198話 うさぎさんの妹、大魔法使いさんの助手(仮)になる その6
前半は先生の思い出話を聞く卯乃葉。
明日に書く後半の話の要旨はちょっと村の手助け? になるかもです。
【馬鹿にし合えるねんごろな友人が一番の宝物】
翌日。
助けた少女の住む家に招かれて一家にもてなされた。
私と先生が目覚め、部屋の扉を開け下の階を覗こうとするとおいしそうな匂いが漂ってきた。
そういや博士以外の家で、一般家庭の家における食事の味というものを私は味わったことなかったな。
私たちの分も用意してくれたり……いやまさかね。
「あ、うさぎのおねえさんとすごい魔法使いさんおはよう。ちょうど今ご飯ができたところだから起こしにきたんだけど」
「え、食べられるの? 私たち見知らぬ人だよ?」
「いやいやおねえさん達は私たち家族にとっては命の恩人だよ、さあ食べにいこ」
手を引かれながら食卓へとつれて行かれる。
この世界の食卓はというと、西洋風の料理がメインだった。
目玉焼きにスープ、パン真ん中には大盛りのサラダなどおいしい物がたくさん置いてあった。
いまさら断りにくかった私と先生は、おいしく食事を頂いた。
以外とおいしい。
私の世界にあったものの食べ物と味は大して変わらない。
西洋風の料理ってホテルぐらいでしか食べたことないんだけどこんなにおいしいだなんて! 私感激です。
互いに憚る様子を永遠にやりとりしながらも、結局先生との話しを交え団らんと暖かな会話の渦に溶け込めた。
それでも先生の本身分は決して明かさず、ばれない程度で話したのだが。
緊張するなぁ。どこからきたとかどうしたらそんなすごいものを使えるとか、子どもの質問追及には骨が折れそうになってくるが、聞くことはいいことだよね。
食事を終えるとそろそろお暇しようと。
「もういっちゃうの?うさぎさん」
「うん、私ちょっといろいろ忙しいの。……それに先生についていかないといけないから」
育児との接し方については中学以来だろうか。
学校の保育実習の際、子どもと遊んだことがあるがもう何年以来だろう。
はなはだ担任や園児の職員から評価をもらったことがあるが、間がだいぶ空きすぎたせいで接し方の程度に困る私。
あれ、こんなに考えさせられるものだったかしら? べ、別に小さい子と接するのがはずかしいってわけじゃないんだからね!
……えぇと。
目線を落としこの子の高さに合わせてっと。
しゃがむのはこんなにキツかったっけ? 少し足下が震えているけれど、まあいいや。
少女が明朗な顔をするとそれを理解したかのようにかぶりを振った。
「そうなんだ、あの元気でね! なにかあったらいつでも私の家に来ていいから」
なんていい子なの。
姉さんも昔はこんな顔していたはずなのに、なぜあんなに落ちぶれたのか。
ううん、友だちや彼氏歴ゼロの私がこんなこと考えても顔がきかないわよね。
「その、お姉さん」
続けて少女は私の隣に立つ、マギシア先生もといグリミア先生に視線を向け言葉をかけてくる。
はにかむ様子で目を泳がせているが、なにか伝えたいということは口にしなくてもわかった。
すると父親が。
「お姉さんじゃないだろ、グリミアさんだ」
「そうよ、すみませんグリミア先生、まだこの子名前を覚える習慣がなくて」
「いえいえ、大したことじゃないから大丈夫よ……それでどうしたのかな?」
両親に少々しつけられる少女。
あぁよく親にもこういうの言われたかも。
ちゃんと名前で呼びなさいとか、いいかげんうんぬんと仕事が多忙な両親によく言われた記憶がある。
その様子は育った環境は違えども、どこか過去の自分を見ているかのように感じられた。
名前覚えるのって大変だよね。卯乃葉さんもそういう経験あったからね。
先生に視線を向ける少女は。
「そのいろいろありがとうね。グリミアさんがいなかったら私うまくおかあさんに謝れなかったかも」
「あめ玉おいしかった?」
「うん。まさかポケットの中にあめを入れてくれるなんて……やっぱりすごい魔法使いだね」
先生は少女を説得する時、少し魔法を使ったらしい。
予め食用としてお店で何個か買っていたあめの1つを、彼女のポケットに魔法であげ……そうほんの些細なプレゼントをしたわけだ。
私もまったく気づかなかったけれど、この人は……隙がないそれ以上に動作全てを殺しているようなものだから非常にわからりづらいわ。
きっとこの魔法にはとんでもない仕掛けがあるに違いないわ。
でもおかげで少女は勇気を持てて、母と仲直りできたらしいし結局先生が成し遂げた偉業だなと思う。
戦うだけでなく、人を説得させてしまう。それは彼女の優しさ自体が本当の魔法なのかもしれない。
「そんなことないわよ。私はあなたの背中を押しただけよ。……いい、お父さんとお母さんを大切にするのよ? ……それでは卯乃葉ちゃんそろそろ行きましょうか」
「あはい。では失礼します」
「また来いよ~」
お礼を言い、その家を後にする。
出て行ってもなお、一家は私たちが見えなくなるまでずっとその場で立ち尽くし手を振り続けた。
その一振りは一挙一同がとても大きく、私たちにとても感謝している姿勢がうかがえた。
村を歩きながら私たちは話し。
「それで先生、次はどうします? あと2日ありますけど」
「うーんそうねぇ。少し人助けでも……したいなぁなんて」
「もう試運転終わったなら帰っていいと思いますけど」
新しい大義名分でも作ろうとしているのだろうか。
先生が今、この世界にどんな偏見を持っているのかは知らないけれど、彼女なりの努力を行っているように私は考えた。
さすがに被害甚大になるようなことはしないだろうけど、隠し球がまだいくつもありそうじゃない?
魔力を体の外周に膜のように張り、いかなる攻撃もすべてうん百倍にして跳ね返すとか。やはり私の知らない魔法がいくつも内蔵されていたり。
~卯乃葉脳内イメージ~
巨大な竜頭を持つドラゴン相手だと。
「ギャァァァァァァァァォオオオオオオオオオ!」
「ふん、いくら大きな体を持っているとはいえ、それではただの大声を叫ぶだけの駄竜よ」
いくつも撃ち出される無数の火球。
しかし謎の最強魔法使いマギシアは風のごとくその攻撃を受け流し、距離を縮めていく。
双方の立ち合いに、竜が鋭い爪と大型の火球を使った立て続けの攻撃。
「ギャーギャー吠えてるだけにしか見えないって言ってるでしょ?」
すると彼女の姿が消え、敵の背後に身を移し後ろにいる敵に対してこう言う。
「あなたはもう仕留められている」
と。
して敵の部位がことごとく寸断に切り落とされ赤いしぶきが宙を舞ってジ・エンド。
「ちょっと卯乃葉ちゃんどうしたの? 考え込むようにぼうっと立って?」
「…………あぁすみません。いえ大したことではないので」
想像を膨らませていたら、無意識のうちに棒立ち状態になっていたらしい。
だめだ、彼女の謎めいた部分が多すぎて考えが柔軟にならない。
なんなのよ、その瞬殺ゲーを体現したかのような先生は。
先生はまずそんなこと言わないだろうし、いやイメージ的にそぐわないったらありはしない。
かつて魔法の国を作り、次はいったいなにを……今後の先生の動きがとても気がかりで仕方ないわ。
不確定要素を探り、そこから自己完結にさせるのはよくない。
ということで。
ひとまずこれに関してはひとまず置いておくことにして。
「ところで卯乃葉ちゃん。昨日の話の続きだけど……どうだった? 私のことどれぐらい知ってくれたかしら」
「あぁ昨日ですか」
話を転換し昨日の話へ。
昨日寝る前に先生が話してくれたこと。
大まかにまとめるとこうだ。
かつてこの世界では魔法という存在は、空想上のものでしかなく実在するかも定かではなかった。
それまでは錬金術が主流であり、先生の住んでいた街ではこれが盛んだったらしい。
魔法が空想上の存在だという話は私のいた世界と少し似た部分があるわね。
そして病弱な親友とたわいない話をしながら、青春を過ごし勉学にも勤しんだ。
錬成の原理や課程それらすべてを幼い頃から学び知識をえていたとも話し。
そういえば、この世界にも学校あったのね。
でも先生がいうようには、今あるグリモアの学校とは似て非なる存在だと言っていたし内面は少し私の知っている学校とは少し違うかも?
そんな毎日が先生にとってその街、親友が変えようがない宝だったと話した。
「驚きましたよ、昔魔法は存在してなかったなんて」
「他の人も最初そんなこと言うわ。でもそれは全部事実よ、ほとんど空想上の存在だったし……童話の本が各国にたくさん出回っていたぐらいよ……ここの魔法使いって存在は」
でも先生はその空想を現実に変え、魔法は実在するという証明をするために幼い頃からの夢であった魔法使いを目指す端緒になったみたい。
その夢を実現するための支えとなっていたのは、かけがえのない親友の存在。だからくじけず魔法を作り続けられたようだ。
それでいつか親友と一緒に魔法の国を築くんだと、漠然とした夢を約束したらしいが。
ある日、先生の親友は病状が悪化してしまい帰らぬ人になってしまった、そんな辛い過去を経験がある。
多大な力にはよく代償がついたりするけれど、先生もちゃんとした人間だったのね。
はじめから強力な魔法が使えたとばかりに思っていたが、それは私の空想で苦労そして苦悩の立て続けのようだった。
「力ってやはり最初からあるものじゃなかったんですね」
「……この世に完璧なものは存在しない。あったとしてもそれは大きな代価を払った者が得た物であって決してそれは安いものではないから」
話している途中の彼女はどこか辛そうにしていた。
彼女の向ける視線は、遠くにいる親友を見つめているかのような顔。
犠牲は避けられない、今の力それがあってこその“彼女の魔法”なのかな。
その後、勉強の成果が実ったのか、ようやく魔法の開発に成功しこの世界で初めてになる魔法使いとなった。
同時に禁忌である不老の薬を作り、街から追放されはしたのだが冒険する中でようやく今の国グリモアを建設し友との約束を果たしたと話してくれた。
「でも、先生は親友との約束を果たせたことになったんですよね?」
「……ううん。それは違うわ卯乃葉ちゃん」
先生は否定した。
顔に出してないけど声調で、なんとなくではあるが浮かない表情が目に浮かんだ。
目深する彼女の顔。
帽子の裏からはややむせび泣くような声が。
先生?
「親友と一緒にあの国を見られなかったのがとても苦だわ。……もうちょっと早く魔法を習得していれば……って思うとなおさらね。おまけに今では隠居してこのありさまよ。あの子になんて言えば……」
「……蘇らせたりしようとは考えないんですか? たとえば土人形に魂を憑依させたり……無理かそれは」
さらっと私は先生に失礼なことを言っている気がするが。
「病気で死んだ者を蘇らせることは私の力でもっても不可能よ。……そうね、たしかに後者なら一応可能よ。……でもそこにいるのは“あの子”じゃない。それを模倣させて作った物にすぎないの、だから私は親友を題材としてうかつにそんな魔法を使いたくないから」
先生はやはりとても優れた矜持をお持ちだ。
おそらく、そんなことをすると親友に見せる顔がなくて失礼だと、あえて憑依させる魔法を使わないんだろう。
代えの利かない存在。
なんとなくだがわかる気がする。
コピーは結局コピーであって、完全な細部までは再現できない欠陥品で実際の本人とまでいかないのだ。
――魔法は人に夢と希望を与える――。
先生の言っていた言葉だけど、逆に絶望を与えてはいけない。
これは先生自身が自分に交わしたひとつの契約なのだろう。
「もし、本当に全てを成し遂げたとき、その時だけ天から見守ってくれている友にこう言うわ……『夢叶ったよ』って」
「せ、先生……」
「……あそこに休める場所があるわ……ちょっと休んでから行きましょうか」
先生は途中、丸い机の並べられた休憩所を見つけるとそこで一息つこうと提案してくる。
先ほどまで流していた涙を拭い私の1歩先に立つ。
転換。
魔法使いのプライドなのだろうか。
ただ、その笑顔には偽りのないように見え彼女の明るさを感じられた。
いつもの先生に戻ったと安堵した私は朗らかに笑うように足を踏み。
もちろん、断る必要もなくそれに私は応じた。
「ま、待ってくださいよ先生~!」
「遅いわよ、こっちこっち」
一足先に進む、元気そうな彼女に追いつこうとする私は心の底から祈った。
いつかその約束が果たせるといいですね。
ただその思想が頭からもたげた。
☾ ☾ ☾
【大魔法使いの手助け?】
パラソルテーブルで一息つく。
異世界に来て初めて傘を見たけど、ここにもあるのね。
たしか一般的な傘って、13世紀頃のイタリア(日傘)で誕生したんだっけ。……4000年前くらいに傘のルーツはあったらしいけど。
どんな文化を開拓していったかはわからないけど、使ってみた感じ悪くはない。
実物を見て造形が細かく、色とりどりの模様が鮮やかで心を奪われる。
レプリカでもいいから1本欲しいな。
木製で作られた物だがそこまで傷みは酷くなさそうに見える。
使っている人も周りにたくさんいるし、快適かな?
「それで先生聞いてます? 新聞なんて読んでますけど」
「うん、聞いてる聞いてる」
目下、先生と方針を決めようと会話中。
にもかかわらず、どこからか持ってきた新聞を広げ読んでいる様子。
本当に聞いているのかしら。
聖徳太子じゃあるまいし、周りの声を一度に全部聞けたりと……んなわけないか。
「話変えますけど先生、それちゃんと払ったんですよね」
「ちゃんと払ったわよ、硬貨はちゃんとお店の前に置いてきたし」
なにを買ったかわからないんじゃ……。
先生はフリーすぎる性格なためか、行動が読めないんだけど。
「じゃあ私が言ったこと軽く言ってくださいよ」
「……いいわよ。えぇと」
先生は私が言ったことを全て淡々と話し始めた。
あと二日、どこへ行くのか。西か東どちらの方面かを。
Uターンして違うダンジョンへと潜るのもいいが、この一帯は事前の準備をしないと痛い目に遭うところが多いと。
先ほど私が言ったことを一文字も違わず説明する。
うぅ……まさか全て内容が頭に入っているだなんて……彼女の脳は2つあるんじゃないかと疑いたくなるくらいに羨ましくなる。
異世界の人が持つ記憶力コワイヨ。※マギシア先生がスペック高すぎるだけです。
「それでどうするの? 私の提案なんだけどこの先進むと草原地帯があるから……」
私がどのように案を提示すればいいのかわからなかったので、とりあえず彼女に従い近くの草原へと赴くことにした。
して広大な草原にて。
「ウゴゴゴゴゴゴゴッ!」
巨大な蛇のモンスターが現れた。
禍々しい吐息を吐きながら、今にでも飛びかかってきそうな殺気を放っている。
毒でも吐かれたら死にそう。骨だけは勘弁してこの作品にグロな表現は設定してないはずだからそれだけは絶対だめよ!
「さてと、それじゃどれぐらい持つか試させてもらうわ」
先生の持つ剣が、紅い烈火の基調に変化した。
中距離で間合いをとり、いざ攻める……と思いきや。
先生はその剣を直線上に投げた。
剣は軌道をずらさず、魔物の方向へと飛んでいき接触。
え、初速落ちてないんですけど⁉ ていうかなにあのプロ野球選手顔負けの速度は力も助走さえ入れずあんなに飛ぶってどういうことなの?
すると瞬く間のごとく、火炎の玉が巨大な火柱を立てるように敵を焼き尽くす。
その高熱は、一瞬起きたのにもかかわらず蛇のモンスターを塵にしてみせた。
えぇ秒殺? 相手の断末魔も聞かずこの人仕留めちゃったよ。
なにこれ、マンガやウェブ小説に出てくる転生や転移系のチート主人公っぷりの性能だよ。
口がもうあんぐり状態だよ! くわえてぴょん吉が瞠目状態だよ。
いったいどうなってるんですか、説明お願いしますよ先生。
「あっけないわね。ただ投げただけなのに」
「先生容赦ないですね」
手招きすると先生の元に剣が返ってくる。
巨大なモンスターは先生の炎魔法が宿った剣で、葬りさられた。
彼女曰く、なんの力も入れてないという。
もう物理の原理や自然の法則うんぬんの話じゃないって、これならもういろんなボスワンパンできるでしょ。
驚きが止まらない私は心が暴走していた。横にいるぴょん吉も。あぁもういろんな意味でこの人バランスブレイカーじゃない。尊敬はしているけど強さが尋常ではない。
誰かこの最強魔法使いを止めて。
しばらく草原で、無駄にサイズがまばらなモンスターを狩り続け。
一戦交えるだけで、彼女と対峙した敵は炭のように一瞬で変えられあわれな姿を私は指をくわえながら見続けた。
やられる敵の気持ちが今ならわかりそう。いやわかりたくない絶対これらの攻撃ってただでは済まない範疇でしょ。
昼時。村に再び戻って今朝のテーブルに着いた。
そろそろ先生も空腹を感じてきたと言い出すと、私の断りなしでお店の店員さんを呼ぶと注文を取らせる。
店員さんが注文品を持ってくる際。これもまた驚きの芸当を披露させ。
できあがった品を、店員さんの手間を省かせるようにと手を前に出し拒否。
「え、要らないのですか? ではなぜ」
首をかしげるタキシード姿の男店員さん。
そして魔法で支払い金の硬貨をお店のカウンターに浮かせながら置き、頼んだ商品を魔法で誘導させるように持ってくると私たちの座るテーブルへと平然と置いてみせた。
魔法で持って行かれるところを見た店員さんは言葉を失い、数秒その場に立ち尽くしていた。
だからいくつそんな技……魔法を持っているのよ。
店員さん口を開けてとても驚いているんですけど⁉
そんなこともありながらも。
昼食をとり昼からまたモンスター狩りをしようと計画していると。
「ですから、昼はここをこういって……」
「えぇ…………? おや誰か私たちの方に来てない……とても不安そうな顔をしてるけど」
1人の村人が私たちの元へとやってくる。
息を切らしてへとへと。
どうしたんだろう。
「はぁはぁ……あんた魔法使いだろ? 少し頼み事があって」
「……ほう頼み事。卯乃葉ちゃん少し時間潰しができそう……じゃない?」
私は先生に同意し、その男性の話を聞き入ることにした。
そうすると、町にある小さな家に案内される。
大きさは小屋ぐらいの大きさしかなく私を含め、3人がちょうど横並びできるくらいの広さだった。
その奥には子どもが1人寝られるくらいのベッドがあり。
ベッドの上には寝込む1人の少女が横たわっていた。
息を荒くしながらとても苦しそうだ。
大丈夫かしら、鼻息を荒くさせて見るからに苦しそうだけどこの子の容体が心配。
苦しそうな少女をよそに父親である主人の方を見て先生は聞く。
「ご主人、これは? とても娘さん? の容態がよろしくないように見えるけど、どうしたのかしら」
「数日前の朝からこんな様子で起きようにも見るにたえないくらい感じなんだ、どうか金ならいくらでもやるから酷い病気にかかった娘を助けてくれ!」
それは病気で寝込む1人の少女。
先生は、彼女の苦しそうな顔を少々険しそうな顔をさせると、少女の方へ近づいて。
「せ、先生?」
「大丈夫、任せておいて」
少女の頭部のすぐ傍に、顔が見えるよう片膝をつけた。
朗らかな顔で語りかけ。
「大丈夫? とても苦しそうだけど」
「魔法使いさん、あなたは誰?」
息苦しそうにも踏ん張り先生の方を向く少女。
不審がる少女の目の前に対して、先生はしぶることなく応対し。
「ただあなたのお父さんに呼ばれてやってきた……通りすがりの魔法使いよ」
「魔法使い?」
「うん、人に夢と希望を与える魔法使いよ。ふふ」
先生は少女の手を軽く握ってあげると、淡い光が彼女を照らしていた。
これは?
【『魔法』それは人に希望と夢を与えるもの】
光が少女を包む。
まばゆい光を放ち少女の全身を包み込む。
「大丈夫よ、心配いらないわ。ちょっと体がびっくりしているかもしれないけど」
「…………っ」
先生は心配はいらないと優しく声をかけると、体を楽にさせじっと寝たまま堪える。
私は先生が、治癒魔法を使ったことを見て把握すると、隣で心配する父親のほうを振り返り声をかける。
「その……娘さんなら大丈夫ですよ」
「……う、うさぎさんそれ本当なのか?」
「えぇ本当ですよ。先生の魔法は変えようのない偉大なる魔法です。どうかお気をたしかに」
「……あんたがそこまで言うのなら大人しく待つことにするよ」
説得に応じ、数秒も経たないうちに。
少女の顔色は次第によくなっていき体が正常を取り戻す。
「あれ……痛みが……治った?」
「ゆっくりでいいわよ、はい」
体を起こすと、手足を動かし自分の容態を確かめる。
先ほどの弱々しい状態がうそのように完治。
父親は思わず娘の方に駆けて身を寄せる。
「治ったのか? ……よかった本当によかった」
「うん、病気がなかったみたいに治ったよ」
するとマギシア先生は背中を向け。
「さて、やることはやったし行きましょうか卯乃葉ちゃん」
「え、あちょ待ってくださいよ」
礼なんていらないと、先生は早々に家を後にしようと入り口のほうに歩くと。
少女の父親が声をかけ。
「そのありがとう、ほんとうにありがとうな。……代金のほうは」
だが先生はお代を払おうとする父親にきっぱりと言い。
「そのお代なんていいわよ。大したことはやっていないし」
「で、でも」
「それに、私はただの通りすがりの作家魔法使い。人からお金が欲しくてやったわけじゃない。……子どもが、人が苦しんでいるのを見てられなかったから助けてあげたの」
「そうなのか。……わかったよあんたがそう言うなら」
病気の治った少女に向かって先生は。
「はい、この飴あなたにあげるわ。おいしい果実で作った特製の飴よ」
「……あ、ありがとう」
どこからか出てきた、包み紙に包装された飴を少女に魔法で渡す。
少女は嬉しそうに笑顔を浮かべ朗らかな表情をさせた。
「その魔法使いさん」
「うん? なに」
「夢と希望をくれて本当にありがとう」
「感謝なんていいから……それよりもお父さんを大切にしなさいよ」
「う、うん」
先生と私はその家を立ち去った。
☾ ☾ ☾
一仕事して、しばしまたモンスター狩りに取り組んだ。
もうすぐ夕暮れ時というのに先生は楽しそうに、剣の試運転の実践を行ったが、どれも先生の圧勝で、大きさ問わず先生の攻撃によって即決したが先生はとても上機嫌だった。
そしてその夜。
近くの森で野宿し食事をとる。
食材はというと、先生があらかじめ買い溜めしておいた食材の数々を使わせてもらった。
あまりヨーロッパの料理には詳しくないけれど、数ある素材の物を使い簡単なブイヨンを作った。
ただ適当に具材を積み込むだけでできるからちょうどいい、だなんて話は先生の前では言えないが。
でもそう言っても先生は軽く苦笑いしてくる様子が目に浮かんでくるけどね。
先生と来る前に入手したマジック・コンロを使ってみたが……使い方はいたって単純で私でも容易に扱えた。
「ふーん、懐かしいわねそれ。魔導調理具だったかしら? 少し形は違うけど……進歩したのね」
「先生の時代にもあったんですか? ……扱い方とても簡単ですね。料理がすぐできちゃいます」
説明どおりに使ってみたのだが、簡単にできた。
まさに持ち運び用コンロといった感じ。熱さも良い感じで煮物も簡単にできる、あの村長さんすごいものくれたなぁ。今度会ったらもう1度お礼を言っておこうかな。
「ぴょん」
「え? 美味しいって? ……ありがとうぴょん吉」
一通り食事をすませると。
「その先生は、どうして少女を?」
「うん、あの子を見ているとなんだか救えなかった親友を思い出しちゃったのよね。まあこれ毎回のことなんだけど、なんで毎回助けちゃうのかしら」
「先生」
先生は、亡くなった親友を重ねてしまい見かけては人を助ける、この習慣……癖があるようだ。
見過ごせないから助ける。……やはりどこか彼女は親友に対して心残りが?
救えなかった親友のような人をもうこれ以上増やさない。
これは彼女自身の行いもしくは罪滅ぼしの一環なのかもしれない。
「その卯乃葉ちゃん、あなたは私をどう思う?」
「……偉大な魔法使いさんって印象です。心の底からそう思います」
「ありがとう。もう少しでお別れになるけれど、これからなんか会ったら私の所へ来てね、待ってるから」
「お別れだなんてそんな。これからも頼らせてもらいますよ……私と先生の仲じゃないですか。ぴょん吉もそう思うよね?」
「ぴょん!」
「卯乃葉ちゃん…………ありがとう」
それからというものの、なんの進展もなく残りの日はその一帯で時間を削った。
時に村の子ども達と遊んだり……とても友好的な人が多かったので私はすぐなじめた。
最終日にグレミーさんの元へ帰り、再び時空を経由すると秒で先生の家へと帰り。
「やっと帰って来れたわね」
「ですね、こんなに長く感じた3日は初めてかも」
一息つくように再びテーブルに座ると、先生はお茶を魔法で2つ持ってくる。
ティーカップもこだわっているのか、とても品質のいい高そうな器だった。
日本通貨に換算すると、非常に高そうなアンティーク品にも見えてくる。
「あ、ありがとうございます」
「そんなビクビクしなくても。たかが大金貨50枚のコップなのに」
ぶふうううううううううううう!
な、何言ってるのこの人!
だ、大金貨50枚⁉︎
こ、これがぁ⁉︎
ちな、日本金に換算すると約500万円です。
それをたかがというひょうきんな言い回しで私にこうして手渡してくるのだ。
え、先生にとって500万円ってその場に転がっている石ころみたいな存在なの?
金銭感覚ないどころか、お金をただの紙切れや百均の物と勘違いしているのではと思わしき先生の迷言よねこれって。
驚きのあまりに、口に含んだお茶を先生目がけて噴射してしまう。
瞬間的に先生は、魔法で小さな鏡を作るとそれを妨害してみせた。
「もういきなりなによ、急に吹き出したりして! わ、私なんか変なこと言ったかしら」
少々、吃驚し瞠目する先生。
存外な反応に、あけすけな素振りをしているように見える。
「いやいや、聞き捨てならないこと聞きましたよ! なにが“たかが”ですか」
「私ぐらいの作家になれば、たくさん金貨が入ってくるからね。……え、もしかして言わないほうがよかった?」
「いえ別にいいですけど」
「う、卯乃葉ちゃん? 顔がこわばってるわよ」
「気のせいですよ‼︎」
そんな少しの無駄話のあと。
「ときに卯乃葉ちゃん、お礼といってはなんなんだけど少しあなたの質問に答えてあげてもいいわよ ここの世界のことだったり……なんでもいいわよ」
「さっきの詫びですか?」
「まだ引きずってたの? だからそれは」
「ジョークです、ちょうど先生にはいい機会ですから今のうちになにか聞いて」
「どーんと聞いて。100年も生きてるからね、おおむねの要旨はだいたい把握済みだから」
と言いつつ魔法を糸のようにして星を象る先生。
手編みのようなものだろうか。
たしか星が作れたわよね。
単純に手で丸を作ってオッケーサインにしたりは……まあ彼女の魔法にかける情熱は本物だろうし、これが彼女の矜恃……すなわちプライドなんだろう。
細かいところまで魔法に愛着を持っているなんて。
さすがは始まりの魔法使いといったところか。
こちらに情けをかけているわけではないらしい。
詰まるところ、こちらも先生にこの世界のことをとかく聞いてみたかったが、なかなかタイミングが作れずにいたがタイミングは今がちょうどいいかな。
「それじゃまずは」
私は先生に、この世界のことを少しいくつか教えてもらうことにした。
この世界には、私のまだまだ知らないことたくさんあると思うし、さて。
「その、先生のここ数百年の中で少し面白いなぁと思ったことってあります?」
開口一番になに聞いているんだろう。
それよりも重要なことを聞くべきだとじゃないの私。
ほら、先生がとても驚いている様子しているわよ。
「へ、へぇ。最初になにがくるかなと思ったらそれ? …………いいわよ」
なんなの今の間は。
若干目が泳いでいるけど、100年も生き続けると変なことに巻き込まれたりなんてあったり。
顔から冷や汗でているけどなんとか言葉を模索しようと顔に書いてあることがうかがえる。
あ、これ絶対なにかあるやつよね。
「そうね、ここ数百年の間って言ったら、やはりあの未知の生物と戦ったことかしらね」
「未知の生物?」
なに、未知の生物って。
「この世界にまずいないであろうモンスターを今から、30年前ほどだったかしら。旅の途上で遭遇してね、液体状の魔物だったんだけどねいざ戦ってみたら、あら不思議。いくら倒しても何度も再生を繰り返す強力なモンスターだったの。いろいろと試してはみたんだけど、切りがなかったからとても苦戦した記憶があるわ」
ゲームでよくいる害悪モンスターの一種だろうか。
プレイヤーを詰ませにくる厄介すぎる相手。
先生の言う限りでは大きさはたいしたことなさそうだけど、結果はどうなったんだろう。
「その最終的にどうなりました?」
「えぇと、放置した」
「ん? 今なんと?」
「だから、放置したのよ。私でも倒せない性質のモンスターだったから。でもそんなに強くなさそうだったから被害拡大することはまずないんじゃないかしら」
フラグっぽく聞こえるのは気のせいだろうか。
大丈夫、大丈夫みたいなお決まりのセリフがテンプレの塊みたいなもので……。
つ、次の質問に移ろう。
先生の親友について。
「あぁ気になった? ……あの子は病弱ではあったけど、私とは仲睦まじい関係柄だったわよ。通っていた学校の教室が一緒で意気投合。授業中、なまいきな教師の授業にはたわいない話で時間を潰したりなんかもしたわ。無論、そのあと叱られたけど」
「先生もそういう時期あったんですね意外です」
これは万国共通か。
授業中密かに行われるお遊びは遙か昔からあったってこと?
でも先生が教師に叱られている格好なんて想像すらできないんだけど。
昔の先生ってもしかすると、少しやんちゃだったのかとも考えられるわね。
すごく気になるわ。
「私だって人よ。青春って時代を過ごしたことあるから。……まあそんな学業に勤しむ中、彼女とは次第に仲良くなってね、気づいたら親友になっていたということよ」
姉さんにもこういう道を歩んでほしかったな。
というか、途中から引きこもりだした姉との対義語がマギシア先生なのはなぜ? 偶然にもよくできすぎている気が。
「う、羨ましすぎます。姉は引きこもってばかりでしたから」
「あら、あなたの姉は学校行ってなかったの?」
「えぇいろいろありましてね。おまけに横暴口調で話しますから私にとっては非常に困った姉ですよまったく」
「それは姉妹の典型的な部分じゃないかしら。決して悪い子には聞こえないけれど。……もしそのあなたのお姉さんに会う機会があったら立ち会いたいものね」
そうして先生への質問は長丁場に続くのであった。
☾ ☾ ☾
「そのもう行っちゃうのね……おっと忘れ物よはいこれ」
「硬貨ですか。ありがとうございます」
「それで賠償金……それ以上の額があるはずだから有効活用してちょうだい。……それと友達代もそれに含まれているかしら」
友達代ってなんなのかしら。
意味深。
でも先生が贈る私との友情の証として、この分け前は先生にとってこの額がそれに値するものなのだろう。
それにしても重い。
袋の中から金属類の音いくつも重なり合っているのですが!
「ま、まあこれで博士の問題事が一段洛ついたってことで……ありがとうございました」
「ううん、お礼はこっちもそう。あなたのおかげでいろいろな発見ができたし……これでいい小説が書けそうだわ」
先生の小説やっぱり私気になる。
今度買おうっと。
異世界の人が書く小説を読みたいという気持ちもあるし、先生自身100年も生きている人間だ。この世界の見識を広げるために読む価値は十二分にありそうだし。
「ではまた来ますね」
私が去ろうとしたその時呼び止められる。
「おっと卯乃葉ちゃん、これ持って行きなさい。錬金台……ちょっと古い物だけど」
「……え、いいんですか」
先生は唐突に少々使い古された錬金台を私に渡してきた。
古い……というかあまり使われていないようにもみえるけれど。
人の下半身ぐらいの大きさがあるその錬金台は、分厚く堅牢で耐久性にも優れた一品に見えた。
古いと卑屈な言い方をしているが、新品同等の状態に見えるんだけど絶対これ古いじゃなくて新しいの間違いよね。まあいいや。
「あなたのこれからの冒険に役に立つかなっと思ってね。……これはささやかな気持ちよ」
「ではお言葉に甘えてもらっちゃいます」
「また来てね卯乃葉ちゃん」
こうして私のマギシア先生との実験を終え、サーセン博士の待つブレイブ・タウンに向けて歩みを進めた。
ぴょん吉もなんだか嬉しそう。
姉さんとの再会はまだ後回しになりそうだけど、私は空を仰ぎながら。
これからの人との出会いを楽しみに待つのだった。
「ぴょん吉いろんな人とこれからたくさん出会うと思うけど頑張って行こうね」
「ぴょんぴょん!」




