。
若人とな。しかも、背丈は自分と身長がほぼ変わらず……ってなにその年齢詐欺みたいな設定? エイプじゃあねえんだから冗談はほどほどにしとけよ。
そのように私が違和感を抱いていると疑問がひとつ浮かんだ。
あれ、“100年眠っていた”とはいったい。
ミヤリーと名乗る小柄な少女。
フードなしの外套がおしなべて黒い服装で、髪は激しく煌々としそうな長髪の金髪、目は赤眼と厨二病要素全開の見た目だ。
服が所々、年月がだいぶ経っているせいか埃が被さり陳腐な感じ……くさそう。
その少女の名はミヤリーと名乗り欠伸を1つこぼす。
「あーあ」
今でも、非常に寝そうなその少女は自分の口から妙なこと言ったが、私の聞き間違えかもしれないので再度問うてみる。
聞き間違いかな。やはり納得できないんですけど。
「100年? どういうこと」
「だから100年だって」
「その顔嘘言ってない感じだな。……マジかOMG」
「おー? なんだって? まあいいわ……。信じられないかもだけど私は事実しか言っていないから安心してくれてかまわないわ!」
堂々と言っているけどさぁ、やはり設定がぶっ飛びすぎだぜ。ったくもう。
【AI:安心して聞いてください。彼女は棺桶の中で眠っていたにもかかわらず、歳を重ねていません】
なこと分かっているわ。
不老不死の薬でも飲んでいたのかな? もしくは謎の魔術で呪いをかけられていたとか。
よくゲームにありきな隠しステータスだが、この世界の死亡する概念ってもしかする?
「なんで100年経っているのに全然老けてないんですか?」
「あぁあなた達知らないの実はね……」
何か知っているご様子。いったいどんな仕様が秘められているというのか。
いきなり頭の処理が追いつかなそうなものやめろよ? それは人類には早すぎたブツになりかねないから。
「死ぬとね、自動的に棺桶にその体が時間停止状態でしまわれる。でも意識や口は動いているからある程度のことはできるのよ。寿命で死なないかぎり命は無限なの!」
「いいこと聞きましたよ愛理さん! なので今から私を……!」
「なにしようとしているか、おおかた察しはつくけど……だめだからね命は大事に」
「あ、はい。すみません」
殺してください、と言おうとしたシホさんを私は止めた。
なるほど、やはりコールドスリープみたいなものなのか。
あの動きは彼女が棺桶の中で、必死で助けを求めていたことになる。
だからといい棺桶がそんな風に動いたら、逆に怖いんだが。けど内部に入った物が腐らないとか結構お得かも。
老けていない理由はどうも死んだまま、その後誰にも蘇生されず100年も放置されていたってわけか。
理不尽すぎねそれ。
前のパーティに入れていた人、どうしてこの子をそんな酷いことをしたのだろうか。
何かしらの深い理由があるのだろうが、事情そのものを把握できない自分がここに。
少女は私達の方へ近づいて敬意を込め一礼する。
「取りあえずお礼を言うよ。ありがとう」
いたって素直な子じゃあないこれ。おっと意外に常識者だな。これがDQNだったら、たぶん既にぶん殴っていたな。
少々、増長した感じの態度も伝わってくるが、多少は妥協の範囲だ許そう。
「ぐがあああああ!」
彼女がお礼をしていると、後ろから2足歩行の巨大な牙を持ったモンスターが現れた。
手に生えた鋭利な爪も特質としていて、1度でも引っ掻かれるとグロ確定だ。
前に気を取られているミヤリーに、危険を促そうと私は軽く1歩踏み込む。
咄嗟に、声をかけようとするが彼女は余裕な表情だった。
「み、ミヤリー? 後ろあぶないぞ……てあれ」
まるで、相手の動きを手に取るようにわかりきった素振りだ。
これは新手の強者感があり期待度が大いにある。
将来的に私の主力メンバーの一員にと、彼女が戦う寸前に自ずと信頼できる微かな“確信”を私は抱いた。
「……人がお礼言っているのにも関わらず、襲ってくるなんてなんて間抜けなモンスターかしらっ!」
後ろのモンスターを見向きもせずに、少女は背中から黒くて細い大剣を取り出し、そのままモンスターに突き刺す。
見事敵の顔面――急所をつき、そのまま少女は振り向いて頭部ごと剣でまっ2つに切断する。容赦ないな。
「がああああああああ!」
モンスターの、切断した頭部の中からは大量の血が溢れ地面上に広がるように滴る。気づかないうちに地表一面が真っ赤に染めあがり、グロテスクな血溜まりができた。
服が凄惨なことになっているけど、ワンキルかよとかやばすぎ。
「話が脱線したわね……してあなた達の名前は」
「私は愛理。うさぎの冒険者」
みりゃわかるとかそういうツッコミはなしで。
不慣れながらも軽く一礼。
続くように、シホさんも礼儀よく一礼しあいさつ。
「私はシホって言います。職業は戦士をしています」
「ほうほう、中々独特な組み合わせじゃない面白い」
興味深そうな目でこちらを見るミヤリー。
その口ぶりに私はどこか既視感を覚え。……あれこの性格誰かに似ているような。
(どことなく私の妹にそっくりだなぁ)
「それで、あなたはなぜあんな棺桶で100年もの間封印されていたの」
「まあいろいろあってね、もうかれこれ散々な目にあったわよ」
いやどんなだよ。
そこのところをつぶさにお願いしますkwsk。
目を瞑りながら額に手を添え、呆れきった様子で答えてくる。
何があったんだよ。まるで彼女1人だけ残業させられているサラマンみたいな様子よ? 顔にそう書いてあるぞ?
彼女に少し興味があった私は、踏ん切り聞いた。
「教えておなしゃす」
「あぁいいよ。 それじゃ過度な期待はしない程度に聞いてよね」
過度な期待って。
そんな波瀾万丈な人生だと勘違いされそうなできごとなのか? 物語の鍵を握る人物とは到底思えないがどうしたらそんな言葉がでてくるのか。
少女は照れくさがりながらもここまでの経緯を語ってくれた。
「私は100年前、とあるパーティの主戦力として活躍していた冒険者だったの。でもある日あるモンスターから呪いを受けて……私の価値観はそこから徐々に落ちていったの」
何があったというんだ。そのモンスターは一応倒したということでいいんだよね。
実は「本当は生きていましたー」的なことはやめてもらいたいのだが。
「まず、HPが1になった。最初は教会で直してもらおうと試みたんだけど、治らなくて。それからいつものように戦闘にかり出されたんだけど、いつもより死ぬ回数が増えちゃって」
「え、嘘。聞いたことないよそのジョーク」
「いや、嘘じゃないから! 本当よ」
縛りプレイかな?
というか、この世界の教会無能過ぎない? パーティーに魔法使いか賢者いなかったのか。
いたとしても治せたかどうかと聞かれたら、正直なところあやしい。
だって、教会の人でもダメってことはさ、詰みってことでいいんじゃね(諦め)
明らかに吹っ飛んでいる要素がきたぞこれ。なんでHP1なのさ……それすぐ死ぬのは当たり前でしょ。
HP1というパワーワード恐るべし。
「……呆れた仲間達は何回目かに私を蘇生させるのをやめ、それ以降ほったらかしにされて気がついたら知らない場所に捨てられついにパーティから追放されたの……以降誰にも蘇生されず長い月日が流れて今に至るってわけ」
浮かない顔をしながら、今でも気が参ったような表情をするミヤリー。どこかその様子は儚げで1人だけ疎外されたような虚無感を私は覚える。
複雑な事情のありそうな童話を聞かされたような気分……キツくね。
そのような些細な理由で放置するとか、それでも人間かと突っ込みたくなるのだが責任ぐらい最後までとろう……ねぇ?
このまま彼女を放置させるのは、それはまずい。
ゲームでウザい放置系の広告が流れてくるけど、あれに比べたらまだかわいいほう。
答えを出すのが早いと言われそうだが、私はひとつ覚悟を決めミヤリーに詰め寄る。
「ミヤリー、当てとかあるの?」
「ないけどそれが何か、それに100年経っているのよ? 当時私を覚えている人なんているわけないわ」
肩をくすめてくる。100年放置されるってどんな気分だろうか。想像もつかないが寿命の概念に縛られないとはいえ、心は非常に苦痛だろう。
この方法が少女にとって、救いの手になるのかはわからないけどこのまま見送れば後々後悔するようなそんな気がしてままならず。
ならば私はと、こうして善人の立場となってミヤリーに声をかけるのだ。
「ならさ、私達のパーティに入らない? 大丈夫お金は出すからさ」
「……」
決して少女を詐欺の手口で誘っているわけではない。単にこのまま放置すると非常に危険だからと思ったから。……それにぼっちで嫌じゃん。
これはまたなんかとんでもない人が……と後ろからシホさんが私の袖を引っ張ってくる。
「いいんですか。私にはとんでもない人物に見えるんですが」
「大丈夫だよ、それにこの子ならきっと戦力になってくれるかもよ」
端から見れば過信しすぎているように思えるかもしれない。それでも孤独という虚無の空間に永遠と縛られるのは苦痛を伴うだろう。
私もそういう経験(ぼっちな時間)が豊富だから、彼女の気持ちを自分と重ねると余計このまま放っておくという気持ちは失せてくるのだ。
むしろ救いたい。いや今こそ行動に移すべきだ仲宮愛理。
「愛理さんがそう言うなら、かまいませんけど」
シホさんが、何を躊躇っているのかは知らないけど、きっと気のせい多分。
でも私にも微かに感じる彼女が発する強さとは別の悍ましい感じが。
「なら蘇らせてくれた恩もあるし入ろうかしら。役に立てるかは分からないけど厄介になるとするわ」
ゆっくりと近づいて手を差しのばし、握手しようとするミヤリー。
よし、これで新しい仲間がようやく増えると確信した……………………その時だった。
☾ ☾ ☾
【縛りプレイには慣れが必要】
ドスン。
ミヤリーは不注意にも、足下にあった小石に足をぶつけ転ぶ。
慌てて駆け寄った私が大丈夫と声をかけようとした時。
「……………………」
目の前には少女が先ほど入っていた黒い棺桶が。
いや、そうはならんやろ。
棺桶からなにやら声が聞こえる。
「ごめん、足下の石に気づかず当たって転けちゃった。……言ったでしょ? HP1になる呪いにかかっているって」
「脆いってレベルじゃあねえぞオイ」
こもった声を発しながらも、2人で聞き取れるくらいの声量で、ミヤリーの声をこの耳で聞こえてくる。ってかなんで死人がしゃべれるんだよ、某RPG棺桶もそうだけどあの棺桶ってこうして死んでいても喋られる神仕様…………あいや、仕様上話せなかったような。
うん? ならこの世界の棺桶非常に高性能なのでは。
「ミヤリーさんまた死んじゃいましたね」
「……そだね」
なんで小石に足ぶつけただけで死ぬのさ、脆すぎだよ!
「……ひとまずまた蘇生させてくれないかしら?」
「いいけど」
仕方なしに、再び道具屋に駆け込み私は蘇生薬を購入。
ぜぇぜぇ疲れる。外と街で数キロはある距離感だから1往復がとても重い。
シャトランや長距離よりもこれは億劫。都内はよく歩いたほうだけどそれ以上の距離……苦行すぎる。
「…………でま~た蘇生薬欲しいの? ほいさ」
銀貨1枚で取引。……大丈夫なのだろうか。お姉さんは文句1つ垂らさず私に手渡してくれたが…………絶対心の中では「またかよさっき来ただろうが!」などと思われていそうだな。
☾ ☾ ☾
また外出て蘇生させ。
今度は街へ入る前の階段で突き指をして死亡。……脆すぎだろ。
少女の歩一歩が、命がけのように思えてくるのは気のせいだろうか。こういうのはバカゲーで出せよ。したらユーザーから辛口評価受けつつも、後に愛されるクソゲーとなったあげく、プレミア価格で取引されたりなぁ。
※愛理の個人的な主観です
再び私は彼女の蘇生薬を買いに行くお使い。重労働かよ勘弁願いたい。
☾ ☾ ☾
「あぁまーた君か~あいよ」
三度訪れ再び購入。
またまた蘇生。何回死ぬんだこの子は。
一言いいかな。……愛理さん疲れたよ。(意識が昇天しそう)
☾ ☾ ☾
そして4回目これもまた今度は街に入れはしたものの、今度は行き交う人にぶつかってしまいまたまた死亡。……なんでやねん一体何回死んだら気が済むのミヤリー。
……何か彼女が助かりそうな手立ては。
シホさんと私の悪い予感が的中してしまったような気がする。ガチでこれ死にすぎだろ。
聞いたことないよ、石でつまずいただけで死ぬキャラとか! 擁護のしようがないよ誰か彼女の救済を頼んます。
取りあえずミヤリーのステータスを見てみることにしよう。
ミヤリー レベル95
HP 1
魔力 999
攻撃力 999
防御 999
素早さ 999
……HP以外の能力がカンストしているのになんですぐ死ぬんだよ。
HPが1なせいか。
でも防御もカンストしているのになんでダメージ判定が? ……そうかもしかしていくら防御が高くても最低でも1はダメージ判定あるのかこの世界は。
するといくら防御上げてもダメージは0になる…………ことはまずないということ。だが現状真偽がわからない。
「どうしようか」
「困りましたね」
「あの~すみませーん。この中結構息苦しいから早く蘇生してもらわないと死んじゃうよ!……あぁでも今私死んでいるんだった。はっは」
「『はっは!』 じゃねーよ! 何自分で自作自演でコントしているんだよ。少しは自分で解決策考えようよ」
「でも今の私死んでいるし、何かやれと言われても困るんだけどな」
私はなんで、こんな通称動く死体みたいな少女と話しているのか。
だいぶ前のパーティーの人がどんな気持ちで捨てたか理解してきたような。
これはもう介護が必要なレベルだぞ? ……ってことはあれかいちいち蘇生薬調達しないといけないってこと? ダっる!
自作コントしてみた的なことやって、暇つぶししているみたいだけど……うーんどうしようか本当に。
「シホさん、蘇生魔法って使える?」
聞くまでもないことだと思うけど。
「何言っているんですか、使えるわけないじゃないですか」
「で、ですよねぇ」
ニコニコしながら答えるシホさん。
戦士だから当然だよね。……分かっていたよ。期待した私がアホだった。
戦士だから魔法が使えなくて当然か、わんちゃん非常用の消費無し回復アイテムがあるかと思って聞いてみたがない……か。
魔法戦士ならまだ救いがあったが……仕方がない諦めよう。
せめて魔法使いでもいれば、こんな事にはならないと思うんだけど今パーティにいないしな。むしろめっちゃほしい。
「愛理さん、涙出ていますよ拭きましょうか?」
「だ、大丈夫これはただの嘘泣きだから」
そんな嘘を言いながらも今日は仕方なく、マリン・タウンの宿屋まで棺桶を引きずり、そこで一泊するのだった。
「すみませんお客様、棺桶はやめてもらえませんか?」
棺桶を見て、その宿屋の店主は困惑しながら私にやめるよう言ってくる。
いやおかしいのは分かるけどさ。好きでこんなことしているわけじゃないからねほんとだよ。
街中で1人、大人が3倫車を漕いでいるような気分だよこれは。
「大丈夫、この棺桶生きているんで」
「ちょっと愛理! いいから早く蘇らせてよ!」
はいはいミヤリーさん空気読みましょうね。というかROMっていろ!
蘇生厨と化したミヤリーは放っておき。
「なんとかできないの?」
「……できるにはできますが、高く付きますよ。何にせよそういう棺桶は持ち込んではいけないものなんです」
「よく分からんけど、払えばいいんでしょ? いくら」
「そ、それは」
私は高い代金を支払い、やっとこの宿屋で寝ることを許された。
問題の料金はというと、高杉で大きな声では言えないのだが所持金が半分になるぐらい高くついた。心許ないので少しシホさんに半分支払ってもらいワリカンに。
かくして小さな宿屋の個室に移動した私達は。
「早く蘇生を……」
「明日やってあげるからそれまで待ってよ」
「……」
「愛理さん、本当に困りましたね」
「今日はもうこれでおわりにしよう。続きは明日! じゃあお休み」
ヤケクソになりながら。
そう言いながらベッドに潜り込む私。
別に諦めたわけではない、嫌気がさしたわけでも。だがこれは相当体力を使う。おかげでバテ気味。
もう考えるのが嫌になってくる。感想としては往復が非常に過酷であった件。
「ちょっと愛理さん! 少しはミヤリーさんのことを……ってもう寝てますし」
「まあいいわよ、明日までなら私全然待つし」
死んでいるのが当たり前だと主張しているような口ぶりだな。
自信があるのはいいけど、私にとっては無理難題を押しつけられたような気分で今でも気が抜けそうな感じ。
さてどうするべきか。
こうして不思議な即死少女ミヤリーが、新たな私の仲間に加わるのだった。問題大ありな子だけどこの先大丈夫かなぁ? と少々先々心配する私がここにいます。
というかめっちゃめんどくせえよこれ。
私は明日あと、何回彼女の死を目撃することになるんだろうと、怯えながら眠りにつくのだった。
ご拝読ありがとうございました。
深夜テンションで少し疲れ気味ですが頑張って投稿しています。
執筆中、愛理同様『こいつ死にすぎじゃね』と感じていますが、これが彼女の平常運転ですので慣れてください(((汗
能力は高いんですが、hpが非常に低いのでそこは温かい目でお守りください。




