182話 うさぎさんの妹と異世界入門書 その3
【とりあえずやってみるチャレンジ精神が大事だと思う】
3日が過ぎた。
不法侵入の罪状を内密にしてもらうことを条件に、サーセン博士の助手として研究所に留まる話になった。
初っぱなから、少し出オチ感があるけれどこれはやむなし。
気前よく、食事の時間になると美味しそうな食事を持ってきてくれたので、優しい人なんだなと考えに至った。
軽い軽食系の物、パン、スープ、サラダと社畜で忙しい人が、急いで食べるようなメニューであった。
味のほうは、私のいた世界と大して差はない味だったので程よかった。
台湾の屋台に、出されるようなゲテモノでも出されたらどうしようかと考えていたが。
「はい、卯乃葉君、私がギルドに頼んで作っておいたぞ」
「……ありがとうございます。ってこれがこの世界の冒険者カードなんだ」
手渡された薄板のカード……冒険者カードを受け取ると表裏をよく観察する。
偽造したカードで知っているんじゃないかって? いやこれは、実物を見て述べた感想。質感といい気品の良さが魅力的。クレカに近い感じ?
ゲームでよくあるような見た目だけど、現物を見るのは初めて。
でも私があるゲームで久々にインしようとしたら、あいにくサ終していた。メンテによる不具合が多発して手がつけられなくなったからだって。ほんと滑稽な話よね。
ちゃんと、名前には仲宮卯乃葉と明記されている。
AIさんにここ数日聞いた話なんだけど、この世界での文字や言語は自由に変更できるらしい。
規定で日本語設定されていたから、そのままの設定に留めたけれど、やはり母国の言葉が安心する。
博士は、私にカードを渡し終えると再び目の前の物騒な機械へと視線を移した。
どうせなら、こっちを見てもらいたいんだが。
「すまん、今新しい研究をしていてな。とある武器なんだが」
「……えぇと機関砲ですかこれ。レールガンみたいな物ですか?」
機器にある小さな画面には、繊細な情報が書かれた設計図が写し出されている。
質量の数値、パーセンテージ、資源のメーター? のようなゲージまで。割とガチめな設計になっているようだ。
SFでよく出てきそうな物騒な武器。見る感じ巨大な銃の形状だが、これは殺傷力どれくらいあるんだろう。
俺TUEEEEEE系でよくある『ぼくのかんがえたさいきょうぶき』感が否めない感じだが、うん、1発撃っただけで敵をワンパンできそうな。
「そうとも言う。名前はまだ未定な銃……未実装0号だ」
「ゲームの解析データにありそうな名前のような……あいや、これの素材がたりないんですよね? なにが必要なんですか?」
デバッグの解析データ似な名前にして。……安直すぎ。ごほんごほん。
口に出さなくとも、おおむねの要旨は伝わってくる。
でもここで拒否することがあれば、それはそれとして博士に失礼な気もするので。
名前はともかく、いち早く姉の手がかりを見つけるため銃に必要な素材を聞く。
「そうだな、光電石と呼ばれる電気のエネルギーの詰まった鉱石だ。……あれがあれば完成しそうなんだが取ってきてくれないか?」
「やっぱりそうなりますよね」
ほら、目に見えた結果じゃない。
この光電石と呼ばれる鉱石がどうも完成には必要らしく、博士が頭を悩ませていたらしい。
手がつけられないとか、距離が遠すぎるのような鉄板なご都合展開だろうか。うん、正直めんどくさい。
そもそも光電石ってなによ。
「光電石ってなんです?」
「君の持つAIの機能が教えてくれるはずだぞ」
「え? AIさんの機能?」
少し話したら博士は、AIさんのことを少々知っているような口ぶりをしていた。
目で直接は見えなくとも、存在は認知しているみたいで達者だった。
なんのことなんだと、周りを見ていると自動的にAIさんが起動し。
解説:電動石は鉱石の内部に高電圧のエネルギーを蓄えた中大陸産の鉱石。電化類や武器などに使用される。
この世界における電気の原料がこれか。
というか、この機能とても便利ね。新しく見たり知ったりする物は全てあなたがこのようにして教えてくれる……解釈はこれであっているかしら?
【AIⅡ:はい、自動的に新しいものは私が説明するようになっています。ゲームのガイドのように思ってくだされば】
おっけーということね。
「確認しましたよ。特産物ですか、鉱石っていうんだから鉱山かどこか山脈に行く必要があるんです?」
石って聞くと山脈だったり高低差の激しい山にある印象だ。
大丈夫? 即死魔法ありき難解ギミック搭載ダンジョンじゃない……よね。
「あぁそうだ、それでこいつを持って行き実際に試してほしい。なぁに山だから心配はいらん……あの山は標高も高くかつ、耐久力もそれなりにあるからなぁ。数発程度では沈まんよ。ほいと」
「おっと……おっも!」
彼女が手渡してきた物それは……先ほど見せてきた設計図に描かれていた物『未実装0号』だ。高い重量のせいで少し重さを一瞬感じたが、ステータスの恩恵か次第に軽やかに感じてくる。
極端に設定しすぎたからだろう。初回だけ重さは少々、謎ではあるけど気にしたら負けだから放っておく。
「それじゃこれしまっておきますね。AIさんお願い」
鈍器ではないかと勘違いするかの重さ。
巨大な銃は、私のポケットに縮み吸い込まれていく。
魔法でも使っているかのような感覚。これがどうやらクラインの壺に繋がっているらしくいつでも出し入れが可能とのこと。
取り出したい物を指定する場合は、念じるかメニューで直接引き出す仕様になっているみたいだ。
時間も全くかからないので、時間に尺は取らない、やったね。
「採取したらすぐ帰ってこなくてもいい。実験はその場で行う」
「え、それってどういう。……先ほどちらっと頑丈な山だから云々言っていましたけど……もしかしてそれも兼ねて……ということですか」
うんうんと首肯するサーセン博士。
あの博士? 近所迷惑って知っています? 頑丈以前に周りの人を心配しても……自信ありげに反省の色も見えなかったので、渋々ながらも私は銃の実験の手伝いを引き受けることにした。
ここ私のリスポーン地点になるのかな。
失敗したらここまでロードして……なんてことは無理か。
「銃を撃つ……そうだな君たちの世界ではこう言ったか? “グッパする”みたいな」
「たしかに言いましたけど現実と2次元だと隔たりがありすぎますよ!」
あたふたと答える私に対して、その言葉を遮り催促させるがごとく急かしてくる。
「それじゃ、頼んだぞ卯乃葉君! では私は研究が忙しいから指定した場所に到着したら連絡をよろしく頼むぞ!」
「あちょ!」
博士は話を逸らし、再び研究の世界へ入るのだった。
研究室前の扉は固く閉鎖している。破壊は……一応できるけどやめておこう。だって厄介事に巻き込まれるのは嫌だし。
強制イベントかぁ。
一応、博士は私に指定の場所を記した紙――地図を手渡してくれた。
ブレイブタウンから少し出たところにある鉱山である。
ちなみに、本街で作った冒険者カードならば、必要ランクの規定はなくなるらしい。
これなら、問題事は回避できるわね。これもサーセン博士のおかげとなると……納得がいかない、でも感謝するこのパラドックスに直面する私なのだった。