180話 うさぎさんの妹と異世界入門書 その1
今回から卯乃葉パートに入ります。
少々愛理とは違った性格に思えるかもしれませんが、姉が大好きな双子の妹です。
【異世界の門を叩いたけど、ひとまず動いてみようと思う】
~さかのぼること愛理たちが、旅行から帰って間もない頃~
粒子工学には、多元宇宙論――マルチバースがあるけどウェブ小説でよくある鉄板展開は、いったいどんな原理や理屈で発生するのか考えたことある?
人や物が、光速の域に達すると時間の乱れが生じるなどいろんな仮説が世の中にはある。この原理については私には理解し難い内容。
そんな、開口一番少し難しい話をしたけどそれはまず置いといて。
「ぴょん?」
「え、なんで口を開かずに立っているかって? ごめん整理が追いつかなくて……つい……ね」
我に返った私を真っ先に気にかけてくれたのは、ペットのぴょん吉。正真正銘のうさぎである。
少々メタな発言してしまうけど、ふふ、ようやくこの私にも出番が回ってきた!
どこかのアニメみたいに“原作ではいたけどアニメでは存在を消された”みたいなことはないからこれで堂々と異世界ライフを満喫できる。
別に、姉が心配だったから追いかけてきたとか、そういう理由なんて微塵も。……あれこれブーメランってやつじゃないの。
でも、ここから読み始めたって人もいるかもしれないから、私とぴょん吉のことをあらましではあるけど説明するわね。
知らんがな、という人はどうぞブラウザバックしてどぞ……だけど読んでくれたら嬉しいな。
私は卯乃葉。仲宮 卯乃葉。
姉の行方を捜すため、場所を探っていたら不思議な空間に吸い込まれて見知らぬ場所へやってきた。
神じーちゃんという翁の神様? みたいな人に異世界特典をいくつか付けさせてもらいこの異世界にやってきた。
おまけに愛嬌のあるうさ耳パーカーがあらかじめ着用されているし……なんなのこれ? 双方非対称に白黒の着色がされたモダンチックな服になっているけれど、
神じーちゃんいわく、この世界に来た私の姉――仲宮愛理が着ているみたいなんだけど、大丈夫なのこれ……私は建前的には常人として見てほしいけどこれ非常に恥ずかしい。
道ばたで会った人から侮言を吐かれ、指差しで「ワロスワロス」などと少々いたたまれない気持ちにもなりそうだけど。
そんなことを考えながらも姉の行方を捜すべく、今、地を踏みしめているけれども平野が広大である。
見慣れぬ生き物が遠目からだけど見える。
私のいる世界ではまず存在しないであろう生物の数々が。あの鈍器を持ったモンスターってなんだろう。ギガンテスじゃないかしら。
足で地を踏みつけながら感覚というものを探る私。
「これってVRMMO? 実感が持てなくてまだ自信ないけどこれって現実なのよね?」
すると、このパーカーによる付属機能であるAIのシステムが作動し答えてくる。
【AIさんⅡ:はい、紛れもなく本物です。現在の位置は『中大陸・ブレイブ・タウン周辺』です。あちらに見えるのがブレイブ・タウンで機巧な造りの建物が特徴な街です】
「なるほどね、じゃあ情報収集のため少し入ってみようかしら」
催促するように先のほうへ進もうとしたら、唐突にビープ音のような警告音が鳴る。
心臓が飛び出そうになり、同時にその場で1度飛び跳ねてしまう。
なになに⁉ びっくりするじゃないの‼
ビー!
なにやら警告文が表示される。
【注意! 冒険者カードが入国の際に必要です】
「あ、まじ? ……通行証のように絶対いる感じかしら?」
どの国にも、時代問わずパスポートのような物は必要なわけか。
お、億劫。
【はい、でないと手数料がかかってしまいます】
億劫な気持ちな駆られた私は「はぁ」と軽い嘆息を吐いた。
「手数料がx円かかります」だとか「使用事項の確認をx分で読んでいただき『確認』のボタンを押してください」みたいなくどいものが私は嫌いなのよね。
もっと大雑把に言ってしまえばめんどくさい。
必要事項をお読みに……知らないわよそんなの。こんなの私ルールで反故にしてあげるわ。
【AIⅡ:あの卯乃葉さん? どうして目の前にいる門番さんに向かおうとしているのですか?(正論)】
「AIさんあなたさぁ、私がどういう人かおわかりで?」
なぜAIさんが、この語録を知っているのかは謎だけど、ネタにはネタで対抗してみた。
そういえば投稿動画作り始めた頃に、BBやGBの素材で切り抜いて素材提供動画出していたなぁ。
ちなみに私は腐女子ではないわよ?
【AI:……(沈黙)】
「ま、まあいいわ。さてここでこれを取り出して……よいしょよいしょ……お、あったあった」
ステータスや能力の確認を今さらながら思い出したけど、道具を率先しあるものをポケットから取り出す。
パーカーのポケット、うわべはなんの変哲もない小袋だが、これはクラインの壺に繋がっているらしくいくつでも物が入るらしい。
細部までは語らないけど、中に入れてある物は停止状態になり時間の抵抗を受けない。
そして私が欲しい物を手招くように動作を取ればそれが手元に届く。
「てっててーん! プロアクターMAX!」
取り出したのはゲームでも乱用していた我が愛用機器(反則的)。神じーちゃんに頼んでいくつかの追加機能を付けてもらったいわゆる拡張機器なんだけども。
見た目は変わりないが、とりあえず使ってみる。
「プロアクターMAX起動! えぇと異世界コード任意実行を選んでっと」
起動するといくつかの選択肢が表示された。
従来通りの機能に加え、異世界コード実行という物が追加されている。
これは特定のコードを打ち込むことにより、入力した通りの結果を反映させることができるの。
C言語あたりをベースに加えてもらった機能だけど、あいにく私はエンジニアではないのでこれに関してはそこまで知らない。
なので単純に英語で実行できるように設計させてもらっている。
適当に英文で入力するだけ。簡単簡単。
私は、目的の文を手慣れた動きで入力する。
冒険者カード? なにそれオイシイの。ばれなきゃいいのよばれなきゃね……。
文を入力し終え反映のボタンを押す。
「はい反映」
宙に回り出すがごとくある物が出現する。淡い光が消滅するとそれが明瞭にはっきりと捉えられるようになっていく。
……冒険者カードの偽造。つまり偽物である。
よい子のみんなはマネしちゃだめだよ。画面のそこの君あなたもだよ!
「へぇこれが冒険者カードかぁ。思った通りというか……なんというか」
私がまだ見たことない物でも、このプロアクターは即座にそれを識別し本物そっくりに具現化させることができるみたい。
AIさんからすると本物に近い……近すぎる偽物との判定が出た。少々背徳感があるがこういう方便には慣れているから心配いらない。
疑わしくない程度の能力値を割り振り本物同様に模倣する。これならばれはしない。
歩みを進めていると立派な精巧な造りのされた街が見えてくる。
あれがブレイブ・タウン。
巨大な塀が街を囲んでいるが、セキュリティは割と頑丈……なのかしら。
入り口前に見張りが1人。門番さんかしら。
「ふふ、見てなさいよ。チーター卯乃葉さんがどれぐらいすごいかを見せてあげようじゃないの」
偽造カードを片手に取ると、街の入り口を見張っている門番さんの元へ近づく。
若干、勇み足になりがちだが恐れることはない。ここにいる人達は意思はあれど、ゲームに出てくる一般的なNPCとなんら変わらない。
なので自ずと発生したこの恐怖は、私にとって本当の恐怖ではない。気を紛らわすことでそれを帳消しにさせ応対できる。
「止まりなさい! そこのお嬢さん。通る前に冒険者カードを提示してくれないか?」
図々しくて草。
先へと進もうとしたら、右端に鎮座する甲冑姿の門番さんに槍で行く手を遮られ通さないという意思を示してくる。
中世口調と言ったらこれが定番? だけど実際に面と向かって言われると少々苛立ちを覚えるわね。
ゲームだったら、すり抜けバグあたりを使い余分な話を省略できるけれど……それは無理があるか。
べ、別に私がチキンとかじゃないわよ。単純に気に食わないだけであり私にとって抗拒すべき対象なのだから。
「はいどうぞ。これでいいかしら?」
「ふむ、これは」
「う、ウノーハ? 変な名前だな……人間らしいが」
むか。
「な、なにが変な名前よ! 私の母をディス……侮辱するんだったら容赦しないわよ! これ以上馬鹿にするというのなら……」
「わわわわわわわ、悪かった! だからその『今から殺るね!』みたいに拳を差し出さないでくれるか⁉」
先ほどの優位に立つ態度はいったいどこへ?
小心者のように、私の前にある塞がられた道を開放させ、道を空けてくれる。
え、あれで通ちゃったわけ! セキュリティガバガバすぎでしょぉ!
「か、確認はした。通っていいぞ」
「え、いいの?」
「初めて見る冒険者カードだが嘘偽りはない。各国・大陸でカードのデザインはそれぞれ異なるからな。不思議な1枚があってもおかしくはないから」
場所、地域によってデザインが異なるんだ。
私的な意見だが、この先、私のような合法手段で入る人が頻発しないか少々心配である。
そこは口にしない……というお約束を自分に言い聞かせて。
「そ、そうなんだ。ちょっと私の国は特殊でね、伸びがいいというか……あはは」
ちなみに断っておくけどランクは適当にSにしておいた。
「Sランク冒険者とはなぁ。こんな若者が……信じ難い話だが認めざるを得ないな」
「それじゃしっつれしまーs……」
「あとひとつ」
「は……はい?」
先へ進もうとしたその時、図々しい門番さんが一言。
ロボットのようにカタカタと首を捻らせて、門番さんの方へ首を捻らせる。
え、これやばいんじゃない? 違法製造ばれた…………の?
「あまり騒ぎを立てないようにしてくれよな。特にその服、かわいらしいが……いやなんでもない」
「な、なにってなによ! 根拠を…………だぁもういいわそれじゃ遠慮なしに入らせてもらうわ!」
「ぴょーん……」
少々焦り気味ながらも、ようやく門をくぐり抜け、姉さんのことも気にかけつつも街の中へ入り探索を始めるのだった。
「なによぴょん吉その目は? どうなっても知らんぞとか言いたそうね……大丈夫! 私ならへーきよ」
ぴょん吉はどこか私を気にかけている様子だ。
別になにも、みたいな顔をしたって私にはお見通しよ、喋らなくってもだいたいわかるんだから。