194話 うさぎさんの妹、大魔法使いさんの助手(仮)になる その3
【真相は床の底にあるってマ?】
先へ進む私たち。
道は微かに薄暗いけれど先生がいるから安心。
石床の道がひたすら永遠と続く。一部コケの箇所もあったのでだいぶ年層が経っているんだなと薄々気づく。
通路に散らかっているのは陳套で埃が被さった物が所々散乱している。
「このダンジョンって、何年前からあるんです?」
数百年前からいるなら何かしら知っているのではないかと思い質問する。
昔この世界がどんな風だったかはわからないが、本があるってことは書店かなにかだったのかな。
「そうね、ざっと98年前かしら。私が昔訪れた時はまだこんな質素な感じではなかったんだけどね。街外れにあった有名な書店だったわ、でも次第に誰も来なくなって店仕舞いになったそうよ」
「本屋だったんですか、でも数百年でこんな有様だなんて。誰も手入れとかしてないんですか」
「存在すら気づかれてなかったみたいよ。だからずっとほったらかしよ」
あきれるように肩を竦める先生。
忘れられた名店みたいな感じがして妙に好きだわこれ。
この異世界に世界遺産・文化遺産の代用になるものはあったりするのかしら。
通る度に古めかしい転倒している本棚や、紙切れなど歴史を感じる物が次々と発掘される。
散らばっている物の中から私は。
えーとなにこれ。よく読めないわ。
落ちてあった本を試しに読んでみたが、なぜか読めない。
AIさんに頼み込んでも。
【AIⅡ:解読不能。該当する言語が見つかりません。おそらく想定外の古代文明に使用されていた文字かと思われます】
私考古学とか詳しくないんだけど。
漢文が多少できるくらいだし、ましてやこのような文献がわかるはずもなく、私はそれを見ながらその場でじっと立つ。
凝視するほど頭は痛くなるばかり。……あぁもうこの文字の規則性がよくわかんないんだけどッ! ワケワカメゴハン!
「? どうしたの立ち止まって」
解読に苦戦する私の元に先生が気にかけ、私の見る本を覗き込んでくる。
先生なら、読めたりしたり……。
横目で隣に近づいてきた先生にそっと声をかけ聞いてみる。
「すみません、この文字読めなくて……。絵なら多少わかるんですけど」
字体はハングル文字? と英語の筆記体を組み合わせたような形である。
絵をみると壺になにやら入れて、魔法の研究をしている魔法使いが描写されているが、これはいったいなにを伝えているのだろう。魔法? 調合? ……なるほどわからん。
「えぇと………………ふむふむなるほど」
「せ、先生わかるんですか?」
先生は軽く瞳孔を読み取るように動かすと、数秒で終わったかのように頷き。
一言一句わかりやすく丁寧に私に伝える。
「これは……そうね言うなれば私が昔作った古代グリモア文字。……私の故郷で使われていた文字を応用して作った文字よ」
あまりの存外なことに思わず瞠目。
「なんでもできますねあなたは!」
淡々と話しているけれど、やはり一言一句がパワーワードすぎるんだよね。
とことんやっては試すタイプなんですね先生は。
平然とするその冷静さはどこからくるのよ。すごい以外の言葉が見つからないわね。
「昔はね、マギア文字で呼称していたんだけど……今は名称が変わったみたいね」
「それで内容は?」
先生は読み上げる。
「『光を1、草を4……』、あこれ錬金術のレシピ本だわ」
錬金術のレシピ本?
ということはこの壺は錬金術に使っている専用の大壺なの?
「と言っても難関なものではないわ。昔初心者用に作られた物になるから」
「ここって書物かなにか置かれていた……とか?」
「ううん、古代グリモア人の忘れ物ね、ここに来る人はよく忘れ帰っていたから」
よくわからないジンクスねぇ。
どんな風潮がかつて流行ったかは知らないけど、自分の物は大切にしないとだめでしょ。
不法投棄だめ、絶対万国異世界宇宙どこでも共通だから自己管理はちゃんとしなさいよね。
「さて、悩み事はなくなった? ここから先にちょっとした癖のあるギミックがあるから早く行きましょ?」
「え、ギミックって? ま、待ってくださいよ」
先急ぐ、マギシア先生の後をついていく。
あちらこちらと本棚で埋め尽くされた道がたくさんあり、歩くのに一苦労だった。
ぴょん吉が、声で私に危険を促すように伝えてくれたから助かったけど、足元は所狭しといった次第であった。
だが、率先し前を進む先生はペースを落とさず速足で前へと進む、頼むから少し待って。
するとなんの変哲もない、突き当たりへとたどり着く。
「行き止まりですけど、ここになにが」
「……はっ」
先生はなにかの魔法を軽く放つと、淡い魔方陣が表れてくる。
えぇなにそれ、肉眼では感知できない魔力センサーかなにかついているの?
「なにを?」
「ここはね、侵入者がくると自動的に穴に突き落とす仕掛けが施されているわ。昔、盗賊達がよく来てグリモアの人達は困ってこれを作っていたから。……これをこうして」
あの子の父親は、それも知らずに穴へ落ちてしまったのかしら。
……ひょっとすると、今の人達ってこの仕掛けの存在を知らない……いや世界のどこを探してもこのマギシア先生しかわからないと思う。
先生は器用に指を動かして魔方陣をパズルのように組み立てていく。
スマホのパターンロックにやり方が似ている。
パスコードに似たシステムなのかしら。……見た感じ自由に指の動きに沿って曲線が移動しているけれど。
数分後、一通り陣を整えるとけたたましい音が下からこだまし。
「ほら、現れた」
「す、すごい」
透明なガラス板が浮き彫りになる。
その下に、底が深そうな穴が続いていた。だがあたりを見渡してもスイッチらしき物はなく。どうやって下に降りるのだろう。
穴は一通になっており、ここから見ても、小さな光の筋が見える程度。
……大きい落とし穴と言えるくらいに底は深そうだった。
ガラスの板のようになっていて今は落ちないが、もしかしてこれにはまって……。
「卯乃葉ちゃん、今から浮遊魔法をつけるからちゃんと私についてきてね」
「え」
「ぴょん?」
カチャ。
すると底が抜けるようにガラス板が消滅、当然落下し始めて。
「うわああああああああああああああ! おちおちおちおちおちおち落ちるぅ! ………………って浮いてる?」
落ちていき、このまま死ぬかと思いきやそれは早合点だった。
よく下を見ると足は宙を浮いていた。
そ、空飛んでる、……子どもの頃に抱いていた夢がついに叶った!
なーんて浮かれていると、先生は下へ下へと下降していく。
どうやら先生が浮遊魔法をかけてくれたみたい。
……いつの間に、といった話は自重し降りていく先生の後に続き。
「ほら、早くしないと置いていくわよ」
「あ、はい!」
先生の後をついていき、光の差す地面に着地する。
「ここは?」
「ふう、さあ卯乃葉ちゃんもうちょっとよ、あの父親は無事だと思うけれど……」
「嘘でしょ……」
そこは、魔法の結界がたくさん張り巡らされた迷宮であった。
いくつもの通りがあり、ただでは行かせまいという気持ちがしみじみ伝わってくる。
ヤケクソにもほどがあるわよ!
しかも計り知れない数が奥へと続いていたので、私はあんぐりとした顔で言葉を失う。
「まったく、昔のグリモア人ときたら……ここまで厳重にしなくてもよかったのに」
「これ、どうやって進むんですか? も、もう帰れる気がしないんですけど」
やれやれと、頬を掻く先生。
なぜ呆れた様子になっているかは不明だが、相当参っているかのように思える。え、そんなにむずいのこの場所って。
「だ、大丈夫、ある程度のルートは覚えているから、安心して私についてきてちょうだい」
「それならいいんですけど、出オチ4コマとかならないですよね?」
「……デオチヨンコマ? まあいいわ、モンスターもここからたくさん出てくると思うから、用心するのよ」
セキュリティはともかく、先生の後に続いて先を進んだ。
☾ ☾ ☾
最深部を目指して、前へと進む。
『進む』といっても隔たりが多すぎて、踏ん切りよく言えたものじゃないんだけどね。
邪魔な障害物がたくさんあり、ギミックも二重セキュリティのごとく設備されている。
先生の扶助もあり、時短で解きながら進められたがとても煩わしい。
「この魔方陣は、ある部屋のモンスターを倒すことで解放される仕組みになっているみたい。……おそらくどこかに門番的なモンスターが何体かいるはず。……それらを倒せば道が開けてくるはずよ」
「また、遠回りするようなことが」
薄目で弱々しく答えると糾弾するように私に言う。
「卯乃葉ちゃん、めんどくさがってたらだめでしょ……とりあえず手がかりになる場所を見つけましょう」
「あ、はい。点々と小部屋のような場所が見えますけどしらみつぶしで探ってみます?」
「闇雲はだめよ、ちゃんと前をみないと足を掬うはめになるわよ?」
なんだろう。
短期間しか一緒に動いていないというのに。
あたかもこちらを見透かしてるような発言をしてくる。
先の先を読んでいる。
そんな感じが否めないほどな感覚だ。
先生の指示のもと、迷宮の中を歩く。
先へと進めない場所には、大型の魔方陣が描かれた障壁がある。……先生が言うにはこれはモンスターを倒す……すなわち中ボスを何体か倒すと道が開けていけるという仕組みになっているらしい。
先生に魔法でなんとかならないかと、強行突破も計ってみたものの「できない」と即答されてしまった。
正当ルートじゃないとダメって正気で言っているの?
しばらく歩くと周りの道とは違う中くらいの小部屋を見つける。
そこから、誰にも気づかれないようにそっと垣間見ると。
「グルル……」
著大な魔獣が獲物を待ち構えているようにその場に居座っていた。
4足歩行、動きは鈍重だけど侮れない感はある。
よくゲームでありそうな、見た目は遅そうだけど実は速いってオチもしばしばあるけど……ならないことを祈祷するばかりだわ。
「ふう、こういう結界がある場所には強力なモンスターがいることが多いのよね。卯乃葉ちゃんあいつ強そうだから慎重に2人で戦うわよ」
「わかってますよ」
魔獣の前に立つと、敵は遠吠え迅速でこちらへと駆けてくる。
俊敏な動きで体毛を逆立ててしまうほどの速度はというと、並の動物では出せないほどの速さだ。
「グゴォォォォォォ!」
先生は、再び今度は杖を剣へと変えて応戦。
手招きの動作もとらず、気が付けば彼女の持つ刃は敵に触れていた。
いつの間に?
「は! ガチコール」
目の前に鉄壁のような不透明の物が出現する。
バフの魔法だろうか? ……名前の響きからして防御を高めてくれる魔法かな?
というか、剣の状態でも魔法使えるんかい。
「これで少しの間だけ防御力が上がるから、簡単に吹き飛ばされることはないはずよ。これでも食らいなさい」
先生は軽く剣を一振りして攻撃。
光の刃が巨大な魔物の羽根、体を乱雑に攻撃していく。
足をあまり動かしていないというのに、手慣れた攻撃の手法だ。
小刻みにさせず一撃ごと的確に定めた箇所に当てる。
「今のうちに仕掛けるか」
隙を狙い私は快走し、周りにある岩を足場にして飛び上がる。蹴りに力をつけて一直線。
このままストレートパンチをお見舞いして……。
「ぴょん!」
「わかってる。合図をそんな感じで頼むわねぴょん吉」
ぴょん吉の発する声に合わせて攻撃するタイミングを合わせる。
音を殺して敵の背後まで回るとぴょん吉の小さな声で、力んだ拳にもう少し力を蓄える。
こちらに気づいていないことを軽く確認すると、溜めた拳の力を拍子よく合わせ解き放ち。
魔獣の体に目がけて拳を引いて叩き込む。
「こんのぉ!」
ドン!
そのまま、速度を落とさずにすさぶる速さで交互にパンチを繰り出す。
「おりゃおりゃおりゃりゃ……おりゃーッ!」
しかし全く手応えがないように感じた。
1歩引き下がり、先生と体制を立て直し次の攻撃を準備しようとするが。
「くるわよ」
「……(こくり)」
敵の攻撃が来る……。
そんな時にタイミングがいいのか、悪いのか不思議なことが起こる。
「あぁ卯乃葉ちゃん。構える必要ないわよ」
「? ……え」
先生の言ってきた一言に後ろを一瞬振り向き。
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
魔獣の体が急に肥大化し始め苦しみもがく。
激痛を感じさせるような悲鳴が轟く中、私はなにが起こったんだと冷や汗が出てくる。
再び前を向く。
風船くらいの大きさまで敵の体が膨れ上がっていた。
\パァ―――――ン‼/
魔物はそのまま爆散し体の破片が散り散りとなり辺りに落ちていく。
な、なにがどうなって……。
「な、なにが起こったの? 手応えもなにもなかったのに」
するとAIさんが反応して。
【AIⅡ:新たにラビット・リミットパンチを覚えました。触れた敵を時間差ではありますがどんな敵だろうと一撃で粉砕できます。作動する時間は敵の体積によって変わります】
なんという技を習得しているのよ。
無意識にそんな反則的な技。自然に習得したとかあまりにもタイミングがよすぎるというか。
でもこれなら他の戦いでも優位に戦っていけるんじゃないかしら。
「す、すごいわね卯乃葉ちゃん。……100年私生きてきたけどあなたのようなすごい人には一度も会ったことが………………なかったわよ」
なんなんですか今の間は。
先生が若干、しぶるような素振りを見せているがもしかして嫉妬してたり。
「た、大したことないですよ! 先生に比べたらまだまだですし」
「そうなんだ……。よ、よし引き続き扉の鍵となる部屋を見つけにいくわよ」