190話 うさぎさんの妹、魔法の都市へ その2
【2人だけの秘密話ならネタバレには入らないでしょ?】
グリモアから少し離れた辺鄙な地。
林を通り示された進路をたどり。
ってここ!
どこか見覚えのある場所。
それがどこか近くまで私は察する。
「さっき通った林じゃない。……もしかしてあの遺跡? あの遺跡みたいな家がその偉大なお方の家だって言うの⁉」
見覚えのあった通り。
それは久しぶり……というより『先ほどぶり』といったほうが明白かもしれない。
そう、グリモアに向かう途上で見つけた謎の遺跡。私の今そばにある建築物こそが私の目的地だったのだ。
カモフラージュにしては、難易度が高すぎる。
どう見ても、年季が入ったものにしか見えない……試されているの?
「こんな偶然ってある? 大げさだけどコンマコンマコンマコンマパーセントありえないでしょ!」
黄色い声で叫ぶ。
語感が崩壊するようなマシンガントーク口調になったが、うん自分でもなにを言っているのかわからない。
「これ使えばいいの? よ、よし」
取り出したのは少々黒ずんだ中ぐらいの鍵。
中世型の形状をした見た目がいかにもファンタジーだ。
どうも入るためには、これを使わないといけないらしい。
まったく次から次へと回りくどい。
石造で作られているうわべだけど、こんな陳腐な佇まいに人が? 半信半疑ながらも私は入り口前で、ギルドの人から渡された鍵を空へと掲げた。
すると赤紫の光がまばゆく煌めき始めた。
同時にその拍子で、なにかを言わないといけないという使命感に駆られていると。
「えぇ~とこれってなにか言わないといけないやつ? えぇいここはシンプルに煌めけごま! そして真の姿を現すがいい!」
明らか眼前にあるのは石の扉。精巧な造りになっており触れただけでも開きそうに見えない。
これでなにか起きるようなのだが、はたしてどうなるか。
光がおさまり、石の家は姿を変えていく。
姿がもたげてくると、ファンタジー感ある一軒家へと様変わり。木製の一般的な佇まいで屋根の上には煙突が。でもグリモアにあった普通の民家よりかは少し大きめのイメージ。
「んー誰かしら? 締め切りはまだよね……はぁこんな面倒くさいことになるんだったら、こんな家に……」
扉が開く。
「ど、どうも」
扉を開け出てきたのは、大きめの外套を着た長髪の女性。
中腰ながらも、見た感じは私と同じくらいの背丈。晏起なせいか、目を擦り眠そうな視線を向けながらこちらを見る。
あまり目を擦ると、結膜炎になるからやめたほうがいいですよ。
なんて心の中で思いながら話す。
「私はサーセン博士から頼まれてこちらに来た……仲宮卯乃葉という者なのですが」
「あーあー、もしかしてアレ? わかったわかった……とりあえず上がってよかわいいうさぎさん。大丈夫毒の入った物はなるべく寝ぼけて出さないようにするからさぁ」
「ありがとうござ…………って今、毒盛られているとか言いませんでした⁉」
なるべくって出さないとは言っていないみたいなお約束なセリフですかそれ⁉︎
「いや、軽いジョークで言ったんだけど、もしかして真に受けた感じ?」
紛らわしいなこの人。
言動から察するに、今まで何人も殺してきたみたいな言い方に聞こえるけど、ジョークだなんて冗談にも程度ってものがあるんじゃないの?
「ご、誤解を招くような言い方やめてくださいよ」
「ふふ、すさんでるねせーの『テッテレー!』脅かし大成功!」
な、なにこの人。
チョットナニイッテルカワカンナイヨ(片言)
バラエティ番組のようにどこから取り出したであろう『テッテレードッキリ大成功!』と書かれた看板を私によく見えるように差し出す。
なに、これ……どこかの釣りサイトみたいに、引っかけられたみたいになっちゃっているけど……これはもうわからないわね。
「立ち止まってないでさっさおいでおいで」
「…………お邪魔します」
よくわからない魔法使いさんについていくと、ガラス越しの大きめの部屋に入った。
「どこでもいいよ、座ってくださいな。ほい」
「あ、ありがとうございます?」
「なんで疑問形? まあいいや」
魔法で美味しそうなお茶を私に渡すと、近くにある机の横に置いてある椅子へ座るよう誘う。
言われるがまま着席し、軽く1度啜ってみる。……苦いほろ苦さと軽微な甘さがうまく合っており適宜な味の塩梅となっている。
意外と美味しいのね。
「それで、卯乃葉ちゃんとそこのぴょん吉ちゃんだっけ? 遠くからよく来たわね」
「は、はいぃ。まさか最初に見かけた建物があなたの家だなんて……」
朗らかに笑うと隠さず丁寧に説明してくれる。
「あははは。念のためのカモフラージュさ。そしてあなたが今持っている鍵は私が作った鍵よ。ここにはそれがないと入れない超魔力空間が広がっているの。……これはその鍵がないとまともに動けなくなる設計になっていて」
反重力みたいな物かしら。
ゲームでよくあるやつ。特定のアイテムないとストーリー進められないアレ。
盗難対策にこういう設計にしたらしく、結果室内は常時重力空間になった。
仕方なしに協会の人たちに、入れる専用の鍵を作り譲渡した模様。
内1本がギルドへと支給され、今日私が借りたのがその1本だということだ。
「えぇとつまり、厳重なセキュリティにしようと専用のアイテムを作ったらそれがないとうかつには入れない家になってしまったと。つまりはそういうことですか?」
入った時、一瞬だけ負荷がかかったような体感があったけどあれはその影響か。
ほんの一瞬の遅延があるにしても、ただでは入れさせんぞという鋼の意思が伝わってくる。
「そうね、卯乃葉ちゃん頭良いんだね」
「いやそんなこと」
私は“天才”だとか“才能がある”みたいな言葉が一番嫌いなんだけど、なんだろうこの人の前だとそのような反骨的な態度を抗拒してしまう意思が無意識に働くのはなぜか。
威圧感は微塵も感じられないんだけどうーん。
「探りでも入れているような顔ね、どう思おうがあなたの勝手だけど……あぁ自己紹介がまだだったわね」
ようやく自己紹介タイムに移る。
「私の名はグリミアよ。緑地で執筆をする魔法使いよ」
「改めまして、卯乃葉です。こっちは相棒のぴょん吉(ぴょん!)」
「うさうさ、ふむ……うさうさ、これは良いネタに巡り会えたわね……サーセン博士恵まれた助手を手に入れて……羨ましいわ」
私を少しじろじろと見回したのち、軽い嘆息を吐いてきた。
「といけない、いけない。例の物を出してくれない?」
「はいどぞ」
今一瞬博士の名前が。
なぜ知っている、と思いつつも例の物を私は差し出す。
「……あぁこれね、学会で私と合同で作って出そうと思ったけど、私が出版の人と板挟みになり最終的に出せなかったヤツだ」
手渡した箱を開けると、中身は鉄くずのような物がたくさん入っていた。
プラモデルのパーツのように個々分別されなにがなんだか。
「話は変わるけどさ、あなた……異世界から来た放浪人でしょ? サーセン博士から聞いてるよ」
「なぜ知ってるんですか。まあいいですそれがどうかしたんですか?」
「えぇと長くなるかもしれないけど」
そして私は衝撃の事実を……彼女の本来の身分を知ることとなった。
その一言一句の言葉に、私は耳をそばだて聞く。
「私はかつて、100年前勇者一行と共に魔王を討伐した魔法使いよ。今は不老の薬を飲んでこれからの世界のなりゆきを見届けようとこの世に留まっているのだけれどね。みんなは私をグリモアって崇拝しているけどまさか国を作った後にこうなるだなんて……はははは」
え、作った?
国?
これがエアプだったら、『はいはいワロスワロス』ってなるけど疑いのない真実味のある語気に聞こえてくるから本当か。
「あーあごめんごめん、唐突にこう言われてもわからないよね。私の本名はマギシアナ・モア・グリモワール……あの大都市グリモアを作った創設者よ」
「う、うそでしょ……あ、あなたが?」
そういえば、ギルドの前に飾ってあった石造、彼女にそっくりだったなぁ。
「いやさ、魔王を討伐したあと暇になっちゃってさ、このまま余生過ごすのもいいけどまだもうちょっと生きたいなぁなんて。で、1日かけて作った不老の薬をね飲んだら今日まで生きてこれたってこと」
「1日で完成させるっていうノルマがすごいんですがそれは。開発RTAでもやっているんですかね」
適当にやったら、偶然できたみたいな言及やめてくれない。
妙にマウント取られているような気分にもなるような。
この人の深まる謎は深まるばかりね。
「アールティーエー? という言葉はわからないけど大したことないよ。偶然だよ偶然」
ほらこれだ。
「でもおかげで、現世にもうちょっと長居できるようになって満足満足。いつか見捨てちゃったあの子にも会いたいけど」
「あの子?」
「あぁ気にしないで大したことじゃないから」
「……つまりあなたはもうちょっとこの世界に留まりたいから、国を作り、今は現世に留まっているということですか?」
私に身分を打ち明けたのは、第一に私が違う世界から来た者だということ。加え博士と彼女は共同関係にありそれならばと、自ら伝える気になったらしい。
「うん、今は『魔法魔族の激闘譚』という小説を書店に出版しているよ。編集の人によく締め切り間近になって怒られちゃうけれど。冒険者カードには一応グリミア。一般の魔法使い明記でしているけどね」
有名人があえて本名を隠すようなものだろうか。
それは有名人だと周りから認知されれば注目の的よね。でもそれを避けたい人だって理解したわ。だからわざと偽名を……ふむ。
「もうちょっとあなたとはたくさん話したいわ。作業しながらになっちゃうけど話しましょ」
「は、はいぐり……まぎ……えぇと」
「私だけとならマギシアでいいわよ、それ以外はグリミアで……騒ぎを大きくしたくないから」
「は、はいそれではマギシアさん、もうちょっとあなたのことを教えてください」
「うん、いいわよ。魔法を作った話、都市建設の話、作家になるまでの道のり……最初どれがいい?」
「「いやまず、話多すぎてどこから聞けと⁉」」
この世界の知識を少しかじりでもしようと。
したのだが詰めがあまかったようだ。……知る情報量の数がふんだんでどこから聞けば。
1つひとつ、私は彼女の話を聞き入るのだった。