176話 うさぎさん巨大な強敵を討つ その5
【再生能力はチート、そういやイモリとヤモリの違いってどこが違うっけ?】
マスターに変身してからバイタスと激闘を交えた。
「食らえ!」
手に持つ巨大な大剣から繰り出される斬撃により、後ろへとあっという間に押される。
滑空戦も可能なので、緊急上昇し強大な攻撃を下へと撃ちおとすことも可能だ。
「ぐごぉぉぉぉぉ……」
再生の間に合わないバイタスの姿はまるでサンドバッグのよう。
両腕の失ったヤツに残されている攻撃と言えば、遠距離攻撃である黒炎の攻撃だろう。
突拍子もなく、撃ってくるその攻撃も私は軽やかに技を駆使してかわす。速度は音速を超えたハイスピードで、恐らく地球上に住むどんな生物よりもこのパーカーの速さは最高峰だと思う。
私が巨大な斬撃を放つと、敵の体はまっ2つになり破片の部分が辺りへと飛び散った。黒墨のような体液は醜悪極まりない着色。
うげ、なんだこのにおいは。一言では感想が言えないくらいの悪臭だぞ。
「再生するもんならやってみやがれ」
敵の再生を待つように私は宙に浮きながらじっと待つ。
すると破片が1箇所に集まっていき、また違う形――姿へと物体をくねらせながら変えていく。
四足歩行で見るからに動き辛そうな見た目。片手には巨大な発光する槍(回転している)と銃口がいくつも詰められている武器 (ガトリンガンみたいな)を体に携えている。
背後の後端部に当たる尾は、巨大な蛇のように長く機構な造りとなっていて、これもまた繊維のある部分が目映いくらいに発光している。
「まーたSF系のやつかよ。素で受けようとすれば体の一部がもげそうな見た目だけど……面白い」
図に乗らないのが得策。
死亡フラグ建築士なら、このまま無闇にツッコんでいき死ぬというのがテンプレだが、私はそんなことは決してしない。情報収集は大事と言うし、それを頭に入れた上で行動に移るのだ。
ということで、念には念をと図鑑を開いて敵の更新情報を確認してみる。
【テラバイタス 解説:近未来的な見た目をした、エイリアン・機械的な体を合体させたような姿となっている。両手に持つ武器はどれも強力で、並相手の冒険者なら灰になる威力。因みにガトリン具眼の方は弾数は無限】
あれ、銃ってなんだっけ?(困惑)
銃なのに、弾が有限ではないという矛盾はさておき。よりにもよって、また最悪……いや災厄な強化が施されたとか、やはりコイツのスペックは頭のネジがぶっ飛びすぎだろ。
と、呆れすぎて声も出ないほどに心の中で驚嘆。
瞬間移動を駆使し、距離を詰めていくと追尾攻撃がこちらへ向かってくる。1、2、3数多ある弾を私は盾を使って防ぐ。
「サオリナ展開ッ! ぐおぉなんて数だ、あまりの数のせいか中々前に進めやしない!」
次々へと追ってくる攻撃を前に、サオリナを使って無数の攻撃を防いでいく。
さすが硬度ダイヤモンド以上あるといった感じで、直撃し広大な爆発をしてもビクともしない……それはおろか傷ひとつなし。
おまけに、マスターの補正も相まって身体の影響はなし、仮に受けたとしてもリーフの効力ですぐ回復するため気にならない。
だが、敵の攻撃は鬱陶しいことにバイタスの攻撃速度は、先ほどより格段に上がっている。コンマ1、2なのか分からないくらい速い速い。
あまりにも数が多かったので光速移動の能力を私は使い。
「ラビット・M・アクセラレーション!」
「⁉」
一瞬で、敵の顔面まで移動し軽く気を取られているバイタスにパンチをいれた。(加減をするとは言っていない)
「浮かれてんじゃあねえよ! マスター・ラビット・パンチ!」
ついでにと1発のパンチから連続パンチに移行。目にとまらぬ速さで細部まで敵の体全体にパンチを叩き込んでいく。
スパパ! スパパ!
とガトリングマシンでも使っているような反響音をさせる拳の数々が数百、数千回以上バイタスに直撃。
無効化のスキルも込みにして、再生能力をできないように念じ……最後の強烈な一発。
力のこもった渾身の一撃を放ち、遠くへ。
遠くへ飛ばす。
つもりだったが。
「ぐ、ぐぅぅ!」
「ほうやるねちみ……。強敵はこうでなくっちゃあなぁ!」
なんと私のパンチでまずすぐに飛びそうな一撃を辛うじて耐え、依然としてその場に立ち尽くしたではないか。なんというタンク並の耐久力、やはりやられる度に強くなるというこの厄介すぎる能力は、一筋縄ではいかないな。
「ぐぅ!」
お返しの攻撃で巨大な槍のドリルを私に突いてくる。高速で回転かつ直径が甚だ広いため体積に無理がありそうな感じだが。
軽くそっと手を振りかざすと。
「よっと。……あれ軽く持てるんだけど」
明らかバイタスの方が大きいのに、こちらへはあまりいやそれどころか大して力量を感じなかった。
そりゃそうか……体質が違えども私の着ている防具や武器には通常の100倍の効力・バフがかかっているのだから。
すなわち、今の私の力はバイタスと同格――それ以上あるかもしれない。
軽く小指で押すと槍が木っ端微塵に。
危険を感じたのか私のいる位置より1、2歩後退り体制を立て直す。
「‼ ………………⁉」
再生は完全には止まらなかったものの、非常に遅い速度で再生。
お、効いているじゃあないか。このままもう片方の銃も破壊…………して?
ドドドドドドドド!
考えている間にバイタスは銃で連射してくる。
百、二百に及ぶ弾丸。
とても強力そう。アホが突っ込めば即死しそうな攻撃で、殺傷力の高そうな弾の数々は心底私に恐怖を覚えさせた。
抵抗せず私はその攻撃を受け流し。
「なーんてね。全然食らわねえんだよ!」
ダメージはゼロ。辺り判定ちゃんとあってのゼロダメージである。
使っている本人もびっくりしているけど、敵も割と驚いている……ように見える。
無敵とはいえ、どうやってこの戦い終わらせればいいのだろうと。
ひとまず再生能力が弱まっているから、変身が解除される前にそろそろこの泥試合に決着をつけないとだな。
☾ ☾ ☾
交戦は続く。
戦い続けていると、先ほどの形態とは違う特質な能力を見つける。
空中で戦っているから余裕だと、思い込んでいた私にとんでもない仕打ちが待っていた。
やつの体が浮いたのだ。
「え、まぢで? おっと」
急に空中へと上昇し私と同じ位置まで飛んできた。
挙げ句の果てに射撃を……。突然の急展開に私はパンチで跳ね返す。
1度、数メートルほど距離をおいて体制を立て直した。
聞いてねえぞそんなの。
第2ラウンドの始まりってか?
負傷が続いているとはいえ、まさか飛んでくるとはな少し想定外。これ変身中に仕留められるか本当に。
あと20分。持続時間はもうすぐ尽きそうだ。マスターは他パーカーの力を全て踏襲している分、何度も言うようだが短いのだ。
「おらああああああああああああ!」
接近してパンチ、パンチ、斬擊、斬擊、パンチの連続攻撃を繰り返す。1発目のパンチをはらわたに入れ、もう片方の拳でアッパーを用いて突き上げ。飛んで行くバイタスに目がけて交差させながらも強大な斬擊を放ち。
「1000回の剣さばきを食らいやがれ!」
通常形態では、絶対できないであろう1秒間に1000回まで及ぶ攻撃はバイタスの体に傷をつけていく。
瞬間移動をして頭をたたき落とすと、高い反発力で急落下。再び地上へと落ちていく。
先回りをして地上の方へと瞬間移動すると、目の前には巨大なボロボロになった敵――バイタスが。
よし、今ならばと。
私は剣を前に突き出して力をため込む。
「グ……グゥ……」
奇妙な体の物音を立てながら、なんとか私に攻撃しようとするバイタス。
無駄だよ。マスターの前では何もかもが無力さ。覚悟しとけよこのクソモンスターめ。
今のやつは虫の息。このパーカーに変身している今だからこそ、私は一瞬の隙も見逃さず剣を構えるのだ。
次第に私の持つ剣にたくさんの光が微量ながらも集まっていき、神々しく虹色に輝く剣を生成させる。
よし今だ!
と思った私だったが、私は倒し損ねたことも懸念しひとつの思考が頭に浮かんだ。
また、少し危険なこれは“賭け”かもしれないが試したい価値は十分にある。
念の為、AIさんに聞いてみることにしよう……安全第一。
(マスター使用中に、兎双本能の併用ってできるかな? このパーカーはあらゆる悪い効果を打ち消すから気絶するというデメリットも回避できそうだけど、実際どうよAIさん)
【AIさん:そうですね、恐らく気絶するという危険性は回避できると思います……ただ何が起こるかは私でも保証できません】
は、今なんて?
自己責任でお願いします的なあれかなそれって。
【最悪、今かかっているこの20分という時間を、その一撃で全て消費することにもなりかねないかもしれないです。併用は愛理さんのお望み通り可能でしょうが、この場合危険は免れないとも見て取れます】
「うーんどうしよっか。……でも迷っているのもあれだし、ままよ使うっきゃないでしょ! これ」
すると向こうから仲間達の声が聞こえてくる。シホさん達の声だ。
兎双本能の力をため込み、オーラを出している私を見て3人は少し心配気味な様子でいた。
あれ、なんか声が弱々しく聞こえるんですが。
「……みてくださいシホさん、ミヤリーさん。愛理さんが帰ってきましたよ。あれは前にやったあの“力”なのでは?」
「どういうつもりかしら、さすがに無策ってわけでは……」
「ミヤリーさん、あれは訳あっての行動だと思いますよ。心配になる気持ちは分かりますがここは彼女を信じて待ちましょうよ」
ありがとうなみんな。
ため込んでいる間に、仲間の声をパーカーの力を介して聞いていたが3人は私の帰りを信じて待っているようだった。
兎双本能発動完了。マスターラビット・パーカー+兎双本能いや、これはさらに併用させた力の“超兎双本能”と命名するべきか。
……いずれにせよ、この一撃さえあればこいつをちりひとつ残さず葬りさることができるだろう。
さあてなにが起こるか分からないけど、大丈夫私はガチャ運良い方だからね。自信は過剰とまではいかないけど確信はあるよ。
「食らいやがれ! この私の一撃を!マスター・オーバーラビット・ブレッ……!」
そのとき。
衣が剥がれるように。
一瞬で私のマスターの変身が強制解除。
「な……んだ……と?」
着ていたパーカーが完全に剥がされ、この世界に来るまでの服装……黒短パン・シャツの服装になり、いやこれは「戻った」の表現が正しいか。
腰巻きには普通の赤紫のパーカーが。
……まぢか。
「うっそだ…………ぐぼ!」
いった。
そんなことを思うのもつかの間で、再生能力が回復したバイタスがこちらへ近づいて。
大きな尻尾でなぎ払われ、遠くの岩壁まで激突。
一瞬のできごとだったため回避することもできなかった、いやそもそも普通の私なんて身体能力高くねえから。
それにしても、この痛み久々だ。あとさりげなくこの服も久々。
まさかパーカーが完全に剥がされてしまうとは……何が起こるかわからないってそういう……あ、これ死んだんじゃね。やばいみんな、まぢで無理助けて。
と声を張り上げようとしたが、先ほどの痛みが強烈だったせいで力いっぱい声が出せなかった。
再生を完了した、バイタスのドリルが再び動くとこちらに目がけて向かい。
ドスドスと地を踏む音をさせながらこちらへと。
私の危険に辛うじて感づいた仲間――及び冒険者達は、私の方に近づこうと動き出した。
「あ、愛理さん! ……くッこの距離ではマックス・ヘルンといえども追いつけそうにありません!」
「私もあともうちょっと足が速ければ……頼むわ追いついて!」
「……あ、愛理さんッ‼」
一目散に駆け寄ろうとする私の仲間達。
パーカーも替えられない。エラーか何か起こっているのかこれ。……AIさんも不在だし。
そして私はどうしようもない人生に嫌々ながら諦めを認めるとぐっと目を瞑り覚悟を決めた。
あ、私マジで死ぬんだなと。
「ッ!」
そんな諦めかけていたとき――。
奇々とした現象に私は経験することとなる。
気がつくと、私は意識があるものの視界が全て灰色に染まっていた。
体は石のように硬く固定されたかのようにびくともしない。
(ここは?)
そこは物音ひとつしない虚無の空間。
……意識あるその空間で心底思ったことはただひとつ。
(時が止まっているんじゃね?)
と、急な展開に私の思考は追いつかないままでいた。