187話 うさぎさんの妹、返済のため頑張ります その3
【チート=最速討伐、この定義が私の道理に合っている】
「な、なにが起こったんだ? 巨大な怪物を簡単に埋めさせて」
「だから言ったでしょ? 心配はいらないって」
私は後ろの木々に隠れるおじさんに答えた。
遠巻きにこちらを垣間見るかのように、成り行きを窺っているみたいだが。
電卓によって割り出した計算結果により、カイザービーストはその場に伏している。
超重力の負荷がかかるように、魔物は地に亀裂をいれながら倒れ込む。
適当な計算で出した答えだが、結果をそのまま対象物に反映させるという力ははったりではなかったらしい。
でも油断してまた攻撃されるのも嫌なので、私はパーカーから鉄の成分を取りだし、片面のスロットに差し込む。
「強い敵が相手だって言うなら、私は最速の相手になってあげるわ……ラビット・パーカーチェンジ!」
火を一緒に装填すると、厄介事に巻き込まれる可能性がある。……ほら山火事って怖いでしょ、ここは合理的に安全策を考慮し単体のフォームで戦うことにした。
体が淡い光に包まれると、私のパーカーは銀色に染まっていく。
【鉄! 鋼鉄のごとし地を快走するうさぎ! メタル・ラビットパーカー!】
音声がうるさい。
それで能力を見てみよう。
メタル・ラビットパーカー:素早さ↑ 防御↑
鋼の力を身にまとった鉄のボディが特徴的なラビットパーカー。
固い体と地を最速で走り抜ける力で敵を圧倒する。
【固】メタルグローブ:鋼のグローブには鈍重な重荷をかけるぐらいの固さ・重量を誇る。装着者にはその重さは軽量化し、重くは感じない。
【固】高熱耐性:鉄と熱をパーカー全体に伝わらせており、熱で溶けず受け流した温度の度合いによって魔力に置換させる。
【固】高速移動:通常の10倍の速度で移動する。また所有者の知識の量によってこの倍率は+10ずつ上昇する。
この知識の量っていうのがよくわからないけど、知っている情報が多いほど倍率が上がるという解釈でいいかしら。
ちょっとAIさん、今私の知能ってどれくらい?
【AIⅡ:500以上です】
え?
【AIⅡ:500以上】
た、高くないそれ?
IQとか計ったことないけどそんなにあるだなんて。
じゃあ今の私が走る速度っていくつなの。
【AIⅡ:+5000倍の速度まで引き出すことができます】
え、エグすぎるわね。
人間離れの速度出せるけれど、正直桁の媒体が麻痺しそうで返す言葉も見つからない。
素早いって言うのならさっさと終わらせないとね。
「ふ、服の色がか、変わった? 卯乃葉さんあなたはいったい何者なんだ。模様を多彩に変えられる服なんて聞いたことも見たこともないぞ」
「えぇと紋切り型……テンプレな展開になってきたけど気にしないほうがいいわよ?」
「そうなのか、倒せるなら仕留めてくれよ卯乃葉さん!」
訥々した語調でまだ半信半疑な感じがするけど、やりますかね。
肩に乗せたぴょん吉に顔を向け。
「振り落とされないでね、今からすっごい速さであいつを仕留めるからね!」
「ぴょん!」
さあ魔物解体ショーの始まりよ。
理不尽とか言わないでよね。
「とりゃあああああああああああ」
足を踏み込んだ瞬間、速度がみるみるうちに急激に加速していく。
それは一言で表現するのであれば矢継ぎ早のごとく。目にとまらぬ速さで間合いを詰める。
手動で動いているとは思えない速度。
試しにパンチを一発おみまいする。
「めーたるぅラビットぷぁーんち!(ラップ調)」
「グボォ!」
手応えのある良い感触。そのまま間断なく拳を繰り出していくと渦巻く嵐のように攻撃が変容した。
敵は軽微ながらも刃向かおうとする動作を取ろうとするが、重い負荷によりなかなか立ち上がれない。
交錯するように放つパンチ全ては高火力であり、攻撃によって1度も苦戦を強いられることなく、とうとう敵を虫の息寸前まで追い詰めた。
息途絶えそうな様子に、私は拳に力を蓄えて攻撃に備えた。
既に力量は飽和状態。攻撃すればキルが確定するけどその前に。
「さあて、どうだったかしら? 私の素早い拳による攻撃は。あぁ弱々しいところ悪いけどあれでまだ本気じゃないから。……ってことでそろそろお別れねこれでも食らいなさい!」
助走をつけ敵の眼前で足を踏み込んで、力を凝縮した拳を解放するように攻撃を放った。
「うさぎ舐めないでよね! メタル・ラビットパーンチ!」
強烈な大打撃。
中ぐらいの力しか入れていないはずなんだけれど、私の予想以上に力は膨大に増していった。
放った瞬間、銀色のオーラが私の拳を包み込み、敵に触れた瞬く間、勝負に決着はつき。
気づく頃には敵は煙を巻き上げながら飛んだ。
シュ〰〰〰〰〰〰ッ!
「ジェット機のごとく派手な飛び方ね。これ小説でよくある、やっちゃった系のキャラに当てはまる……のでは?」
瞬発的に繰り出したそのパンチによって、カイザービーストは風船が弾け飛ぶように爆散。
辺りからは綺麗な銀色の雨が降り続いた。
こうして私の初戦闘となる異世界バトルの初戦は、速戦即決にけりが付きRTAのノルマ達成。はーいやったね。
【AIⅡ:データの収集結果……卯乃葉さんはチートを使うことになるとやはり目がないようです】
☾ ☾ ☾
戦いが終わり村へと帰ると、おじさんが村のみんなにモンスターを討伐したことをいち早く報告しに向かった。
数秒後、視線が私の方に向けられ数秒訝しむようにこちらを見た。
口述しなくとも、言いたいことは大方検討がつく。
「こんな格好で?」や「うっそやろ」のような当惑するような話し合いだろうと、これが常設化行事とはつくづく骨が折れてくる。
「あのうさぎさん? 怪物を倒してくれたの? つ、強いのねぇ」
屯する中から、1人の主婦系の女性がこちらへとやってきて姿を軽く挨拶してくる。
もうし訳なさそうにへりくだる語調が、言葉にしなくとも理解できる。
まるで、童話であるような展開を体験しているようなものだ。
いや、私は単にチトコをターボでかけながら、ゲームをするアホと変わらないですよ奥さん?
あのみなさん、あんぐりとした顔してますけど本当はたいしたことやっていないんですよ? だってチート依存なだけですし。
「すごく歓迎されているようだけど、本当のことを軽率に言えなくなった自分がここにいる」
「ぴょん?」
「……意味わかるの有無、それが問題ではなくて単純に気まずい……というか」
肩に乗るぴょん吉はうんうんと頷いてくれる。
慰めてくれるのあなた? ……まったく相変わらずかわいいんだから。
なのでそんな素振りみせられてもこっちが困るんだけど。
……このあとっておそらくアレでしょ? 村長の家に行って敬われ貴重アイテム入手するという……。
おじさんが帰ってくる。
「その卯乃葉さん? 村長に話したところ、君に一言挨拶したいそうだ。一緒に行ってくれないか?」
「やっぱりこうなっちゃうか~まあ王道展開だからわかっていたけれど!」
首を傾げ、おじさんは問うてくる。
「? オウドウテンカイ? なんだそれ」
「いやいや、これといって特別な意味はないんですよ! さ、さ行きましょ行きましょ」
はぐらかし、自ら催促する私。
これも一環のジンクスなのかしらね。ぴょん吉が少し困り果てた顔しているけれど……辛抱なさい、あとで美味しいにんじん取ってあげるからさ。
村長の家まで案内されると招かれるように入っていった。
外観は民族の長らしい立派な佇まいであり、周りに立つ小さな住まいとは別格。
これぞファンタジーよね、ガチでこれやばいわ。
もしまとめスレみたいなサイトがあったらこのように『【悲報】卯乃葉氏、迷い込んだ異世界の住宅でチートを披露してしまうwww』みたいなの書かれるって!
それだけはめっちゃ勘弁!
『はい、ザコ乙www』とかシャレにもならんって。
「お嬢さん、お主があの凶悪な……えぇなんじゃったっけ?」
「村長、カイザービーストです」
「……なんじゃって? 改ざんビスタ?」
ぷ。
「だからカイザービーストだって! カイザービースト!」
「あぁそうじゃったそうじゃった……カイザワビストン」
「だめだこりゃ」
耳が悪いせいか、なかなか聞き取りづらいこのおじいさん。
呆れて額に手をつけるおじさんは軽いため息を吐く。
思わず、心の中で笑っちゃったじゃない。……今でも笑いがこみ上げてきそうなんだけど! あわや失礼だから我慢なさい仲宮卯乃葉。
「すまんのぉ卯乃葉さんや、見ての通り年寄りじゃから少々耳が遠くてのう、うまく声を聞きとれないことがあるかもしれんから先に断っておくぞ」
耳が遠いこのおじいさん。独特な民族衣装を身に纏っているが、どうやらこの人が村の村長らしい。……見ればわかるけど。
だ、大丈夫よおじいちゃん。うちの祖父でこういうのは慣れているからどうってこと。……あぁだめだ、先ほどのコントのようなやりとりが脳から離れない。こういうのにツボる私ってザコじゃない。
「あはは、どうってことないですよ、こっちは依頼で来ただけですから」
「それでもすごい。村の者が幾人戦いはしたのじゃが誰も傷ひとつすらつけられなかったからの」
まるで初心者お断りなレイドボスじゃない。
他の冒険者だったらどのような戦法をとろうか。……想像がつかないけど魔法使いでも雇ってこき使ったり?
すると村長さんはある物を奥から持ってくる。
「つまらない物じゃが、これを持って行くといい」
手渡されたのは,小さないろり鍋。
洋風にアレンジされた物になっており、下には小型の暖炉が付いている。台座には編み目の……これって。
「グリモアの者から昔、譲り受けた物じゃ。持ち運びに便利な火不要な調理道具じゃ。ワシはすぐ火傷するから上手く使えなくてのう。お主ならまだ若いし使いこなせるじゃろ?」
「雑処……r。とてもいい物ですね。……下に槓杆のようなものがありますが……おっと暖炉から火が」
さすがに雑処理は失敬すぎでしょ。
試しに下についたレバーを動かすと点火。淡い炎が中で燃え容器を暖める。
ストーブと勘違いされそうなくらいの暖かさだけど、なにこれ便宜性ありそう。
「マジックコンロと言うそうだぞ、聞けばこの中大陸にある、魔法の発展した大都市、グリモアに住む魔法使いが開発した画期的な装置らしい」
電池の代用が魔力になっているわけね。なるへそ。
携行に優れた逸品物ね。元世界にあったコンロより便宜性のある物といった感じ。
使い捨てではないみたいだし……やったぜ。
その魔法大都市がとても気になるけれど、取りあえずお礼を言おうか。
「ありがとうございます、大切に扱わせていただきます」
「また、助けが必要になったら呼ばせてもらうからその時は」
「わかってますって。できる範疇なら大丈夫です」
「それは心強いのぉ。こんな勇敢な冒険者がいるとなぜ早くギルドは言ってくれなかったのか」
早いもなにも関係ないと思う。
偶然ギルドの一部が私を知らなかったという説も濃厚だし。整合性は不明だけど可能性は0でないことは確信できる。まさかウチのギルドって……ブラックとか。……いやいやうちの親じゃあるまいし。
こうして、村の脅威を救った私は人々に見送られながらも街へと帰る。
その途上。
「ぴょん?」
「え、なんでそんな疲れたような表情してるかって? ……働くのってこんなに大変なんだぁと感じているだけよ。き、気にしないで」
ぴょん吉は「そっか」と理解した様子で私の先へと進み、疲れている私は少々童話に出てくる亀の苦労を考えながら帰路を進んだ。