186話 うさぎさんの妹、返済のため頑張ります その2
【手助けは、どんな些細なことでもいいから始めたほうがいい】
村の近くまで訪れた。
街からそんなに遠ざかっていない位置に在している。
まさかの依頼内容が、辺鄙な場所にあるだなんて。軽い気持ちで外へ出た時にはもう手遅れだった。
Uターンでもすれば浪費に繋がると見込んだ私は、仕方なしに依頼を引き受け現在依頼を遂行中。
ついでにと、村の中へ入り少々聞き込みに入り調査開始。
「すみません、ブレイブ・タウンからクエストを受けやってきた冒険者なんですが、近頃村を脅かしているって言われてるモンスターのことについて伺いたいのですが」
行き交う人をのうのうと眺める中年ぐらいの男性を発見。
質素な服装で、目を泳がせながら周りに気を配っている様子でいた。
素振りからして、とても気がかりに感じられる。
「おぉ、やっと来てくれたか。強そうなモンスターだから怯えて受けてくれないかと思っていたところだ。誰も来てくれないからギルドの連中は臆病者ばかりと思ってたよ」
開口一番に侮言を吐いてくる。
少々皮肉な言い草だが、聞く限り今まで引き受けてくれる者がいなかったのかな。
この大陸にいる冒険者達は、チキンな集団かと思われているのかしら。……そうとう舐められているようだけど、私がやるからにはそれも帳消しになるということで。
するとそのおじさんは、私の服をチラチラと。
まーたこの紋切り型のパターンだ。はぁ(呆れ)
「み、見慣れない服装だな。君の住む街ではそういうのが流行っているのか?」
「いやいやいやいや流行ってませんから! これは私の決まった服装です。ですからその言い淀むような語調なんとかしてくださいって!」
「そ、そうか。ゴホン、では本題に移るが」
姉さんも、こういうテンプレ展開に毎回頭を悩まされているのかしら。
身を持って知ったけど、異世界恐ろしやよね。
ぴょん吉が私の足下を回るように歩いているけど、上目遣いでまた気にかけていた。
正直、固唾を飲みたくなるような気分。でも趣向をずらしてはいけない……さぁ聞こう返済返済しないと。
「四足歩行をする大型モンスター、名をカイザービーストって言うんだが」
「カイザービースト? いかにも強そうで横暴そうな名前ですね」
よくありそうな名前だけど、あけすけにも強そうなネーミングの響きだった。
カイザービーストって、甲冑かなにか堅牢なイメージが脳裏に浮んだけど強さはどれくらいの塩梅だろうか。
初見殺し……にならなければいいのだけれど。
「横暴って度合いじゃねえんだぞ? 度々、村に来ては作物を荒らすわ、家を破壊するわで……おかげでほら、向こう見てみろよ。崩れている家あるだろ。あれはその余波だ」
指差す方向にある家に視点を向けた。
屋根の上が切り落とされた家屋が見える。悲惨な有様で荒涼と化していた。
うわぁ、えっぐ。
張りぼてむき出し状態であり、私が瞠目するほどだった。
「これはひどい。で、そいつを倒せばいいんですか?」
「……簡単に言うがなぁお姉さん。本当にそんなふざけた格好をした君に倒せるのか?」
不信。
見た目で判断するより、実力を見て判断してほしいな。
あ、そうだ。どうせ怪訝な態度をとるなら。
私は1つ提案する。
「どうせなら一緒に行ってくれます? 後ろで援護してくれればいいので」
「なぜ俺が? 危険な場所に行くだなんて自殺行為だ!」
怒鳴られても困るんだけどね。
加勢はしないとばかりにそっぽを向くと、こちらを見向きもしなかった。
どうしよう、戦う以前に私は強いという証拠もこれだと提示できないんだけど。
「いいから聞いてくださいよ、信用できないって言うのなら付き添ってそれから判断してもいいのでは? と。私はそういうことを言っているんです。決して死にに行けみたいなことは言ってないです」
「え? あ、そうか。言われてみればたしかに……それもありだな」
物わかりの良い人で助かった。
納得するように、彼の表情はあんぐりとした顔に変わっていく。
アホな顔しているけど、私が彼にどのような人間に見えたのか、はたまたうちのギルドの評判が悪いかはわからないが、普段どのような付き合い方しているのよ、うちのギルドは。
「その自己紹介が遅れました、私は仲宮卯乃葉えぇと」
継ぎ足しでなにか付け足したいけど、なにが良いだろう。
数秒考え込んだが、あまり待たせてはいけまいと踏ん切り。
「み、見ての通りうさぎです、下にいる子は相棒のぴょん吉」
「ぴょん!」
「へぇ卯乃葉さんかぁ。…………ん仲宮、いや……まさかな」
「え、どうされました?」
「…………いや、なんでもない、単なる考え事だよ、じゃあ道案内は俺がするから付いてきてくれ」
「あ、はい。行きましょうか」
既視感のあるようなことを漂わせてくる彼。
道案内のもと、私はカイザービーストを討伐しに進路を辿るのであった。
☾ ☾ ☾
平野の道を進む。
案内されながら進路を歩いていると、森が1か所見えてくる。
近づくにつれて、村人さんが。
「あそこだよ、あの森にカイザービーストがいる。でもお姉さん本当に戦えるのかい?」
「ですから心配いりませんって、どれくらいの大きさかはわかりませんけど長丁場にはなりませんよ」
「い、言っておくが俺は、前線で戦っていけるような技量を持っていない。だから君に万が一のことがあっても過度な期待はしないでもらえると……」
マンガやウェブ小説でよくある、出オチ数コマでやられる系の人かな。
少し心配気味なおじさんは、目立った活躍はできないと断言してくる。
ゲームのNPCでもよくこういうキャラクターいるわよね。例えばパーティーに直接加入はしないけど、裏データでHPが5万くらいあったりと、3桁数値までしか伸びしろのない主人公たちをよく扶助してくれるキャラ。
このおじさんは見た目からするにごく普通な人だけど、案外強かったりして……それは考えすぎか。
「心配する必要はないですよ、なるべく手は貸さないよう手短かに済ませるつもりですので」
「簡単に言うがなぁ~」
すると、遠くからけたたましい声が響いてきた。
こだまする叫び声によって、樹頭にとまっていた鳥達が飛び立っていく。
「あの方向は、12時の方向? 慎重に進みましょう」
鳥が飛び立った逆方向に進む。
手前に飛んだ、ということはその反対方向には何かがある。
さすがに、軍人みたいにほふく前進して進む勇気はないけど、木を壁代わりにして前へと進む。
これならある程度敵の注意を逸らし様子を窺える。
「ちょっと卯乃葉さん、あまり近すぎちゃ……」
「あれですか? 村のみなさんが怯えているモンスターとは」
木から垣間見るように向こうをのぞき込んだ。
間合いは中、遠距離か。
巨大な獣と見られる、姿をした巨大なモンスター1匹が辺りを見回しながら動いていた。
殺気の満ちた巨大な4足歩行が特徴で、1歩判断を間違えれば即座に殺されそうな怪物だ。
「あいつだよ、これでわかっただろあいつを倒すことなんて」
「なるほどねぇ。わかりました、そんじゃいっちょ倒しに行ってきますわ」
「ちょっ卯乃葉さん⁉」
村人さんの忠告なんぞ、聞く耳を持たずに私は滑走する。
共についてくるぴょん吉は私の肩に乗り、鳴き声で合図を出してくる。
「ぴょん!」
「わかった! とう」
急に襲いかかってきた爪の攻撃を、宙返りでかわし身構える体制をとる。
敵は巨大な体躯にもかかわらず、疾風のごとくかけまわる怪物だ。
目で捉えることがとても難儀な相手なので、これではいくら私でも苦戦は免れない。
「まったく、ここでこれの出番とは ラビット・カリュキュレーター!」
ここで私は、ある秘密兵器を取り出す。
そう、この計算によって、どんなものでも計算結果と同じ質量にしてしまうとされる最強電卓である。
手のひらサイズをした見た目はただの電卓。数字のキー、演算子のボタンがあるメジャーなタイプの電卓だ。
こんな普通っぽい見た目の物が、はたしてそんなことができるのだろうか。
「物は試しって言うけど……でもやるしかないわよね」
騙されたと思い、適当な計算をして答えを出す。
すると走っているモンスターの速度が表示された。敵の速度は時速400キロ毎秒毎秒。
ハヤブサより少し速い程度の素早さだ。
計算によって私が割り出した答えは。
敵の速度を時速0.10まで縮めた。
頭が痛くなるような計算は省くけど、さあどうなる。
電卓にある反映のボタンを押すと、電卓が光り。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア‼」
ドスン。
カイザービーストの速度が、次第にのろい動きになり浮き彫りとなる。
今の速度はまるで無重力空間でも体験しているように見える。それぐらい敵の動きをはっきりと捉えられたのだ。
まるで止まっているかのようにも見える。
「さぁて仕返しどうしてあげようかしら」
にやりと、後先を考えながら行動に移そうとする私は、次の攻撃に取りかかるのであった。