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留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
新・第1章 うさぎさんの妹、異世界に初陣する
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181話 うさぎさんの妹と異世界入門書 その2

【うろつく時間は短時間で終わらせたほうがいいかもね】


 街の中へ入ると、機巧な建物が連綿とそびえ立っていた。

 あれはなにかしら。

 と思う物がいくつも目にとまる。

 巨大な歯車が回っている建物がとても魅力的で、私からしたら非常に現実離れした光景だった。


「うわぁ壮観ねぇ。こういうのをスチームパンクっていうのかしら。見るからに姉さんが非常に喜びそうなものだけど」

「ぴょん」


 足下にいるぴょん吉は、私の横を歩きながら声をかけてくる。

 あ、そういえばリード持ってくるの忘れていた。

 ちなみになんだけど、うさぎでもリードがあるのよ……意外でしょ?


「はぐれないように注意しなさいよ。人がたくさんいるから迷子にならないようにね」

「ぴょん! ぴょん!」


 上下に大きく飛び跳ね『わかった』の合図をする。

 人がたくさん行き交っているから、ぴょん吉を見失わないように注意しないと。

 とことこ歩いてくるぴょん吉をよそに、私は自分のステータスを確認。




卯乃葉 レベル1


HP15

魔力20

攻撃12

防御8

すばやさ25




「うーんこの」


 なんなのこの数値。

 はたから見たら、平均的な数値かもしれないけど腑に落ちないわね。

 自分にとってそぐわない桁に自ずと違和感を覚えた私は忍びなく。


「レベリングだるいから書き換えるわ」

【AIⅡ:ちょ、卯乃葉さん⁉ なにやってるんですか? やめてくださいよ本当にゲームバランスが壊れますよ!】

「抵抗しないで抵抗しないで……ここは私ルールよ。私はねチートとは切っても切り離せない縁! ということで書き換えまーす」


 プロアクターMAXを取り出し能力の変更を行う。

 英文でステータスの数値を変更する文を打つと、数値を変更するUIが表示された。

 数値の限界がどれくらいかは私の守備範囲外だけど、ひとまず適当に数値を弄ってみる。

 規則性のない数値を各能力値に割り振っていく。攻撃力、防御、魔力……えぇいもう全部変えちゃえ。



卯乃葉 レベル1


HP1000000

魔力5000000

こうげき6000000

ぼうぎょ90000000

すばやさ10000000



 確認したら入力した数値が反映されていた。……自分で変えてなんだけど別次元じゃないの?

 プロアクターMAXは改良前も、不正なことでいろんな用途で使っていたけど、まさか更に魔改造されるなんてね。


「自分で言うのもあれだけど0多いわね。……えぇとそれで能力は」


ノーマルラビット・パーカー改

【共】自分の知能によって能力値が大幅上昇する(有限なし)

【固】無限段階ジャンプ

   何段階にもおよぶジャンプを使用できる。

   また、空中にいる間は重力加速度を任意の数値に変更できる。

【共】滑空能力

    数秒だけ空中移動できる。移動時間は1分。

【共】スロット機能

   メニューから呼び出すことが可能。

   2つのスロットの内、2種類までのパーカーを同時に使い使用できる。


解説:ノーマルラビットの改良型。

   オリジナルと比べて見劣る部分もあるものの、以前はなかったスロット機能が強力。


 このスロット機能が気になるけど。

 おそらくこのパーカーは、タイプチェンジみたいなものだと思う。

 それで1つだと単体のタイプ、2つだと複合のタイプになるってことかな。

 でもあいにく、今はこのパーカーしかないからこれは単なるお飾り。時がきたら使うことにしようかしら。


「あのすみません」


 声をかける。


「うん、あんたは? どこかで見たような…………いやまさか。あいつはこんなに背丈がなかったはず」


 ウインドウを閉じ、探索開始。

 西洋風の服装を身にまとった人に声をかけたが、なにやら既視感を持つような視線をこちらに送っている。


「人違いじゃないですか、ここにあるサーセン博士? の研究所に行きたいんですけど道わかります?」

「あぁ彼女か。それなら」


 略言。

 街に入った道中に、この街で一番才能がある学者がいるという張り紙を見かけた。通称サーセン博士、と言われているらしいけどなにこの名前。

 軽い気持ちの謝りで、使ってきそうなスラングに酷似しているがキラキラネームじゃないのよねこれ? いやほんとこれガチなの。


 でも有力な情報源を持っていそうだったので、彼女の研究所を訪ねることにした。

 こうして、道ばたで会った人に声をかけるのは度胸が必要だったが踏ん切りよく行動にでた。

 するとある路地を通って行けば、彼女の研究所に行けることを聞いた。幸先いいわね。


「ありがとうございます、それでは」


 軽く手を振ってその場を去ると、言われた通りの道を辿り目的の道へと進む。


「ぴょん!」

「うん? どうしたの。急に前に出たりして。迷子にならないようにと言ったのに」


 急にぴょん吉は堂々と前に出て先へと進み始めた。

 まるで道案内でもするかのような行動力に私は、期待と同時に少々の不安も抱く。

 でも抗拒するのもよくないので、ここはぴょん吉に道案内を任せて先へ進むことにした。


「わかるって言いたいの? 仕方ないわねあなたを信じてついてってあげる」

「ぴょん!」


 気合い十二分なぴょん吉は、先へ先へと進んでいき行き交う人々の中を小さい体を利用し駆けていった。

 は、早い。この異世界にいち早く慣れたのはぴょん吉なのでは?

 

 そして数分後。


 立派で大きなドーム状の施設が、目に飛び込んでくると一旦そこで立ち止まった。

 目の前には厳重に黒金の格子ドア――フラットレールがとても目立つ。

 どれぐらいの財力があるのかはわからないが、まずは謁見といこうか。

 すぐ横にあった、インターホンらしき物を押す。


ぴんぽーん。


「うん、客人か待っておれ…………と君は」

「は、初めまして仲宮卯乃葉です。お尋ねしたいことがありこちらへ伺いました、今お手空きでしょうか?」


 1分もかからず、画面越しに断髪の女性が目に映り込む。

 まだ若々しい見た目だが、この人が街で有名な人なの? 憮然とした顔つきはいかにもオールしたような徹夜漬けの廃じ……ごほんごほん。

 でも彼女は、妙に私を見つめて唸りをあげこわばった表情を作り出す。


「どうしたんですか? 険しそうな顔をして」

「……おっとすまない。少し気がかりなことがあってな。…………構わんよ。彼女の妹さんみたいだからな」

「え」


 最後の彼女の妹という言葉に引っかかった。

 ふと目をしっかり見開くと、熟考する私の意思に関係なく私を招き。


「とりあえず、入ってそれから逐一説明していこう。話はそれからだ」


 どうして彼女は私のことを知っているのだろうと。

 なにやら、私のことを知っているような口ぶりをした彼女は、躊躇いもなく私を研究所の中に入れてくれた。

 その施設へと足を踏み入れた私は、サーセン博士と話し合うのだった。



☾ ☾ ☾



 現代と変わらないモダンチックな構造。

 私のイメージしていたものと少し違っていて驚いた。

 しかし、あちらこちらと研究材料や本、機械などいろんな物が散乱している。


 姉さんの部屋もそこそこ散らかっていたけど、この部屋はそれ以上のはなはだ酷い体たらく。

 クリエイターの部屋は、よく散らかっていると耳にしたことあるけど、こういうものなのかな。

 動画で何人かの実況者さんたちも、そう言っていた経験談も耳にしたことがあるような。


「散らかっているが気にしないでくれ」


 うわべがほぼゴミ屋敷だというのに、どうやって我慢しろと。

 見るからに耐え難いけど、なにこのブーメラン。心理的な“試し”でもされているような感覚。

 正直、忍びない気持ちでたくさんである。


 姉さんみたいな、世の末路のような部屋でないことが何よりもの救い。

 それでも、清楚感は損なわれており酷い体たらくを主張するかのような空間が目に飛び込んでくる。

 大の大人が、こんな有様ではたして許されるのだろうか。というか掃除しなさい。


 四角いテーブルにある椅子に腰掛け視線を合わせた。

 気前のいいことに、コーヒーの淹れられたコップが私の前にある。


「その連れのうさぎはなんだ?」

「あぁこの子ですか。この子は私のペットであるぴょん吉って言うんです」

「…………安直すぎないかその名前」


 私に言うんじゃなくて、名付け親の姉さんにそれを言ってほしいけど。

 そんなの振られても当惑するだけなんだけど。


「あいや、私がつけた名前じゃないんでそういう返答には困りますよ」

「……ふむ君のことは知らないが、愛理君の妹かなにかだろう? 名前から察するに性も一緒であるしこの世界で君のような名前を持った者は1人もいないからな。 ……おそらく……な」


 最後のほうに言った言葉が、やや忍ぶような声になったのは気のせいだろうか。

 おそらくってなに、確証ないんかい! 口隠すようにしているけれどそんなに言いづらい案件? うん、私にはわからない!


「なんで最後小声になるんですか? つまり姉さんと同じ名の響きだったからこちらにいれたと。あぁ申し遅れました、改めて自己紹介を。私は仲宮卯乃葉、姉とは双子の妹です」


 少々上擦った声調で淡々と名乗る。

 彼女の気難しそうなこわばった表情が、私を不安にさせてくる。

 厳しゅくなオーラは、言うなればバイトの面接にて緊張を誘う面接官のようなイメージ。

 でもなんだろう、ところどころ隈ができているけど……相当オールしてそうよねこの人は。


「卯乃葉君というのか。どことなく君の姉にそっくりなわけだ」

「? 姉のこと知ってるんですか。入り口でも言っていましたけど、もう面識があるような感じでしたけど」


 いつこの人と会ったか知らないけれど、既に姉さんはこの地に来ていたみたい。

 以前に、『会っていた』を前提に話す様子からして、姉との面識があるとみた。……もしかして入れ違いしているの?

 どれくらい前のことなのかしらね。

 いろいろと言いたいことはあるけれど、今は妥協しておく。


「あぁ。数日前だったか、旅行でこの地――ブレイブ・タウンに来ていたのだよ。魔法使い、双剣、そして剣士の4人構成でな。私の友人の紹介で来てもらったのだが、とてもおもしろいメンツだったぞ! はっは! まるで神々が送り込んできた優秀な天性の使者(エージェント)のようだった、あれは!」


 自慢話するような覇気のある声で口を濁さず話す。

 エージェント? ……聞く感じなにかの当て字――比喩よね。

 ぞくに聞く不治の病“厨二病”というものじゃないかしら。

 いったい、姉さんはどんなメンバー作ったのよ。RPGであれだけ『パーティの編成はちゃんと考えないと痛い目を見るわよ』と言ったのに。少々まだ偏りが見据えているわよ。


「そ、そのここにお尋ねしたのは姉の手がかりの件でして……なにかご存じありませんか?」

「ふむ。それより冒険者カードを見せてくれないか。愛理君の妹というのだから実力を確認しておきたい」


 サーセン博士は少し血相を変え、寄こせと手招きをしてくる。

 物怖じしているわけではないが、少々冷や汗が床へと滴り、体のほうは正直のようで手元が軽微ではあるが震えていた。


 大丈夫よね、まさか私が偽造を作ったことを…………いやまさか。

 案ずることなくラビット・ボックスから冒険者カードを取り出し差し出す。


「どれどれ…………」


 余裕。

 だと思っていた。しかし彼女の表情が次第に確信の持てない相貌(そうぼう)に変わっていく。

 博士は、私を訝しむ顔つきで私を見上げたのち、1つの質問をしてくる。

 え、なんなの?


「その……卯乃葉君、冒険者カードをいつ作ったのだね?」

「え、あぁえぇと……ですね。昨日近くの街で作りました……」


 あんぐりした顔で口ごもった返答をしてしまう。

 も、もしかして詰問されている? うっそでしょ。……い、いや落ち着くのよ私。素数を数えて……。


「……発行日時が書いてないやん。どうしてくれんの?」


 コロコロと口調変えてくるなぁ。なぜに関西弁?

 ってこれ語録じゃ(ry


「え」

「いやだからな、おかしいのだよ。なんだこの『XXXXXFD年おzJざGをわぁ』とは。それに能力値以外表記が不明瞭だし……この近くにはどこもAランク以上の冒険者しか入れないんだ。だから君のような子は本来入れないはずだがなぁ」


 なんで文字化けしてるのよぉ! よく確認してなかったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(絶望)


 すると、サーセン博士はスマホのような物を取り出し、それを耳にあてがう。

 いやまずいわよこれ。いなりよりもっと重い極刑になるわよ。


「あ、あの?」

「ギルドに連絡させてもらうね!」


 迫真。

 って何言わせているのよ!

 思わず彼女の持つ、そのスマホ似の通信機器の使用を拒むように手を抑止させる。


「やめてください本当に! 異世界デビュー数話でリストラになっちゃう!」

「そんな知らんがな。この世界では不法侵入は重罪、無能な門番みたいに私を欺けると思うなよ!」

「あ、姉を探して…………」


 そうすると徐々に彼女は、抵抗する力を脱力し通信機をポケットに入れた。

 え、なんのつもり。


「すまん、芝居はもうおわりだ」

「え、今なんと?」

「だから芝居はおわりだと言ったんだ。最近友人から聞かせてもらった……なんでも彼が元いた世界に伝わる“ネットおもちゃの語録”というものらしい。君もこれ知っているのか? 友から教えられてなつい最近ハマッて。……それでこの境遇、良い場面だと思い実証してみた。存外、本当のように乗ってくれて楽しかったぞ」

「つ、つまり、私ははめられたと?」

「結果的にそうなるな」


 とからかうように笑ってくる博士。

 がぁぁ!なんなのこの人はッ! 振る舞い方の起伏が激し杉だって!


「まぁそんな気まずそうな顔をするな。だがこのままだといずれギルドのやつらにばれる危険性があるぞ。なあに私は口が堅いほうだ、ギルドのほうで厄介になることは私がさせんよ」

「……どうしたらいいのでしょうか? 不法侵入者だと言われるのも時間の問題ですし」


 ここのセキュリティはやはりガバガバすぎる。

 門番さん、なーにが『問題ない』よ! 文字化けをも確認してないとか、あまりにも処理がずさんじゃない! ……我ながらよく入れたなとは思うが……文字化けしていたことに全然気づかなかった私もこれに関しては盲点だけれども。


「急くな、扶助になれるかはわからんが案なら一応あるぞ、暫しここに身を隠し私の手助けをしてもらうのは? ……ブレイブ・タウンではギルドへ直接行かなくてもカードの発行はできるし、私も手続きを済ませて君の分を作ることはできる。……そうだな、動機は私の顔がよく利く信頼できる学者見習いさんとでもギルドづてに送っておこう」

「そ、そうなんですか? ……その設定は少々イミフですけど、汚名を着せられるくらいなら……わかりました、しばらく厄介になりますがよろしくお願いします」


 悪魔の誘いにも思えるけれど、気前の良い彼女の言葉をひとまず甘んじることにした。


「よし、なら決まりだな! 今日から君は私の信頼なる助手だ! ……カードのほうは私がギルドのやつらに頼んで作っておくよう申請する。それでできた物を君に渡すこれで全て解決だな」

「だーれが助手ですか……。まぁいいですよ、お好きにそう呼んでも結構ですから」

 た、助かった。これなら捕まらずに済む。


 サーセン博士以外だったらどうなっていたことやら……ひとまず安堵。


「でもただとは言わせないぞ。きちんと対価は払ってもらうぞ! 研究の手伝いからなにまで……細かな部分までみっちりと」

「それを持ち出してくるとは……ま、まあわかってはいましたけど」


 動揺。

 い、今なんと。

 さらっと、セルフサービスなんかない、みたいな声が聞こえたんですけど⁉

 当然のことではあるが、手を貸してあげるからにはそれなりの仕事をしてもらうぞと。……うぅ世の中、世知辛いわね。


「で、ですよねぇ。……でも体は嫌ですよ! 薄い本みたいに昏睡云々とか嫌ですから!」

「だからそういう卑猥なことはしないと……。単純に手伝いながら冒険してもいいのだ、送信機能を経由してデータや研究材料を提出したりしてくれれば」


 こういうのをゲームでは、おつかいイベントというのでは?

 でた、RPG鉄板のやつ。クソゲーだとよく苦労したのにもかかわらず、報酬はゲロまずかったりするけれど大丈夫よねきっと。

 研究材料? 何を研究しているのかはわからないけど、逆らったら私が死ぬハメになるかもしれないので受けよう。

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら私は答える。


「その別にいいですけど。それにお金ないと不便な面も追々出てきますし……やってもらいたきゃやってあげますよッ!」

「うむ、では交渉成立だな。詳細については後日説明しよう。それまでここで休んでいるがいい」

「あ、ありがとうございます」

「ぴょん!」


 先ほどから、浮かない顔していたぴょん吉は、一件落着すると朗らかな顔でこちらを見た。

 あぁもうかわいいんだから。


 異世界来て早々ドジ踏んだけれど、博士の研究の助力を手伝いながら姉の手がかりを探すことになった私。

 さてさて、姉のパーティ面子も気になるところではあるけれど、私はしばしの間、博士の助手として厄介になるのであった。

 そして、私のフラグが立ったのは今日から3日後のことだった。

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