197話 うさぎさんの妹、大魔法使いさんの助手(仮)になる その5
【マギシア先生の予想外な強さ】
巨大なファントム・スコピオと交戦。
遠巻きに先生の無事を祈りながら少女の父親を護衛しながら、成り行きを見届ける。
「あの方はいったい。……ただの魔法使いではないんじゃないか?」
察しがいいわね。
でも、あれだけ派手な魔法を絶え間なく使い続けるんだ、能力魔法の1つや2つ疑いたくなる気持ちも納得できる。
さて、先生のことをどのように説明するか。
あまり彼女が偉大な魔法使いだということを、隠し通さないとそれは反故になってしまうから少々頭を使わないといけない。
「そうですね、彼女は顔の利くベテラン魔法使いですよ、グリモアの人に噂にされるほどの実力なんですよ」
設定的には長旅で強力な魔法に目覚めた、魔法使いのエキスパートという境遇にしておこう。
まだグリモアのことをあまり知っていない私がなにを言うのだと、おざなりとした言葉にしかならないが今はこれで勘弁して。
「なるほどな、見たことのない魔法が次々とそれは強いわけだ」
先生が放ったあの魔法。
巨大なモンスター相手に戦うその姿勢は、まるで神にでもなったかのような偉大さだった。
アニメやゲームに出てくる必殺技そんな次元の話ではなく、それをはるかに凌駕する荒業である。
今神々しい空間が展開されているけれど、いったいこれはどんな効果があるのかしら。
教えてAIさん!
【絶堺領域ーアディリシア:効果 約4キロの広範囲空間を展開させ、敵の全能力値(属性耐性も含む)は4000分の1になり、味方の魔力消費を全て10まで減らし、魔法・技・攻撃による威力を全て200倍にさせる。また味方全ては敵から受ける状態異常効果を受けない。 消費150】
ぶ、ぶっ壊れじゃない!
つまりこの空間は、敵を最小限に弱らせ味方を強くさせる反則的な魔法ってこと?
これでどうやって戦うっていうの?
「さあて、剣に変えて……いくわよ」
先生は剣を使い、身動きの取れない敵に攻撃をしかけた。
宿っている魔力が、剣から呼応するように光り彼女と共鳴する。
敵は縛りを一度解くと、尻尾を使って彼女をなぎ払おうとした。
「ふっ甘いわね。マギア・ポインター。からのエクレグロム!」
敵の体に小型の魔法陣が表れ出る。
これは……うん? もしかして標的を定める魔法なのでは?
先生だけにいいところを持っていくわけはいかないと悟った私は、歩一歩足を踏む。
もう指くわえながら見てられない。
「すみません、彼女がやっぱり少し心配なので行ってきてもいいですか?」
「あ、あぁ……体もだいぶ楽になってきたしな、あいつを一緒に倒してくれれば文句はなにも言わんよ」
「ではお言葉に甘えて……先生、すみませんが応戦にまわります」
と駆け出しながら先生の元へと岩を踏み台にして近づく私とぴょん吉。
先生はいいのに……みたいな嘆息を吐きながらも。
「待てって言ったのに……わかったわ、あなたの強さを見込んで一緒に戦いましょう」
「とりあえず、後ろで援護します。先生はそのデカブツを遠慮なしに攻撃しちゃってください」
すると先生は再び、戦いに戻り。
私は後ろで控えながら先生の傍にじっと立つ。
「今私が使ったのは……敵に攻撃する魔法が弱点へ自動追尾するようになる補助魔法よ。そしてこれは内側でも外側でもいける。いくら外側が強固でも中が脆ければ一瞬で倒せるわよ」
「やばいですねそれ。……では先ほど使った魔法は?」
「見ればわかるわよ」
すると、ファントム・スコピオは突然、体中から強烈な電気を浴び始める。
その電力は尋常ではないほど凄まじく、辺りを点滅させた。
電気の魔法か? これは。
「雷魔法よ。今体内に並レベルモンスターでは耐えられないほどの電気を流し込んだわ。弱点に直接行き届いているから……卯乃葉ちゃん、1発……あのモンスターに強いパンチを叩き込んでくれないかしら。魔法は時間がかかるからね」
剣でもやはり魔法を蓄えているから時差があるのか。
それで1発分食らわせて、1秒でも早く倒そうという先生の考えなのだろう。
私は相づちを打って。
「わかりました、それじゃいきますね……いくよぴょん吉!」
「ぴょん!」
拳に力を込め、中距離辺りにいる敵に向かって攻撃する。先生が作った水体でできたモンスターが攻撃で援護する中、私は距離を詰めていく。
ゼロ距離に迫ったタイミングで飛び上がりパーンチ。……その時。
「ラビット・パーン……おっと」
タイミングがいいことに鍾乳石が1本私の目の前に落ちてくる。
……こうなったらこのままこれにある力……反重力をこれに与え。
(軌道方向を敵側に向けて、速度を銃弾、それ以上の初速で……よし!)
「パーンチ!」
鍾乳石は私の拳に触れると、垂直落下からファントム・スコピオの方に向きを変えそのまま直進。
強烈な空気のため、途中で砕けるが……これも織り込み済みだ。
分解された断片は形を変えて先が尖る。
そして降りかかる雨のようにファントム・スコピオへ降り注ぎ。
ドドドドドドドドドドドン‼
矢継ぎ早の嵐。
数か所の体に突き刺さった。
そのまま1歩も引かず、渾身のパンチを。
「ラビット・パーンチ!」
ドン!
直ぐさま宙返りして先生の方へとバック。
魔物は叫び声をあげながら、辺り一面に着色の悪い血痕を四散させる。
「見事な戦いっぷりね、これなら大丈夫、それじゃさっさとおわらせましょうか」
先生は水の竜を引っ込めると剣を水色に変化させた。
また属性が変わったらしい。
そして近距離からの十字攻撃、袈裟懸け……空中から放つ斬擊と多彩な数々の技が陸続した。
先生は再び距離を間合いをとると地に剣を刺して。
「データはだいぶとれたわ。……あとは仕上げね」
詠唱もなしに巨大な魔方陣を作り、陣の描かれた光が線を辿って剣に収集される。
「これで……おわりよッ!」
非常に長い光の剣を生成させると、光の剣を遠くにいるファントム・スコピオに向かって振り落とす。
その一瞬の、巨大な斬擊により、敵の体は光と共に爆散。
爆発と同時に散りばめられた光の雨が空から降り注いだ。
「や、やった! って先生?」
大敵を倒したのにもかかわらず、そこにずっと立ち尽くして降り注ぐ粒を見つめる先生の姿があった。
先生は一粒の光を拾い、どこか儚げな顔をしてそっと天井に手を伸ばしてみせる。
「? 先生……?」
か細い声で先生は誰かに告げるよう天井を仰ぐ。
「親友、今日はとても良い日ね……この光あなたにも届いたかしら」
☾ ☾ ☾
少女の父親と一緒に洞窟を出た。
先生が洞窟を脱出する呪文を唱えてくれたので、手間が省けた。
日の差す場所へと戻ると、父親が私たちにお礼を言ってくる。
「本当にありがとう。あんたらが来なかったら俺は今頃」
「いいのよ、大したことはやっていないし」
あれで大したことないのか。
まさか先生、切り札はまだたくさんあるとか言い出すんじゃ……いや先生なら可能性は十二分にありえるけど。
「そうだ、ついでだ。2人共、時間は大丈夫かい? よかったら村に案内するが」
「だそうですよ、先生。どうしますか?」
お礼を述べたいと村に招待されたけど、どうしようか。
先生に一応、聞いて……って今気づいたけど日がもうすぐ沈みそうじゃない。
「そうね、さすがに疲れたし村で休んでいこうかしら」
「なら、善は急げだ、俺についてきてくれ案内するから」
少女の父親は日の暮れそうな道を下っていき、私たちを村へと案内してくれる。
道中、私たちが遅れをとると、彼は急かさずその場で立ち止まってくれた。
なんて、気前がいいこと。姉さんなら一目散に走っていきそうだけど。
先生は私に耳打ちをしてくる。
「とりあえず、今日は村で一泊しましょう。明日のことは……そのそれからってことで。魔法使えば一瞬だけどここは彼に合わせることにするわ、できるだけ周りに合わせたいから」
「わかりました。それではそのようにして……あ、今行きますよ」
手を振り目印になってくれる彼。
「まあその……ありがとね、卯乃葉ちゃんがすごい人だって改めてわかったし。ひとまず剣の実験はこれで終了、十分すぎる結果を出せたから結果オーライよ」
そして彼の案内のもと、道なりに進んでいき。
辺りはもう真っ暗になった頃合い。
かがり火が灯る一角の村が見えてきた。
「あそこだよ。おーいみんな帰ってきたぞ!」
少女の父親が村の門番さんに声をかけると、そちらに寄り添ってひとしきりの時間話す。(ほんの数分ぐらい)
話を終えると彼が再び私の元へとやってきて。
「大丈夫だ、あんたらを通してもいいと許しがでた。それじゃいこうか」
「どうぞ、中へ。ごゆっくりくつろぎください」
そう言われつつ入っていく。
村の中は、水が潤った水路が回っていたり、行き交う人が賑わう光景が見えた。
お店で商品を買ったり……子供連れの家族も大勢と。田舎街だというのに陳腐な雰囲気は微塵にも感じられなかった。むしろ温かみの感じられるありさまだ。
「へぇわりと賑やかなのね。屋台がたくさんあるわよ。あの魚の串焼きなんか美味しそうね。……食べたら小説のネタが思い浮かぶかも」
「た、たしかに。でも今は彼に付いていくのが先ですよ」
道中、目にとまるものがたくさんあったが無事目的の場所へとつく。
場所は彼の住む家屋。
三人家族――核家族らしいけど、そのまま私たちは招待されもてなしされた。
「こんにちは……ってあなたは」
「あ、うさぎのお姉さんと青髪の魔法使いさん? ……それとお父さん帰ってきてくれたんだね!」
最初目に飛び込んできたのは元気に駆け寄ってくる、あの少女の姿だった。
でも今朝見たときと少し違う。
快活とした感じがあり、無邪気な感じだ。まるで別人のように感じられる元気さがあったので私はその声を聞いて安堵する。
そこにいる奥さん? も私の方に来て会話を交えた。
「あなたおかえりなさい。……それとあなたが通りすがりの魔法使いさんとうさぎさん? ……その娘をありがとうございました。あとお菓子も美味しかったです」
え、お菓子?
すると隣に立つ先生は一刺し指を動かし「ちっち」と。……後で話そうという先生なりもの? あわや気になりすぎて……私お菓子にはめっぽう弱くて……というか食べたくなってきたんだけど。
それからというものの、美味しいごちそうを頂いた。
団らんとした話を、みんなとやりながら楽しい一時を過ごすことに。
用意してくれた私たち用の寝室へと入り、寝床に入った。
窓越しには、月明かりの照らされた真夜中の空が写し出され、下には明かりのある家屋が建ち並んでいた。
「と、先生」
「1日疲れたわね、久々に歩いたから……うーん」
脱力した素振りをみせるマギシア先生。
肩を交互動かし、ストレッチを自分でしてみせるが……。
「その肩揉んであげましょうか?」
「あ、あぁありがとう。でも大丈夫よ、私を誰だと思ってるのよ」
「えぇとちょっと遠慮しがちな大魔法使い様?」
「へ、変な言われようね! まあ普通にありかなその名前も……」
だいぶ睡魔がやってきた。
ぴょん吉は下でもう寝ているけれど、私と先生はいまだに起きている……夜更かしは女の天敵っていうのに、悪い子ね私たちって。
窓辺側から吹く風音を聞こうと、ひたすら外を見つめ続けていると先生が。
「ねぇ」
「うわちょっ! ……って急に驚かさないでくださいよ」
「ごめんごめん……もし寝れないんだったら……少し提案があるんだけどいいかな?」
「? 別に構いませんけど、どうしたんですか急に」
先生は首を横に振り。
「ううん。あなたと一緒にいると昔の親友を思い出してね……その、性格は全く違うけどあの子に似ていると思ってね」
先生の親友?
少し目深になるように視線を落とし、憂き目を感じさせる素顔をさせた。
普段見せない表情。その表情の奥には、何やら自分の口から伝えたいものが私には伝わってきた。
とても思慮深く思えてくる。
いつもの余裕な表情はいずこへ。
探求するように私は彼女の声に応えた。
「その何か話したいことでもあるんですか? らしくないですよ」
「…………そうね、寝る前に少し昔話をしましょうか。遠い遠い遙か昔の……私の親友に対する話。興味あるかしら?」
「ぜひ、寝る前に少し先生のこと、もうちょっと知りたいかも」
そう答えると先生は、外を見ながら私に絵本を読み聞かせるかのように、悠々と追懐を語り始めた。
「今から105年前のことよ……そうあれは」