184話 うさぎさんの妹、多忙ながらも仕事をこなす
【隠蔽工作? なにそれおいしいの】
「「なんじゃこりゃあああああああああああああああああ‼」」
向こうに見える物は山だった“物”
そうこの『だった』というこの過去形が、私の言う要旨である。
勿体ぶるなと言いたいのはわかる。でもひとつ仮託していいかしら。
あなたが仮に牛丼チェーン店にて、メジャーな牛丼・並盛りを頼んだとしよう。
でも実際運ばれてきたのは、頼んでもいない食べきれないキングのどんぶり。
これはクレームレベルではすまないし、とても背理的なやり方だけど。
今の状況はそれに匹敵するようなできごとだ。
つまりあまりの衝撃に、私は言葉を失った。なんでやねん、そうはならんやろと言わんばかりに。
どう見てもそれは終末兵器。衝撃が隠せないほどに私は言葉を失う。
「ぴょ、ぴょん吉? あなたちゃんと見てたわよね? 弾が当たる瞬間を」
「ぴょん」
おそるおそるとぴょん吉に問う。
ぴょん吉は必死に頭を上下に振り、うんうんと仕草をする。
「これもう武器ってレベルじゃ……兵器……いやリーサルウェポンと言うべきでしょ!」
※リーサルウェポン:殺傷力の高い武器の意味。ゲームなどでは最終兵器の意で用いられる。
「うん、撃った撃ったわ。……でもこんなことって」
先ほど準備を済ませ撃つ段取りを済ませたのだが、滞りなく光弾は隣にそびえ立つ山へと直撃。
最初は大きめのクレーターができるかと思った。
でも、それを遙かに凌駕する威力で、そこにあった山はふもとから上の部分はかじりつかれたかのように決壊し、跡形もない小さめの山へと変わり果てた。
……正確にはただの岩に見える。
荒涼と化した山周辺には黒墨の灰が散乱しているのが見える。や、やりすぎじゃないこれって。
「実験とはいったい…………あれ、電話? サーセン博士からだ」
考え込んでいると、パーカーから着信音が鳴りだした。
私が出かける前に能力を使って作り出した機能。サーセン博士とはいつでも連絡がつくように番号の登録をしておいた。
だが、なぜか着信音が『ハッピーバースデートゥーユー』……なぜに。
これを作ったのは大体3日前。……もしかして、機能私がお風呂に入っているとき、『ちょっとパーカーを見させてくれ』って言われたんだけど……あのときか。そのときに勝手に中身を変え。
外からガサゴソとした音が聞こえると思ったら、あぁもう考えるのやーめた。
「はい、もしもしサーセン博士?」
軽く耳に手を当て、博士の声に耳を傾けた。
「やぁやぁ卯乃葉くん。どーだ、とても強い爆破反応を感知したものでそろそろかと、潮時と悟り電話をいれたぞ」
「その博士? 開口一番に申し訳ないのですが……“コレ”なんです?」
「……コレとは? すまない、ビデオチャットみたいな機能はないからコレといってもなんのことかさっぱり……今度つけてもらうようこの場を借りて頼んでおこう」
「いえ、そうじゃなくてですね!」
急に話を逸らして違う話題を持ちかけようとしていたので、私は否定し目的に話を戻させる。
「ごほん、威力おかしすぎませんか! 山のふもとから上がなくなっちゃったんですけど!」
「ふーはっはっは! 思った通りだ、これが神から下された裁きの鉄槌なのだ! 目障りな山は犠牲となったのだよ卯乃葉くん」
私が聞きたいのは威力が極端に高すぎるのはなぜか、ということだけど。
この人あれだ。自分の話が入ってくるまで永遠と話すタイプじゃない? ……冗談はやめてよマシンガントークなんてあくびが。
「と、すまないすまない。なぜこのような威力かって?」
やっと本題に触れてくれた。
「その光電石をサルベージしにいく機会があまりなくてな、つい中途半端な火力に。上の学者からやめとけと鼻で笑われながら言われたりしたが」
「それぜったい呆れたような弱音よ! 付き合ってられんとかそういう類いの」
「うむ、だから微調整する間もなく、こんな威力になったわけだ。はい古い山にサーセン」
「こうなるなら早く言ってくださいよ! ……そんな話を逸らすかのように自分の名前使ってダジャレいわないでくれません⁉」
外国の家やビルを取り壊す際、日本とは異なり派手にダイナマイトで破壊すると聞いたことがある。
この人による大胆っぷりはもはや軽微の領域ではなく、それ相応の度がすぎるくらい行う規模が大きい。
いまだに目を見開いている自分自身に驚いているが、焦げたにおいがこちらにくるんだけどキツい。
「とりあえず、それで任務は完了だ。卯乃葉隊帰還せよ」
「……はい。す、すぐ戻ります」
無事任務を終えた私は、山から下山しブレイブ・タウンへと帰った。
☾ ☾ ☾
街の雰囲気が一部慌ただしかったけれど、なにかあったのかしら。
寄り道せず博士の研究所に向かっているが、気になる……卯乃葉さんすごく気になります。
まさか先ほどの発射による影響がここまで及んだり……いやまさかそれは考えすぎか。
博士の研究室に戻ると、待っていたような感じで出迎えてくれる。
再び博士がよく座る、息抜き用の研究机へと着席すると再び会話をする。
「卯乃葉くん、そしてぴょん吉大義であった。誠に見事であったぞ」
「まーた厨二病が始まった。変なポーズ構えるのはいいですから」
「ぴょん……」
ぴょん吉にはなにがなんだかさっぱり…………って。
「ぴょん!」
躍り出るようにぴょん吉が机の上に立った。
「は」
「ふふ、ぴょん吉もわかってきたではないか」
「あの~ぴょん吉さん、そのおポーズはどういった感じで?」
変な美化語を使ってしまい語感が曖昧に。
ぴょん吉は、彼女――サーセン博士のポーズを真似し、短い腕を両手交差するように外側へと向ける。
関節大丈夫? 体微妙に震えているけれど無理しなくていいのよ?
一言で言うと、マンガでよくある決めポーズ的なアレ。
ちょっと博士、私のぴょん吉になにを……まぁぴょん吉はとても喜んでやっているように見えるから、拒否権限は私にはない。
「そ、それで博士データはうまく取れたんですか?」
「勿論だ、私を誰だと思っている。卯乃葉くんの力なしでは得られなかった収穫だ」
「では、これ返しますよ……借り物ですし」
と私が脳筋銃(名称が統一せず、固有名詞がコロコロ変わるあたおかなリーサルウェポン)を渡そうとすると、博士は手のひらを私にみせた。え、どうして?
「あぁいいぞそれは」
「へ?」
「私はあくまでデータが欲しかったのだ。それは君に譲渡しよう」
「このインフレが加速しまくりそうなこの銃を⁉ ……それはダ……いや私からしたら嬉しいけど本当にもらってもいいんです?」
うんと首肯するサーセン博士。
……本意にはほど遠いけど、チート大好きな私にとっては大きな収穫ではあるが仔細な理由が知りたい。
あっさり渡しちゃっていいんですか博士?
「これはささやかな報酬と思ってくれてかまわない。案ずるな、そいつに付いている制限は私と卯乃葉くんが改良を施しデメリットを解消しようではないか。そこまで複雑な構造ではないのだ。少々時間を費やせばこの問題は解決できるは……ず」
なんなの今の間は。
おそらく撃つまでのラグの時間を言っているのかと。
いや、だったら先に言いなさいとなるけれど……あいにく、駄弁のひとつも言う気力がない。
「わ、わかりました。それではこの銃……そういえばこの銃なんて言えば呼べばいいんですか?」
名前が統一せず、いろいろ呼んでいたけど結局どう呼べばいいだろう。
頭の中で『イチコロさん』『そんなのありかよ!』みたいな候補名があがったが……うーん。
博士も少し唸りをあげながらよそ見で考えたが。私に丸投げして。
「うーん。君が自由に決めてくれ。その名前で私も以降呼ぶことにする。私はシンプルかつ呼びやすい名前を付けることに関して稚拙でな、君のほうがこういうのは得意だろう?」
嘘つけ、絶対面倒くさがって私に丸投げしただけよ。
「えーそんなぁ。こまつた。……」
どうしよう。ゲームでよくある展開の最初に名前を付ける系のものじゃないか。
急におかしい威力だすし山は破壊するわで、ツッコミどころ満載な武器だけど……どんな名前に。
「えーと……えーと」
熟考に浸り、名前の候補を頭の中でいくつも挙げる。
こうでもない、あれでもないと名前を破棄しては次の候補もそぐわないと思い、やめるの繰り返しでなかなか決まらなかった。
そんな時だった。
「…………そうだ」
ふと私はあるワードを呼び起こした。
こういう時こそ、こいつに相応しい名前だと確信するネームだと思った候補がもたげた。
一見、本来の使い方から逸れているような名前だと思うけれど……他に候補がなかった私はしぶしぶ『これで』と答えた。
その名前は――。
「えぇとじゃあ『DQN砲』で」
ぷ。
自分で付けておいてなんだが、馬鹿馬鹿しくて笑いがこみ上げてきそうになった。
でもこの銃に合った名前でしょ。
対価的には合っているはず。
「ではこれを今後DQN砲と名付けよう!」
もうどうにでもなれ!(自暴自棄)
\ドンッ!/
「え」
「え」
私と博士が話していると、後ろにある自働ドアが開閉する音が聞こえた。
え、何事?
「サーセン博士は居られますでしょうか! 私はギルドの管制する者ですが」
「誰だ貴様は⁉ ギルドごときがなにを! ……とそれ……は?」
博士の言い淀む。
ギルドの人が手に持つ1枚の紙を見てあんぐりとした顔に。
え、だからなんなのよ。
「まずい、卯乃葉くんやらかした」
「へ? どういうこと…………ってこれは」
サーセン博士が見た、用紙の中身はというと。
旧鉱山(私が今日破壊してしまった山)の無断破壊に関することだった。
どうやら許可を取っていなかったみたい。……あの、博士許可は事前に取ろうね?
(な、ナンテコッタ!)
瞠目する私と博士。そして状況を読み込めず辺りを歩くぴょん吉。
不吉な予感がすると私の感がそう訴えていた。まじで何か始まりそうだわ。
「どうしてこうなったの」
「不覚だ」
「あんたが言うな(叱責)」
この異世界はどうも、他のゲームにはないたくさんの障害があるのではないかと私は睨んだ。