196話 大魔法使いの描いた、在りし日の夢
ちょっとマギシア先生の過去話です。
三人称で書いているで、わかりづらい部分もあるかもしれないです。
【いつか見た彼女との約束】
マギシアナ・モア・グリモワール。
中大陸に立つ大都市――グリモアの創設者にして、この世界で初めて魔法の文化を広めた逸材である。
だがそんな彼女にも、少々重い過去が存在した。
なぜ、彼女は今に至るまで数百年も生き続けているのか。
今回はその彼女の、一部の断片といえる追憶を話そう。
彼女はおよそ今から124年前、中大陸とは離れた大大陸のある街で育った。
住んでいた場所は、心安らぐ街並みが広がり争い事とは疎遠な地で人々と平穏な日々を送っていた。
両親からはなんの不自由なく、育てられ両親からは愛情持って育てられた。
そして通っていた地元の学校でも。
「うーん、ここの方式はこうして」
マギシアナ――マギシアはいつも勉強に勤しんでいた。
当時、この世界では錬金術が主流で魔法は人々にとって空想の存在でしかなかった。
御伽などの本に描かれたことはあったが、実際の功績の成果はなく、せいぜい錬金術だけが当時の魔法という学問においての頭打ちがこれだった。
だが、彼女は違った。
いつか錬金術をも越える大魔法使いになってやると。
それを母に持ち込むと。
「ねえ、マギシア。あなたはどんな錬金術師になりたいの? ……お母さんみたいないろんな物が作れる錬金術師?」
街では錬金術師が非常に多かった。
さまざまな学問の知識を持った術師が街に屯としていたくらいに。
そう、誰もが錬金術師になるのが当たり前な時代でもあった。……だがマギシアは彼らとは違った。
「ううん、私は最強の魔法使いになりたいの。誰からも尊敬されて頼りにされる……人に夢と希望を与える立派な魔法使いに」
「それ本気? 架空の存在でしょあれって。……でもあなたがどんな道に進もうがお母さんは応援するわよ。それがたとえ、ばかげた話でも」
それでもマギシアの母は娘の夢に応援するように、いつも彼女を励ましてくれた。
なぜなら、マギシアは幼い頃から才能があり学校でもいつも成績1位の学力があったからだ。
母にとっては自慢の娘であり、世界で1番の自慢の娘でもあった。
そんなマギシアにはたった1人親友がいた。
ある日の休日、親友の家へと訪れていたマギシアはその話題を実の親友にも持ち込み。
「マギシア。魔法使いになるって本当? あれって架空の存在でしょ? なんでそんななれもしないものに夢を抱いたりするの? ……ゴホンゴホンッ!」
「大丈夫? ……そうね子どもの頃からの夢だからよ。母にも言ったけど人に夢を与えてあげられる魔法使いになりたいの」
「……マギシアがそういうなら私は応援したいな。あ、そうだ! マギシアがその夢を実現できたら一緒に魔法の文化を築かない? 国とか作ったりしてさ……私体は弱いけど知識ならあなたの役に立つと思う」
彼女は生まれながら病弱だった。
咳は日常茶飯事で時々、吐血してしまうほど酷い容態。
それでもマギシアは親友の傍にずっと付き添った。
叶いもしない夢を約束してしまい。
「え、それ本気で言ってる? ……たしかにありがたいけどあまり無茶しちゃだめよ」
「わ、わかってるわよ。……それじゃ前もってなにをするか考えておきましょう。……学問は錬金術でしょ? あとは攻撃魔法、補助魔法……それから」
魔法の国を作るという話は2人の間で、秘密裏に計画が練られいた。
意見を互いに出しながら、良い案は各々のメモへと書き込み。
悪い案は改善策を講じながら、取りやめることなく互いに平衡を保ちながら2人は出す案は惜しみなく言い切ったという。
「うわぁ、もうこんなにたくさん」
「書き込みすぎちゃったわね……。大丈夫? たくさんのメモ帳どこにやろうかしら」
「大丈夫、私の保存用の錬金釜に入れておけば大丈夫。この中には底なしの波状空間が永遠に続いていて自由に物を上限なしに出し入れできるわ」
「こ、こほん。それはそうと、ふと思ったことあるんだけどいいかしら?」
「なに? そんな深刻そうな顔して」
「なんで、私たち最初っからノート使わなかったんだろうな…………って」
「マギシア、それ今言っちゃあおしまいよ」
「ふふ、それもそうね、玉にきずってやつかしら。案外私たちも愚鈍なのかもね……ハハ」
互いに皮肉を言いながらも、喧嘩のひとつすら起こさない2人。
気づけばメモ帳が堆積になるぐらいの量になったみたいだ。当の本人がそれを認知するまでそこまで時間はかからなかった。
建国の前準備が大方収まった頃合い。
地元に通う学問の卒業試験を、2人は難なくこなし卒業すると。
当ても見つからない2人はいつもの憩いの場、その親友の家でまた落ち合うことを約束していた。
――だが。
そんな中。
不幸にも、特に信頼する彼女との別れが突如としてやってきてしまう。
学問を卒業した数日後のこと。
なにかを訴えるかのように、灰色の雲が空を覆い氷雨が激しく降り注いでいた。
不穏な空から漂う胸騒ぎを予感とさせるマギシア。
「…………いや、まさかね」
だがその不安をさらに悪化させるように。
マギシアの元にある悲報が届いてしまう。
「……そんな、……スどうして。しっかり、しっかりして!」
それは実の親友が容態が、悪化してしまったということ。
直ぐさまマギシアは彼女の家へと向かったが、彼女の体は冷たくなる直前。
無意識に体を抱き寄せ優しく起こすが……彼女の顔は魂が抜けそうなくらいに弱々しい。
それを見るマギシアは涙を流しながら、痛々しく彼女を見つめる。体をすすり、必死に呼びかけたりもしたが普段の覇気は戻ってこない。
「ねえ嘘でしょ? あなた私と国作ろうって約束したじゃない」
すると弱々しい彼女の腕がマギシアの頬を触れ涙を拭う。
彼女から、微弱な声が聞こえてくる。
「ご………………めん…………り……だったみたい。…………で…………も、お願…………い。私の代わりに夢を叶えて。あなたの………………私たちの夢を。だ…………うぶ、あなたなら、な……れる世界中のみんなに夢を与えてあげられる魔法使いに…………ね。だか……らなか、ない……で」
「……ス。わかったわ、あなたそれを望むなら、私は世界中の誰よりも強い魔法使いになるわ! だから安心して」
そっとなにも言わず彼女は最期の一瞬だけ微笑むように顔を見せた。
マギシアが彼女の手に自分の手を重ねると、なにかの力が宿りはじめる。
「あなたはずっと、これからもずっと……私のかけがえのない親友よ」
一瞬の瞬き希望。……マギシアは歯を食いしばりながら現実を受け止め。
その日から、ようやく本気で魔法の文化を築いていくと親友の亡骸の前で強く誓うのだった。
☾ ☾ ☾
マギシアは次の日から一寸たりとも休まず、魔法の開発に没頭した。
夏が過ぎ、冬が過ぎ流れゆく時間をひたすら数えて。
それがどれぐらいだったかはわからないが、彼女は次第と魔法の才能が開花されていく。
「絶対、絶対魔法を使えるようになってみせる。誰になんと言われようと……!」
その苦労が実り、ようやく彼女は念願の魔法を作ることに成功した。
街からは一躍名を轟かせることとなり、この世界で初めての魔法使いになる。
外を出歩けば人々から声をかけられ、街に住む誰もが彼女を敬っていた。
「私はこの世界にまだ留まる必要がある。いやしなければならない。例え街のおきてに背くことになっても……」
同時に禁忌もおかすことになる。
禁忌とされていた不死の薬を錬成してしまい、のちに街の人々から知れ渡ると彼女は街から追放されてしまう。
街から出る前日、最後の会話を母と交える。
「マギシア……どうしてあの薬なんかを」
「これ? たしかに危険な道だったかもしれない、でも私には危険を冒してまででも作る理由があったの」
「聞かせて」
「亡くなった親友との約束だから。それを果たすまでは私は、私自身の文化そのものを築いていく……そのつもりよ」
「マギシア……」
この世に自分のことを幅広く伝える必要がある、同時にそれにまだまだ時間が要することになるだろうと悟ったマギシアはあえてこの世に長く留まることを決意。
そうまで禁忌を冒してこの世に留まる理由がマギシアにはあった。
しばらくこの世界の様子を観察する――観察者として‘’この世界‘’という存在を見続けようと。
だから彼女は不死の薬を作ったのだ。
「そう、あなたがそのように決めたのなら私は……止めはしないわ。あなたのその実力を見込んでお母さんは快く送ろうと思うわ。あなたの親友の未練が果たされるようにと」
「ありがとうお母さん」
お互いに身を寄せ合うと、マギシアはどこか違う大陸へと旅立つのだった。
それから、マギシアは母と一度も再会することはなかったという。
「この不老の薬は、もう少ししてから考えよう。親友、私はあなたとの約束を果たせるかしら」
少々使うのに躊躇った。
不死の薬を飲むのに数十年はかかったが魔法の存在を着々と世界に認知させていく。
彼女は中大陸に降り立ってからは、多大な功績を収めることとなる。
小さな街から大きな街へと魔法の文化を広めていき、やがて中大陸に留まらず魔法の存在は世界中に知れ渡り、気づけば冒険者の一般職業として扱われるまでに至ったのだ。
「もう冒険者の職業として魔法使いがでるようになったとはねぇ」
道中、勇者に捕まり一時期、魔王討伐などで、忙しい日々を送ることとなったが魔王を倒してからは再び中大陸へと帰還し。
やがてその大陸一の大都市となる国――グリモアを作った。
学問の制度や法……果てにはいくつかの魔法を国の者に教えグリモアの制度は徐々に整っていく。
「まったく、ろくにまだ法を守らないヤツがいるのね。ならそろそろ隠居して国を遠巻きに観察でもしようかしら」
マギシアはそれまで、国を自分で統治していたがある日をさかいに突如国を出て行くと民たちに告げ。
「いい? これからはあなたたちでやり繰りするのよ、そんな悲しい顔しないで。あなたたちならきっとできるわ。自分に自信を持って」
「……で、でも」
「それと、私のことは後世に『グリモア』って伝えるようにして……あと私の生死は50年後に死亡したってことにして……いい?」
「偽装死ですか。わかりましたマギシア様どうかお元気で。またいつでもいらしてください」
「ふん、石像でもなんでも立てるといいわよ。崇高するかどうかは民たちにお任せするけど」
マギシアが国を去る時、彼女はグリモアの人々にこのような言葉を残すのだった。
――魔法は英知の結晶なり、知恵は才能を開花させる源なりて新たな力を作り出さん――
そう言うと1人、森のとある森に住むようになり。
彼女は親友の写った海中時計を片手に独り言にふける。
「親友今度はどこに行こうかしら、多忙じゃない場所がいいわね」
また時は流れ90年後。
彼女は老けることもなく、佇まいを森に建て小説――作家の職業を行っていた。
担当の者には初対面で自分を「グリモア」の遠い親戚と言ったそうな。
平凡な作家の日々を送るようになったマギシア。
そんなある日、たまたまグリモアのテラスで執筆していたところをある少女に声をかけられる。
「あの、あなたが有名な作家さんグリミア先生ですか?」
「うん? いかにもそうだけど、あなたどうしたの」
グリミアは今の彼女の名前、およびペンネームである。
そんな彼女の前にはある少女が弟子にしてくれと、呼びかけてきたのだ。
この少女との出会いによって、彼女の心が突き動かされることなることにこの時のマギシアは予想もしなかった。
そして時間は遡り現在。
新たな仲間と共に彼女は――うさ耳の少女と共に巨大な魔物と戦っていた。
それは、その揺さぶりはここ数百年中に起きた、彼女の出来事が物語った結果かもしれない。
(卯乃葉ちゃんって、性格は違うけれどこの子は私の親友にそっくりよね。…………それじゃ親友今日も行くわよ、私とあなたは離れていてもずっと一緒よ……そうでしょ)