195話 うさぎさんの妹、大魔法使いさんの助手(仮)になる その4
【先生ってやっぱりすごい! 大魔法使いの実力!】
先生との冒険は続く。
迷路が行く手を阻み、幾度も私たちの前に立ち塞がった。
「フレア・ラビットパーンチ!」
正当な道を探すのに数時間はかかったけれど、先生と私の力が相まり今ちょうど最後の3つ目のモンスターを倒したところだ。
「ぐごおおおおおおぉ……」
巨大な低音とともにモンスターが地面に伏せる。
自分で使っていてなんだけど、やはり一発ごとのパンチがバ火力で図体がどれだけ大きかろうが私のパンチの前では無意味だった。
ほぼ何パンかすると沈んでいく印象。
モンスターを倒す度に先生は思慮深い顔つきになっていたけれど……非常に興味深そうにみえた。
人をじっくり観察するかのようにこくこくとと頷く様子をみせて。
「強いわねやっぱり卯乃葉ちゃんは」
「いえ、先生に比べたらまだ」
「そんなもったいぶらないで。たしかに魔法は私のほうが上かもしれないけれど物理面だとあなたが上よ?」
バカにされているのか褒められているのどっちなのよ。
「そうなんですか……」
先生の評価基準がよくわからないけど、物理面だと私のほうがうまいとのこと。
どれだけ強いのか直感が持てなかったがそれよりも今は。
先ほど塞がっていた扉の所へ戻ると、ロックは全て解除されていた。
門番的な奴らは無事倒せたということだろうか。
最後の解放された扉をくぐり抜けると……。
「ここは?」
「最深部のようね……おやあれは」
周りは闇に覆われた空間で、鍾乳石が夥しく天井にそびえる。
実物見るのは初めてだけど、死にゲームに急に落ちてきてガメオベラとかならない? ブチって音もうアレ聞き飽きたから。
上から雫がぽたりと、ゆっくり滴る中――先生はあるものに目を付けた。
一角の石柱。そこへ横臥するのはボロボロになった衣服を着た男性。
おや、もしかしてあの人は。
それが誰なのか、気がついたら先生は私の方を見て。
「見つけた。急ぎましょ」
「は、はい!」
途端に早足で動く。先生の背中を追いながら前へと進む。
すみやかにその男性の元へと近づくと、先生は彼の意識を確認する。
胸に手を当て。
「……大丈夫、命に別状はないわ。私が治療すれば……リザレクション」
無事なことを確認すると、彼に向けて魔法を使う。
自然豊かな光が彼を包むと、傷が徐々に癒えていった。
それも通常とは思えない治癒の早さで回復していく。
それは大地の力そのものといった感じで、1分も経たずに男性は意識を取り戻す。
治癒魔法なのこれが?
「先生いったいなにを?」
「今、強力な治癒魔法をかけたわ。でも少し違って私が使用したものは免疫や活力全てを完治させるのよ」
それ操作不可な最強NPCがよく持ってそうなやつ! 名前は一緒だけど効果が違う……みたいな。
「なるほど」
衰弱しきっていた男性はこちらの存在に気がづくと、目を見開いて、こちらに焦点を合わせてくる。
「あんたらは? 俺はたしか魔物を倒しに」
「私はグリミア。通りすがりの魔法使いよ、あなたを……あなたの娘さんに頼まれてここに来たの」
「私は卯乃葉です、こっちは相棒のぴょん吉(ぴょん!) 大丈夫ですか、酷く弱っていましたけど」
「……そうか。俺はモンスターと戦っていて道中穴に落ちたっきり……」
記憶が曖昧な様子で、直前の記憶を模索する男性。
なにか重要なことを私たち伝えたそうな顔をしているが。
このダンジョンって何ルートか道があるのかしら。
だって私たちが来た道って頑丈セキュリティで塞がれていたし、他にも道が?
「そうだ、あんたら助けてくれたことには感謝するが……俺が戦ったヤツは強大な敵だ……あのデカいファントム・スコピオは!」
今聞き捨てならぬことが。
なんだって? デカいファントム・スコピオ?
「でかいファントム・スコピオ?」
すると地が揺れて何事かと、辺りを見回していると。
巨大な穴から。
「ふう、餌を再び取りに来たようねあのサソリは」
巨大な図体を持つ、道中出会ったサソリとは比べものにならない大きさをしたファントム・スコピオが1体姿を現した。
「さっきの個体とは別物並に大きいじゃない!」
大きさはというと。
私たちの体がヤツの影に飲まれるぐらいの著大さだ。
「ギョォォォォォォォォォォ!」
奇声とともに巨大な尻尾をこちらへと振り落としてくる。
極太な臀部の先端、その部分が前に立つ人の方へと迫る。
矛先はマギシア先生の方へ。
「あ、あんた! なにやってるんだ、振り向きもしないで……! 攻撃されてるぞ避けろ!」
だが先生は依然として避けなかった。男性のほうだけを見て息を殺している。
平常心を保とうとする先生に、たまりかねた私は思わず手を前に出して。
「せ……」
声をかけようとしたが、先生の実力を信じて踏み留まることにした。
そして先生は。
「ありがとう卯乃葉ちゃん私を信じてくれて……さあいきなさい――ハッ!」
手に持つ剣を魔物の方に投げる。
剣は淡い光を放ち始め、そこから巨大な流体が飛び出してくる。……水は形を変えある姿へと変えていく。
それは巨大な首を持つ竜そのものだった。
「巨大なモンスターには巨大なもので対抗しないとね」
水でできた竜は、口を開くと巨大な洪水を放つ。
ドボォォォォォォォォォォォォォッ‼
あっという間に攻撃を強力な水魔法で返り討ちにさせてみせた。
壁に突き飛ばして落石の下敷きにさせる。
すぐに跳ね飛ばし起き上がったが、余裕のあった先生は私を見て私に告げる。
「そうだ、卯乃葉ちゃん……この人お願いできる?」
「……あ、はいもちろん」
「なら任せたわよ、さっそく人助けついでに試用運転といこうかしら」
そういうと、先生は速い浮遊を駆使しながら距離を詰めていき、水の竜を操り敵が身動きをとれないように羽交い締めさせる。
無理に爪で引き裂こうとするが、流体の引力が強すぎて反撃すら介さない。
埋もれていたのにもかかわらずお構いなしだ。敵さんはマジギレ状態になってわね。
ほくそ笑む先生は。
「さてと……卯乃葉ちゃんの前だし、久々に少し本気出そうかしら……」
「なんなの……あれは」
周囲からあるものが現れてくる。
聖なる聖堂のような形が、空間全体を覆い尽くすように張り巡らされていく。
その造形は神々しく、意匠もこまかく精巧な芸術品そのものだった。
あんな巨大な魔法見たことがない。
驚きすぎて瞠目する私はただ先生をひたすら見るばかり。
そして先生は淡々と魔法を唱える。
「これが魔法の偉大なる結界にして、大いなる力を授ける聖なる結界。発動せよッ! 極限絶堺魔城アディリシアッ!」
その聖なる光は暗い空間を明るく照らし、部屋――先生そのものの領域を生成した。
男性を守る私は、遠巻きに彼女を見つめ成り行きを見届け、勝負の行方をひたすら眺める。
彼女だけの、彼女による戦いをその結界で見つめながら。
(やっぱり先生ってすごいや)
私は異世界に来て、とても偉大な人物に出会ったかもしれない。
並ならぬ実力を持つ最強の魔法使いに。