200話 うさぎさんの妹、街を歩く
【ひとときの休みはやはり大切である】
「それで卯乃葉君、これはどのようにすれば?」
「えぇとここはこうして、これを繋げば……」
数日後。
街に戻り、博士の協力に力を注いでいた。
今、ちょうどまた物騒な機械を博士が作っていたので少し力添え。
私でも多少はわかる範疇の物だったので、大型の銃? の配線を繋いでは動作テスト用の機械でコードを打ち込み、その作業を幾度も行い。
起きてから3時間くらいで、その完成品を拝むまで至った。
全長が長く、極太の物体。
巨大な銃口が先端にいくつも搭載されている。
聞けば、DQN砲の改良型を作っているみたいだが。
大丈夫? 念入り『押すな危険!』とでも注意喚起で書いたほうが良いんじゃないのと思いはしたものの。
いやそんな心配はない、などとフラグを助長するかのような言い回し。
私知らない、これで世界滅んでも知らないふりにしておこう。うんそうしよう。
「ある程度は手伝いましたけど、これで完成したんですか? 外観はほぼ完成に近いように見えますけど」
「ふむ、君の言う通り大方はな。……だが火力の調整、時差を縮めるための工夫がな。いろいろとまだ課題が山積みだ」
要約すると、だいたいはできているけど暗礁の壁がまだ前にあるような意味だろう。
肩に乗るぴょん吉はその銃を物色し興味津々。
そんなところに餌はナイヨ。としつけるように1度言ってみるも、向き直り再び凝視。
そのぴょん吉、私はあなたが変な興味抱かないか心配でままならないわ。
「き、気になるの? こんな物が?」
「ぴょん……」
すると、博士が聞き捨てならないと敏感にその言葉に反応し。
「こ、こんな物とはなんだ! いいか、これは私が汗水流して作った」
「博士忘れましたか? 必要な物資は全部私が採取したり買い出しに行きましたよね?」
お使いをやってきてなどと、使い走りにされはしたもののこちらに非はない。
引きこもりと外に出ている人はどちらが立派か。部門うんぬんの前に結局体を動かしている人だと思うんだ。
それぐらい自分でやれと思うけど、どうも私は彼女にとって顔が利く優秀な助手? な立ち場になってしまったみたい。
ふふ博士、恨むなら私を居候させたことを後悔したほうがいいですよ。
キリっと。
「……ぐ、返す言葉が見つからない。まあこの銃の完成までまだかかりそうだ。賽は投げられた卯乃葉君、侮辱してからここで降りるだなんて私が許さんぞ!」
「元から降りる気ないですよ!」
すぐ大声で怒鳴るんだから。
情けは人のためならずっていうけど、少し気位しすぎているようにも思えてくるが。
これが博士による平常運転。正常である。
「な、ならいいんだが」
少し休憩を挟み。
「それで姉の行方は?」
「うむ、リーベル・タウンに今住んでいるということがわかったぞ。どうやら立派な邸宅に住んでいるらしいが」
姉さんが邸宅に? 想像がつかないんだけど。
あんな、陰キャ全開の三次元全否定なダメ姉貴が? どうしたらそんな出世できるゆとりが。
投資家、FX? 教えた覚えも聞かれた記憶もないけど、私は今脳の中が少々パンク状態におちいっていた。
なんなのそのベクトルは。
「街での評判はよくも悪くもといった次第で、『あのクソうさぎなまいきな癖に強すぎだろッ!』や『小さい白魔法使いと長髪の腹ぺこ女戦士がかわいい』『棺桶娘、今日も死す!』などいろいろ言われているみたいだぞ」
「あのすみません、異世界語でおkでお願いします! ……情報量が多すぎる」
街でどう思われているのよ姉さんは。
善し悪しの区別がつかないったらありもしない。
棺桶娘ってなに、墓荒らしか誰か雇っているの?
「でも最近、危険モンスターが出没するようになって、外港との水路が一時的に閉鎖。そろそろ物資を渡そうと思ったが、タイミングが……なぁ」
うんうんと首を縦に振りながら策を練ようとする博士。
かたくな様子で天井を仰いでいるが表情はとても深刻そうな顔つきだった。
「いやいや、そんな深刻な顔にならなくても」
「そ、そうか。……もし、気になるんだったらギルドのほうにでも行ってみたらどうだ? なにか並大陸に行く手がかりが得られるかもしれないぞ」
手がかりねぇ。
身も蓋もないこと言われたけど。
とかく、ここで拒否するのもそれはダメなように思った私は。
騙されたように自ら勧み、ぴょん吉と共にギルドへと足を運んだ。
☾ ☾ ☾
それで結局、話に乗りギルドに赴いてみたんだけど。
「その卯乃葉さん? ですから現在外港との」
「……あ、えぇわかっていますよ。博士から存じ上げていますから。でも他に行ける方法があったらいいなぁって」
「すみませんが、卯乃葉さんそれは少し厳しいかと。……魔法使い冒険者さんがいればそれは可能かもしれませんが」
「なる」
ギルドの女性に聞いてみたものの。
徒労におわった。
船は停止。未確認生物との接触を避けるために運航停止……か。
易々とフラグって立たないものなのね。
あんに他を渡ってほしいと顔に書いてあるように見えたが、仕方ないじゃない私にどこへいけと。
行く当てもなかったので、ギルドにある机にあるイスに腰掛け頬杖をつく。
「ぴょん?」
「…………ぴょん吉、人生ってそうあまくないんだね。ガク」
私が暇そうに時間潰しをしていると、1人の男性冒険者さんに話かけられる。
なんだろう。
「君」
「はい? なんでしょうか」
「あなたが中大陸うさぎさんの卯乃葉さんかい?」
「なんですかその変な汚名。……まあいいですけどなにかご用で」
勝手に変な名前付けられていて草なんですけど。
男性はよそ見をしながらも、こちらを見つめてくる。
ぴょん吉と私を交互に。
「やはり、ちょっと違うね」
「? なにがです」
「その、ずいぶん前にきたうさぎの一味だよ。あの子は君より背丈が低かったが、その子とよく似ているなと」
そんなの私に振られても。
絶対それ姉さんだ。
私より低いから、高さ基準で判断しているのね。
顔はよく姉と酷似しているので、学校だとよく教師に名前を間違われたが。
渋々と答える。
「あぁ……姉です。別居で訳あって暮らしているんです」
無論、作り話です。
姉さんにはあとの祭りだと、弁明を述べておこう。
似たような境遇の僅差。
神経質なヅラにちょっと違うと指摘されても私は知らないフリをしてそっぽをむいておこうかな。
「そ、そうなのか。俺たちギルドのみんなはあんたの活躍を聞いてる。すっげー強いうさぎってな」
「つ、強いかどうかはわかりませんけど」
「これは出会ったついでだ、冒険の足しにでもしてくれよな。俺たちは君を応援しているから、なにかあったらなんでも聞きに来いよ、そんじゃ!」
「あっちょ! いっちゃった……。風のごとく去って行ったけどこれが異世界式の社交辞令といったところかしら。DQNすぎない?」
となにも言わずに硬貨を置いて私から去っていく。
金貨が10枚。……ぐえ、金銭感覚なさすぎでしょ。
普通に会話して10万投げるとは相当勇気いりそうだけどこれが通なの。
内心ありがたく受け取り、背筋をまっすぐにさせて。
「気晴らしに街回ろうかな」
ずっとギルド内にこもっているのも、受付の人にも悪い。
先ほどの接した冒険者とのやりとりで、周りから視線を集めすぎた。
やばい。
これは気まずいわね、出て時間をおいてからまた来ることにしよう。
そうして私はギルドをあとにし。
街を歩いて、時間潰しすることにした。
☾ ☾ ☾
この前は時間がなくてよく街を回れなかったが。
いざ歩いてみてわかったことがある。
「やっぱり武器の栄えている街だけあって武器防具店がたくさんあるわね」
空を仰げば、歯車の回る建物がいくつも林立としていてパイプを伝って可動しているのはどこかと上部を見つめると、空に向かって白煙が噴射されている。
歯車同士が擦り合いながら、何やら動かしているみたいだがあれはいったいなんなんだろう。
とても精密な動きを行う、一つひとつの建物はどれも私が物色するほどに興味深いものだ。
寄り道しても大丈夫かな、いくつか入って回ってみたい気持ちもあるので遠くまで登ってみたい。
ウェブ小説や架空物でよくある、スチームパンクというものだろうけど現物を見ると迫力が違うわね。
器具の陳列された屋台で商品を物色していると。
「ちょいじょーちゃん!」
「? 店長さんなんですか」
店長さんが私に話しかけてくる。
なんで私に……。
(ん? あれは)
手元をよく見ると高級そうな武器のいくつかを彼は持っていた。
もしや押し売りを?
「そ、その先読みするわけで申し訳……」
言葉を遮られる。
「そんなのいいからよ! この剣とかどうよ、今日できあがったばかりの一品だぜ?」
顔が近い。
洗練された上品な大剣。
中央部には独特な金のラインのついた意匠まで。
どれも知らない私が見ても品がよく、丁寧に手入れもされた武器の数々。
たくさん抱えてよく重たく感じないわね。
立派に見えそうだが、こういうのに限って弱い物はよくあるもの。
無駄な物を買って粗悪品などを増やしたら、博士にいろいろと言われそうだしここは店長さんには申し訳ないけど断っておこう。
「いや、いいですよ。武器は十二分に間に合っているので」
「ちぇ。あんたなら買ってくれると思ったのに」
「私は単に新鮮みのある物を探そうと」
私がそのように話題を逸らそうとしたら。
退く。なんてことはせず。
ポン
急に手のひらに小型のランプを手渡された。
「これでも持っていきな。これは俺の選別品よ。すげぇんだぞ。グリモア人の発明品でな、魔力を火に変えられるんだよ。俺の店に来たんなら1つ……それだけでもいいから持って帰ってくれ。それは細やかな贈り物だ、大事に使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
この前もらったマジック・コンロのランプ版?
店長さんによるとカラーバリエーションが豊富みたいだけど。
「じゃあこのオレンジで」
「まいど」
暖色の黄味の浴びたランプをえりすぐりし、無料で譲り受けた。
さすがにゲーミングカラーはなかったが、多種多様の色が目白押しでその中の1つを選りすぐりする。
別にオレンジが好きだからこんな色にした、というわけではない。偶然という解釈もしくは適当と考えていい。
グリモアの物って画期的な物やっぱ多いわね。
「割と明るいわね」
「ぴょん」
試しに暗めのあいろで使ってみたのだが、夜間でも十分視認できそうな光度だった。
元のランプと違ってこれも、魔力を少し注入するだけで使用可能で。
1度注入すると、数十時間は持つので長く日持ちする便宜性の良い一品物だ。
これさえあれば、機械音痴なおばあちゃんでも放火させてしまうなどの恐れもない。
ちょっとこれ、私たちの世界に持って帰りたいんだけど!
でも帰り方がわからないので、それが実現可能か否かは私は露知らず。
もしも可能となれば真っ先に祖父母にあげたいな。
手で見回しながらじっくりと観察する。
「見た目はこう……アンティークの街灯を模したオイルランプね。純金製でとても頑丈そう」
「ぴょん?」
「気になる? とても重いよ、たぶんいくらぴょん吉、あなたでも持つだけで苦労すると思うわよ」
ぴょん吉が興味を持ったのか、地面で高く飛び続けているが私がひとつ説明してあげると飛ぶのをやめた。
飽きるの早。もうちょっと粘ってもいいのよ?
なくなってきたら魔力を注入すれば再利用可能みたいで、1個あれば十分なツールみたいだ。もうオイル必要ですみたいな埋没費用、石油問題を気にする心配ないわね。
ツ――――。
パーカーから少し向こうの減衰した音が聞こえてきた。
それは物音というより、人による肉声。
「うん? あれは、向こうから声がする?」
通り道。
距離はここからあまり離れていないようだった。
遠ざかっていった音は次第に聞こえなくなったが、音の発信源を頼りに狭い道を進む。
1人進む私は後ろから付いてくるぴょん吉に対して。
「ぴょん吉ちょっと行ってみよう。不吉な予感がするわ」
「ぴょん」
仄暗い人気のない道。
地面には、ゴミが少々散乱している程度で、大通りに比べて少し廃れている光景を目にした。
ひたすら1本の分かれ道がない進路を進んでいると、1か所大きな開けた場所に着く。
「誰かいる」
だが1歩私は危険を察知して踏みとどまった。
人数は3人。互いに向き合いながらなにやら話している。
2人は少年、そして壁にすがりながら立っているのは、その少年より背丈の低い幼い少女だ。
「……から……ろって!」
「や……くだ……」
ひとけのない通路。
物怖じとせず、その声のする方を狭い壁から垣間見た。
もしかしてイジメ?
「人には表と裏があるように、社会の顔にも裏表がある……か」
やれやれ、社会の裏という世界はどこへ行っても変わらないみたい。
眉根を寄せ不安そうな表情をする少女。
明らかに責められて、誰かの助けを求めるように泣きそうな顔をしている。
「おい、だから貸せって言ってんだろ! そんなボロボロなぬいぐるみ」
「そうだ! 凡人なら凡人らしく渡せってんだ! ほら」
「い、嫌だ。これはおとうさんが昨日買ってくれた大切なぬいぐるみなの。……あなた達にはあげられないよ」
なにがあったか知らないが、少女は脅迫を受けている。
背丈が前の2人より低いので怖ず怖ずとしていた。
大切そうに少々陳腐なくまのぬいぐるみを、胸に埋めるように必死で守るその光景は見るからに痛々しい。
あなた達には情ってものがないの?
弱い者イジメとかシャレにもならないわ。
固唾を呑み私は体に力を入れる。
「子ども相手になにしようとしているのよ。見てられないわ」
居ても立ってもいられず、私は勇躍し駆け寄る。
「そこまでにしておいたら? 困ってるじゃない」
「あぁ? なんだお前。ダサいうさぎの服なんか着て」
男が2人、こっちを覗き込むように首をこちらに向ける。
やがて気にした2人は私と正面に向き合うように立ち直ると。
「こっちは今取り込み中だってんだよ! ふざけた格好したヤツに構っている暇は」
「ないって……? ばっかみたい。それを“構う”っていうのかしら。それは弱い者イジメって言うんじゃない?」
その後に続く言葉を継ぎ足すように私が陳述すると、目くじらを立て始める。
よほど短気かあるいは脳筋ゴリラな単細胞か。邸脳な者達だと私は顔色を見て大体の見当が浮かんだ。
「なんだと⁉ 人の話は最後まで聞けって……横取りしやがってよぉ。やる気かゴラァ⁉」
「子どもから大切な物を奪おうとするなんて、年上がすることなの? 泣きそうな顔見て……あなた達は人の心とかないわけ?」
少女の目を見ると今でも泣きそうだった。
すする動作をひたすら繰り返し、沈黙している。
そっと私は少女の顔を肩越しから見て笑顔で声をかけた。
「その大切なぬいぐるみ、力強く握ってて。このうさぎのお姉さんがやっつけてあげるから」
「う、うん……。ありがとう」
初対面ながらも、下向きながらも少し頷いてくれた。
言った通りに大切なぬいぐるみを力強く握りしめると、私を見守るかのように見つめ始めた。
そして相手となる2人はというと。
「なめやがって。こうなったら」
「やるしかねぇな」
2人は身構えて。
「「たああああああああああああああああっ!」」
拳を力強く握り、走りながら殴りかかってくる。
同声を発しながら意気投合するように……あとはどうでもいいや。
重なり合った声が耳障りだと感じた私は。
「せーの。……ラビットパーンチ!」
「な、なんなんだこりゃ……ど、どああああああああああああっ⁉」
軽く解き放った拳により、男2人は遠くへと吹き飛ばされ地平の彼方へと消えていった。
秒もかからなかったけど、あれだけ大口叩いておいてこんな貧弱な強さとは聞いて呆れる。
それであげくの果てに弱い者イジメときた。
話にもならないわね。
出直せ、いや出直してほしくないわね。この子がかわいそうだし。
ちなみに殺してはいない。(全治何か月かは知らん)
「ぐすん」
「大丈夫? とても泣きそうな顔しているけど」
「……あ、ありがとううさぎのお姉さん」
早足で少女の元へ駆け寄ると、抵抗なくお礼を言ってくれた。
なんて礼儀がいいんだろうこの子は。……姉さんもこういうことを見習って……。
恐怖が脱力したのか、体にあった恐怖が弛緩するとゆっくりと私のほうを見上げてくれた。
少々まだ涙が流れているが大丈夫かな。
「ううん、大したことないよ。ケガはない、大丈夫?」
「少し蹴られただけ。私が歩いていたら悪そうな大人に絡まれちゃって。……このおとうさんからもらったぬいぐるみを無理矢理取り上げようとしてたんだ」
くまのぬいぐるみの右側についている耳が少しもげている。
おそらく私が来る前に、引っ張り合っていたのだろう。
……だからか? だからなの。先ほどの涙は。
「その……よかったら直してあげようか? お姉ちゃんこういうのは得意だから」
「え? いいけどできるの?」
その長髪の少女からくまのぬいぐるみを貸してもらい、その大切なぬいぐるみを直す作業に取りかかるのだった。
(子どもに泣き顔なんて似合わないわよね。直してあげないと)