203話 うさぎさん達、近道を通って行きます!
【ゲームですり抜けや壁を使った欠点ありきなバグを見つけるのは面白い】
並大陸、外海近くのとある林。
上を見上げると稜線の見えそうな山がいくつかある。
敵の強さはほどほど程度で。
「ぐごおぉぉぉぉ!」
巨大な二足歩行モンスターと交戦中。
物騒な鈍器を振るい、私たちを広範囲に攻撃してくる。
顔だけなぜか鉄仮面をつけた少々陰気なモンスターだが。
【カッチュウマン: 解説 藁服を着た大男モンスターで、地をも砕く鈍器は一振りが非常に強烈なので要注意。なぜ顔だけ隠しいかにも陰キャラ感満載な見た目をしているのかは不明】
わかんないんかーい!
つーことで、よくわからない力強そうなモンスターに遭遇したわけだけど、少々手こずっている最中。
私より少し大きいぐらいの背丈で、樹頭の半分くらいの大きさだ。
交えて数分経過したが、敵はしぶとく強固だ。
そんな中、ミヤリーが一躍し。
「この日のためになんの準備もしていなかったと思ったら大間違いよ!」
いつの日だよ。
久々の登場で舞い上がっているのか、はたまたうわべを飾り強がっているばかりのテンプレ。いくつかの公算を模索してみるが検討もつかない。
後ろで控える私たちの前にミヤリーは敵の正面に立ち、剣を敵に1本突き立て体勢をとる。
「……新技披露ですか? でもミヤリーさんまた調子なんか乗ったら」
「大丈夫ですよスーさん、ミヤリーさんは街を出る前にこう言っていました『無防備で突っ込むヤツはわざわざ身を投げるようとしている低脳ふぜいだ』と。ほら、今の彼女を見てくださいよ、胸を張って手に力を入れていますよ」
悠長に話してくれるシホさん。
身を寄せ合う私たちは密かにそのミヤリーの新技に少々期待しながら全裸待機。
図に乗っているか知らないが、目の前に立ちながらドヤっている顔が無性に苛立ちを覚えるが一旦それは頭の片隅にでもおいといて。
ひけらかしたいだけじゃないのかと私は呆気となっているが。あくしろ、狂政の言う異界路が控えているんだから。
「食らいなさい! ブラッディー・レイン!」
前方に生成された無数の黒き小型刃が出現。
おっとこれ、アニメでよく見るやつ。無数の刃物で敵を串刺しにして倒すやつでしょ?
それを指示するようにミヤリーは腕を前方に振るうように動かすと。
ブシャシャシャシャシャッ!
矢継ぎ早のごとく、降りかかる攻撃は敵の視界を一時的に遮り敵の動きを止める。
肩越しに私たちのほうを見て、サムズアップ。
「さあ3人共、今よ! やっちゃって」
「任された、いくぞ、みんな」
スーちゃんが重力の魔法を使い、敵の重心を崩し動きを鈍足にさせる。
拍子に合わせ、シホさんが瞬間移動で、強烈な一蹴からのかかと落としを決め、助走を落とさずに空中から袈裟懸け。
「手応え大ありです。……さあ愛理さん!」
目配せされたので私は肩にかけた、ハイパー・ラビット・ライフルに手を添えて目をスコープに当てた。
「よーし重い一発いっくぜぇ!」
ラビット・バイザー起動。
自動的に、敵の弱点となる箇所を特定する。胸部の中心部に点滅。……よしあそこだ。
バイザーの能力によって弱点を即座に見抜いてくれる。
その場所の確認もほんの数秒でおわる。これで遅速なく安定したタイミングで攻撃の標準も合わせられる。
つまり敵の弱点がスケスケになるってことだよ。
なんとも便利なツールだよ。
急所となる部分を捉えると、そこに標準を合わせ狙い撃つ。
「ハイパー・ラビット・ショット!」
引き金によって放たれた弾は、軌道を変えず狙い定めた方へと飛んでいく。
身動きの取れない敵がようやくこちらの攻撃に気づくと再び構えようとするが。
「う…………が!」
ドスン。
構える前に私たちの連携によって地面に伏して息絶える。
「遅かったなこのノロめ!」
敵からドロップアイテムを採取して、無限ボックスへと入れる。
【鉄仮面を入手しました】
どう使おうか。
最初パンチで肉弾戦にも持ち込んだが、あまりにもしぶとく射撃で仕留めることにした。
結果的に、隙を救ってくれた3人には感謝しないとだな。
「あーやっと倒した、えぇと……この先だっけ」
「……はい、そうです空間らしき物が見えるそうです」
「あちょっ! 私への感謝は⁉ っておーーーーい!」
チーン、ミヤリースルー。
文句を言いつつも、私たちは指定された位置へと移動し。
平地で、そよ風が吹くくらいの静かな場所。
傾斜している場所も少ない。しかも魔物の数もそこそこといった感じで時たま顔を見せるくらいで物陰は遠目からはあまり見えない。
ある物を歩いていると発見する。
円形の形をした渦間巻き状の奇妙な物体。
一見ブラック・ホールに酷似しているようにも思えるが、これは似て非になるものそのように感じる。
強力な磁場などもパーカーの機能を用いてもそのような危険なものは確認できず。
そうなれば可能性をあげるとすれば一点に絞られてくる。
もしやこれが狂政の言っていた。
「これが異界路?」
近づいて再確認してみるとそれは、謎の黒い渦の回る異空間だった。
人と同じくらいの大きさがあり、そのスケールは約1.6メートルな度合いだ。
吸い込まれたりしないよな? 体がバラバラになって木っ端みじんに……トマトケチャップがあたりに散乱。
……やめとこ。グロは御法度。
「情報によるとそのようですよ。入れば通ずるみたいですが」
「ちょ、ちょっと怖いけどは、入るよみんな!」
「愛理びびってない?」
ミヤリーにはバレないよう誤魔化しているが、少々足がすくみ物怖じとしてしている。
チキンだって? あーあ悪かったですね私口を開けば云々みたいなキャラだしこういう場面でそういった文言に対しては返す言葉が見つからないから。
ここは早々に踏ん切りをつけて迷うくらいなら動くが勝ちだね。
さてといろいろ誤解が生まれる前にせねば。
「ねえから! それ……じゃほいっと!」
私を筆頭に、空間の中へ飛び込む。
強い重力によって、体が吸い寄せられるかのように近づいていく。
グボォォォォォォォ……
低音とした空間へ慎重に慎重に一歩ずつ足を踏んでいると。
「ぐふぉ⁉️」
とてつもない強烈な磁力に襲われた。
「引力がす、凄まじい。みんな気をつけろよ!」
突風やそんなちゃちなレベルではない、不可抗力なほどに体がその方向へと向かっている感じだ。
「体が……吸い寄せられる!」
初となる異界路へと侵入する私たちは未知なる空間を歩き出すのだった。
☾ ☾ ☾
【船乗る前には必ず酔い止め薬を飲んでおこう】
空間の中へと入ると、そこは奥行きが見えない長い通路が広がっていた。
「下は底なしの空間っぽいよな。リスポーン地点とか用意されてないかな」
ブブーッ❗️
【AI:ありません】
あ、さいですか。
どうやらそこまで半端な仕様ではないみたい。
「り、リスポーンってなに? ……リスが骨になるとか?」
苦そうな顔しながら、私の小さな声に対して渋々言ってくるミヤリーはまた理解できてない様子を示してくる。
「そんなのないよ。いやクソどうでもいいことだから……気にすんな」
「え、あそう」
「ミヤリーさん、きっとそれは不思議な魔法かなにかですよ~」
合っているようで合っていないのだが、まあこれは異世界の人に説明してやっても頭がパンクするだろうし、これぐらいにひとまずとどめておくがいいか。
ゲームだったらこういう所に好奇心で足を踏み入れると、没系の仲間モンスターやアイテムを入手できたりするが、いやそもそもやったらだめだろ。最悪戻れなくなったり“詰みです”なんてことにもなりかねないしな。
AIさんによるとそういうものはないらしい。
まあそうか。異世界とはいえこれは現実だからな。そんなのあるわけねーよ。
「……空真っ暗ですね。足元にはご注意を。もし落ちそうになったら私が魔法で引き上げますから」
「やっぱスーちゃん頼りになるわね!」
すりすりとスーちゃんの顔に頬を密着させ擦り合わせるミヤリー。
非常に嫌そうな顔をしスーちゃんは押し出す姿勢に。やめたげてよミヤリーさん。
「それぐらいにしとけよ。今回ばかりは落ちても擁護できんかも」
「それはそれで嫌ね。やーめた、ごめんねスーちゃん」
スーちゃんが体を触られることはあまり好きでないだろうけど。
意外とミヤリーは諦めがよく、こういうのに関してはちゃんと頭が回る……のだがその知能をなぜ戦闘で活かせないのかまるでイミフである。
「諦めんの早すぎね?」
「気にしなーい気にしなーい」
笑いながら誤魔化しを入れるミヤリーはスーちゃんの被る帽子を軽く擦る。
「……激しいですから! この帽子は大切な物ですからやすやすと傷なんてつけたらミヤリーさんとはいえ承知しませんよ!」
「ご、ごめんって」
天を仰げば色素のない真っ暗な虚無の空。
無そのものである。
いくつもの通りがありそうな道が、途中たくさん存在しているのが遠目から見える。
「うわ、なんだここ。空は謎空間が広がってるし、壁にはよくわからない名画のような物が掲げてあるけどなんだろうあれ」
「気味悪くないここ? 本当に狂政さんの言ったように行きたい場所へとこの道繋がっているんでしょうね⁉」
なに二の足を踏んでいるんだお前は。
進む道の双方には壁画が連なるように続いている。
自分には絵心というものはなく壊滅的で毛頭理解できない品物だ。
まばらに数色の極太線が絡み合う絵や、中には肖像画のような画架もある。
この空間――異界路に来ているわけだが、ミヤリーが言っているように本当に目的地へと繋がっているのか彼女の考えに少し一理ある。
着いた先が奈落の底だったら、踏み入れた瞬間に昔のマンガやアニメによくあるような展開で落ちてしまう危機も否定はできない。
でも今さら引き返すのも恐れ多いことなので、嫌々ながらも邁進する。
というかもう、あと退けねえよ。
「見てください、愛理さん少し開けた場所に立て札が3つ、前方にはもう3つの扉がありますよ」
「……分かれ道でしょうかこれは」
横長の広めのスペースを見つけた。徐々に距離を詰めていくと、そこには3つの立て札があり先を示すそれぞれの方向には赤、青、緑と配色された扉が置かれている。
これ大丈夫なん? 一方は底なしの落とし穴に通じていたりして。……いやそんなの絶対やりたくねぇわ。十二分に対処しないとだな。
「えぇと【この道を通れば、汝の願う遠くの場所へと誘う。行く手を阻む敵はさほど苦戦することはないだろう】。もう2つもあるよ」
1つ目、緑には目的地の遠い場所へと通じる道、青は中距離、赤はすぐ近くとの明記がされていた。
いずれも要約すると、敵の強さ――すなわち難易度が高ければ高いほど、近くへと移してもらえるみたいだ。
たしかに実質的な異世界版地下通路。でもモンスターは出ると。
目的地に近いほどに難易度が上がる……なんという作り込まれたものだろう。
強さの水準がよくわからないけど……私は緑を……っておいミヤリー⁉
「おい、こらお前なに勝手に赤い扉開けてんだよ! せっかく緑選ぼうとしていたのに!」
「? なに言ってんの。あんたがいればでかいモンスターだってイチコロでしょ? ほらいろんな服使ってぶっ倒せばいいでしょうが」
首を傾げながら私の方に顔を見せる。
「は、早まってはいけませんよミヤリーさん! 死にたいんですか、今度は耐性をも無視する魔物だって出てくるかもしれませんよ!」
「……そうです、遅かれ早かれまだ………………ってあ」
スーちゃんが言葉を詰まらせた。
それは、ある方向を見て再度認識し悟るように。
あんぐりとした顔でスーちゃんは私とシホさんの方に顔を向けた。
「ど、どうしたのスーちゃん? いかにもやらかしたみたいな顔をして」
「あ……あのですね」
「謙遜しなくていいですから……その本当にどうされたんです?」
スーちゃんは気まずそうに渋々と答えた。
そして、私たちは絶望した。後の祭りを味わったその境遇に立って。
「立て札の下……よく見てくださいよ……小さな文字でこう書かれています『※原則上、1度扉の持ち手を掴んだ瞬間、それは選んだと見なされ、再度選び直すことはできません』と」
え。
ゑ。
頭の中が真っ白になり少々降着状態に。
「す、スーちゃん? わ、私ってなんかまたやらかした感じ? ……て」
だが時間は私に考える時間さえも与えてくれず、ミヤリーの掴んでいた扉が急に全開し中から強力な風が吹いていた。
いや、どちらかというと扉の中でうごめいているブラック・ホールというべきか。風は私たちを吸うように範囲を拡大していき、強引に吸い込もうとする。
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼
「ぐおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ! なんだこの風はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ……体が吸い込まれて」
「あ、愛理さん……! くっダメです風の威力があまりにも大きくッ」
力自慢のシホさんであってもその引力に逆らうことはできず、掴んだ私の腕ごと扉の方へと吸い込まれてしまった。
「……あ、愛理さん! ……ぐ、なんという風、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、また私なんかやらかしたってことなの……ってまだ全部言い切れてないんだけど……う、うわああああああああああああ⁉」
強風。
一同、中から吹き荒れた強風によって扉の中へと入れられ、高難易度の通路を進むというなんともまた厄介事に付き合わされるはめになり。
墓穴を自ら掘りに行ったミヤリーによってあえて難易度の高い場所へと入ることに。
なんという不覚だ。
あの私がミヤリーを注意深く見ていなかったのも悪いが。
1ついいかな、言わせて?
なんで小さく文字書くんだよおおおおおおおおおおおおォォォッ!
再開早々これかい、いたたまれないったらありゃしないぜ。