表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
新・第1章 うさぎさんの妹、異世界に初陣する
236/274

番外編 偉大なる魔法使い様は、気の行くまま暮らしたい 

【時間は経っても楽しむのが一番大切よ】


 卯乃葉ちゃんが帰ってから数日が経過した。

 少し心細いと思い、私は拠点にいるグレミーを呼び2人で時間を潰していた。

 テーブルに置かれた紅茶を一口。ほどよい苦みと甘い味がうまく調和し、喉を潤わせる。

 数百年前から変わらないこの味は、私の創作力を掻き立てるいわば動力源。

 これを飲まないと1日の始まりを実感できない。


「マギシア様、いかがでしょうか? 真剣な顔をしながら私の方を見ていますがお気に召さなかったのですか?」


 グレミーが黙々と紅茶を啜る私を見ると首を傾げて言う。

 あらどうしてか、無意識に深く考えこんでしまう癖がこうも顔に出てしまうなんて。


 別に味は悪くない。

 それはおろか十二分くらいに美味しい。

 そこまで深刻なことではないと、毎回のように言葉を返しているけれど表情ってこうも難しかったのかと時折考えてしまうが。


「ごめん、なんでもないわよ。大丈夫、美味しいからじっくり味わっていただけよ」

「そうですか、なら一安心ですね。まずい物を飲ませてしまいマギシア様の創作力を損ねてしまったかと思いましたよ〜!」

「いえ、そんなことで私は怒ったりはしないわよ」


 表面上、誰がどう見ても人間だが正真正銘のホムンクルス。

 体の細部臓器、五感全て人そのもの。

 加えて喜怒哀楽も多彩で感情さえ再現しきれているため、普通の人間さながらコミュニケーションもとれる。

 人間に近いホムンクルスこれが合理的かもしれない。


 これくらい造作もないこと。

 時々グリモアの路上で、よく見る二手に分かれた魔法使いの集まりを見るけれど、その大半は大型魔法の見せ合い。

 その度に協会の人に補導されているけど、くだらない。

 あれぐらいの魔法、私から見たら石ころの投げ合いのようにしか見えないわ。


 そういえば、今日はグリモアに少し用事が……そうだ、出版する小説を書店に持って行かないと。


「マギシア様、本日はグリモアに行かれるんですよね? 出版される本を先ほど用意しておきましたよ」

「あら、ご丁寧に。ありがとねグレミー。準備大変じゃなかった?」

「これくらい問題ないですよ、なんでも私はマギシア様の忠実な使いのメイドですからね!」

「あなたってほんとどうして、ここまで心強いのかしらね。ふふ」


 彼女が魔法を使うとちんまりとした、手提げのかばん、出版本、ペンや紙などの一式を用意してくれていた。

 昨日、できれば用意しおくようにと告げただけなのだが、とても融通がきくところが彼女のいい面である。

 本当は自分でやろうと思っていたけれど、まあいいわ。これがグレミーの頼りにできる点だからね。うん、かわいくて賢い子は私好きよ。


「じゃあそろそろ行こうかしら、留守番はよろしくね、窃盗でも入ってきたら遠慮なしに究極魔法でも使っていいから」

「こちらは任せておいてください、どうかお気をつけて」

「あ、そうそう。卯乃葉ちゃんが言ってたんだけれど……こういう時にはいってらだとかおてらともいうらしいわよ」

「は、はあ。マギシア様また面白い言葉を覚えてくれましたね」

「ふふ、行ってくるわ」


 一言告げると、身支度を軽く整える。

 袖にローブを通して、目深できるくらいの大きい帽子を被りいざ出撃。


 森の中、歩くのも少し億劫な私は、巨大な杖を取り出して。


「今日は気分的に移動魔法でも。そっと」


 私が軽く杖を振ると移動するための異空間が出現した。

 これを使ったほうが時短になるから便利。

 出版の人から今日の昼までに出すと言っているから反故にはできない。

 そうとなれば、最短のルートを確保しつつ時間までに間に合わせなければね。


「ディメンション。よし、準備完了」


 これは古の魔法の一種。

 最古の魔法であり、それを使う人はおそらく私以外そんなにいない。

 いつも風任せに使っては移動しているけれど、人前……特にグリモア内だとうかつに使えない。

 この間なんて、協会の一部の者に見つかって補導されたこともある。……幸い私の本業を知っている人がいたからその場は事なきを得たわけだけど。


 聞く話によれば、古の魔法を使うとグリモアの支部から金銭をとられるハメになるかららしい。

 なんでも『偉大なるグリモア様に固有の魔法をうかつに使うのであればそれは神罰さながらの重罪である』だって。

 あの私、そんなに惨人じゃないのだけれど。

 自分で自分を苦しめるだなんて、自業自得極まりない話だわ。誰よこんな変な制度作った魔法使いは。


 空間を潜ると、高層の建物が並ぶ国――グリモアの景色が目に映る。

 林立とした高い建物を背景に、大勢の魔法使いが街を歩きはたまた空をも飛ぶ。


 建国した私が言うのもあれだけど、私が住んでいた頃よりも格段と賑やかになっているように感じる。   これは一環の時代の移り変わりによる余波だと私は考えているわ。時代に沿って街作りを整える、これは一貫の通であるしやって当然のこと。

 まさか自分の作った国がここまで発展するだなんて。皮肉というかなんというか。


 街を歩いていると、大勢の人とすれ違う。

 周りから聞こえてくる幾多の声が交錯し私の耳を和ませる。

 見張りをする教団のグリモア族、若人冒険者が1日の段取りを確認する様子を見せていたりとしていた。


「今日も上、下共々忙しそうね。ぶつかったり……はしないか」


 各々、(せわ)しくはあるものの、重々しい様子は感じられなかった。

 むしろ余裕を持っている振る舞いだ。

 充実した日が送れているのね。


 でも。


「……似て、るようで似てるのかしら」


 小さな声で街に立つある銅像に向かって、独白にふける。

 それは私の銅像。

 資料をもとに協会の人が作ったみたいのだけれど、似てるようで似てない。基準が定まらず頭を傾げるばかりの出来だ。


 自分で自分自身の銅像をこうして見るだなんて、少し恥ずかしい感じもする。

 卯乃葉ちゃんなんて言ったかしら。こーいうのを公開処刑と言うんだっけ。

 私、こんなに目イカついてないのだけれど……ちゃんと資料見て作ったの?


 ……み、みんなから私ってこんなふうにみえていたんだ。


 再び歩いて。

 途上に建つ街中の書店。

 大きいステンドガラスが貼られており、店の前には注目の本が陳列されている。

 店の外には、今流行りの小説が並ぶ。

 私の本を筆頭に『魔法の旅路、ある冒険者が見知らぬ世界で大富豪になった』『夢の中で歴代最強のグリモワールから、最強の力をもらった件』『あの日幼なじみから教わった魔法は私の一番の宝物』などなど。

 傑作がたくさん並ぶ中、私の小説は堂々の売り上げ第1位と我が物顔のごとく、店の一押しとして君臨している。


 ここが今日の目的地。


「相変わらずたくさんいるわね、立ち読みしている魔法使いがたくさん」


 天井近くまで伸びた巨大な本棚がいくつもある。

 魔法使いたちは目的の書物を足で向かい、届かない場所へはほうきで飛びながら取る様子が見えた。


 張り紙には『店内では初級魔法をで加減し、無益な争いをするのはやめましょう』とある。

 本屋さんだからね。静かにしないと追い出されてしまうから。


 敷居が広いため、遠巻きに見ることしかできないが最近のグリモア生徒は勤勉ね。

 机で同級生同士勉強する集まりも……とそろそろみたい。

 

「……おや、グリミア先生いらしたのですね!」


 髪長のメガネをかけた女性が駆け寄ってくる。

 彼女とはいつも、出版の話で厄介になる。聞けばまだ二十代もいっていないんだとか。

 丁寧な振る舞いをしてくれるので、私は心地よくいつもこうして中に入ることができるのだ。

 案内されたカウンターの方へ座ると、予定通りに出版する本を彼女へと手渡した。


「これが先生の新作ですか? 先生の新作がまだかと待ちきれない読者さんがよく来ていたので助かりました」

「そ、そんなに売れているのね。みんな他の本に興味はないのかしら」

「卑下しないでいいですよ。グリモアのみなさんは他の本もたしかに面白いけど先生の本がやはり一番だって」

「一辺倒なのね。嬉しいようで同時に悲しいような」


 現代(いま)はこの名前を使っているが、時々間違えて本名を言ってしまうのではないかと少々懸念、周りにあわせるというのが非常に大変。


 無事、出版の手続きを済ませると近くの喫茶店で一息ついた。

 え、中で何があったって? それは企業秘密。大人には言えないものが山ほどあるって意味よ。

 気になる人は私の出世作『魔法の冒険譚 グリモアと神秘の秘宝』でも読みなさいな。


「……えぇと、並大陸に神出鬼没な魔物にご注意を。か。こっちは最近強いうさぎがいるみたい……ふむふむ」


 見張る情報を新聞で収集する。

 ネタの集めは大事だからね。……一部最近合った子の情報がもう流れているけれど少し彼女が心配。はぁ大丈夫かしら卯乃葉ちゃん。

 危険になったらいつでも私の家にきていいからね。私は喜んで歓迎してあげるんだから。

 数分後、注文した品を食べ終わると新聞を折りたたんで外へ。


「さて、ついでに……どこかへ」


 どうせグリモアに来たんだから、手ぶらで帰るというのも魔法使いとしてどうかと思う。

 無論、ネタ集めのためなら津々浦々どこにでも出向くけれど、なにかいい話は。

 ここはひとつ、知人の1人や2人に訪れて。あぁそうだあの子が住む家に行ってみようかしら。最近行っていないし。


「リーシエちゃん、元気かしら。イルシィちゃんだっけ? あの子にはなにか差し入れを買っていかないとね」


 その家に向けて私は差し入れを1つ用意したのち、早々に向かうのだった。


☾ ☾ ☾


 彼女の家へと向かう。

 相変わらずガーデニングが好きなようで、ベランダには植物や花の数々が植えられている。

 中には希少種の物まで。あの子ったらどこまで目ざといのかしら。


「トントーン。リーシエちゃんいる?」


 軽くノックして呼びかけをする。

 すると足音が近づいてきて、扉が隙間程度開くとわずかな顔が視認できた。


「あら……師匠! 師匠ではありませんか!」

「し、師匠はやめなさいって。……恥ずかしいから先生に留めておいて」


 扉が全面開くと、彼女の姿が浮き彫りとなる。

 来るのは数か月ぶりかしら。

 弟子の家には度々くるけれど、彼女の家族は一番穏やかな家族という印象がとても強く手紙にはいつも楽しそうな文面、そして写真が添付されてくるが。直でくるととても臨場感が高ぶってくるが。


 リビングへと案内されると、軽く一杯頂きながら耳を傾けた。


「ごめんね、リーシエちゃん。出版の帰りについでに寄ったの」

「ついで……っていつも来ているじゃないですか。お土産にもらったこのケーキ……国で大人気かつ高価な物ですよね?」

「あら、そうだった? 最近執筆が忙しかったから金銭感覚が麻痺していたかもね。あはは!」


 値段なぞさほど気にしてはいないが、そうなのあのケーキは高価な物だったのね。

 お店の前に大人気グリモアケーキってあったからつい買ったけれど、最近の高いの水準がよくわからないわ。勉強しないと。


「イルシィちゃんはどこ? 姿が見えないけど」

「あぁ。あの子でしたら夫と遊びに行っていますよ。魔法ショーがあるから見に行きたいって聞かなくて」


 子どもって健気で自由これが一番よね。

 そういえば、イルシィちゃんって魔法を見るのが好きだったっけ? 言ってくれればいくらでも教えてあげるのに。


 話をきくかぎりに彼女は淡々ではありながらも楽しそうに、受け答えしてくれた。

 数日前に、長女である姉が仲間を連れて帰ってきたこと。これが一番の気になった。

 最後にあったのはいつだっけ? 学校入学してからパーティ開いてそれ以来合っていなかったはず。

 ステシアちゃん、大丈夫かしら。学校だといつも生徒達にからかわれたりもしたみたいだけど、心配要らないわよね。


 彼女――リーシエちゃんとは師弟関係にあたる。

 数十年前、彼女からとつじょせがんできて、そのまま受け入れたが、存外まさかグリモワールへとなるだなんて。聞いた時、非常に驚いた記憶がある。


「そのステシアちゃんは元気そうだった?」

「えぇそれはもう。かわいいうさぎさんの服を着た人を連れて帰ってきたんですから」


 うさぎ。


 ふむ。


「な、なるほどねぇ。実際に見たかったわね、できたら握手でも……」

「先生もリラックス感覚で少し、気晴らし程度で旅でもしたらどうですか? 運動不足は体によくありませんよ」


 語調を乱すと、彼女に少し探られるような言い方をされる。

 数日前に少し動いたんだけどね。全くそうは見えないって? 少しは信じてよ私のかわいい弟子ならさ。


「わかってるわよ。する……するから」

「グレミーさんばかりにも任せてはおけないでしょう」

「あの子だって必死よ、今日は走りましょなどと行ってくることもあるし」

「先生? 自発的には……」

「ないわよ」

「で、ですよね」


 しばらくその場でくつろぎ1時間後。

 私は立ち上がって。


「ごちそうさま。ステシアちゃんには教えといて。すごい魔法使いがまた来たって」

「もう行かれるのですか? お気を付けて。わかりましたまたいらしてくださいね」

「了解よ」


 長居もよくないと思った私は、1時間程度で会話を終わらせて彼女の家を後にした。

 街を出るとひたすら、彼女の口からの言葉を整理しながら思慮深くなる私。


「うさぎ……うさぎ……しかもピンクの。すれ違いって怖いわね。今夜でもサーセン博士に伝えておこうかしら」


 家に帰ってもそれは頭から離れずに、想像力を膨らませつつ考えは募るばかりだった。


「この世に最強のうさぎが2人も存在する……ねぇ。2人が出会ったらどうなることやら」


 重要そうなことを片手に持つメモへそのことを書くと私はゆっくりと街を離れるのだった。


「うさぎと魔法使い、機先を制するのははたしてどっちか。次の題名はこれにしようかしら」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ